野川 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社 (2020年6月12日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784065202098

作品紹介・あらすじ

大空襲から戦後の涯へ、時空を貫く生涯の道。現代文学の最高峰、古井文学の原景をたどる名篇。
急逝した友人が抱え続けた空襲の夜の母子の秘密。狂気をはらむ年上の女との情事に囚われた学生時代の友人。そして防空壕の底で爆音に怯えた幼時の自分。生涯の記憶は歳月を経て自他の境を超え、老年の男の身の内で響きあう。戦後の時空間にひしめく死者たちの声とエロス、現代の生の実相を重層的な文体で描いた傑作長篇小説。解説・佐伯一麦。

感想・レビュー・書評

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  •  2002(平成14)年から2004(平成16)年に雑誌連載、同年に単行本化されたもの。
    「長編」と書かれており、後半は連作短編が多い古井さんで、読み始めてやっぱり連作短編ぽい風合いも持ってはいるが、出来事や登場人物が継続しており、なるほどこれは長編小説、で正しい。
     1991年の病気以降はめっきり老年文学になってしまった古井さんの小説だが、本作は『仮往生伝試文』(1989)よりは「老い」の概念が強迫的でなく、私の好みに合った。
     全体のテーマは「生と死」となるだろう。自分は生きているのだが、死んでいるとも言えるのかもしれない、というそのあやふやさがメインモティーフとして全体に流れる。
     驚いたのは、本書半ば、「私」が青年期を回想する中で友人が狂気を病んだ年上の女性と濃密な関係を繰り広げる部分。これこそ「老境」以前の、昔の古井さんの文学世界といった味わいである。ひたすら辛気くさかった『仮往生伝試文』よりも豊かな振幅が現れている。
     随筆ともフィクションとも見分けが付きづらい後期古井文学ではあるが、本作には明らかに虚構だろうと思われる側面が多く、そのことも、作品世界にある種の「ユルさ」をもたらしていて快かった。
     相変わらずアクロバティックな実験的言語構成が際立ちながらも、豊かさを蔵しており、好きな作品である。

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著者プロフィール

小説家、ドイツ文学者。1937年生まれ。東京大学大学院独語独文学専攻修士課程を修了後に、金沢大学、立教大学で教鞭を執る。1968年に最初の小説『木曜日に』を発表。1971年に『杳子』で芥川賞受賞。主な作品に『栖』『槿』『仮往生伝試文』など。ムージル『愛の完成』『静かなヴェロニカの誘惑』を翻訳。2020年に死去。

「2024年 『誘惑者 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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