中国の歴史4 三国志の世界 後漢 三国時代 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065215685

作品紹介・あらすじ

講談社創業100周年企画「中国の歴史・全12巻」の学術文庫版。第2回配本、第3巻と同時発売の第4巻は、後漢末期から魏・呉・蜀の三国時代に焦点を当てる。
日本人にもっとも長く、広く親しまれてきた外国文学、『三国志』に語られる歴史は、どれほど史実を伝えているのだろうか。中国文学の研究者である著者が、小説『三国志演義』を手掛かりに、大抗争時代の戦乱と外交、文化と社会を解き明かす。
著者によれば、この時代は、現代にいたる中国の歴史を知るうえで、見逃せない重要性を持っているという。たとえば、小説では悪役の魏の曹操は、卓越した改革者であり、その子の曹丕、曹植は優れた詩人だった。曹操父子を中心とする文学運動が、後の唐詩の原点となったのである。また、広大な中国に、統一帝国を強く指向する理念が確立したのは、この時代だった。さらに、中国思想の骨格を成す儒教・仏教・道教が定着し、三教の間で論争と交流が行われるようになったのも、後漢末から三国時代のことだった。
また、陳寿の正史『三国志』や羅貫中の『三国志演義』では脇役だった呉こそが、実はこの時代を演出した影の主役だという。邪馬台国と朝鮮半島を含む東アジアの動乱は、現代に何をもたらしたか。文学から歴史を読む、中国通史シリーズとしては異色の一巻。〔原本:2005年、講談社刊〕

感想・レビュー・書評

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  • 「中国の歴史」シリーズ4巻目、「三国志演義」を歴史学の側面から検証する本。その方面に関心のある方には、面白いはず。私は「第9章 邪馬台国をめぐる国際関係」のみについて記す。

    日本や朝鮮半島の考古学からのみ深掘りしてきた私ではあるが、この時代の中国の文献史学の信頼性は無視出来ない。批判的検証を経てどのように弥生時代末期を描いたか?1番大きな検証は以下。

    「卑弥呼は景初2年に洛陽に来たのか?3年に来たのか?」
    魏志東夷伝には景初2年(238年)、使者・難升米が6月に朝鮮半島の帯方郡に来て、天使に朝貢したいと申し出たので洛陽に向かわせ、12月に貢ぎ物生口(奴隷)男女10人と班布二匹二丈を献じたとある。コレは考古学界では景初3年の間違いであるというのが定説である。大きな理由は、景初2年6月は魏と戦闘中で帯方郡公孫氏が8月に滅びる直前であり、そんな余裕はなかったというのが大きい。
    しかし、金文京氏は景初2年であると主張する。読んでみると、非常に説得力がある。
    たかが1年の違いではない。この一年で、皇帝の代替わりがあった。よって、たかが東夷の小国に、生口10人というみすぼらしい贈り物に対して「鏡100枚」等という破格の待遇を授けた意味合いが、まるきり変わるのである。
    金文京氏は文献を読んで、景初2年でも無理がないと判断する。そうすると、倭国に対して期待したのは、呉に対する魏の「牽制」だったことがハッキリするのである。つまり、呉国が海を渡って公孫氏を援助させないようにする、呉と倭国との朝貢関係を結ばせない、とさせたのである。それは景初2年でなくては意味がなかった。三国時代は、諸葛亮孔明が期待するように、三国が併立して平和をもたらすものではなかった。どうしたらいち早くTOPになるか、魏としては何としても朝鮮半島を自分のものにして呉国からの挟撃を潰さなくてはならなかった。そのためには、蛮国たる邪馬台国への過剰な接待など当たり前のことだったのである。

    魏にとり、卑弥呼が凄いから、倭国が凄いから、「親魏倭王」になったわけでは無かった。

    見方を変えると、まるきり違う世界が見えてくる。
    つくづく「文字の力」は大きい。炎天下、大汗をかいて山を登り、土を掘り返してやっと掴んだ仮説も、机上の考察ですんなり覆る。

    以下、完全私の覚えです。完全無視を。とりあえず、勉強になった。
    ・後漢光武帝中元2年(57)正月、「倭の奴国、貢を奉じて朝賀す」
    ・安帝永初元年(107)10月、「倭国王帥升等、生口160人を献じて請見を願う」←因みに、松木武彦氏は帥升を吉備国王と見ている。
    ・155年曹操生まれる。(ー220)
    ・161年劉備生まれる。(ー223)
    ・165年高句麗新大王即位。
    ・167年「この頃卑弥呼即位」と文京氏は書く。ちょっと根拠が不明。誕生としても少し早すぎる。
    ・179高句麗の故国川王即位。
    ・182孫権生まれる。(ー252)
    ・197高句麗山上王即位。王の兄反乱、遼東の公孫度が援助するも失敗。
    ・201扶南大王立つ。
    ・207遼東太守の公孫康が袁氏を斬る。袁氏滅亡。
       劉備、諸葛亮を得る。
    ・208 赤壁の戦い
    ・216曹操魏王となる。
    ・220曹操死亡。曹丕皇帝に。
    ・221劉備皇帝に即位。
    ・223孫権黄武の年号をたてる。
    ・227諸葛亮出師表
       高句麗の山上王死去、東川王即位。
    ・228遼東の公孫康死去、公孫淵即位。
       孫権皇帝に。建業に遷都。
       大月王が親魏大月氏王に封ぜられる。
    ・232孫権、遼東に周賀らを派遣。
       魏の田豫、遼東を討つも成果なく撤退。
       遼東の公孫淵、呉に使節を派遣。
       田豫、成山で呉の使節の周賀を斬る、曹植死去。
    ・233孫権は使節を送って公孫淵を燕王に封ず。
       12月公孫淵は呉の使者を斬る。魏は公孫淵を楽浪公に封ず。呉の使節の従者、高句麗に至る。
       陳寿生まれる。(ー297)
    ・234魏の明帝が親征、呉軍は撤退。
       諸葛亮死去。
       高句麗王が呉に使節を送り臣従、呉も使節を送る。
    ・236高句麗王が呉の使者を斬り首を魏に送る。
    ・景初元年(237)魏、公孫淵を討つも失敗。公孫淵は燕王を自称、明帝、海船を建造させる。
    ・景初2年(238)1月、司馬懿が遼東を征伐。他将軍が海路、楽浪、帯方郡を攻める。公孫淵は呉に援助を求める。
       6月、倭の卑弥呼の使節、難升米ら帯方郡に至る。
       8月、遼東の公孫氏滅亡。
       12月、明帝重病。この頃、難升米ら洛陽に到着。魏は卑弥呼を親魏倭王とし、鏡などを下賜する。
    ・景初3年(239)1月、明帝死去。曹芳(少帝)が即位。
       2月曹爽が実験を握り、司馬懿を太傅に祭り上げ政権から遠ざける。
       4月呉国遼東援助部隊が到着、既に時期を逸す。
    ・元始元年(240)3月、帯方郡太守が健中校尉を倭に送る。
    ・241、孫権は四路に分けて魏を攻撃するが、失敗。
    ・243、12月倭の卑弥呼の使節、伊声耆ら洛陽に到着。
    ・246、2月魏の母丘倹、高句麗を攻め、丸都を陥落。高句麗王を粛慎の境界まで追い詰める。
    ・247 王きんが帯方太守となり、張政を倭に送る。
       倭に内紛が起こり、卑弥呼は帯方郡に訴える。
    ・248 高句麗東川王死去、中川王即位。
    ・249、この頃卑弥呼死去。壱与が女王になる。
       司馬懿がクーデター、曹爽一派を誅殺。
       壱与の使節が入貢。
    ・251 司馬懿死去、司馬師が跡を継ぐ。
    ・263 蜀が滅ぶ。
    ・265司馬炎が魏帝を退位、晋武帝として皇帝になる。
    ・266 11月倭の使節が晋に貢物を献ずる。

    • 夜型さん
      第一巻を積んどくしています。
      レビューだけでボリューム感があるシリーズなのですね。ワクワクします。

      ところで、ブクログシルバー賞おめ...
      第一巻を積んどくしています。
      レビューだけでボリューム感があるシリーズなのですね。ワクワクします。

      ところで、ブクログシルバー賞おめでとうございました。
      いつもタイムラインで見てる顔ぶればかりで、びっくりしました。

      https://booklog.jp/best-user/2021/index.html
      2022/01/23
    • kuma0504さん
      夜型さん、こんばんは。
      他の巻は知らず、この巻は三国志大好きな人にとっては、歴史的検証ができてワクワクすると思います。

      ブクログシルバー賞...
      夜型さん、こんばんは。
      他の巻は知らず、この巻は三国志大好きな人にとっては、歴史的検証ができてワクワクすると思います。

      ブクログシルバー賞、そうか、獲ったんだ。ありがとうございます♪
      なんか、チラッと見えたんですが、そのあとタイムラインから消えたので、何かの冗談かなと思っていました。いろいろ試したら、みる方法がわかりました。
      そうか、やはりあの人たち「総合的に」凄かったんだ、と私も思いました♪
      2022/01/23
  •  劉備の支配する蜀は、魏に比べると1/5、兵の数では1\4なんだけれど、三国時代と呼ばれている。この3国がそれぞれ「皇帝」と名乗ってそれぞれ中華帝国の正統を競うところに魅力があるのだろう。
     ただこの本は「学術文庫」なので、冷静な目で歴史を追っている。結局どに皇帝も中国全土を統一できないのだ。
     考えてみれば、中国共産党はこんなにも大きな国を中央集権で纏めているのだから、民主主義なんて言ってる場合じゃないのだろう。

  • 統一帝国の時代から分裂の時代に向けた歴史上の変革期としての時代描写が面白い。諸勢力の興亡だけでなく、文化や宗教といった社会面の理解も深まる内容。

  • 三国志演義ではあれ程優遇されていた蜀だが、実際は三国の中でダントツに弱く、そもそも他所者の国であり、強い国づくりが難しかったこと。それでは他の魏や呉が万全の国家体制だったかというと、そうでもなく、内輪揉めで潰れてしまう。
    三国志の世界がが現在の中国と関係諸国の間を説明するキーになるというのは興味深い。

  • 2021/3/12読了
    後漢~三国時代。
    後世のフィクションである『三国志演義』と史実との照らし合わせを中心に、この時代を解説するという切り口は、『三国志』関連の作品でおなじみの人物も多く出てきたこともあり、前3巻より理解がし易い内容となっていた。あと、朝貢という相手国との対等の関係を認めない外交関係が基準となっていたことが、現代まで日本と中朝韓の関係が抉れる一因になったのではないかという指摘に、なるほどと思った。

  • 物語で馴染みのある三国志演義との相違点の解説も交えながら、時代の流れに沿って出来事を辿り、文学や宗教などのさまざまな観点から三国時代を見るという、通史の解説本に求めるものが全て詰まった実に面白い本。

  • KB3a

  • 三国時代のことで卒論を書いたのももう昔。さらっと三国時代をおさらいするのに本書を手に取りました。演義と正史、実態と思われるところの比較や政治的な流れ、文化的な動き、国際関係などなど、わかりやすく書かれています。改めて三国時代が画期になっていることは多くあると実感しました。それだけに、三国時代にシリーズの1冊がまるまる割かれているのはうれしい限り。本当に良い入門書です。

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著者プロフィール

元鶴見大学教授
著書・論文:『漢文と東アジア―訓読の文化圏―』(岩波新書、2010年)、『李白―漂泊の詩人その夢と現実―』(岩波書店、2012年)など。

「2024年 『古典文学研究の対象と方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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