ロシア正教の千年 (講談社学術文庫)

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感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065200506

作品紹介・あらすじ

時に激しく弾圧され、また、時にロシア愛国主義を鼓吹し、人々の精神的支柱となってきたロシア正教の1000年の歴史を、政治と社会の流れの中でとらえた労作の文庫化。
西暦988年、キエフを中心にロシアの国家的統一を果たしたウラジーミル1世は、ビザンチン帝国に範を求めて東方キリスト教(ギリシア正教)を国教に採用した。以来、ロシアはビザンチン文明圏に属し、モスクワは「第三のローマ」としての存在感を高める一方、西欧文明の恩恵から隔絶されることになった。同じキリスト教を共有しながら、ローマ法、ルネッサンス、宗教改革を経験せずに近代への向かうのである。
ロシア革命による「無神論体制」の誕生と、ソヴィエト政権の熾烈な迫害は、宗教者たちを厳しく追い詰めたが、それゆえにこそ、ナチス・ドイツとの大祖国戦争では、スターリンに協力しソヴィエト愛国主義の先頭に立つが、戦後はふたたびフルシチョフの弾圧を受ける。ゴルバチョフ政権下でようやく「宗教ルネッサンス」を迎えるが、ソヴィエト体制の崩壊は、正教会にも深刻な分裂の危機をもたらしたのだった。
文庫化にあたり、「プーチン政権下の正教会」を大幅に加筆。
〔原本:『ロシア正教の千年――聖と俗のはざまで』日本放送出版協会刊、1993年〕

感想・レビュー・書評

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  • 今のロシアの報道などは西洋的な価値観、政治観なのだろう。宗教から眺めた方が腑に落ちる。政治経済、地政学よりもだ。
    西欧は、世を治めるものが宗教から政治になったのだろう。ロシアなどでは、政治は宗教と同軸なのだろう。
    今のロシアは再ソビエト化ではなく、再ロシア化に進んでいるのではと思える。共産主義の露中朝では読み間違えそうな気がした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/768318

  • ロシア(ルーシ)の求心力として千年に渡って存続してきたロシア正教だが、タタールのくびき、無神論者のくびきから解放された今でも万々歳というわけではないようである。特に、ソビエト時代には国内的には弾圧されていたモノの、国際的には優遇されていた側面もアリ、また、民族教会でありながら、帝国主義的な側面をも伴っていただけに、ソビエト崩壊による新たな「国境線」「民族」を越えて存続できるのか……ウクライナ正教会の分離がコンスタンティノーブルから認められたことを追認して、1民族教会の立場になるのか、今後は注目に値する。

    また、有意を取り戻したコンスタンティノーブルも、トルコ政府が世俗政権から急速にイスラム化している現在、有意を維持できるのかも不透明である。

  • 本書は1990年代初めに登場した一冊を基礎に、一部に手を入れ、1990年代以降の近年の話題を述べる追記的内容を加えているという内容だ。
    多くの方が「共産党政権は宗教を否定」というようなことを思い浮かべるかもしれない。かのソ連では、<ロシア正教>は「余り大きく前面に出るのでもなく、静かに受継がれていた」というようなことかもしれない状態であった。が、ソ連末期の1989年が「ロシアでキリスト教が容れられた」とされる年から「千年」で、折からの<ペレストロイカ>の変化の中でロシア正教が「甦る?」というような状況が生じた。
    本書の著者は、その「甦る?」という動きも現地で視たという経過を有している方であり、熱い筆致で1989年頃の様子を紹介する内容から本書は起こる。
    そして<ロシア正教>の歩みの概要が語られる。
    ビザンツ帝国のキリスト教である<ギリシア正教>がロシアを含む国々へ伝えられ、以降は各々の場所で発展して行く。ロシアに在っては、幾つかの事由も重なって、ロシアこそが正教を守護するビザンツ帝国を受継ぐ者であるとした「モスクワは第3のローマ」というような思想まで登場するようになって行く。
    そこから、リューリク朝が途絶えた後の混乱を乗り越えて登場したロマノフ朝の帝政下での経過が在る。更にロシア革命の中でのロシア正教、そしてソ連政権下での経過ということになって行く。
    本書ではロマノフ朝の帝政下でのロシア正教の展開について、その概要を知ることが叶う。そしてロシア革命の時期やソ連政権の下での経過については、かなり紙幅も割かれていて、詳しく知ることが叶う。
    「ロシア」とでも言えば…「北方領土問題!」とか「経済活動…」という話しばかりが聞こえるというような感もしないでもないのだが、学ぶ価値が高い精神文化の変遷、関連する社会の動きが色々と積み重ねられている。本書を紐解きながら、或いは読後にそういう「当然と言えば当然…」のことに、何となく思い至ってしまった。
    ソ連政権下でのロシア正教の辿る経過は「不幸…」と呼ばざるを得ないが、結局は「当時の巨大な不幸」の一部であったように感じた。「そんなにやらなければならないか?!」という程度に“諍い”が重ねられ、“弾圧”が在って、「失われる必然性が低かった人材が夥しい程に損なわれてしまった?」というのが「巨大な不幸」に他ならないと思う。
    飽くまで個人的な感想ではあるのだが、何処の国や地域でも、程度の強弱、規模の大小に少しばかりの差は在るのかもしれないが、この種の「不幸」という経過は抱えてしまっているのかもしれない。
    それにしても、本書については1990年代初めに登場した一冊を、上手く2020年に甦らせてくれたということになる訳で、「好い仕事!!」と歓迎したい。多少なりとも「ロシアに興味?」という方には、ロシアの「思想の変遷」、「名状し悪い感覚を形成する要素」とでもいうような<ロシア正教>を概観し得る本書はお薦めだ。

  • 知らないことばかりなので面白く読んだ。
    ・ギリシャ正教を選択したので、西ヨーロッパの文明とは切り離された。
    ・革命期から共産党時代の迫害。
    ・民族分割の危機にある現状。
    ・ギリシャ正教は変わってきたが、ロシア正教は導入いらい古いまま(古儀式派)
    現代的な諸問題への対応や哲学の練り上げができていないという批判はもっともだが、スターリン時代の迫害や共産党の圧迫下において、体制に迎合しなければ存続すら危ぶまれたことを考えると、気の毒ではある。

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著者プロフィール

1940年大阪生まれ。大阪外国語大学ロシア語科卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程中退。京都産業大学法学部教授を経て、現在、同大名誉教授。主な著書に『ソヴィエト政治と宗教――呪縛された社会主義』(未来社)、『現代民主主義と歴史意識』(ミネルヴァ書房)、『ロシアを読み解く』(講談社現代新書)、『ロシア・ナショナリズムの政治文化――「双頭の鷲」とイコン』(創文社)ほか。

「2020年 『ロシア正教の千年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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