- Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065192733
作品紹介・あらすじ
五十手前で妻を亡くし、息子をも事故で失った郡方の高瀬庄左衛門。
老いゆく身に遺されたのは、息子の嫁だった志穂と、手すさびに絵を描くことだけだった。
寂寥と悔恨を噛みしめ、韜晦の日々を送るが、それでも藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。
「決戦!小説大賞」でデビューし、文芸評論家・縄田一男氏に「新人にして一級品」と言わしめた著者。
藤沢周平、乙川優三郎、葉室麟ら偉大なる先達に連なる、人生の苦みと優しさ、命の輝きに満ちた傑作時代長編!
感想・レビュー・書評
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新しい作家さん。「時代物」ど真ん中な作品。現代の感覚だと、定年が見えてきて、気持ちが徐々に「残りの人生」に切りかわっていくあたりの日々が描かれていた。主人公が、とりたてて特別な人ではないところが好い。
題名の「御留書」から、物語の軸は、郡方としての仕事や職務にまつわることなのかと勝手に推測。読み終わってみれば、そこは違っていた。個々のエピソードと種明かしが、やや盛り沢山で急ぎ足だった感あり。
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後半に入る少し前、あれれ・・・と思ったけど、
最後まで面白く読ませてもらった。
藩内の政争に巻き込まれるようなキャッチコピーがあったけれど、そうでもないなぁ、ひっかけているという程度。
河原の遺体はどうなったのかとか、
墓参りのときに、線香にどうやって火を付けたのか、
とか、細かいところで気にはなった。
隠居するような歳でもなく、
やや中途半端な年回りと生き方が
高瀬庄左衛門の面白みにはなるのだけど、
どこかフワフワした終わり方だと思った。
第2弾、読んでみよう。 -
今年読んだ時代小説では一番良かった。
特に名声もなく剣に優れているわけでもない老齢の武士。
家督を継いだ息子を失い、その妻とその弟に絵を教えながら暮らしている。
昔の稽古仲間たちとの再会がありながら、それは良くも悪くのあり庄左衛門の生活に暗い影を落とす。
そのうちの一人は息子の事故死に関わったことがわかり思わず剣に力が入る。そして自分を陥れる罠。
若い侍との出会いがあり、老齢の庄左衛門は希望を持ちながら絵を描きながら余生を過ごすのか。
江戸時代の頃のこの老齢の主人公は時代は違うけど自分と同じような年齢なのだろう。老齢ながら仕事をこなしながらも絵を描くことで生活のバランスを保ち、身近な仲間たちに支えられて生きている。若い世代からも尊敬を受けながら。
何かを成し遂げるわけでもないのだけど、自分が共感をできる内容だった。 -
読書会課題図書
久しぶりに時代小説を堪能させていただきました
絵筆で表される淡々とした風景描写
そしてあくまでもおさえた心の描写
本意ではなく巻き込まれる様々な事件
矜持をもって対していく
自由には生きられないそれぞれの哀しみ
「……悔いばかり重ねてまいりました」
「つまり、ふつうということでござろう」
神山藩シリーズ 3部作
≪ 美しく 生きるとは何? 誇りもち ≫ -
もしかして、凄い作品に出会いました。これは、、、大人の小説、とでも言えば良いのでしょうか。著者の筆が凄い。情景が目に映るし、心の襞が感じられます。ストーリーも家族、友情、老い、青春、恋、人生、サスペンス。てんこ盛りなんだけど、静かでしんみり。感服。
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神山藩シリーズ一作目。
令和の世になってもなぜ作家は江戸時代の小説を書き、読者は好んで時代小説を読むのか。その答えを教えてくれるような作品。
身分、階層が厳然と存在する時代、不自由や時に理不尽な出来事さえ淡々と受け止め、それぞれの立ち位置で小さな喜びを重ねながら真っ当に生きる市井の人々。そんな彼らに人間のあるべき姿を見るからかな。優しさや人情、強がりや誇り、失いつつあるそれら全てのものが時代小説にはある。
命の危険にあっても罪なき者を守ろうとする優しさ、辛くない仕事はないと言い、そんな仕事の中にも充実と喜びを見出す矜持。そんな庄左衛門の人となりが胸をあったかいもので満たしていく。
脇を固める登場人物もまたいい。特に弦之助、彼は映像化してほしいほど魅力的。抜群のルックスに比類なき頭脳、凄絶な過去を持ちながら決して昏さに陥らず、人懐っこく、それでいてちょっと空気が読めない感じ?庄左衛門との絡みも最後まで楽しかった。
神山藩シリーズ、次も楽しみです! -
2023.7 前半は堅苦しい雰囲気ながら後半は動きがあり、そして全体的には静謐でいい時代小説でした。ところどころはっきり描写されておらず「えっ それでどうだったの」と思う場面があり、これはフラストレーションを感じます。
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妻を亡くした矢先、一人息子も事故(?)で失い、残されたその嫁と共に過ごす神山藩郡方・高瀬庄左衛門の、二年間の生活が描かれている。藤沢周平著『三屋清左衛門残日録』を思い起こしながら読んでいたが、こちらの作品は"動き"が大きく、"陰謀"の内容も新しく感じられ、面白かった。「神山藩シリーズ」の第一弾ということで、次作も読んでみたい。