殉教者 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 38
感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065211182

作品紹介・あらすじ

1614年、2代将軍徳川秀忠がキリシタン禁教令を発布した。キリシタンへの迫害、拷問、殺戮が頻発し、岐部は殉教者の記録を集める。翌年、28歳の岐部はエスパニア人修道士と共に長崎から船出、40日の航海の後にマニラ港に着く。そこで入手した地図には、双六のように、マニラを振り出しに、マカオ、マラッカ、コーチン、ゴア、ポルトガルの要塞のあるホルムズ島、さらにペルシャ砂漠、シリア砂漠、遂にはエルサレムに到達する道筋がこまかく描かれていた。岐部は自らの信仰を強くすることと、イエスの苦難を追体験することを思い、胸を躍らせた。
ペトロ岐部は1587年に豊後の国東半島で生まれ、熱心なキリシタンの父母の元で育つ。13歳の時に一家は長崎に移り、岐部はセミナリオに入学を許される。ここでラテン語を習得し、聖地エルサレムと大都ローマを訪れることを強く決意する。
次に訪れたマカオでは差別に耐えながら志を貫き、何とか旅費を工面して、ミゲルと小西という二人の日本人とともに海路、インドのゴアに向かう。ゴアからローマに向かう船に乗る二人と別れた岐部は、水夫として働きながらホルムズ島に向い、そこからは駱駝の隊商で働き砂漠を通ってエルサレムを目指す。
1619年、岐部はついに聖地エルサレムの地を踏む。そこから徒歩で、イスタンブール、ベオグラード、ザグレブを経て、ヴェネツィアに。祖国を出て5年、岐部はついにローマにたどり着いた。海路で1万4500キロ、徒歩で3万8000キロ。乞食のような身なりの岐部に施しをしようとした神父が、流暢なラテン語で話す岐部に驚き、イエズス会の宿泊所に案内される。そこで岐部は、4日間にわたる試験を受け合格、イエズス会への入会を許された。
ローマとリスボンで2年間の修練を経て、帰国の許可を得た岐部は、キリシタン弾圧の荒れ狂う日本に向けて殉教の旅路についた。
信仰に生きた男の苛酷な生涯が荒廃した現代を照らす、著者渾身の書下ろし長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • ペトロ岐部カスイという人を知らなかった。
    「日本のマルコ・ポーロ」と呼ばれていて、長崎からマニラ・マカオ・ゴアと旅を続け、日本人で初めてエルサレムへ巡礼した人。

    この物語はペトロ岐部が船で日本を出発するところから始まる。
    日本を脱出し、マカオで司祭を目指すも断られ、ローマで勉強する事を目指し、一路西へ。エルサレムにも立ち寄る巡礼の旅は、故国で弾圧・迫害を受けるキリシタンのために働き、死に、天国へ行くことを目指す死出の旅に変化する。

    ただ病死、事故死、ただ殺されるのではなく、「イエスと同じ苦しみに満ちた死」を求め、故国に戻りキリシタンを導き、その延長で殉教することを望むペトロの信仰による生き方には、ただただ圧倒された。
    信仰とは何なのか。
    神にひたすら従い、信徒たちを導き励ますことが喜びであり、そのためにならどんな苦難にも耐える。

    信仰とは。

    江戸時代のキリスト教弾圧について、なぜここまでのことをしたのだろうと思っていたけれど、ペトロ岐部のように、殉教する事で天国への扉が開かれると喜んで死んでいく信者を多数見たら、得体のしれない不気味なものを見た気になったのかもしれないとも思った。
    信心に縁がない人間には、ここまでの信仰がどうしても身に迫ったものとしては共感できず、不思議な読後感だった。

    姜尚中さんの解説がとてもよく、理解の一助になった気がする。
    泥沼のような日本。

  • 聖地エルサレムを訪れた初の日本人・ペトロ岐部カスイの信仰と生涯を描く、傑作長編!

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著者プロフィール

1929年東京都生まれ。東京大学医学部卒業後、精神科医として勤務のかたわら、小説の執筆を始める。『フランドルの冬』で芸術選奨文部大臣新人賞、『帰らざる夏』で谷崎潤一郎賞、『宣告』で日本文学大賞、『湿原』で大佛次郎賞、自伝的小説『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞、自伝的大河小説『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞している。その他の著書に、『錨のない船』『不幸な国の幸福論』など多数ある。近年は、本書をはじめとした殉教者を描く歴史小説『ザビエルとその弟子』、ペトロ岐部の生涯を描いた『殉教者』を発表している。

「2022年 『わたしの芭蕉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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