男 (講談社文芸文庫)

著者 :
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本棚登録 : 45
感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065203767

作品紹介・あらすじ

男は黙ってよく働いている
だいじにしなければなあと思う

歿後30年。
「男」をめぐる初の随筆選。

羅臼の鮭漁、森林伐採、ごみ収集、救急医療、下水処理、少年院、橋脚工事ーー
日常の暮らしを支える現場で働く男性たちに注ぐ、やわらかく細やかな眼差し。
現場に分け入り、プロフェッショナルたちと語らい、自身の目で見て体感したことのみを凜とした文章で描き出す、行動する作家・幸田文の随筆の粋。


(収録作品)
男(濡れた男/確認する/切除/火の人/傾斜に伐る/都会の静脈/まずかった/ちりんちりんの車/救急のかけはし/並んで坐る/橋)
ちどりがけ
当世床屋譚
植える
出合いもの
いい男
男のひと
素朴な山の男
男のせんたく
男へ

感想・レビュー・書評

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  • 幸田文の随筆は初めて読んだが文章がさっぱりとしていて小気味よい。
    高いところから落ちることがあってもただは落ちないとび職の男、祟りがあると言われる欅を伐る木樵の男などなど、働く男たちの好ましさを観察している。
    働く男のことを「汚さを超えてそこには誠実な強さがあり、強さは同時に美である」と書いているが、そのような女の心持ちこそ美であると思う。
    わたしはまだまだその域には達することはできない。

  • 昭和34年のほぼ1年間、婦人公論に連載されたルポルタージュを中心に、“男"に関する文章をまとめて文庫化したもの。

     まだまだ日本が貧しかった時代で、人力でやらなければならないことが多かったとき、下水処理やごみ収集、あるいは北の海での漁業、森林伐採、橋脚工事のような、華々しく表に現れることはないが、しかし、日常の暮らしを支える現場で黙々と働く男たちに、作者は感謝とともに、細やかな視線を注ぐ。肉体労働や底辺労働に関しては、ともすると感情移入が過多になりがちであるが、全体を通して、作者らしい、きびきびした文章が読んでいて快い。

     作者は、それぞれの道に働く男たちを頼もしく思うこともあれば、どことなく漂う寂しさを感じる場合もある。そんな男たちを見て、「惚れる男がいてくれることは、なんと嬉しいことだ」(「火の人」)と感懐を洩らすが、この"惚れる”という語の語感は、今の時代に伝わるであろうか。

     個人的には、「濡れた男」のほっちゃれの話、「都会の静脈」の汚水に関する考察などが、特に興味深かった。

     時代は移り、現在では女性が進出した仕事もあるだろうから、"男“という括りがどうか、ということもあるかもしれないが、あの時代には、男の仕事というものがあったのだなと改めて思う。

     
     以下は、内容とは直接関係ない感想。本作のレーベルである講談社文芸文庫は、文庫本なのに高いと、かねてから言われていたが、文芸氷河期のこの時代に良く出してくれるとの感謝の気持ちから、少しでも応援になればと購入してきた。 
     しかし、本作は、この頁数でこの価格かと、さすがに驚いた。出版、ますます厳しい時代かと、痛感した次第。



     

  •  北の国はあらゆることに強さを要求している。覚悟のないものには辛い土地。知床半島、羅臼町。胸もズボンもずぶ濡れ、海の男。すなどりびと。獲る業は荒くとも獲る心は優しい。鮭は4年で産卵に戻る。遡上する鮭の夫妻。その努力と産卵後の結末があまりにいじらしくて正視できないほど。すっかりみじめになり、最後の努力を尽くす。産卵する妻を見守る夫。精根尽きる。死を待つ鮭を「ほっちゃれ」と呼ぶ。幸田文「男」、2020.7発行、20編のエッセイ。1959年「婦人公論」等に連載。冒頭を飾るのが「濡れた男」。漁師の男と牡鮭の話。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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