最後の社主 朝日新聞が秘封した「御影の令嬢」へのレクイエム

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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065196328

作品紹介・あらすじ

日本のクオリティ・ペーパーを自任する朝日新聞社。その朝日株の6割を握っていたのが、創業者・村山龍平と村山家である。
そのため、朝日新聞は村山家を「社主」として手厚く処遇しつづけた。
その「最後の社主」となった村山美知子は、1920年、新聞王と呼ばれた村山龍平の孫として生まれた。母・於藤は龍平の娘、父・長挙は子爵・岡部家から婿入りした旧華族だった。
朝日新聞が生み出す巨大な利益と、華麗なる血脈――美知子は、妹・富美子とともに、神戸・御影の邸宅と有馬温泉の別邸を行き来しながら育った。日本舞踊、古式泳法、スキー、茶道、ピアノなどを学ぶ、日本有数の「深窓の令嬢」ーーそれが村山美知子だった。
戦後、海軍大将の次男を婿に迎えるが、朝日新聞の経営に興味を示さず、離縁してしまう。傷心の美知子は、音楽の世界で活躍することになった。
朝日新聞が後援する日本を代表する音楽祭「大阪国際フェスティバル」の専務理事として、世界各国から有名指揮者、オーケストラ、将来有望な若手を招聘した。小沢征爾、カラヤン、ルービンシュタイン、ワイセンベルクらが美知子に深い信頼を寄せた。
一方、朝日新聞の経営陣は、株を握る村山美知子の機嫌を取ろうと奔走する。専任の「秘書役」をつけ、お気に入りの高級パンを届け、記者出身の役員は慣れない茶道に挑戦し足がしびれて転倒した。
誕生会や村山家の祭礼には編集幹部がこぞって参加し、お祝いの言葉を述べた。
しかし、子どものいない美知子社主が高齢になるにつれ、朝日株の行方が焦点になる。朝日経営陣は、あの手この手を使い、美知子社主から株を手放させようと画策した――。
その最晩年に「秘書役」となった元事件記者が、朝日新聞最大のタブーを赤裸々に明かす。
朝日経営陣は、どうやって村山家から株を手放させたのか。
巨額の税金をどのように処理したのか。
朝日新聞株が外部に流出する可能性もあった、最大の危機とは。
新聞、メディア経営の深奥に迫る、驚愕の書。

感想・レビュー・書評

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  • 津田大介さんのポリタスTV で樋田さんのお話を聞いて大変感銘を受け本書を知った。
    ものすごいルポルタージュだ。ルポルタージュの意味は本来のフランス語で探訪と聞いたことがある。
    ニホンというクニの近現代史、ジャーナリズム、メディアのみならず文化という観点からもまさに社主美知子さんその父母や祖父母が、生き、世の中に還元されてきたこと、普遍的な愛のようなものが、気鋭のジャーナリストの鋭い眼差し、公平であろうと自らを追い込むような目線で語られており、感動した。
    大阪国際フェスティバルとかフェスティバルホールとかそんなことも全く知らないことばかりで大変勉強になった。

  • 女帝と囁かれた村山美知子の華やかな生涯と創業家として朝日新聞と対決する晩年の話。
    著者が本当に村山美知子という人間に惚れ込み、だからこそ朝日新聞による法的に疑問なレベルでの株式譲渡を許せないという熱意がノンフィクションとして素晴らしい。
    いまの朝日新聞の筆頭株主が香雪美術館になったカラクリを伝える点のみでも十分面白いのに、最後の貴族階級とも言うべき村山美知子の気品と芸術への愛、そして上流階級ゆえの苦労…日本とは思えない世界が存在したことを教えてくれる名著。

  • 東2法経図・6F開架:289.1A/Mu62h//K

  • 「異色の潜入ルポ」と評していた方がいらしたけれども、同感。当事者でありながらジャーナリストとしての冷静な目線も失っていない。

  • 本当ならクラシック音楽に関心のある人が読むとよいのだけど。
    3代目の社主が日本のクラシック音楽にもたらした功績が描かれている。朝日新聞社の社主だからできたことだと思われていたようだが、欧米の音楽家を日本に招いて満足のいく演奏をしてもらうのは、目利きと経営能力と愛がなければできなかったことのようだ。

    そういう、音楽プロモーターとしての伝記であればよかったのだけど、朝日新聞社社主としての生涯も描かなければならない。
    圧倒的な株式を保有する創業家一族と経営陣の冷戦が描かれる。
    朝日経営陣は陰に陽に社主(や創業家)の力を削ごうと働きかけており、著者はそれに対してネガティブである。まあ確かに、株主がうるさいのはわかるが、経営陣に対して牽制する勢力が事実上なくなってしまうようなやり方はいかがなものか、と私も思う。

    なお、樋田記者は赤報隊事件を追うのがライフワークじゃなかったっけ? と思ったが、社主のお世話係になった経緯と理由も書かれている。

  • 角川歴彦氏の逮捕をうけて、角川春樹本「わが闘争」を読んだ。で、昭和の出版界の華やかさとおどろおどろしさに括目し、野間家「出版と権力」を経て、朝日新聞と村山家の本書にたどりついた。
    社主の秘書役となった元朝日新聞事件記者が、創業家と経営陣の対立を記録したノンフィクション。片方の主張をうのみにすることはできないけれど、体調が悪くなりつつある社主から持ち株を奪おうとする攻防は、半沢直樹もびっくりのきなくささ。事実は小説より奇なり。

    フェスティバルホールと大阪国際フェスティバルのくだりは、まさに音楽史。ノブレスオブリージュ。よくぞあのすばらしいホールをつくってくれましたと感謝したい。

  • 富山市立図書館
    289.1||ムミ||2020

  • 運命に逆らえないが信念を貫く村山美知子さんは周囲からの翻弄に対峙していく。資本と経営の問題は、朝日新聞者の創業者から筆頭株主へと移りゆく村山家に様々な苦難を強いられていく。その渦中に美知子さんは大阪国際フェスティバルをスタートさせて世界からの喝采を浴びる功績を残したことは偉大である。どこぞの連中がすぐさまレガシーとほざく為体とは格が違う。大体そんなレガシーってすぐにケチが付いてる、あー胡散臭い。

  • 【まるで奇跡のような、素敵なおばあちゃんだった、と何度も思い返している】(文中より引用)

    朝日新聞創業者の孫にして最後の「社主」となった村山美知子。芸術活動にも身を捧げた数奇な人生を追いながら、経営陣との長年にわたる複雑な関係を描いた一冊です。著者は、自身も朝日新聞社で活躍した樋田毅。

    村山美知子という一人の人物を丹念に取材したノンフィクションとしての価値はもちろんのこと、「経営と資本」の関係を考える上でも大変に示唆に富む一冊でした。企業にチェック・アンド・バランスをもたらす機能としての経営者一族の役割は改めて見直されても良いのかもしれないと感じた次第です。

    「そういえばあの時・・・」と振り返る作品になりそう☆5つ

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著者プロフィール

ジャーナリスト。1952年、愛知県出身。県立旭丘高校卒、早稲田大学第一文学部社会学科卒。’78年、朝日新聞社に入社。高知支局、阪神支局を経て大阪社会部へ。大阪府警担当、朝日新聞襲撃事件取材班キャップを務めたのち、京都支局次長、地域報道部・社会部次長、和歌山総局長。朝日カルチャーセンター大阪本部長等を経て、’12年から’17年まで大阪秘書役を務め、同年12月退社。
著書に『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)がある。



「2020年 『最後の社主 朝日新聞が秘封した「御影の令嬢」へのレクイエム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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