改訂版 神話と歴史叙述 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065209561

作品紹介・あらすじ

書きのこされた「歴史」は、現実に営まれた事実としての「歴史」とイコールではない。神から人へと直線的な時間で編まれた日本書紀と、神がみと人間の時間が併存する古事記。天皇の婚姻系譜における父系と母系。クーデターの正統性と敗者への視点……。過ぎ去った時間を手中におさめたい意志が歴史を編集する。神話と歴史をともに表現行為ととらえ、古代の世界観を検討する。
ベストセラー『口語訳 古事記』を生み出すことになる、通説への疑義と考察に満ちた一冊を大幅にアップデートして文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 『古事記』と『日本書紀』を中心に考察をおこない、古代の日本人がそのなかに生きていた世界観を解明している本です。

    本書は二部構成となっており、第一部「歴史叙述の方法」では、『古事記』と『日本書紀』のそれぞれが、どのようなしかたで歴史を物語っているのかということを主題としています。『日本書紀』は、中国の歴史書のスタイルを踏襲し、編年体というかたちを採用することで、国家の時間と空間を一定の秩序のもとに統一的に語っているとみなすことができます。これに対して『古事記』には、そうした明白な歴史叙述の統一原理が存在せず、むしろさまざまな伝承をそのうちに抱え込むことで、国家の歴史という枠組みそのものを内側から掘り崩してしまうようなスタイルをもっていると論じられています。

    また、古代において起きたと考えられる、父系制と母系制の衝突とその帰趨についても、神話の叙述をもとに著者の考えが提出されています。著者は、いわゆる欠史八代の天皇にかんする叙述に、古代の母系制の「残照」を読みとり、さらに推古および持統という二人の女帝が誕生した理由を、古代人の信仰のありかたのうちにさぐろうとしています。

    第二部「歴史としての起源神話」では、とりあげられているテーマはさまざまですが、いずれも神話が語っているこの世界の「起源」にせまり、その特質を解明することがめざされているということができます。たとえば、農耕の発生を物語る神話をあつかった章では、自然と文化の対立という構図のもとで農耕の「起源」が「死」を内包しているということが主張されるとともに、供犠にまつわる神話の意義が解明されています。

  •  第一部「歴史叙述の方法」では、日本書紀と古事記という性格を異にする2つの歴史書において、歴史はどのように叙述されているかということを論じている。
     日本書紀では、特に巻三以降の各天皇紀は、編年体により、天皇の時間によって整序されているため、つながりのある出来事でも分断されることとなる。
     これに対し、古事記では、〈混沌→秩序〉のブロックが積み重ねられた伝承群から成り立っている、とされる。

     第二部「歴史としての起源神話」では、起源神話の語り方について考察される。笑いとイケニヘ、そして人間の誕生を語る青人草。

     第一部は、叙述の方法に関しての議論のため、その論理が比較的追い易かったが、第二部は、語に関する国文学的あるいは民俗学的素養がないと、理解が難しい。

     全体の中では、第一部第四章の「母系残照」、第五章「天皇の役割」が面白かった。

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著者プロフィール

千葉大学名誉教授。1946 年、三重県生まれ。『古事記』を中心に古代文学・伝承文学に新たな読解の可能性をさぐり続けている。共立女子短期大学・千葉大学・立正大学等の教員を歴任し、2017年3月定年退職。著書に『浦島太郎の文学史』『神話と歴史叙述』『口語訳古事記』(第1回角川財団学芸賞受賞)『古事記を読みなおす』(第1回古代歴史文化みやざき賞受賞)『古代研究』『風土記の世界』『コジオタ(古事記学者)ノート』など多数。研究を兼ねた趣味は祭祀見学や遺跡めぐり。当社より『NHK「100分de名著」ブックス 古事記』を2014年8月に刊行。

「2022年 『こころをよむ 『古事記』神話から読む古代人の心』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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