現代経済学の直観的方法

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065195031

作品紹介・あらすじ

かつて『物理数学の直観的方法』で理系世界に一大センセーションを巻き起こした著者による、どこにもなかった経済書、誕生。

・資本主義の本質
・インフレとデフレのメカニズム
・貿易が拡大する理由とは?
・ケインズ経済学とは何か?
・貨幣の本質とは?
・仮想通貨(暗号資産)とブロックチェーンとは何か?
そして、
・資本主義社会の最大の問題点と、その解決のヒント

私たちが生きる現代資本主義社会の本質とその問題、行く末を直観的に理解する一冊!

(目次)
第1章 資本主義はなぜ止まれないのか  
第2章 農業経済はなぜ敗退するのか 
第3章 インフレとデフレのメカニズム
第4章 貿易はなぜ拡大するのか 
第5章 ケインズ経済学とは何だったのか 
第6章 貨幣はなぜ増殖するのか 
第7章 ドルはなぜ国際経済に君臨したのか 
第8章 仮想通貨とブロックチェーン 
第9章 資本主義経済の将来はどこへ向かうのか 

感想・レビュー・書評

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  • 「経済数学の直観的方法」でお世話になった者としておもしろいのは分かっていたので、発売日に購入。
    まったくもって期待通りと言うか期待以上。

    ① まず、いわゆる「経済学部」レベルでのマクロ経済学について、「ひらたくいうと何なのか」を知りたい、という人。端的に言ってこの本最強。
    詳しいひとの「記述が正確じゃないあーだこーだ」はとりあえず気にしなくて大丈夫。

    ② 経済学部とか公務員試験の準備とかで中谷巌の「マクロ経済学入門」は読んだよ、クラスの人。読後、「自分の言葉で整理できた」感が半端ないはず。

    ③ マクロ経済のMicro Foundation、ブラック・ショールズ理論がカバーされてないぞ、これでは「現代経済学」とは言えない、みたいなことを言えちゃう人。→「経済数学の直観的方法」、併せて必読。

    ④ PhDクラスの人。私にはわからないが、「厳密性」を追求するならアンチ含めていろいろ指摘はあるかもしれない。が、著者が目指している本書のゴールはそこではないだろうとは思う。

    さて、その上で、私的には、本書の白眉は「ブロックチェーン」を貨幣数量説、金本位制から説き起こしている章と、資本主義を「縮退」なる理系概念を便宜的に援用して語る思考実験の終章。こういうことを語ってくれるひとはそうはいないと思う。

    世の変革期には「理数系武士団」とでもいうべき人々(蘭学の素養のある幕末期の武士のような、つまり理系のバックグラウンドはありつつ経済学にアレルギーのない人)が必要、と。
    私は文系だが、本当にそういう一団を待望したい。
    そのために、とくに理系の方々にぜひ読んで頂きたい本。

  • 「経済というものが全くわからず予備知識もほとんどない(ただし(読書レベルは高い)読書が、それ一冊を持っていれば、通勤通学などの間に1日当たり数十ページ分の読書をしていくだけで、1週間から10日程度で経済学の大筋をマスターできる」(本書「はじめに」より)。

    具体的な内容としては、「資本主義はなぜ止まれないのか」、「農業経済はなぜ敗退するのか」、「インフレとデフレのメカニズム」~「仮想通貨とブロックチェーン」等々の全9章。

    全部で450ページのボリュームだが、「(本来なら3000ページ近くなる)」(「はじめに」より)とのことなので、経済学の超濃縮エッセンスが詰め込まれていると考えれば、そのボリュームも十分納得できる。

    内容も確かに素人にできるだけわかりやすく平易な文章と、時にイラストを交えながらの解説なので、読んでいて「なるほど!」、「そういうことだったのか!」と思ったことが多かった。
    加えて各章には簡単な「要約」も付されていて、その章の復習ができるところも親切。

    個人的には仮想通貨とブロックチェーンの章がとても分かりやすく、面白かった。

    これで著者は経済学の専門家ではなく、「もともと物理屋であって、経済学部の出身ではなく、経済の現場に身を置いたことも一度もない」(本書「おわりに」より)というから驚愕。どんだけ頭いいねんっ!と思わずツッコミが入ってしまった。

    社会人は意識しているしていないにかかわらず、経済に無縁である人はほぼいないであろうから、本書を読むことで自分に有形無形で影響を与える「経済」について本書で認識を改めることはとても重要なのでは、と思った次第。

  • 経済学がこんなにも物理的だったとは!

    現代経済学の問題を提起する後半より、「むっちゃわかりやすくて面白い、経済学の教科書」といった感じの前半が、読んでてワクワクした

    こんなにわかりやすくていいのかと、不安になるほど。

  •  著者の「経済数学の直観的方法(マクロ経済学編・確率統計編)」には本当に驚かされた。単に経済学の主要理論が物理数学をアナロジカルに用いることで記述できるということを示したにとどまらない。そもそも経済学という学問そのものが、西欧自然科学の豊潤なアチーブメントにより醸成された「直観」をもとに構成されているということ、さらに現代経済学の主流派の隠れた意図がその「直観」を通して見ることで極めてクリアになることを、門外漢にもわかりやすく喝破したのである。西欧的・経済学的パラダイムにどっぷり浸かっていては絶対に見出すことのできない斬新な視座であったと思う。

     「はじめに」等によればそもそも本書は、経済学に昏いために社会的に「使われる」立場に置かれがちな科学技術の専門家に対し、国を動かす側の論理である「経済学」を啓蒙する意味で、あくまでもで内輪向けに書かれたものであったらしい。それが読者の強い支持を得てまとめられたのが本書のようだが、僕はむしろ、(本職の専門家などは別として)経済に明るいことを自ら恃みにする文系人や実務家こそ読むべきではないかと思う。よく言われるように、経済学というのは他の自然科学に比べ、どこかいい加減で非科学的な柔軟性を多分に有している。経済通の間では余りに自明のこととして共有されているものの中に、どうしても辻褄が合わないのではないか、論理的にはどう考えてもトートロジーや循環論を含んでいるとしか思えないものがままあるが、現実の経済はそのような矛盾を曖昧にぼかしたまま「回っている」のだ。しかし傍目八目ではないが、当事者がかえって気づかない矛盾に、著者のような他分野の専門家からの指摘を受けて初めて気がつくということはよくあることで、そこを改めて熟慮してみることには多大な意義があるように思う。矛盾を含みつつも機能しているシステムには必ず歪みが蓄積しているもので、そこで将来予想される調整に伴うムーヴメントを予測する上でも、またその歪みそのものを修正する方策を探る上でも、著者の物理・数学的な知に基づくアナロジーは極めて有用な補助線となるはずだ。

     本書のテーマは「資本主義はなぜこのようなものなのか」ということに尽きる。なぜGDPの2割もの投資が必要なのか。なぜ利子は正当化されるのか。なぜ貨幣価値は維持されているのか。そしてなぜ、経済はこれほどまでにイデオロギーに左右されるのか。本書では、こういった自明すぎて答えに窮するような疑問が、電子回路やエントロピー、天体運行などのパラダイムを用いたアナロジーにより問い直されていく。そこでは、物理や数学のような自然科学からはどうしても漏れ出てしまう経済学の非合理性、さらにはその非合理を飲みこんでなおも動きを止めない柔軟性や可塑性といったものが、剥き出しの本質として眼前に提示されることとなるのだ。

     第8章までの記述はどこかで既に扱われているトピックに関するものであり、視点こそ目新しくはあっても既視感は否めないが、本書の肝は第9章での著者の提言にある。現在の経済繁栄の原因が経済エコシステムのエントロピー増大過程から富という形でエネルギーを抽出してきたことにあり、その結果システムが「縮退」、すなわち少数種による寡占と多数種の衰退を起こしているとの警告だ。このような過程をもたらしたのは、近代以降の啓蒙主義が天体の二体問題における自動軌道修正を経済学に拡大適用し、人間の短期的願望(欲望)が大数としては長期的願望(理想)に一致するという過剰な楽観主義定着を促進したからだというのである。そして現状の回復も死滅にも至らない「コラプサー」への落ち込みを打開するには、前述の富の抽出過程の他に、エコシステムを破壊的に再構築する「もう一つの力」が必要だと説く。それがセルオートマトンのアナロジーと哲学者オルテガの引用で説明される「呼吸口」の力だという。人間は可能性を閉ざされても満たされ過ぎても精神的に死に至るのであり、「呼吸口」=想像力を媒介とした幸福の摂取により、エントロピックな縮退の進行を少しでも止めてカオスへの落ち込みを防ぐべきと説いている。

     ただ一方で、この縮退が不可逆的なもであること、また人々の短期的欲望を完全に抑制することが非現実的であることを認めるところが、著者の物理学者らしいリアリズムの顕現と言えるだろう。著者が期待する「もう一つの力」の効果の発揮には数学や物理に基づく真理に裏打ちされた「最高レベルの知性」による「大きな物語」の提示と共有が必要だとするが、それには現代政治に立ちはだかる大きな壁、すなわち反知性主義の克服が無論のこと必要になる。また現下のコロナウィルス禍をみる限り、外生的ショックは肥大化した残存種よりも寧ろ絶滅に際する希少種を駆逐する方向の推進力を持っているのではないかとも思える。しかし種々の困難はあろうが、著者の駆使するアナロジーの力による共感の醸成と知性の共有が、長期的には必ず人々の行動原理に変化を及ぼすものと信じたい。それが、非科学的な側面を持ちながらその巨大な慣性質量で命脈を保ってきた経済学と、科学的ではあっても必ずしも人々にそのエッセンスが受容されていない自然科学が、今日まで共存している理由なのではないだろうか。

  • 【一読しての感想】
     入門書の力作。門外漢ならではの視点があり、うまいこと諸分野のエッセンスを抽出しようとしている。網羅的でも教科書でも無いが、ツボはおさえてある。ついでに「小室直樹の入門書」的なワリキリと洞察を味わえる。つまり「予備校のカリスマ講師による○○学の人気授業!」「これ一冊で〇〇は完璧だ!」的なノリ。著者サイトにも「たったN時間で!」など心惹かれる煽り文句がのっている。
     さて、参考文献が載せてないのは何故だ(例えば仮想通貨について。著者が徒手空拳で第8章を書いたなんてことはないでしょう。第1章の社会経済学チックな考察にすら、下敷きとした文献は存在するはず)。学術的なクレジットの点で不安になってしまう。全体の感想を書く際には些細なツッコミがいるので、ブログの方にそのうち。

     わたくし的に最も気にかかるのは、著者が本書冒頭で「書店の経済コーナーには、経済を概観できる入門本がない」(大意)と悲しんでいること。これは思い切った誇張。というかウソ。あ、著者が小さな本屋にしか行かず&『儲かる株の本』しか見つけられず、という可能性は勿論ありえる。しょうもないアピール文書に、皆様も昭和の残り香を感じるでしょう。
     これまでも良い入門書は本屋に並んでたよ!

    【めも】
    ・著作一覧。神格化PR文を拝読できる。
    http://book.motion.ne.jp/index.html

    ・装丁家コバヤシタケシ氏のサイトより、本書の紹介ページ。
    https://surface83.com/economics

    【版元サイトの書誌情報】
    製品名:現代経済学の直観的方法
    著者:長沼 伸一郎
    発売日:2020年04月09日
    価格 本体2,400円(税別)
    ISBN 978-4-06-519503-1
    判型 A5
    頁数 458
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000323019

    【簡易目次】
    第1章 資本主義はなぜ止まれないのか 015
    第2章 農業経済はなぜ敗退するのか 087
    第3章 インフレとデフレのメカニズム 115
    第4章 貿易はなぜ拡大するのか 143
    第5章 ケインズ経済学とは何だったのか 185
    第6章 貨幣はなぜ増殖するのか 225
    第7章 ドルはなぜ国際経済に君臨したのか 265
    第8章 仮想通貨とブロックチェーン 309
    第9章 資本主義経済の将来はどこへ向かうのか 371

    【詳細目次】
    はじめに [001-007]
    目次 [008-011]

    第1章 資本主義はなぜ止まれないのか 015

    1 資本主義の中枢部を解剖する 026
    止まれない資本主義
    資本主義の成長スピード
    軍事史と鉄道
    「経済社会の鉄道網」
    中世世界と貯蓄
    2 「経済社会の鉄道網」と資本主義の恐ろしく不安定なメカニズム 041
    貯蓄の持つ二つの意味
    金貨の循環がもし目で見えたら
    貯蓄で社会が貧しくなる
    パン屋の事業拡大
    いかに貯金は環流されるか
    常軌を逸したサイクル
    意外な一致
    政策当局の目から見ると
    マクロ経済学の最重要ポイント
    3 文明社会はいかにしてそれを選択してきたのか 066
    金利が容認されるに至った文化的背景品
    ウェーバーの伝えるカルヴィニズムの真実
    切断された相互扶助の糸
    資本主義の必要性の「3要素」
    反対側から見た光景=イスラム世界と金融
    現代イスラムの「無利子銀行」
    資本主義は最終的な勝者か
    要約 083

    第2章 農業経済はなぜ敗退するのか 087
    ペティ・クラークの法則
    徳川政権の経済問題め
    農業と機動性
    徳川政権のジレンマ
    現代の原料産出国の悲惨
    産油国の反撃
    商工業側の苦労
    需要拡大の歴史
    石炭文明から石油文明へ
    石油文明から半導体文明へ
    要約 113

    第3章 インフレとデフレのメカニズム 115
    ドイツの天文学的インフレ
    インフレ状態の図式化
    循環作用の中のインフレ
    サーキットのボトルネック
    フィリップス曲線
    インフレのメカニズムの整理
    「貨幣の中立性」という考え方
    インフレで誰が得をするか
    デフレはインフレより恐ろしい
    戦後日本のサバイバル戦略
    政府当局のインフレへの対応策
    要約 141

    第4章 貿易はなぜ拡大するのか 143
    1 貿易のメカニズム 144
    貿易を行う理由
    貿易の生み出す巨大な利益
    貿易の力学
    利益の取り分の国家への移行
    自由貿易体制の登場

    2 貿易の歴史 
    没落してしまった「商業民族」
    オランダの場合 繁栄を支えたバルト海の穀物輸送ルート
    英国の場合①――毛織物、毛織物、毛織物
    英国の場合②――自由貿易論の登場
    米国の場合――南北戦争の舞台裏
    日本の場合①――近代化の生命線だった「絹の道」
    第二次世界大戦とブロック経済への移行
    日本の場合②――重工業への移行
    「中世自由貿易圏」としてのイスラム世界
    グローバリゼーションの波と新興国の台頭
    世界経済全体の効率化か国内の安定か
    要約 

    第5章 ケインズ経済学とは何だったのか 185
    ファラオの名誉回復
    奇妙な石油ポンプ
    ケインズ的な経済観
    金貨と銀貨の経済効果
    乗数効果のメカニズム
    大恐慌下でのケインズの挑戦
    新旧学派の言い分
    中世には貯蓄の問題はどうだったのか
    ケインズ経済学の泣き所
    ケインズ政策の暴走と新古典派の台頭
    英国におけるケインズ経済学の特殊事情
    経済学の勝者を決める「同盟ゲーム」
    経済学の系譜
    要約 222

    第6章 貨幣はなぜ増殖するのか 225
    増殖してきた貨幣
    イングランドの紙幣とモンゴルの紙幣
    磁化される貨幣
    磁化はどこまで続くか
    増殖してしまった金細工師のお金
    現代の銀行での貨幣増殖
    貨幣はこのように増殖する
    増殖メカニズムの定量面
    「通貨供給量」の定義
    なぜ社会は貨幣の増殖を容認したのか
    金本位制度の弱点が
    貨幣の世界の「実と虚」の変遷
    仮想通貨は「虚」か「実」か
    要約 262

    第7章 ドルはなぜ国際経済に君臨したのか 265
    1 ドルから見た国際通貨 266
    国際経済に君臨するドル
    ドルの奇妙な変貌
    ジレンマに陥ったドル
    解決し難いジレンマ
    国際通貨の困難の根源
    ドル以外の選択肢なし ――「モンゴル型」への変貌
    円の基軸通貨への道は遠かった
    現代の経済世界で貨幣価値を保証する後ろ盾は何か

    2 過去の国際通貨はどうだったか 
    イスラム貨幣はどうだったか
    ポンドの場合
    英国以外の紙幣の進化
    金本位への奇妙な愛情
    一見魅力的な国際収支回復のメカニズム
    金本位制の意外な落とし穴
    現代世界では舞台から消えた「グレシャムの法則」
    要約 306


    第8章 仮想通貨とブロックチェーン 309
    電子の世界の金本位制
    どうやって電子の世界に「増えない量」を作り上げるか
    ブロックチェーンの「超大型機」と「中・小型機」
    中・小型機タイプのブロックチェーン
    台帳ファイルを細かく分けてタグをつける
    改竄をどうやって防ぐか
    「入力を1だけ変えると結果が大きく変わる」例
    「ハッシュ関数」とはどんなものか
    ブロックチェーン化という改良
    ブロックチェーン化で改竄は格段に難しくなる
    何冊の台帳を同時に改竄しなければならないか、
    ハッシュ関数の性質
    中・小型機タイプでは膨大な計算は必要ない
    超大型機タイプのブロックチェーンのシステム
    「ナンス」の組み込み方
    「マイナー」は何を動機に面倒なことをするのか
    ビットコインはマイナーが少しずつ流し込んできた
    ビットコインの「半減期」
    ビットコインと金本位制
    過去の議論との奇妙な共通性
    ビットコインが遭遇する金本位制と同じ壁
    ビットコインの歴史的存在意義
    他の仮想通貨について
    現時点での仮想通貨の構図
    要約 367

    第9章 資本主義経済の将来はどこへ向かうのか 371
    1 「縮退」という大問題 373
    「縮退」という繁栄が
    縮退のメカニズム
    メカニズムの本質
    劣化状態から抜けられない事例
    縮退の過程で金銭的な富が生まれる
    人間の長期的願望は短期的願望に縮退する
    縮退は放っておいても元へ戻らない
    誤った「多様化」はかえって縮退を加速する
    「ごみ」という概念自体が縮退によって生まれる
    世界はどう縮退して富を絞り出しているか
    実体経済と乖離する世界が
    変化した経済の常識

    2 われわれはどうしてこんなに大きな誤解をしてきたのか 399
    大きな勘違いを導いたもの
    天体力学が作り出した巨大な錯覚
    人間の短期的願望と縮退の行き着く果て
    政体循環論と縮退
    「コラプサー」と「縮退」の語源
    過去にローマで何が起こったか
    西欧地中海世界はどうコラプサーから回復したか
    中国の場合
    もう一つの力が存在しなければコラプサー化は止められない

    3 経済世界に縮退を止められる力は存在するか 
    オルテガのヒント
    その隠れた力の経済への意外な影響力
    現代の閉塞感の根源
    碁石をヒントにした基本原理
    資本主義社会の人間の精神状態はどう表現されるか
    ジョイントは基本的にまず上下方向に発生する
    呼吸口の数え方
    経済社会を動かすもう一つの力
    縮退を止めるための力学
    縮退を止めやすいパターン
    一国主義や地域主義の意味
    将来の経済学

    おわりに(二〇二〇年三月 長沼伸一郎) [449-452]
    索引 [453-455]

  • とにかく経済社会というものは一旦後退を始めると逃げ足がついてしまうものである。
    p48

    つまり資本主義にはその速度をどんどん速くしていかなければいけないという強烈な圧力が、宿命として根本部分に組み込まれているわけである。
    p57 新兵器の購入を毎日行う必要性

    公定歩合は経済政策のスロットルレバーであり、政府としてはコントロール機構として効率が良い。部外者にとっては当時も今もそんな話を聞いてもピンと来ず、それがどうした、のつい言いたくなってしまうものだが、なぜそれが経済社会にとってそんなに重要なのかということは、企業がそれだかの巨額の資金を現実に借りているのだという基本認識がないとなかなか認識しにくい。
    p62

    つまりそういう人々は「金利が下がった」というニュースを、鉄道網状の障害が減って輸送・補給効率が向上したと捉えていたわけである。
    p63

    貯蓄という日常的な行為と投資という途方もない行為との感覚的なギャップ。つまりもともと資本主義というものが本質的にカンフル剤の連続的な投与によってのみ維持されるようなとんでもないメカニズムであるということ、そして貯蓄という行為が経済社会に貧血か超高血圧かの二者択一を強いる、これまたとんでもない代物であるという、かなり驚くべき事実を認識することによって初めて円滑に理解されていくのである。
    p65


    現代社会が資本主義を手放せない理由
    1:軍事力の基礎を確保するための資本主義
    2:アメリカン・ドリームの舞台としての資本主義
    3:他国の資本主義から自国を守るための資本主義
    p73

    米国の資本主義は夢によって駆動され、日本の資本主義は心配によって駆動されている。
    p74

    インフレメカニズム
    経済社会というところは、1カ所で値上げが起こればそれがどんどん波及していくのであり、それが問題の根源なのである。

    イスラム教誕生の背景
    砂漠の都市メッカに急速に自由経済が流れ込んできて一種の道徳的退廃が蔓延した時に、その退廃へのワクチンとしてこの宗教が導入されたというのが真相
    自由貿易、自由経済が一旦溶解させてしまった伝統的な社会道徳体秩序を、宗教がそれに代わって担うという形で支え、この大きな経済圏全体の秩序がそれに大きく依存し続けたということは、一つの例として興味深い
    p176

    つまり一見アカデミックな経済学の興亡も、実は多分にこのような一種の同盟ゲームに裏から支配されていたと見ることもできるわけである。
    p219

    マルクス経済学は「経済学の同盟ゲーム」を考えた場合、基本的に多数派になることができないからである。
    p220

    もし将来何らかの形で新しい経済学を作ろうとした場合、三つの層のどれとどれを選んで同盟構造を作るかを、前もって考慮しておく必要がある。
    p221

    つまり誰かがどこかでただの見込みを信じてリスクの大きな行動に出た時、その絵空事から経済拡大の最初のきっかけが作られ、消費と生産の拡大が行われる
    p253 貨幣の増殖はなぜ始まるのか

    パスワードの流出などの問題の多くは、実の部分の貨幣が電子化されることに伴って発生するもので、先程の議論とは全く別の場所で起こる問題であることに注意する必要がある。
    一方実と虚の話は、より本質的な経済全体の問題として、貨幣が紙でも電子でも共通して起こるもので、これらをしっかり区別しておかないと、今後は頭の中が混乱して議論が把握できなくなる恐れがある。
    p260

    ある国の国内通貨を同時に国際通貨としてもつかうということのにじゅうせいがかどこかに必ず無理をきたしてしまうのである。
    p277 巨人親分の輸血


    彼ら(金本位制の信奉者)はだいたいにおいて厳格な直接民主主義の信奉者であり、経済的にはアダム・スミス流の自由放任主義、そして国際経済においては徹底した自由貿易主義者である。そしてその仕上げとして、通貨制度においては金本位制を好む傾向が強く、それが一種の三位一体を成しているのである。
    p295

    政府内部にいる少数の人間が意図的に社会をコントロールすることを許さないという点で一致している。

    これとは対照的なのがケインズで、彼は自由放任のメカニズムに対して基本的に懐疑的である。そして彼の思想には、廉潔なエリートがかなり強力な権限を持って社会を律していることが必要である、といういかにも英国的かつ非米国的な前提が存在していると言われる。
    p295

    恐竜の世界でも、滅亡する直前はティラノサウルスとトリケラトプスの2種の巨大恐竜の化石ばかりが出てくるようになり、一種の寡占化が進んでいたが、むしろ恐竜の個体数だけをみると増えていた。
    p374

    一般に希少性の高い状態から希少性の低い状態に移行する際にエネルギーが引き出される
    p381

    一般めきに両者は矛盾するのが普通であり、さらにほとんどの場合は短期的願望の力の方が強力で、長期的願望は注意深く意識的に保護していないと、すぐに短期的願望に圧倒されて完全に駆逐されてしまう。
    p382

    つまり現代社会の富は、単に巨大企業自身が活発化しているというより、昔の時代からの伝統や習慣で長期的に整っていた社会生活のシステムが、壊れて縮退する過程でしばしば生まれており、むしろ後者がメインとなって経済社会では富が引き出されているのである。
    p383

    乱立は結果的に一強を招く。
    党の乱立など。
    誤った多様化はかえって縮退を生む
    p387

    ごみ、という概念は宿題により生まれる
    p392 ダンスウィズウルブズ

    ケインズ
    文明というものが少数の人間の意思によって打ち立てられ、狡猾な制度によってのみ維持される、薄い頼りにならない外皮のようなものであることに気づいていなかった

    社会と経済の縮退を防ぐために存在していた制度や慣習が、まさにケインズのいう、文明だったというわけである。
    p403

    高度な文明とは大量のエネルギーや情報を使うことで、より大きく、より速く、より快適になることだと錯覚してきたのだが、むしろ真の「高い文明」とは、人間の長期的願望が短期的願望によって駆逐されるのをどう防ぎ、社会のコラプサー化をどうやって阻止するかという、その防壁の体系のことを意味していたのではないか
    p406

    つまりこの場合の衆愚政、とは必ずしもしばしば誤解されるような「民衆は愚かなのでダメ」という意味ではなく、教養の有無などとは無関係なはなしなのである。
    民衆自身の短期的願望が民衆自身の長期的願望を駆逐しているような状態
    p408

    ただここで状況を逆に眺めて、もし貧困や環境の問題をすべて解決した上で富を極大化し、資本主義社会が繁栄の極みに達したとすれば、本当にわれわれは幸福のゴールに達するのかと問うて見た時、どうもそうではないということは、誰しもが感じることなのではあるまいか。
    p423

    それはむしろ貧困にあえぐ国よりも、豊かな先進国に住む若い世代で顕著であり、そこで彼らは、生きる目標を見つけるという点において過去のどの世代よりも難しい状況に立たされており、「行くべき未来」を失ったまま、あり余る豊かさに取り囲まれ、閉塞感の中で絶望を強いられて、そこからの脱出こそが最大の問題と感じているのである。
    p423

    人間は外面的な幸福それ自体は吸収することができず、人間の心の中で「想像力」という酵素が作用することではじめて吸収できる状態になる

    つまり人間に幸福感を感じさせるものは、外見からもわかる「幸福な境遇」それ自体ではなく、むしろそれが種となって想像力に転化されたものであり、その「想像の中の幸福」を吸収することで人間は幸福を感じるのだというわけである。逆に言えば、外面的な豊かさをいくら与えられても、想像力という酵素が不足すれば豊かさの中で逆に窒息してしまうということである
    p426

    地域的な結びつきを強める試みや愛国心の復権などは、ある程度までは呼吸口を増やす役に立つと思われるが、巨大な金融の力に対抗するにはさすがにそれでは力不足なのである。
    p444

    過去の歴史を見ると、一般に物事がそのレベルの規模を要求される時には、政治家の小手先の思いつきで始まったものなどは、だいたいは線香花火程度のもので終わってしまうことが多い。
    それだけの大きな流れが生まれる時というのは、大抵はそれに先立ってまず、当時の最高レベルの知性を持つ人々に支えられた一種の大きな思想が存在していて、それが一般の人々に「これこそ宇宙や世界の唯一無二の真理である」という一種の畏敬の念をもって受け入れられていなければならない。
    そして選挙を抱えた政治家はむしろその後で参加を始めて、すでに半採用となっている設計図を制度面で定着させるという、仕上げの役割のみを担当することが多いのである。
    p445

  • 2020/11/18 読了

  • 最初は単に、経済の原則について簡単に学びたいと思って手にしたのだが、「暴走する資本主義をどうやって遅くするか」という問いに、人間の根源的な欲求を絡めた答えを導き出しており、その類い稀な洞察力に衝撃を受けた。

    第一章で資本主義を「最も原始的な社会経済システムなのであり、それ以上壊れようがないからこそ生き残ってきた」としている。なぜ高度な中世の文明が壊れ、いま原始的な文明が残っているのか不思議に思わざるを得なかったが、縮退という概念を理解すると腑に落ちる。

    かつての縦関係を重視し、神話など大きな物語を中心にまとまっていた共同体では、多様な関係者がバランスをとる希少なシステムが構築され、その中で経済を回すことができた。しかし、カリブィニズムの誕生を機に、共同体が瓦解すると人間の短期的な欲望を叶えるべく資本主義が暴走を始めていく。
    今後その進みを遅くするためには、カリブィニズムに匹敵するほど衝撃的で、全員に心底理想だと思わせる大きな物語を与えなければならない。
    それをシェアリングエコノミーは担えるのだろうか。別の本を読み、考えていきたいと思った。

  • ブルーバックスなどでも評判の著者の本を始めて手に取った。
    前半部分、資本主義や貿易あたりまでは”例えが巧み”だな、という程度の印象だったが、貨幣、仮想通貨、ブロックチェーあたりになると、エッセンスを抽出する力量、その分かりやすい記述に改めてうなった。
    一方で最終章の資本主義の将来。「縮退」という概念や囲碁の例えは、前半や中核部分に比べると腹落ちした感じは乏しかった。本を再読することはほとんどないが、再読してみると印象が違うのかな。

  • 分厚さとタイトルの重々しさで手に取るのを躊躇していましたが、レビュー評価が高いので読んでみました。
    結果、非常にわかりやすい良書です!
    たとえ話が秀逸で、私のような経済学素人でも概念を十分に理解できます。
    資本主義社会の構造と課題、そして最終章では著者なりの課題解決アプローチまで論じられており、気づけばすっかりのめりこんで読破することができました。
    良い本に巡り合えたと思います。

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著者プロフィール

1961年東京生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業後、同大学理工学部大学院中退。1987年、自費出版『物理数学の直観的方法』(通商産業研究社)の出版によって、理系世界に一躍名を知られる。その後も組織には属さず仲間と一緒に研究生活を送っている。
著書に『物理数学の直観的方法 普及版』『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(いずれもブルーバックス)、 『一般相対性理論の直観的方法』『無形化世界の力学と戦略』(いずれも通商産業研究社)など。



「2020年 『現代経済学の直観的方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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