裁判官も人である 良心と組織の狭間で

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065187913

作品紹介・あらすじ

原発再稼働の可否を決め、死刑宣告をし、「一票の格差」について判断を下す――裁判官は、普通の人には想像できないほどの重責を負う。その重圧に苦悩する裁判官もいれば、個人的な出世や組織の防衛を優先する裁判官もいる。絶大な権力を持つ「特別なエリート」は何を考え、裁いているのか?

出世欲、プライド、正義感、情熱…生々しい感情が渦巻く裁判官の世界。これまで堅く閉ざされていたその扉を、粘り強い取材が、初めてこじ開けた。「週刊現代」連載時から大きな反響を呼んだノンフィクション「裁判官よ、あなたに人が裁けるか」に大幅な追加取材と加筆を行い、ついに単行本化。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、裁判官という独特の世界を「ぶっちゃけて」語った本であるが、この内容を読む限りどうもこの組織も腐ってきている。今日本全体「政治」も「経済」も閉塞感が漂っているが裁判所と言えどもその例外ではないのかとの思いも持った。
    本書を読みながら思わず「それじゃまずいだろ!」と何度もつっこむ。何事にも「建て前」はあるだろうし、誰しも「良心」「理想」はある程度はあるだろうと思っていたが、閉塞感漂う時代にはそんなものはドラマの中にしかないのかも知れない。
    本書の後半はあまりの悲惨さに読むのが辛い。日本の司法の頑迷さは「信頼」よりは「悲劇」を産んでいる。冤罪事件が今でも後を絶たないことを思うとやはり司法の変革は不可避だろうと思えた。
    また裁判員裁判制度を導入した意図には驚いた。このような司法官僚の本音は決して マスコミでは流れない。やはり閉じて隠された社会は例外なく腐敗するものなのだろう。司法の世界も、もっと広く知られるべきだと本書を読んで痛感した。

  • 裁判所・裁判官の実態を綿密に調査したルポ。本書の内容自体は、「裁判百年史物語」や「絶望の裁判所」を読んで大体知っていたので、特に目新しいことはなかったが、それでも愕然とするような内容が多かった。

    最高裁の意向を忖度し、自らの良心を殺して無難な判決を要領よくを書くことに専念する「ヒラメ裁判官」。(時の政府の方針に迎合した)最高裁の意向や過去の最高裁判例に忠実に従い、検察の意向にも配慮して物議を醸さない無難な判決をそつなく出せるヒラメ裁判官が出世し、逆に自らの良心に従い体制の意向に抗った裁判官は徹底的に冷遇される。裁判官の独立、自由心証主義、自らの良心に従った判断等は砂上の楼閣に過ぎない、ということなんだな。

    こうした裁判官統制を司リ、諸悪の根源となっているのが、最高裁に出向したエリート裁判官が行政官として行政事務を担う司法官僚制だという。

    裁判官は人生勝ち組のエリート集団だからこそ、組織に認められたい、出世したい、より重要で大きな事件に関わりたい、との意識が強い人達なのは理解できる(この意識を壊すには、法曹一元化が不可欠)。

    ただ、常識と良識を持ち合わせていない、例えば革命思想を持った裁判官が判決をもって世の中を掻き回す、というようなことがあってはならないし、真の犯人でも罪を逃れるために無罪を主張することは多いだろうから、冤罪事件の発生を恐れるあまり被告に寄りすぎたら犯罪者を罰することが出来なくなってしまう。この辺はなかなか難しいところだろうな。要は、裁判官には、正義感と深い洞察力、そして良識・常識を持って真実を見極める力が必要、ということに尽きる。そのような優れた裁判官が優遇され、出世していく組織に是非してもらいたいと思う(そして、やはり極端に枠から外れた裁判官を軌道修正させる緩い統制は必要なんだろうなあ)。一方で、現実問題として、組織を守り、維持するためには、したたかな司法官僚が必要なことも事実だろう。司法官僚が偉いのではなく、立派な判決を出す現場の裁判官こそが偉い。そして司法官僚は現場をサポートする部隊として分をわきまえる。こういう力関係にしていくべきだろう。

    いずれにしても、現状で裁判官に期待できることは、地裁や高裁の裁判長になるまでは猫を被って無難に過ごし、裁判長になったら満を持して自分の良心に従った判断を下していく、ということなんだな。

    裁判所や裁判官の実態を知るための良書だと思う。手元に置いておきたい一冊。

  • 週刊現代の連載をまとめて単行本化したものらしい。あまり手を入れないまま単行本化したみたいで、各章の連絡が十分でなく、ブツブツになっている。青法協弾圧から裁判所の政治従属が強くなったあたりを、若い人たちに知らせる意義はあるかもしれない。一票の平等に関しては、最高裁判事を辞任してから二倍を超える格差の選挙は無効判決を出すべしとする論文を果敢に書いた藤田宙靖・東北大学名誉教授のことに全く言及されていないのは調査不足。

  • メモ

  • 三権分立の司法権がこんなにも政府にすり寄る構造になっている事は、民主主義の根本が脅かされているということである。この非常に重要な事実を国民は認識すべきである。
    司法制度改革で成し遂げられなかった、裁判官の外部からの登用など、裁判官の人事の透明性を上げる制度の改革をしていなかければ、ひたすら上を目指してきたエリートだけが出世する、忖度だらけの官僚組織になってしまう。
    まずは、漫然と最高裁判事の国民審査を行なってはならない。

  • 裁判所に直接お世話になったことはないが、仕事では法律を考えない時はない。それだけ重要な司法を司る組織も、タイトル通り様々な悲喜交交があって、人間だもの、ということがわかる。


    the last straw
    ラクダの背に限度いっぱいの荷が載せられているときは、麦わら一本積み増しても重みに耐えかねて背中が折れてしまう、という話から、限界を超えさせるものの例え

  • 苦悩するエリートたち。100人を超える裁判官への取材でわかった閉ざされた世界の住人の「素顔」とは?。出世欲、プライド、正義感、情熱・・・生々しい感情が渦巻く裁判官の世界。これまで固く閉ざされていたその扉を、粘り強い取材が、初めてこじ開けた。(2020年刊)
    ・はじめに
    ・第一章 視えない統制
    ・第二章 原発をめぐる攻防
    ・第三章 萎縮する若手たち
    ・第四章 人事評価という支配
    ・第五章 権力の中枢・最高裁事務総局
    ・第六章 「平賀書簡問題」の衝撃
    ・第七章 ブルーパージが裁判所を変えた
    ・第八章 死刑を宣告した人々
    ・第九章 冤罪と裁判官
    ・第十章 裁判所に人生を奪われた人々
    ・第十一章 ねじ曲げられた裁判員制度
    ・第十二章 政府と司法の暗闘
    ・あとがき

    最初に本書を手にとったとき、参考文献一覧をみて棚へ戻すこととした。
    一覧に倉田卓次の著書が無かったためである。参考文献に偏りを感じ、バランスを危惧したのである。(藤田宙靖も無い。)
    もちろんあるテーマを取り上げるのに、全ての文献を網羅する必要は無いのだが、押さえて置くべきものはある。それが無いと画竜点睛を欠くと感じるものがあるのだ。
    労作であるがゆえに惜しく感じた。

    読みやすい本である。内幕ものとして面白く読めるが、爽快さは無くフラストレーションが溜まってくる。(本書では、いくつかの問題提起があるが、解決は容易ではない。)

    読了後、本書のタイトル「裁判官も人である」が身に染みた。

  • 裁判官・検事・刑事ものの小説・ノンフィクションが好きなので、およその実態はわかっていたが、裁判官の実態を非常に丁寧な取材で明らかにした稀有な力作。名ばかりの司法権の独立や、改善どころか改悪されているのではと思う司法制度改革に本当に危惧を覚える。そんな環境でも地道に必死に正義を求める求道者たる裁判官もいらっしゃることに頭が下がる思いだ。

  • 2020/04/30裁判官もひとである
    法務省の大きな組織の中で官僚ルールに従わざるを得ない裁判官
    持論を主張していると人事で「措置」される
    司法官僚エリート
    正解指向=思考放棄
    裁判の審理 事実認定と法的判断
    人事による裁判官の統制
    ブラックボックスの裁判所の世界にカメラが入った意義は大きい
    官僚化が進む組織を壊すには、世間の眼に晒すしかない!
    造られた権威と実態とのギャップはフィクションに過ぎない。
    原発稼働の判断は裁判所の最大のリスク

  • 歪んだ判決が下されるには理由がある。
    ・裁判官の人事権を有する最高裁事務総局
    ・その最高裁に予算や人事権で影響を行使する内閣の意思を忖度させてしまう組織としての力学
    上記の仮説を現役およびOB裁判官約100人の取材と多くの書籍から論証しようとした意欲作。

    三権分立の柱である裁判所は本来独立心をもって司法・行政の暴走をコントロールすべきだが、
    上記のような組織の力学に翻弄され、時に苦しみ歪められている裁判官の様子が鮮明に書かれている。

    組織の力学に染まる中で裁判官個人が当初抱いていた純粋な理念を失っていく様も書かれていて読んでいて辛い箇所もあったし、それでもなお個人の良心と法の独立心に従い正しいと思った判決を下した裁判官も高裁や最高裁で歪んだ判決が下される様子は何とも言えない気持ちになった。
    また警察や検察が彼らのストーリーに沿った供述や証拠を捏造する様子も書かれており、そうした裁判資料から冤罪が下され、人生が狂わされた人達の心境も書かれていて腹立たしい思いも持った。

    おそらく組織側にも彼らの論理もあり、そうした面にはほとんど触れられていないが、歪んだ判決が下され続ける原因を説得力のある形で提示され、
    今までにない問題意識を持つことができた。

    個別の話では下記のトピックがとても興味深かった。
    ・原発稼働の是非を問う判決の押し引き
    ・立証責任の転換の話
    ・尊属殺重罰規定違憲判決の話
    ・最高裁事務総局という組織腐敗の原因
    ・平賀書簡の真実
    ・平賀書簡がきっかけで最高裁より再任拒否された宮本康昭(当時の最高裁人事局長は矢口洪一)
    ・GHQアルフレッドオプラーが限定容認した日本における死刑制度とその後の運用
    ・宮本康昭と矢口洪一のタッグで進めた裁判員裁判制度
    ・元最高裁長官矢口洪一が進めた裁判員制度の裏の意図
    ・小渕元首相の急死により実現できなかった法曹一元

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著者プロフィール

1955年、和歌山県生まれ。ジャーナリスト。2004年、『年金大崩壊』『年金の悲劇』(ともに講談社)により講談社ノンフィクション賞を受賞。また、同年「文藝春秋」に掲載した「伏魔殿社会保険庁を解体せよ」によって文藝春秋読者賞を受賞した。他の著書に、『われ万死に値す ドキュメント竹下登』(新潮文庫)、『血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀』(新潮社)、『新聞が面白くない理由』(講談社文庫)、『パナソニック人事抗争史』(講談社プラスアルファ文庫)などがある。

「2020年 『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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