じんかん

著者 :
  • 講談社
4.20
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  • Amazon.co.jp ・本 (514ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065192702

作品紹介・あらすじ

戦国時代の三悪人の一人として名高い松永久秀。その生涯を、絶望的貧困から立ち上がり、一国の城主として大成、さらに最後、織田信長に攻められ自害するまであまさず余さず描く。『童の神』で直木賞候補となった今最も勢いのある若手歴史作家による、圧巻の戦国巨編!

感想・レビュー・書評

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  • 今村翔吾さん「塞王の楯」に続き2作品目。今村さんの作品は時代小説特有の陰気臭さと断定的に感じる歴史観の強要みたいなものを全く感じさせない。だから面白くスラスラ読める。そして勉強にもなり今回に至っては最後は感動的だった。

    戦国の三大梟雄と、斎藤道三、北条早雲と並び名を連ねる松永久秀が主人公。
    この作品を読むまでは松永久秀の事は深く知らず、ただ悪名高い人物と存知していただけだった。

    歴史上の事ゆえに今自分達が知っている事とは、史学的な痕跡を辿り何があったのか?という証拠と伝聞と発見される書物からの推移でしかわからない。それが所謂の所、通説となっている。
    その時に誰がどう思ったのか?
    どう言葉にしたのか?
    どういう感情だったのか?
    その原因、動機等はあくまで推測でしか分からない、後付け的な事が多いと思う。
    今作品はその盲点みたいな所を上手く主人公久秀に重ね、エンターテイメント作品として新たな推測を導入されている。
    「新仮説•松永久秀」といったような素晴らしい作品だった。

    物語は「松永久秀、織田に謀反」と信長に知らせが入る所から始まる。そして信長による久秀の半生の回想譚を小兵の付き人に己に談ずるよう語らっていくという物語。
    信長目線からの久秀、この作品の魅力、信長と久秀の距離感が抜群だと感じた。
    これ以上ないと思うくらいの自分の立場をわきまえた上でのお互いへの高い尊重と敬意が読み取れる。
    暗い夜の中、灯る楼の中で信長が久秀を想って訥々と穏やかに語らう姿がその象徴に思えた。

    そして今村さんが描くこの久秀の人物像が秀逸すぎる。
    今の時代から見ればかなりの善人なのでは?と思う位だった。
    久秀の主君(三好長慶)、弟、義兄弟、仲間、国、民を思う気持ちに圧倒された。
    もし久秀が長慶と、或いは信長と共に天下を取っていたらどんな世がつくられたのだろうか?なんて想像してしまう。

    「じんかん」という部分も秀逸で、人と人とが織り成す間の事を指している。「人間」っていう漢字自体にそんな意味があったとは、無知すぎて恥ずかしい。
    特に久秀と長慶、久秀と信長の「じんかん」に驚愕。
    この歴史上の大名勇達にこんなにも高貴な「じんかん」を植え込むとは、作者のセンスが計り知れない。

    そしてこの言葉以外、この作品タイトルはないであろう。それぐらい素晴らしいタイトルだと読後に感じられた。

    最高だった。
    直ぐに今村作品をまた読みたいと思い「幸村を討て」を購入したので早速楽しみたいと思う。



  • 松永久秀とは何者なのか。
    信長に背き 天守閣で名器・平蜘蛛と爆死した 天下の「大悪人」。そんな一般的な認識しかなくても読めば間違いなく久秀を好きになる。

    まず、久秀が「久秀」になるまでが熱い。ファンタジーといえばそうだが(出自に謎が多いので)、少年の冒険譚が最高なのだ。
    ビルドゥングスロマン。ジャンプで連載されている王道漫画かと。

    しかし、史実パートというか久秀が世に出てからの展開はやや尻すぼみという印象だ。

    結末が分かってはいても、それまでに積み重ねられた思いの熱量によって胸に迫るものがあった。
    なぜ「じんかん」というタイトルなのか。
    その意味を知って欲しい。

  • 【読もうと思った理由】
    今村翔吾氏の作品は、最終的には全作品読もうと決めていたが、作品の読む順番までは決めていなかった。文庫化された作品は購入するつもりだが、図書館で『じんかん』が予約無しで借りれるタイミングであったため、読むに至る。

    また、よく見ている書籍紹介のYouTubeチャンネル「ほんタメ」のあかりん氏が、『じんかん』を紹介していた。あかりん氏は、普段時代小説は殆ど読まないジャンルであったのに、『じんかん』の内容があまりに良かったので、今後、今村翔吾氏の作品は追いかけていこうと決めたとのこと。やはり本物の実力ある作家さんは、苦手ジャンルを好きなジャンルに変えれるんだと、改めて今村翔吾氏の凄さを感じた。

    【著者 今村翔吾氏について】
    1984年京都府生まれ。デビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で、2018年、第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。同年『童の神』で第10回角川春樹小説賞を受賞。2020年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞を受賞。またデビュー5年目にして『塞王の楯』で第166回直木賞受賞。

    【あらすじ】
    仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くすーー。
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした」青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?

時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かしたときに直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。

    【感想】
    今村翔吾氏の作品はこれが3作品目だが、この作品が最も胸アツだった。例えるならサッカー日本代表戦で、この試合に勝てばワールドカップ本戦出場が決まるという試合の、アディショナルタイムで勝ち越しゴールを決めた、その瞬間の様な興奮が、残り30ページ程で押し寄せてきた!確かにこの作品を読めば、ほんタメのあかりん氏が、今村翔吾氏にハマってしまうのも頷ける。

    僕は元々歴史好きだが、フィクション要素が強い小説よりも、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』やジャレド・ダイヤモンド氏の『銃・病原菌・鉄』の様な、事実を元に考察する書籍が好きだった。
    だが、今村翔吾氏の作品は、史実と違うとかそんなことを超越して、何せ作品に読者を引き込む力が、ハンパなく素晴らしい!

    ストーリーとしては、戦国時代の三悪人の一人として名高い松永久秀の生涯を、絶望的貧困から立ち上がり、一国の城主として大成、さらに最後、織田信長に攻められ自害するまで、余さず描き切った作品だ。

    物語の入りは、松永久秀の再度の謀反の知らせを近習から聞いた織田信長が、報告してきた近習の侍に、信長が知っている「本当の松永弾正久秀」のことを語るという形で展開していく。この信長の語る「本当の久秀」が、世間一般に知られている松永久秀像とは全く違うんだよ…、という設定で始まる。なので、今村翔吾氏もこの時点で、「現在の史実とは違うところもありますよ」と前置きしてくれているので、僕は問題なく受け入れられた。ただこの部分は、間違いなく好き嫌いが分かれるところなんだろうなぁというのは、言わずもがなと言うことで。

    史実と比較してどうこうという読み方よりも、エンタメ小説に振り切った、感動する作品として読めば、自信を持ってオススメできる作品です。出来れば今まで時代小説は苦手という方にこそ、騙されたと思って手に取って頂きたい、そんな作品です!

    【本書で得た気づき】
    今作でキーワードとして出てきた「史実と違う」というところで、ふと感じたことがあった。
    僕が学生の時に、例えば鎌倉幕府の成立年は1192年だった。当時、歴史のテストで1185年と記入すれば、当然「間違い」となるわけだ。
    ただご存知のように、今は1185年が「正しい」とされている。
    経緯としては、近年の研究でこの成立した年に関する異議が唱えられ、日本全国に守護、荘園や公領へ地頭を設置するなどして、幕府の当地基盤を整えた年を、鎌倉幕府の成立した年に変更した。つまり幕府成立の定義が変わったので、今と昔では幕府成立の時期も違ってきたというわけだ。

    そう、なので今現在、「正しい」と思っていることも、時が経ち科学や歴史学、考古学から新たな研究が進めば、当然「間違い」に塗り替えられる可能性が大いにあるわけだ。戦国時代に「正しい」とされていた価値観も、現代では全く合わないとされる価値観が多々あるだろう。

    そう考えると、『正しい』って何だろう?

    考え出すと、今の自分の理解度・知識レベルでは思考の奥深くに埋もれてしまう。深く思考すればするほど、行き着く先は哲学に終着するんだろうなぁと。だから最近哲学や原始仏教(原始仏教は、宗教ではなく哲学に近いと言われている)に惹かれている自分に気づく。

    自分の思考を深掘りできるキッカケになった、本書との出会いは、自分にとって貴重な体験だった。

    【雑感】
    今作でようやく図書館で借りていた作品は、一旦全部読み終わった。2か月ほど前から図書館利用を始めたが、調子に乗って分厚い本を借りまくると、返却期限の兼ね合いから、自分で自分の首を絞めるというのが、よく分かった。
    ここ最近、「三体」5冊や「同志少女よ、敵を撃て」、「じんかん」など400〜500ページ越えの作品ばかりだったので、次はちょっと薄めのサン=テグジュペリの「人間の土地」を読みます。この本の新潮文庫版は、宮崎駿氏が解説を書いていて、その解説があまりに素晴らしいと、純文学専門のYouTuberさんが紹介していたので楽しみです。

    • みきっちさん
      コメントありがとうございます。ユウダイさんのコメント読んだら、いい年した私の感想が子供か!てなりました笑。歴史知らなすぎてすんなり読めたじん...
      コメントありがとうございます。ユウダイさんのコメント読んだら、いい年した私の感想が子供か!てなりました笑。歴史知らなすぎてすんなり読めたじんかんですが、ユウダイさんの感想読んで改めてふむふむとまた再読してみたいなと。また本棚も覗かせてもらいたいです(^^)
      2023/04/09
    • ユウダイさん
      みきっちさん、こちらこそフォロー&コメントまで頂き、ありがとうございます!またオススメの本があれば、気軽に教えて頂ければ、心より嬉しく思いま...
      みきっちさん、こちらこそフォロー&コメントまで頂き、ありがとうございます!またオススメの本があれば、気軽に教えて頂ければ、心より嬉しく思います。今後とも何卒宜しくお願いします!
      2023/04/10
  • さすがとうなる面白さ
    三大梟雄のひとり松永久秀を主役に据え、実はあの悪行の裏には…というアプローチが実に今村翔吾さんらしい
    しかも語り手は六天魔王織田信長ときた

    それにしても今村翔吾さん、戦国時代という群雄割拠の時代に魅せられつつも、どこか武士という存在を身勝手で業の深いものとして捉えていいるような気がします

    しかし一方で、思いやりやいたわりの心も人に本来備わっていると信じているようで、互いいたわり合う心を持ったものたちの代表が国を治めるのが国として理想的な姿と捉えているように感じました
    また、人の行いの善悪の基準を神仏に求めることの危うさも指摘しています

    ただそういう理想を「松永久秀」に乗せるのはなんだか違和感を感じてしまうんよね
    そもそも松永久秀の行いについては諸説あって、善人のような書き方も狙い所としては目を引きますが、やりすぎな気がするんです
    特に光栄の『信長の野望』で育った身としては最後まで全く感情移入できませんでした

    だってすぐ裏切るんだよ
    すぐ大和は別の色に変わっちゃうんだよ

    • おびのりさん
      丑三つ時を待ってね。ふっ。
      丑三つ時を待ってね。ふっ。
      2023/01/23
    • ひまわりめろんさん
      ワクワク
      ワクワク
      2023/01/23
    • 1Q84O1さん
      おびのりさんの呪術やべーぞ!
      土瓶師匠マジやばいかも〜
      おびのりさんの呪術やべーぞ!
      土瓶師匠マジやばいかも〜
      2023/01/23
  • 小姓の狩野又九郎が戦国の黎明期を駆け抜けた男、織田信長より伝え聞いたという形式の松永弾正久秀の一代記です。

    表題の<じんかん>とは人間という意味であり、人と人が織りなす間。つまりはこの世という意であるそうです。

    物語は九兵衛(久秀)の少年期より始まります。
    九兵衛は14歳弟の甚助は11歳の頃です。

    九兵衛と甚助は足軽たちに父を殺され、母が自害し、孤児となり、野盗働きをする少年たちの集団に拾われます。
    そこのリーダーは多聞丸という少年であり、日夏という少女には九兵衛は字を教えてやることにより、心を通わせていきます。
    仲間だった少年の一人、梟の裏切りにより多聞丸は窃盗に失敗し、仲間を殺され全てを九兵衛に託して死んでいきます。
    九兵衛は裏切った梟を自らの手で刺し、生き残った甚助と日夏を連れて本山寺に厄介になるところから九兵衛たちの旅が始まります。
    そして、ここが、久秀の原点となります。

    キャラクターがいいと思いました。
    九兵衛の聡明さ、賢さ。
    甚助の健やかさ、勇敢さ。天真爛漫さ。
    日夏が九兵衛を慕う気持ち。

    九兵衛と甚助は本山寺から堺に行くことになり、日夏は「迎えに来て」と九兵衛に言いますが、九兵衛は「いい縁があれば嫁げ」と言い残し旅立ちます。

    九兵衛は祐筆ができ、茶の湯をたしなみます。
    甚助は猟師たちと猟に行くのが好きでした。
    そして戦乱の真っただ中に入っていく二人ですが、大人になり三好元長の家に仕えますが、少年時代のことは、いつも忘れず建てた城の名に多聞城という名をつけます。

    そして三好元長が見た「民が執る政」という遥か遠くにあるという夢を一緒にどこまでも追いかけていきます。

    甚助や日夏とのあまりにもせつない別れもあります。
    最後は織田信長にも仕えますが、最後の最後は落涙しました。
    九兵衛の信条は<いつも人間が切り開く>でした。

    • しずくさん
      『麒麟がくる』で吉田鋼太郎さん演じる松永久秀を観ていて興味が湧く人物でした。先日の松永久秀を取り上げた歴史番組でも、今まで彼は誤解されていた...
      『麒麟がくる』で吉田鋼太郎さん演じる松永久秀を観ていて興味が湧く人物でした。先日の松永久秀を取り上げた歴史番組でも、今まで彼は誤解されていたようだと語ってましたねぇ。
      2020/07/15
    • まことさん
      しずくさん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      ドラマは最近、なかなか観る時間がなくて、わからないのですが、あまりにも、日...
      しずくさん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      ドラマは最近、なかなか観る時間がなくて、わからないのですが、あまりにも、日本史がわからないので、レビューを書く前に少し検索してみたら、そのようなことが、確かに書かれていたようでした。大変な悪人と思われていたらしいのですが、好感の持てる人物でした。
      2020/07/15
  • 面白かった。これは、めちゃかっこいい松永弾正。特に弟甚助と総二郎は推せる。個人的にはいい印象がないというか、可愛げのない秀吉的なイメージの人物なんだが、いい味付けやねぇ。これが本当だったら、めちゃカッコええのに。ヴォリュームもちょうど良い感じで、読みやすくテンポがいいので、2日ほどしか持たず。
    信長が小姓頭の狩野又九郎に松永弾正久秀の生涯を語って聞かせる、という設定。語り終わった後、又九郎を弾正のもとに派遣し、弾正が死亡(自害)するところまで。史実イベントは抑えているが、見ている方向と盛り様が絶妙。
    とても面白かった。

    人間(じんかん)の何たるかを知る


    最近そういえば、弾正の茶杓を見たような、

  • 見えなかった歴史の一冊。

    戦国時代=権力争いのイメージ。

    それが松永久秀の生き様を通じて世を民を想う武将もまた存在した、そんな戦国時代の見えなかった一面を知ることができた。

    民の心中を汲み取りどうこの世に繋げ、最終的に民が執る政に繋げるか…今村さんの描く夢追う久秀の姿、志に胸熱く目頭熱くならざるを得ない。

    人、世の中たるもの…誰もの口からほとばしる幾多の言葉にも何度も心は反応。
    なぜならそれはいつの時代の人、世の中たるものを見事に捉えた言葉だから。

    見えなかった歴史の1㌻、熱さと夢みなぎる500㌻に今、胸が激アツ。

  • あー、よかった。
    509ページ、読む手が止まらなかった。
    松永久秀といえば、平蜘蛛。織田信長に渡さず一緒に逝った。
    自分の夢に向かって、突き進んだ人。平蜘蛛は夢の証だったように感じる。
    そしてその夢は、織田信長へ。
    周りの仲間をとても大切にしていたことも素敵だなと思った

    それにしても、読んでよかった。
    最初から最後まで、面白かった

  • 『悪人』と名高い松永久秀の半生を新たな解釈で描く。
    先日読んだ伊東潤さんの「茶聖」と同様、これまた主人公の見方が変わる作品。
    とはいえ、最近の研究で松永久秀は後世に伝わるような悪人ではなかったことは少しずつ分かって来ている。寧ろ優秀で先進的だったが故に周囲から疎まれたのかなとも思える。

    この作品の面白いところは、松永久秀の半生を語るのが織田信長という点。二度も謀反を起こされながら、信長は最後まで彼を許そうとしたのは何故かもこの解釈なら理解出来る。
    そして松永久秀が最後まで追い求めたもの、生涯を懸けて夢を追い結局は叶わぬまま人生を終えたその姿から信長は何を感じ何を思ったのかにも興味を感じた。
    この後起こる本能寺の変の最中、彼の胸に松永久秀のことは去来しただろうか。そんなことをチラッと思った。

    松永久秀が三好家の家臣として登場する前については分かっていないらしい。だからこそこの作品では大胆なフィクションでその少年期を描いてある。
    個人的には祐筆であったり優秀な役人だったりしたことからそれなりの血筋の武家か、それだけの教育を受けられる裕福な家の生まれかと想像していたのでこの少年期については違和感があった。
    ただ後に彼が築く多聞山城の名前の由来であったり、東大寺の焼き払いや二度目の謀反に繋げるあたり、作者さんの努力が垣間見えた。

    松永久秀が生涯の主君とした三好元長が語る理想、『武士の支配から解放』し、『民が民を治める』国というのはまさに現代の国の有り様だ。だがそれが素晴らしい世界なのかと言われたら何とも言えない。
    この作品を読んでいると、『じんかん(人間=この世)』は儘ならぬものということを切実に感じる。
    三好元長の理想は民の心に沿うものだと思っていたが、それなのにその民から裏切られた。家臣から裏切られたのならまだ納得出来るが、懸命に守ってきた民から裏切られるとは一体なんのために戦ってきたのかと脱力する。

    『人という生き物は変革を拒む。人はそれを神だの仏だののせいにして生きているだけなのです』
    『本当のところ、理想を追い求めようとする者など、この人間(じんかん)には一厘しかおらぬ。残りの九割九厘は、ただ変革を恐れて大きな流れに身をゆだねるだけではないか』

    変革の先にあるもの、理想の現実化の先にあるものが民の幸せだと説いてもそこに逆らうのが民の意志であるならば、それは理想ではないということなのか。

    また細川高国の話はなかなか興味深い。日本に限らず今の世界を表現している。

    『恐ろしいのは、箍が外れれば後先など考えずに狂騒すること』
    『己を善と思い、悪を叩くことは最大の快楽。たとえ己が直に不利益を被っておらずともな』
    『世に善悪があると本気で思うか』

    自分の行為や意志を正当化するためにそこに外れるものは悪と決めつけ徹底的に叩く。結局のところ、松永久秀が後世で『悪人』とされたのはこういうところなのかなと解釈した。

    民のため主君のためにこんなに頑張って、汚名も悪名も引っ被って最後まで足掻き続けて、それなのに上手くいかなくて、結局彼の人生は何だったのか、一体『何のために生まれたのか』。
    しかし現代になって再び彼の研究が進んで再評価もされ、優秀な武将として注目されている。そのうちに彼が追い求めた理想の世界も分かってくるかも知れない。
    その時に彼が生まれた意味、生きて足掻いた意味も確かにあったと言える。

  • 民を大事にする、
    忠義を大事にする、
    素晴らしい生き様であった。

    人間とは一体なんなのか、
    なんのために生きているのか、
    それを見つけ出したい主人公。

    胸が熱くなった。

    神も仏もありはしない。
    己が己だという証左はなにか。


    三悪人だそうだが、
    戦国時代に疎い私には全く分からず、
    読後にWikipediaを見てみたが、
    本作とほぼ同じような見立てで書かれていた。

    フィクションも多いのだろうが、
    史実に基づく部分も多いようで。

    他の作品による松永久秀も読みたいものだと
    思った。

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著者プロフィール

1984年京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。’18年『童の神』が第160回直木賞候補に。’20年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞を受賞。同年『じんかん』が第163回直木賞候補に。’21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第六回吉川英治文庫賞を受賞。22年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。他の著書に、「イクサガミ」シリーズ、「くらまし屋稼業」シリーズ、『ひゃっか! 全国高校生花いけバトル』『てらこや青義堂 師匠、走る』『幸村を討て』『蹴れ、彦五郎』『湖上の空』『茜唄』(上・下)などがある。

「2023年 『イクサガミ 地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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