- Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065201442
作品紹介・あらすじ
この数年で、「ホスト」および「ホスト業界」は激変した。かつての影のイメージは消え、若いイケメンたちが明るく接客をする「ホスト=会えるアイドル」という華やかな世界となった。
今回の「ホスト万葉集」は、そんなイケメンたちが、なんと、五・七・五・七・七の短歌で、恋愛や悩みや欲望、そして普段見せない本音を明かした作品集である。短歌を作ったのは、歌舞伎町に6店舗のホストクラブがあるSmappa! Group(スマッパ!グループ)の代表・手塚マキ氏と、在籍ホスト・スタッフ75人。2018年夏、同グループが経営する書店「歌舞伎町ブックセンター」での短歌集発売記念イベントで、即興でホストたちが短歌を作ったのを発端に、ほぼ月イチで短歌を作って評価し合う「ホスト歌会」を開催するようになった。
歌会には、選者として、俵万智氏、野口あや子氏、小佐野彈氏という歌壇で活躍する歌人が加わるようになり、短歌が格段に上達。NHKBS番組「平成万葉集」でもホスト歌会が紹介された。2018年8月から2020年5月まで、ホスト歌会の開催は20回を超え、発表された短歌は900首を超えた。そして、いよいよ出版しようという矢先の、コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言。歌舞伎町が最大の危機に見舞われる中、ホスト達はそれでもなおZoomを使って歌会を続けた。全900首から、俵・野口・小佐野各選者が選んだ300首を収録!
(おもな短歌作品)
最終日LINE開いて文字打てず知りすぎた君にもう頼めない
嘘の夢嘘の関係嘘の酒こんな源氏名サヨナライツカ
長い長いLINEを姫に書いている八月三十一日の夜
エレチューで誤魔化してきた関係性出口見えない色恋営業
初指名マダムと出会いラブホテル気づけばケモノ姫四十八
ドンペリを姫から頂きうなぎご飯売り掛け飛ばれふりかけご飯
あと十万届かなかったナンバーワン全然減らないオーパスワン
「ごめんね」と泣かせて俺は何様だ誰の一位におれはなるんだ
感想・レビュー・書評
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太陽が沈んだ後の人の波そういう海で僕は泳ぐの
プロの歌人を迎えた歌会を継続してきたホストたちの歌集。
引用した歌、好きだなぁ。
全体的に直球の歌が多めで、私はそうではないのが好みなのだけど、そこは趣味の問題。
実際に詠まれた順などではなく、歌自体の時間軸でホストになって1年目、2年目と続く章構成なのも面白かった。 -
古来から、日本人は歌で愛を伝えてきたわけで、
愛を売る職業のホストに短歌はもってこいなのかもしれない。
全体的にストレートな歌が多かった。
ホスト○年目でまとめてるので、
ガツガツしていた句が、だんだん落ち着いたり、後輩ができたりして、
ホストたちの生活の移り変わりを感じて面白かった。 -
新しい短歌で、まさに令和の象徴となり得るものではないでしょうか。
率直な歌が多いことから、百人一首よりも万葉集で正解だったと思います。
57577のリズムは、意外と日本のあちこちに見受けられます。
CMや広告のキャッチフレーズも、よくみれば5と7の音で構成されていたり。
ホストという職業で、音と字数に縛りをつけて徒然と歌にする、そんな本書は巻末の座談会から読むこともオススメです。
良くも悪くも専門的な業種は、外からは分かりづらく仲間意識も強く、独自規範や業界用語があります。
そのため自伝や小説とするとどうしても生々しさが出てしまうものですが、そこを短歌の形で表現すると、沢山の方の内面をちょっと覗き見できたような気持ちになります。
短歌の深く意味を探る性質から、読み手の年代によっても読了感が変わるんじゃないでしょうか。
数年後に再読したいものですね。
ホストだけでなく、ホステス、医療業界、教育業界、保育業界、建築業界…様々なジャンルで続編を出して頂きたいと思いました。
業界用語の説明がもーちょっと欲しかったので、☆-1つです。 -
言葉も、それに込められた思いも、素直だからスッと読めてストンと落ちる。
裏表ないまぜの歌舞伎町のホストクラブが31音で綴られている。
コロナ下の歌たちも心に響く。
普段、短歌に触れない人たちにもお薦めです。 -
恋の駆け引き、男同士の上下関係、売れない悲しみ
感情がぎゅっと詰まってる一冊。
でも短歌だからあっという間に読めて楽しい。
★この人を支えたい!会いたいホスト短歌賞
君の来ない夜にトイレで聞いている
あいつの席のシャンパンコール
寂しいトイレと盛り上がる場内の対比が好き。
トイレの扉一枚隔てて全く違う空間が広がっているのが情景として分かる!
扉の向こうとこちらとでは、照明の明るさも、音の大きさも、空間の広さも、人の感情も何もかも違う。
扉の向こうからドンドンした低音が響いてくるのを項垂れながら聞くホストの姿を勝手に想像して悲しくなる。
寂しいのは「君が来ない」からっていう理由がキュンとくる。
結局は「会いたい」って一言を逆に34字に増やしてこんなに情景を思い起こさせる手腕に惚れる。
これを詠んだのはグループの会長手塚マキさんだった。
さすがホストで上に行く人は言葉の使い方も巧みだな。
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ホストと短歌!?と単純に惹かれて読んでみた。
ドラマとかでしか知らない世界で、私にはフィクションのようなものだったけど、読んでみるとそこにはちゃんとリアルがあって、ちょっと行ってみたいなぁなんて思ってしまった。 -
コロナ禍でいろいろな記事を読んでいる時に、とても興味深いインタビューを読んだ。
作家・辻 仁成さんと、歌舞伎町ホストの手塚マキさん。
「夜の街」と「歌舞伎町」はコロナのエピセンターとして、あちこちから叩かれていた場所。
でも実際のところはどうなんだろうととても気になっていて、
この記事には、現在の歌舞伎町がやっているさまざまな対策や取り組みのことが語られていた。
帯ニュースがどれだけイメージで夜の街を語り、
世間の偏見におもねるような方向で報道しているのかとげんなりする。
その中で、この本の存在を知って、がぜん興味が。
コロナの感染が始まるより前から、手塚氏はホストを集めて歌会をやっていたらしい。
(その前に、掃除ボランティアという活動もあるとか)
長い文章は書けなくても三十一文字程度なら表現できる。
もともと親和性のある和歌と色恋。
詠み手のキャラクターが垣間見える多様な歌が並んでいて面白かった。
ビッグになろう系のちょっと古臭いのがまだいるんだなあー、とか
客商売ながら本気の部分も生まれてしまうだなーとか、
今の時代の具体的な言葉と古来から続く三十一文字があわさる面白さもあり、
抒情的で普遍的な印象を与える、うまい歌を作る人もいる。
私が好きで読んでいる現代短歌の中にはあまり出てこない、
男女の駆け引きの主題がむしろ新鮮。
疑似恋愛的な場で働いて、相手の気持ちを汲み、言葉を選ぶホストならではの歌は
確かに万葉集や平安時代にも直結しているような気がする。
ホストなら歌くらい詠まないと、という世の中になったら本当に素敵だ。
巻末の写真で、この歌を詠んだのはこの人か、とわかるのも面白かった。