日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065209578

作品紹介・あらすじ

蒙古襲来、秀吉中国大返し、大日本帝国海軍の敗因--徹底して「数字」を読むことで、歴史にかくれた驚くべき真実が浮かび上がる!

感想・レビュー・書評

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  • 生物学者が恐竜絶滅の原因を生物学的な学説で説明したいと思うように、
    歴史学者も歴史上の出来事を組織学や、ある人物の優れた戦略や統率力の賜物だとして説明したがる傾向がある。

    900隻もの大群で九州に押し寄せた蒙古軍が九州を攻め落とせなかったのは、神風が吹いたからと言われていて漠然と日本は運がいいねと思っていた。
    日本は海に囲まれており、しばしば暴風雨に見舞われるので確かに攻め入るほうにとっては厳しい条件だろう。

    だが、冷静に状況を考えてみると気象条件が全てではない。
    何百隻もの船が着岸し人や物の乗り降りをするのにどれだけの時間がかかるのか。
    何万人もの蒙古軍が、一斉に上陸して攻めてくるなんて無理だということが分かる。

    本書は、物理学、気象学、統計学を駆使して、歴史上の出来事を科学的に検証してみたものだ。

    戦艦大和については、実際にどんな活躍をしたのか(別段興味もなく)知らなかったが、活躍することなく敵の攻撃であえなく沈没していた。
    時代は既に空中戦に突入していたということだ。
    まさに今ウクライナ戦争で、ロシア海軍の艦船が相次いで黒海で炎上・沈没しているのも同じ理由だ。

    私にとっては、戦艦大和は宇宙戦艦ヤマトに姿を変え宇宙船として大活躍した姿しか記憶にない。

    歴史好きの人が読むと少しくどいと感じそうですが、私のような理系人間が歴史的事件の真相に触れるにはいい本ですね。

  • 蒙古襲来、秀吉の中国大返し、戦艦大和の話し。
    それぞれに面白く興味深く読んだ。
    戦艦大和は、海軍の秘密事項で一般に広く知られるようになったのは1952年だという話しが「へぇ~」だった。

    著者によると、これらは船がテーマになっているという話しだが
    歴史のインパクトは、その当時やその後の人々に影響を与えるように思う。
    もっと大きな目で見ると、蒙古軍が持っていた火薬を使う「てつほう」のトラウマが、時代を下って種子島に伝来した鉄砲が10年後には世界一の鉄砲生産国になったのでは?とか
    ペリーの黒船の衝撃が、時代を下って大鑑巨砲を極めた大和になったのでは?とかの感想を持った。
    なかでも
    終章 歴史は繰り返す の一節「大和は2度沈むのか」で世界の国々が科学教育に真剣に取り組んで理数科教育を強化している中で、日本では理科教育を大幅に減らしている。
    なんと高校の理科教育は50年前の7分の1まで減少し、すでに技術系の大学生数は中国より一桁少ない数になっているという。

    これは個人的な妄想かもしれないけど、太平洋戦争での敗戦、広島長崎での原爆のトラウマの影響なのかなあ、と。
    歴史的な大事件は後世へのトラウマとなって、その国の進むべき道を決めてしまう。
    それがどんな結果になるか?そんな事まで考えさせられる読書だった。

    Amazonより*******************
    蒙古は上陸に失敗していた! 秀吉には奇想天外な戦略があった! 大和には活躍できない理由があった!
    日本史の3大ミステリーに、映画『アルキメデスの大戦』で戦艦の図面をすべて描いた船舶設計のプロが挑む。
    リアルな歴史が、「数字」から浮かび上がる!

    【謎の一】蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか?
    最初の蒙古襲来「文永の役」で日本の武士団は敗北を重ね、博多は陥落寸前となったが、突然、蒙古軍が船に引き返したのはなぜか?

    【謎の二】秀吉はなぜ中国大返しに成功したのか?
    本能寺の変のとき備中高松城にいた羽柴秀吉が、変を知るや猛スピードで2万の大軍を率いて京都に戻り明智光秀を破った「中国大返し」はなぜ実現できたのか?

    【謎の三】戦艦大和は「無用の長物」だったのか?
    国家予算の3%を費やし建造された世界最強戦艦は、なぜ活躍できなかったのか? そこには「造船の神様」が犯していた致命的な設計ミスが影を落としていた――。

    小さな「数字」を徹底して読みとり、積み重ねていくと、
    大きな「真実」のかたちが見えてくる!

    各界からも絶賛の声!
    「面白かった! 歴史を科学的・客観的データで捉え直すという学際的なアプローチは素晴らしい」
    大隅典子さん(神経科学者・東北大学副学長)

    「結論として、秀吉の大返しは常識的な行軍ではほとんど不可能だったということになる」
    藤田達生さん(三重大学教授/『本能寺の変』(講談社学術文庫)著者)

    「排泄物の量まで計算して秀吉の不都合な真実を暴き出すとは! 物理という刀で斬り込んだまったく新しい歴史書だ」
    山崎貴さん(映画「アルキメデスの大戦」「STAND BY ME ドラえもん2」監督)

    「文献だけでは歴史は解明できない。理系の光が史実を照らし出す!」
    溝上雅史さん(国立国際医療研究センター研究所)

    「戦艦大和は決して無用の長物ではなかった。戦後の日本の造船、電機、機械産業の発展の礎となったのだ。面白くて一気に読んだ」
    加藤泰彦さん(前日本造船工業会会長 元三井造船会長)


    読者の声
    「秀吉の大返しには、ファクトデータに基づかない通説に疑問を抱いていた。事実を検証する犯罪捜査のような手法は見事」
    (男性 70歳代)

    「無味乾燥な数字の羅列のなかに、歴史に翻弄された人たちの喜びや哀しみが感じられて切なくなった。不思議な読書体験でした」
    (女性 30歳代)

    「この本を読んで、大河ドラマ『麒麟が来る』を観る視点が変わった。科学の眼で謎解きすれば歴史は刺激的だ」
    (男性 50歳代)

  • リアリティのある具体的な検証が非常に興味深いです。特に、戦艦大和は単なる無用の長物ではなく、戦後の復興や日本人の誇りとして役立った話は嬉しくなりました。

  • 蒙古襲来、中国大返し、戦艦大和という三つの歴史的事件に焦点を当てて、大胆な仮説を立てた本書。
    著者は船の設計者であり、歴史学者ではないので、歴史学的に見れば一笑されるものかもしれない。
    (私も詳しいわけではないので、何がおかしいのか、といった指摘はできない)
    だが、中国大返しに船を使ったのでは?という仮説はとても興味深い。
    現代人の体力(訓練された自衛隊員)と当時の騎馬武者の体力、兵站など考えなくてはいけないことはたくさんあるが、そこで船を使えば早かったのでは、なんて今までに聞いたことがない!

    蒙古襲来も、いかにも船の技術者と言った内容。
    造船技術、航海技術その他従来の歴史書では捉えられてこなかった視点が面白い。
    実際に模型まで作っているのだから、技術者とはすごいもんだと感嘆する。

    歴史学者だけではなく、このような技術者の視点というものも必要と感じた。
    大発見やパラダイムシフトは、専門家だけではなく、門外漢からだって何度も生まれているのだから。

  • サイエンスと言いますか,工学的な知見で,日本の歴史上の主な三つの出来事について書かれている本です.特に秀吉の大返しについては,本当にそれが現実的に可能であったかを,様々な観点で数値的に見積もり,真偽はともかく,興味深く読める本でした.歴史は,古文書だけを頼りにするのではなく,このような工学的知見での検証も,有用なのかも知れません.

  • ブルーバックスのラインナップの中でも異色の一冊になるのではないか。「元寇」「秀吉」「大和」の三題で、歴史上の「通説」を、エンジニアリングの眼で、ロジスティクス、プロジェクトコントロール、ストラテジーなどの観点から、物理法則に則った数値シミュレーションで検証するもの。古今の英雄譚も、人やモノを実際に動かすにあたって必要なカロリーや時間を真剣に評価してみれば、別の解釈が浮かび上がる。人文畑の研究者には一般的でない視点であろうが、教科書や人の話を鵜呑みにせず、自分の頭で可能な限り検証することの大事さを若い世代に伝えるこのうえないテキストだ。
    終章を読み終わって、つくづく思い出されたのは、いろいろな危機に際して「できることは何でもやれ!」と安易に吠えることがリーダーだと勘違いしていている人が多いということ。この本に示されたような考え方の基本を身につけていない、勢いだけの人や熱意だけの人では、真の危機は乗り越えることはできないだろう。

  • 猛虎襲来や秀吉の中国大返しなど、歴史的なミステリーを科学的に解析している一冊。

    歴史が好きでないと、捗らないかも。

    読んでいて、なるほど!と思ってしまうほど、解説は分かりやすかった。

  • ・元寇、秀吉の大返し、戦艦大和について検証。
    元寇はベースになっている通説が「八幡愚童訓」であることを主張しているが、もう「通説」ではないだろう。この史料を否定する本はかなりの数にのぼるので、今更感もある。
    元寇のところで上げている参考文献は全部読んだことがあった。船酔いに関しては北岡氏の著作からの引用だろうか。
    弘安の役については、記載がない。
    秀吉の中国大返しは、兵站の考察が面白かった、どこから物資をかき集めたのか?その準備時間は?ってのを考えると確かに面白いかもしれない。
    大和に関しては、考察が古いです。大和については出尽くしている話なので、一般啓蒙書レベルだとアウトレンジ戦法とか論じているくらいの深さで仕方ないかなと思う次第。

  • 数字という嘘のつけない根拠を基に、歴史上の伝説とも奇跡とも思える通説に疑問点を投げかける本作。理工系の老舗新書のブルーバックスから、何故日本史の本が?と思ってたが、読んで納得の内容。
    鎌倉時代の元寇、戦国時代の秀吉の中国からの大返し、第二次世界大戦の巨大戦艦大和の存在意義についての3本立て。
    どれも日本史における大きなポイントではあるが、共通点はなかなか思いつかない。
    それは、著者は、長年の造船に関わったエンジニアという経歴によって明かされる。
    歴史学者では無いが故、通説と言われた内容でも、実現不可能なものを客観的に疑問に感じての検証となったのだろう。なるほどなあと唸る内容。

  •  これ面白い本です。歴史上の不思議な「事実」を科学の目で見ると,違うことが見えてくる…という。以前,板倉聖宣氏が『歴史の見方考え方』(仮説社,1986)という本で,人口の増減で見る新しい日本の歴史というものを提案して《日本歴史入門》という授業書を作ったことがあります。数量的にもの(歴史)を見ることで,これまでとは違ったことが見えてくるんですね。それでワクワクしたことを思い出します。
     さて,本書の中身も似ています。扱っている内容は,3つしかありませんが,いずれも,具体的に数量的な基準を出してくることで,これまで一般的に言われてきた歴史的な事実?に対して「それはありえんな」「そんなばかな」「どこかに脚色があるのか」という疑念が沸いてきます。
     例えば,1582年本能寺の変のあと,明智光秀の謀反を知った秀吉が,毛利と休戦を結んで「中国大返し」をして京都に戻って光秀を討ったという話。
     その秀吉軍2万人が,数千頭の馬と共に,たったの数日間で京都まで行けたというのは,本当なのか。それを,2万人+馬分の食糧調達,2万人+馬分の糞尿の処理,武器や弾薬を持って歩くという強行軍,2万人分の寝る場所…などなどを考えると,とても急にこれだけ準備するのは難しい。しかも,やっとの思いで京都に着いたらすぐに光秀軍と戦う力は兵隊に残っているのか…これもまた,不思議だといいます。
     文献の解釈は歴史家に任せるとして,科学的に考えると,どうなのか。そういう本なのですが,わたしは,こういう数量的な見方・考え方をしっかりしてこそ,歴史学者と言えるのではないか…と思います。古文書の解釈ばかり詳しくしても,それが事実かどうかは,分かりません。こういうことは,すでに40年近くも前に『歴史の味方考え方』に書かれています。
     解釈ではなく,予想を立てて数量的に考えていく。それにより,本当の姿が見えてくるのではないでしょうか。
     最後に,筆者の言葉を引用しておきます。

    蒙古の撤退にしても秀吉の大返しにしても,歴史の謎とされているものは,「奇跡」とか「伝説」といった文言を纏っていることが多いようです。それが後世の人間の目までも曇らせているのかもしれません。歴史の研究の本道が文献の発掘や精査であることはもちろん承知していますが,人間が行う解釈という作業にはどうしても先入観を排除しきれないところがあります。物理や数学の観点も採りいれた研究によって、日本史の未解決問題の謎解きが進むことを願わずにいられません。(本書,227ぺ)

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著者プロフィール

三井造船本社にて長年、船舶の基本設計を手掛け、流氷砕氷船や半潜水型水中展望船を開発、船の3D イラストレーションを製作する「SHIP 3D Design 播磨屋」を主宰、著書に『日本史サイエンス』(講談社)がある。

「2021年 『最新科学で探る日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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