ホサナ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 75
感想 : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (928ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065215326

作品紹介・あらすじ

愛犬家が集うバーベキューパーティーが、すべての始まりだった。私と私の犬は、いつしか不条理な世界に巻き込まれていく。
「君はどんな世界を作りたいんだ」
「俺はどんな世界も作りたくない。どんな世界も作らないことが俺の目標だよ。ほおっておくと世界が作られてしまうからな」
「なにを言っているのかまったくわからない」
「いけばわかるよ。真の栄光、真のバーベキューについても」(本書より)

迷える民にもたらされた現代の超約聖書。
町田康の新たな代表作。
人間の根源を問う傑作大長編小説。


私たちを救ってください。

感想・レビュー・書評

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  • 親の資産で暮らしている50歳くらいの男性「私」は「私の犬」と、ドッグランで知り合った舵木禱子という女性の主催するバーベキューに出かける。集まった12人の人間と飼い犬たち。しかしそこに謎の巨大な光の柱が現れ…。

    ぶあつい。町田康の文庫は、『告白』も『宿屋めぐり』も相当分厚かったけれど、今回さらにそれを上回る900頁越え。町田康は京極夏彦ばりに分冊にしたくないこだわりでもあるのかしらん。とりあえず持ち歩いて電車で読むなどの一般的な文庫と同じ扱いをしたら腱鞘炎になりかねなかったので、自宅で膝の上にクッションを積んでその上に本を乗せるなどして読み切りました。それでも肩こりになっちゃったけどね。(ちょっと文体が影響を受けている)

    さて、900頁読み切ったけど、正直よくわからない。序盤は、犬好きの作者らしく、ドッグランでの人間模様などから始まり、日常的な話なのかと思いきや、突如光の柱が現れて、巨大化した舵木禱子がそれと戦い始めたり(しかもこれが現実に起こったことなのか、語り手の妄想なのか不明)マジックリアリズムにしてもあまりにも破天荒なことが起こる。

    そして「私」は「日本くるぶし」と名乗る謎の声に導かれて、正しいバーベキューをせねばならないと思い詰めたり、舵木禱子とその娘・草子、そして日本平三平という男の計略にはまり自宅でバーベキュー大会を開催、全然盛り上がらなかった上に色々あって私の犬が日本平三平を噛んでしまって彼が死に、舵木禱子の構想する犬の保護施設への出資と自宅提供に協力せざるをえなくなってしまう。

    保護施設は軌道に乗るが、今度はヨーコという妖狐のような女がリーダーシップを発揮して組織を乗っ取り、舵木禱子は変な物体に変身させられてしまい、逆に娘の草子は、いつのまにか輝くような美女へと変化している上に、凶暴な犬を教化する力を発揮するように。そして「私」は、なぜか「私の犬」と会話ができるようになり、のみならず、私の犬と一緒にいれば、他の犬とも会話できる能力を身につける。

    その力で一時は成功し有名人となるが、ヨーコの謀略にはまり転落、犬の劇団に芝居をさせるなどの仕事をやらされたあげく、その公演日に駐車場で車を止める場所がなくどんどん地下に追いやられたあげく、やっと地下から出てきたときには、なんと世界は光の柱により壊滅しており…。

    この地下で、世界が反転して以降のほうが面白かった。会話を続けるうちに「私」と「私の犬」もいつのまにか反転している。「国土軸」というものが狂ってしまった世界では、場所の接続もめちゃくちゃに。ほとんどの人間は死滅し、駐車場でみつけた地下の邪都に一部のセレブだけが避難、地上に生き残った人間は僅か。そして謎の黒い毒虫が大量発生し、人間や動物を襲う。「私」は大輪という男に助けられ、彼の命令で生き残った犬たちのコミュニティへある交渉をしに行くことになるが…。

    明確なオチはない。ゴムボート「私たちを救ってください(ホサナ)」号に乗って、犬たちは出帆する。全体的に、聖書や仏教のモチーフがちりばめられているのだな、というのはなんとなくわかる。バーベキューの光景はまるで最後の晩餐のようだし、犬たちを教化する草子はキリストのようだ。光の柱によってもたらされた「終末」後の世界。ただそれをどう読み解けば良いのかはわからない。

    「ひょっとこ」というものの存在は面白かった。というか、怖かった。どう考えても人間をロボトミー手術して使い捨ての奴隷のように扱っているだけだ。自己中心的で奇妙な人物が次々登場し、主人公を翻弄していく。もうこんな汚らしい世界は滅びるべき、滅びるしかない、ってことなのかなあ。それにしても長すぎる。細部は面白いし、読んでるあいだ別に退屈はしないのだけど、この長さが有機的に機能していなかった気がする。

  • 私たちを救ってください─。愛犬家のバーベキューに突如現れた光の柱。現代の超訳聖書。

  • 途中でくじけつつも読了。久しぶりに町田作品を読んだけど、こんなんやったっけ?という感じが終始拭えなかった。勝手な感想だが、基本的になにも考えずに、その場で思いついたことを即興的に書きたしているような印象を受けた。それを700ページ近く続けているのが感動的だし、一種の祈りのようにさえなっている。町田氏の文体のおかげで、とにかく書いてあることを読む、という読書の快楽性はあったのでなんとか読めた。筋はめちゃくちゃで意味不明だが、ラストは個人的にハーラン・エリスンの「少年と犬」のようなムードがあったので少しグッときた。筋があるのかわからない、バラバラな物語も、集まると話の流れを生み出すという意味では「愛を叫んだけもの」に近いところがあるのかも。

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著者プロフィール

1962年大阪府生まれ。1997年『くっすん大黒』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞、2000年「きれぎれ」で芥川賞、2001年『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、2002年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、2005年『告白』で谷崎潤一郎賞、2008年『宿屋めぐり』で野間文芸賞を受賞。他の著書に「猫にかまけて」シリーズ、「スピンク日記」シリーズ、『ホサナ』『記憶の盆をどり』『湖畔の愛』『ギケイキ』『男の愛 たびだちの詩』『しらふで生きる 大酒飲みの決断』『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』など多数。

「2023年 『口訳 古事記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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