密やかな結晶 新装版 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 790
レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065214640

作品紹介・あらすじ

その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 「記憶狩り」。例えば帽子や木の実といったものの記憶がなくなる。人々はそれらを廃棄して、初めから無かったものにする。亡から無へ。記憶警察なるものが厳しく取り締まる。だれがなんのためにそれを行うのか?疑問符が飛ぶ突拍子もない設定。でもすいこまれてしまう、完結した、童話のような空間。

    静けさの中に沈む怒りを感じた。湖に、擦ったマッチを落とす、みたいな。冬が終わっても雪に包まれる島に、消滅のためにものを燃やす炎があがる。理不尽な搾取と隔絶。それにより消されてしまったものの数々。それらは、かつては確固として美しく存在した。雪の結晶のように。

    主人公は小説家。
    小説も消滅させなければならなくて、たくさんの本を火に放るときの場面がある。ここがとても心に残った。一本の曲線を描いて炎に入る本を、むかし父と眺めた飛翔する鳥に喩えている。ここの描写は、特に素晴らしいと思った。

  •  生まれた時から、ある日突然、何かが消滅する島に住むわたし。母は消滅したはずのものを所持していたかどで連行され、その母も父も亡くなった今、1人で小説を書きながら日々を送っていた。
     鳥たちが、フェリーが、そしてバラがある日突然消滅を迎える。人々は消滅を悟ると、静かにそれを見送り、その存在すらも忘れていく。しかし、わずかながら、その中には記憶を留める者が。心憎からず思う担当の編集者が、「その人」であると知った私は、彼を隠し部屋に匿おうとするが……。

     ある日突然消えるのでなく、別れを告げるような形で「消滅」をアピールしながら、消えていく「もの」たちの最期が美しい。消滅を淡々と受け入れ、不便にも思わず、忘れてしまう人々は、まるで今の私たちのようにも。刊行から25年とは思えない瑞々しさでいつまでも心に残る。

  • 小川洋子ワールドを堪能できる1冊。
    主人公の住む島は、1つまた1つ物や事が消滅する島。
    ラストが気になり読み進めるも、世界観が美しくて噛み締めるように読んだ。

  • 400ページ、買ったその日に読み切ってしまった。
    人生は思い出でできている。
    何かを失ったことがあり、その辛さが時間の経過で風化してしまったことがあるすべての人が、なにか感じる話なのでは。
    今大事に思っている何かへの熱量が失われる予感と、失った未来の自分への憂い、厭い。
    描写が繊細で丁寧だから、哀しさとか儚さが際立って、余韻がすごい。静謐、という表現がぴったりかも。

  • 同作者の博士の愛した数式じゃないけど、記憶が少しずつ消えてしまうのって本当に悲しい。だけど、その悲しさが何故か美しく儚く感じた。
    消えるものと残るもの。その対比が印象的。
    また読んでいるうちに自然と主人公に感情移入する。(ドンやおじいさんのシーンは読むのが心苦しかった)
    隠れ家、警察、匿う等々。過去にあったユダヤ人への迫害を彷彿させるところもあり、なかなか一言で言い表せない内容です。


    個人的に何故島で消滅が起きたか、また記憶警察はなんなのか、母の本当の死因は何かなどなど分からない点があるので次回はもっとゆっくり読みたい。

  • 今、そして過去のどこかで起こっている、起こっていたことを、速度を上げて進めたり、ゆるめたり、濃度を高めたり、じわじわ迫りくるような切実さをもった小説だ、と感じた。
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    こうだけ書くと、小説の中の小説家が描く小説の存在が置いてきぼりになり、ますます気になる。
    R氏を、時計塔に閉じ込められた"わたし"と似たような環境下におくことで、記憶狩りに順応していく側が 記憶を保持し続ける抵抗者を保護する という構図が際立つ。小説家はこれを書くことで、自分が優位に立ったように感じたり、R氏との間に感じる隙間を埋める慰めとしていたのだろうか。
    なら、"わたし"はなぜ最後に保護下から外れ、別の(若い)女に取って代わられるのか?小説というものの記憶を奪われたその後に?
    小説の記憶を奪われた後だからこそ、R氏との繋がりはもはや意味をなさなくなり、小説の中で抹殺し、R氏の投影ではなく本当の(物理的な)身代わりを登場させざるを得なくなったのか。結局は、R氏ではなく自分がこの世から無くなる=抵抗者との関係性は想像の中でしか成り立たない関係性だった ということなのだろうか。

    抵抗とはその異変に確信を持つ者だけが行うのではなく、順応していく過程の中にいる者も、何かしらの形で抵抗はしていて、確度の差あれ 人が異変に対して反応しているそのことが 密やかな結晶 とも読めるのかな、と思った。
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    一読だけでは読み落としがたくさんありそう。小説家とR氏の関係性はこんなに歪んでないのかもしれんし。
    この本を送ってくれた友人と膝を突き合わせて話したい…

  • なんか、凄かった…
    カズオイシグロの「わたしを離さないで」に似たような、静かな熱を帯びてる小さな声に、注意深く耳を傾けるような読書だった。
    オルゴール、リボン、写真、船、、、あらゆるものが「消滅」し、それをただ受け止める人々。
    消滅したものと、その記憶が残った一部の人を取り締まる「秘密警察」。

    小説家である主人公が書く小説と、起こっている出来事が次第に交わって絡まって逆転して、目眩がした。
    読み終わった後、自分がどんな気もちなのか、わからなくなるような寄る方なさ。
    小説でしかできない事だと思う。

  • 読み進めていくうちに、不思議な感覚がありました。
    ファンタジーのような、けれど今の世の中に大切なことにどが、書かれているように感じました。
    忘れてしまうとはどういうことか、
    その意味が少しわかったような気がします

  • 少しずつ何かが消滅していく世界。
    様々なものが消え、それがあった事さえ記憶から消え去る世界。
    記憶していること自体が悪になる世界。
    記憶している人は社会で生きていくことは出来ない。
    秘密警察に見つかると、どこかに連れていかれる。

    これはまさにデストピア小説に違いない。

  • 初めての小川洋子さん。

    解説を読んで、なるほどと思うのがアンネの日記がきっかけで生まれた物語だということ。それを知って読んだらまた感覚が違うかもしれないとも思ったりもする。
    (アンネの日記、小学校の時単行本を買ってもらい読んだのが懐かしい!また読んでみたいし、いけるようになったらアウシュビッツや第二次世界大戦を学べる場所にも赴きたい)
    コロナウイルスによってこれまでの日常が壊れた今、状況は違えども通ずるものがあり、このタイミングでこの本に出会えて、読めて良かったと思う。

    それから小川洋子さんの紡ぐ言葉や世界は、とても丁寧で奥深くて儚くて、なのに凛とした意志も感じられ、解説にもある通り工芸作品のよう。
    わたしはこの小説自体がまるで結晶のようだとも思えた。


    『その島では、記憶が少しずつ消滅していく。
    何が消滅しても、島の人々は適応し、淡々と事実を受け入れていく。』

    それが当たり前の世界ではそうなのだろうけれど、とはいえ昨日まで大切だと思っていたものの記憶や心で感じていたことが失われるということに対して寂しさ以上に恐怖を感じる。
    心とは記憶とはなんなのだろうかと思わず考え込んでしまう。

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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