高瀬庄左衛門御留書

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 743
感想 : 104
  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065192733

作品紹介・あらすじ

五十手前で妻を亡くし、息子をも事故で失った郡方の高瀬庄左衛門。
老いゆく身に遺されたのは、息子の嫁だった志穂と、手すさびに絵を描くことだけだった。
寂寥と悔恨を噛みしめ、韜晦の日々を送るが、それでも藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。

「決戦!小説大賞」でデビューし、文芸評論家・縄田一男氏に「新人にして一級品」と言わしめた著者。
藤沢周平、乙川優三郎、葉室麟ら偉大なる先達に連なる、人生の苦みと優しさ、命の輝きに満ちた傑作時代長編!

感想・レビュー・書評

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  • 五十にして天命を知る、とはよく言ったもの。
    天命を知るには、五十はまだまだ早い気がした。

    神山藩で郡方を務める高瀬庄左衛門は、五十を前にして妻と一人息子を亡くしてしまう。
    亡き息子の嫁・志穂と共に絵を描きながら、残りの人生をひっそりと慎ましく生きていたが…。
    静かに流れる展開の中に、時折挟まれる”動”の感情が意外にアツい。

    「選んだ以外の生き方があった、とは思わぬことだ」
    若者にそう助言する庄左衛門だったけれど、自身が選ばなかった別の生き方に僅かな未練を残している印象も受けた。
    歳を重ねて自分なりの矜持を保ちつつも、人は幾つになっても迷いや後悔を抱えて生きている。ここが人生の完成形、ということはない。それが”生きる”ということか。
    自らの老いへの戸惑いや世渡りベタな点に好感がもてた。

  • しっとり沁みてくる一冊。

    序盤から静かな紡ぎの世界が心地良く、随所で出逢う人生においての大切な言葉が静かにしっとりと沁みてくるような世界観に魅せられた。

    響き過ぎてしばらく足留めさせられた数々の言葉も想いも庄左衛門が自分の中でつらさや苦しみを自分なりに咀嚼したどり着いた上での一つ一つの言葉なのかということを思うとより込み上げるものがある。

    心情に寄り添うかのような四季折々の自然描写もまたしっとりと心に沁み渡るのも印象的。

    まさに心にしっかりと留めおきたくなる言葉が溢れた、歳を重ねてまた読み返したくなるような作品。

  • 時代小説は言葉使いに慣れずに読み難く敬遠していたが、この本は違った。時代小説の素養がない私でも世界に入り込めた。
    描写がなんとも美しく叙情的。
    庄左衛門の迷いながらも芯はぶれず凛とした姿に大人の魅力を感じた。

  • 嫡子を失った郡方の高瀬庄左衛門。子の妻志穂、ある一件で縁のできた弦之助、小者の半次、余吾平といった者との交流の中、藩政に関わる事件に巻き込まれていく。

    最初の話を読んだ時は、思っていたのと印象が違ったと思った。上品な感じで、庄左衛門と志穂の心持ちが描かれていて、御留書とあるように日常の事件などかと思っていたのと、少し毛色が違った。

    全般的には、少しづつ事件があり、庄左衛門の過去も含めて語られるが、落ち着いた感じの表現と、庄左衛門自体もそれなりの人物だが、落ち着きと年相応の趣きで描かれていることが、淡々とした感じにも受け取れる。

    その結果か、思っていた以上に、自分に合った感じで、楽しく読み進めることができた。

    自分の好きな本の感じが、また一つ増えたのがうれしい。

  • 悲しみを背負った人の物語。

    高瀬庄左衛門の息子の啓一郎は父子ともに郡方をつとめ、郷村廻りを行っていた。啓一郎は藩校の中でも俊才であり、助教になるための考試で首席にならんと挑むが、啓一郎は次席になってしまい、結局父と同じ職業になることに。未だその事実を受け入れられない様子で仕事もどこか上の空、妻の志穂ともうまくいっていない。

    そんなある雨の上がった日、啓一郎が崖下で遺体となっているのが発見される。悲しみに暮れる庄左衛門。元々妻は先に亡くしていたのだが、これをきっかけに小者の余吾平にも暇を出し、うまくいってなかった志穂も実家に戻そうとしていたところ、志穂は意外にも「ここに残りましては、ご迷惑でしょうか」と戻ることを拒否。庄左衛門が趣味にしていた絵を志穂も学んでいずれはそれで身を立てていきたいのだと言う。世間の目が気になる庄左衛門は志穂の提案に首肯しなかったが、弟と一緒に来る日だったら絵を教えるという妥協案で落ち着く。

    喪失感に苛まれた心を引きずりながらも郡方の仕事、志穂の絵を教える日常が流れていく。ある日志穂のもう一人の方の弟がお金もないのに頻繁に飲み歩いているのが気になっているという相談を受け、様子を見ることに。その辺りから徐々に庄左衛門は大きな運命にのまれていくことになる。

    この作品、時間の流れは緩やかでじわじわと話のボルテージが上がっていくような印象。傷心した男がささやかに送っている日常の裏で実は庄左衛門をのみこまんとする歯車が着々と回っている。よく読んでる急展開でスリリングな小説とはまた違った楽しみ方ができた。

    人の縁とは、人生とはなんなんだろうなぁと考えさせられた。ちょっとしたきっかけで人生は思いもよらない方向に流されることもあるし、結局過ぎ去った後にしか観測できない物だと思う。人生語るには人間という器は小さすぎるよなぁ。誰も何もわからない中で翻弄されながらもみんな毎日一生懸命生きている。そんな毎日を積み重ねる尊さを描いていたように感じました。なかなか味わい深い作品でした。

  • 日本語が持つ美しさ、麗しさを存分に堪能した1作でした。読み終え頁を閉じた後、装丁の美しい絵が目に入り、再び涙が零れます。

    まるで言葉で映像の世界を描くよう。
    色、光、風、湿度、季節が言葉で紡がれ、とても贅沢な世界が目の前に広がります。

    言葉で表れるのは景色のみならず、移ろう風景と重なるように、人々の邂逅と別れ、寄せる想いと手放す迷い、すなわち万物の儚さが哀しくも漂います。

    主人公は江戸時代の小さな藩の群方である高瀬庄左衛門。今でいう地方行政の公務員のような立場で、より民に近い泥くさい仕事を受け持っています。

    冒頭、代替わりして間もない息子が若い嫁を遺し不慮の事故死を遂げます。
    果たしてどのような展開かと各章を読み進みます。

    章ごとに中心人物がおり、主人公である高瀬と関りを持ちますが、その人物ごとの背景がまるで薄皮を剥ぐように丁寧に浮き彫りになります。

    どの人物にもそれぞれの過去があり、今を生きている。そして過去の経験からの思いや立場のなかで、目の前の道を選び、先に進む。

    後悔もあれば、逡巡もある。展望も闇も裏腹ながら同時に両立している。
    正義感も責任感も、嫉妬も羨望も相反するものが心の中でせめぎ合いながら、人の心は矛盾のなかで右往左往している様が自然に言葉で浮き出てきます。

    展開にもからくりがしっかり組み込まれていて、頁を戻ってはそうだったのか…と再び見えてくる心の機微もあり、1度ならず2度3度と読み返しました。

    派手さはないものの、人々が日々の営みの中で関わり合いながら生きる様子を丁寧に掬い取った時代小説。理不尽も不運もあれば小さな充足もあり、こういう1冊が読みたかったのだ!と自分で確認して味わえた至福の読書時間でした。

    砂原さんの作品、追いかけます!

  • 桜に梅、鳥、川といった、
    身近な自然の描写がとても美しく、
    庄左衛門の周りで起こる出来事、人間模様、
    進んでいく物語が、その描写に包まれているようで、儚くも力強くて、派手さや強いインパクトはなくても、引き込まれていく作品だった。

    ***ネタばれ***
    志穂の庄左衛門を慕う想いが、なんとも言えず、そっとこのままにしてあげたい気持ちにもなり、そしてそれとまた違う弦之助が庄左衛門を慕う想いと合わせて、庄左衛門の人となりが伺え、この3人の行く末に想いを馳せられました。
    物語の最後、庄左衛門の旧友である堅吾が彼を訪れ、語り合っている場面の、「また3人で会いたいものだ」という堅吾の言葉が、それは永遠に叶わないのと、何も知らない堅吾とそして、慎造に対する庄座衛門の気持ちを考えると、とても切なくて、何か心の奥にぐっとくるものがあり、物凄く印象に残りました。

  • 十万石の小藩の神山藩にて郡方を務める高瀬庄左衛門。五十手前で妻に先立たれ、家督を譲った息子も事故で失う。実直で正直者の初老の武士に与えられた環境が冒頭からあまりに心寂しく物語は始まる。
    しかし庄左衛門は、手すさみに絵を描く趣味があり、それが息子の嫁だった志穂との繋がりを続けるきっかけとなる。地方の下級武士の慎ましく清貧な生活を続けていたが、藩内の不穏な動きに巻き込まれ物語は大きく動き出す。
    人物描写も素晴らしいが、季節の移り変わりや、食欲をそそる美味しそうな料理の描写に引き込まれる。ようは映像が脳内に再生されまくりで、庄左衛門と共に組屋敷に住んでいるような感じになる。上手い。
    第165回直木賞候補作。第134回山本周五郎賞候補作。

  • 東えりかが読む『高瀬庄左衛門御留書』新鋭による圧倒的完成度の歴史長編 | 本がすき。 - 本がすき。
    https://honsuki.jp/review/45156.html

    『高瀬庄左衛門御留書』砂原浩太朗著 研ぎ澄まされた語りに万感を読み取る 神戸新聞
    https://www.google.co.jp/amp/s/www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/entertainment/book/202102/sp/0014057361.shtml%3fpg=amp

    「今の日本人につながる、人情の美しさが描かれているところに魅力を感じます」/『待ち合わせは本屋さんで。気になるあの書店員さんの読書案内』旭屋書店 池袋店 礒部ゆきえさん | ダ・ヴィンチニュース
    https://ddnavi.com/serial/739091/a/

    【書評】『高瀬庄左衛門御留書(おとどめがき)』砂原浩太朗著 - 産経ニュース
    https://www.sankei.com/life/news/210221/lif2102210017-n1.html

    『高瀬庄左衛門御留書』(砂原 浩太朗)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000340907

  • 久しぶりに時代小説を読んだ。それなりに事件は起こるのだが、静かな世界観で、藤沢周平の小説を読んだ後のような感じ。
    郡方の高瀬庄左衛門は息子を亡くし、再び郷村周りをはじめた。息子の嫁の志穂は実家に帰したが、再婚を断るため、絵で身を立てる、ついては絵を教えてほしい、と非番の日に弟の俊次郎と共に来るようになった。ある日、志穂から弟の宗太郎が何やらおかしな事に巻き込まれていると告げられ、調べに行った庄左衛門は半次という蕎麦屋と知り合う。

    さらさらと読みやすく、物凄くたちの悪い人も出てこないため、読んでよかった。郷村周りをしていると、どろどろとしたものが浄化されていく、ので郡方の仕事は嫌いではない、という庄左衛門の言葉は畑の草取りは大変だけど、ストレス解消できるな、というのに通じて、納得。鶯や山雀、梅や桜、海など、自然がたくさん出てくるのもよい。

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著者プロフィール

1969年生まれ。兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者となる。2016年『いのちがけ 加賀百万石の礎』で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。2021年『高瀬庄左衛門御留書』で第34回山本周五郎賞候補、第165回直木賞候補作になる。他の著書に『逆転の戦国史』がある。

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