- Amazon.co.jp ・本 (162ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065211199
作品紹介・あらすじ
「人は恋すると、罪を犯す。
運命でも必然でもなく、独りよがりの果てに。
その罪を明かさないのが、何よりの罰」
ーー中江有里
「私の顔、見覚えありませんか」
突然現れたのは、初めて恋仲になった女性の娘だった。
芥川賞を受賞し上京したものの、変わらず華やかさのない生活を送る四十男である「田中」。編集者と待ち合わせていた新宿で、女子大生とおぼしき若い女性から声を掛けられる。「教えてください。どうして母と別れたんですか」
下関の高校で、自分ほど読書をする人間はいないと思っていた。その自意識をあっさり打ち破った才女・真木山緑に、田中は恋をした。ドストエフスキー、川端康成、三島由紀夫……。本の話を重ねながら進んでいく関係に夢中になった田中だったが……。
芥川賞受賞後ますます飛躍する田中慎弥が、過去と現在、下関と東京を往還しながら描く、初の恋愛小説。
感想・レビュー・書評
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完全犯罪の恋、というと、どんな恋を思い浮かべるだろう。
私は、相手にも周りにも知られず、恋に落ちたときからその思いが消えるまで、傍目にはまるで何もなかったかのようなそんな恋を思い浮かべていたが、違った。
この小説はとある有名な文学賞を取った四十代の作家・田中が、離れた目が印象的な女子大学生・静に出会ったことから始まる。
静は「私の顔、見覚えありませんか?」と、田中に尋ねる。
田中は記憶を手繰り寄せ、学生時代のある少女を思い出すーーー。
この主人公設定で著者=作家・田中とならない読者は少ないだろう。冒頭で「これは田中の体験談ではない」と書かれているのだが、田中慎弥さんは私小説めいた作品を書いてきた作家さんだというイメージがあって、どうしても、被ってしまう。どうしても、田中慎弥さんの顔が思い浮かんでしまう。((芥川賞を)もらっといてやる、は衝撃でしたよね、、、。)
ごっちゃ感にクラクラしながら読んだ。
でも、ヒロインには明確なモデルがいるそうで、それは女優の小松菜奈さん。終始彼女をイメージして書かれたそうだ。
芥川賞作家の初めての恋愛小説。
面白かったけど、私にはちょっと難しかった。(なのでこんな感想)
恋をしているときに一番知りたくて、一番大きな謎としてあるのはやっぱり、相手が自分のことを本当はどう思っているのか、だと私は思う。それがわからない故の過ち。
過去の恋を思い出して胸がチクリとするひとも多そう。
主人公の田中はチクリどころじゃないけど、、、。
いい恋愛小説を一作は書きたい―『完全犯罪の恋』創作秘話
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76783詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイトルが好きな感じ。芥川賞受賞会見で有名なあの田中慎弥さんによる恋愛小説。
モデルの小松菜奈さんを思い浮かべて書いた、というインタビュー記事が気になったのもあり読んでみた。
(「こちらを見ているようで全然違う方向を見ている感じがある。あの目線の先には誰がいて、何が起こっているのか? 彼女の顔に追いすがりたい、という思いが強かったですね」)
登場人物は少ない。うだつの上がらない中年作家・田中と、彼に声をかける謎の大学生・静。そして田中の高校時代の回想にでてくる愛しの文学少女・緑と、三島由紀夫好きの恋敵・森戸。
思いのほかキュートな文体で読んでいて楽しかった。いかにも令和の若者らしい静の勢いにたじたじの中年田中も、緑にふりまわされるナイーブで青臭い高校生田中も、どちらも憎めなくて私は結構ありです。
高校生田中がまわりのクラスメイトを見下しつつ「文学というものは自分しか読んでいないのだ」と斜に構えて偉そうにしてる姿がちょっと心当たりあって恥ずかしい。
図書室でくりひろげられる緑との一進一退なピュアな関係も、好きな作家をめぐっての議論も、緑に三島由紀夫を教えた森戸に対する嫉妬心も、甘酸っぱいのなんのって。
すべてが青春!っていうラベルをつけて現在の田中自身に古びながらも大切に保管されている様子なのがたまらない。ご本人は否定してるけど、これ私小説だったら良いのになぁ。孤独な中年男性が心の奥底にしまっているこういうとっておきの思い出みたいなのもっとたくさん知りたい。
誰に知られるでなく、文学という世界をさしはさんでのみ密やかに成立する、たしかに成立し得た、完全犯罪とその恋。やーん素敵。 -
まずタイトルに惹かれました。文章も分かりやすく作品の構造もシンプルで奥深い内容です。結末もひねりが効いていて、読後の余韻も長く味わい深いです。
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過去の恋愛を思い出したり引き摺ったりすることは、誰しもあるだろうけけれど、こんなにも絡みとられたら苦しい。まさにひとりよがり。気持ち悪いくらいにピュアな恋愛。主人公田中がかつての恋を、相手の娘に語る、という面白い切り口。何かを隠してすすむストーリー。すれ違うおもい。気持ち悪さすら感じるほどの、ひとりよがり。
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初めて読んだ田中慎弥の本。「高校時代の出来事は、完全な創作だ。」と最初に断ってあるが、故に、もしその出来事が事実だったらと考えた。
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筆者の作品はここ数年途絶えているが、ここまで着実に進歩している。好きな作家の一人なので、これからも活躍してほしい。
本作は今までの作品よりも読みやすい。
個人的には「冷たい水の羊」「共喰い」のような重い熱量で書かれた作品が好みではあるが、本作のようなさらりとしたのも良いなと感じた。
強いて言うならば、終盤の人物描写が書き過ぎているような気がした。わざわざ全て書かなくても察せる上、想像の余地がなく、作品を浅くしてしまっているような気がする。
本作についてはもっと評価されて然るべきだと思っている。 -
初めて田中慎弥さんの著作を読んだ
最初は静の回りくどい、面倒くさい陰キャ感のある言い回しに慣れなかった。主人公へのツッコミ、現代的価値観を付与する役なのかと思ったほど
終盤、地元での講演の場面からどんどん収束していき読後感は良かった
他の作品も読んでみたい
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私小説と惑うような、狡く、しかしどっちつかずのリアリティを持たせるに最上の技法。だから感情移入もし易く、学生時代の青春も思い出しながら、その刹那に浸った。その関係者との娘の会話、噛み合わず、しかも攻撃性のある物言いに対し、終始大人な対応をしながら、縮む距離と居酒屋。風景が浮かぶが、物語はずっと切ない。取り戻せぬ虚無感を含ませたまま、過去が語られていくからだ。
女子大生の語り口を織り交ぜながらも、三島や川端を登場させる。自身の心情をその純度を高めながらの田中慎弥の筆力は圧倒的だ。正直、最近、小説がかったるいと感じていたが、久々に良い小説を読んだ。
著者プロフィール
田中慎弥の作品





