文学国語入門 (星海社新書)

著者 :
  • 星海社
4.00
  • (2)
  • (8)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 104
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065216583

作品紹介・あらすじ

新学習指導要領により制定される「文学国語」とは何か? 鴎外から春樹、転スラに至るまでの近代文学を通じて社会を今一度問い直す!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 名前に聞き覚えが、、、と思って検索かけたら『黒鷺死体宅配便』!(多くの方は『サイコ』かもしれませぬが)

    けれど、中身は濃厚。
    近代文学を読む上で必要な、「私」「他者」「物語」「世界」「作者」を疑うという章立てで進められていきます。若干、太宰推しです(笑)

    私は、あらためて文学を問うという姿勢を最近持ち始めましたし、他の人からすると興味のない本?のレビューも続いているとは思うのですが。

    文章の正しさ、論理の明解さだけを学んでも、きっと世界を見る目は養われない。
    もちろん評論作品には、沢山の刺激を与えてくれるものもあるし、随筆に近いものもあります。
    けれど、考え方を学ぶ以上に、世界を見なくていいのかな?と思うわけです。

    現実と虚構。時代を隔てて、それをどう区別しながら、またどう共感しながら読んでいくのか。

    「他者とともに社会をどうつくっていくのか」という、近代に設定された問いは、現代の今なお持ち越されてきていると筆者は言います。

    見えない「私」の言説で、現実が動いてしまう、そんなヴァーチャルと紙一重な生活をしていながら、私たちは「私」をどう戒め、他者への視点を投げかけるかということは、確かに大切な問いであるように思います。

    なんだか感想ばかりになりましたが、近代小説の読み方として、いろいろ学ぶ所があった一冊ですー。

  • 90年代から、インターネットが普及するあたりまで
    若者たちの問題行動を説明するさい
    頻繁に持ち出された概念がある
    「自意識の肥大化」だ
    大塚英志の社会に対する言及は、宮崎勤事件あたりに始まって
    常にこの自意識の問題をベースとしてきたように思う
    すでにうろおぼえだけど「物語消費論改」では
    社会に氾濫する物語の断片を拾い集め
    組み合わせていった結果
    違法建築ばりに自意識が肥大化していくのだ、といったような
    説明をしていた
    それには当時、かなり雑な断定という印象を持ったし
    オウム真理教の修行メソッドを問題視するならば
    大塚英志も「物語の体操」で手がけた
    ドリル学習による自己没入体験を批判すべきではないか、と
    これは今でも思っているのですが

    (ゆとり教育の失敗によって逆説的に
    ドリル学習の有効性は証明されたが
    それでもやはり単純であるが故に
    目的と手段が転倒しがちなところは否めない)

    この「文学国語入門」は
    2022年から実施予定の高等学校学習指導要項をひもとき
    そこで強調された「他者とのかかわり」に着目して
    これは巷で言われるような文学国語軽視ではなく
    むしろ
    近代文学を論理的に読み解くための学習指導なんじゃないか、と
    そんなふうに考えた筆者が
    近代日本文学において展開されてきた自意識の発達史を
    振り返っていくという内容である
    太宰治を経て「作者の死」に至った近代日本文学は
    工学的な創作の時代
    …それこそ「物語消費」の時代に入っていったというのが
    筆者の主張である
    それはつまり
    すでに近代文学が終わっているということなんだが
    その結果、登場してきたのが
    作品を盗まれたといって大量殺戮を犯した青葉真司であるという
    あれはおそらく、消費した物語を自己と錯覚した青葉の誤謬が
    引き起こした事件であろう
    同じ蹉跌を繰り返さぬために
    今こそ我々は近代文学へと回帰して
    自己と他者の関係性を考え直さなければなるまい
    それがこの本の主張である

    ただし注意すべきはこれ自体が
    物語消費によって作られたサーガにすぎないということである
    近代文学がすでに終わったかのような主張には
    正直、首をかしげたくなる部分があるし
    芥川龍之介が行った古典の二次創作を思えば
    近代文学の問題を「私」に集約してしまうのも
    少し単純化がすぎる
    最後に作者が突き放すような書き方をしているのは
    むしろ良心だろう
    あなたの物語に責任を持つのは、あなただけなのだから
    ここに書いてあることも基本的には疑ってほしい
    無責任っていうな

  • 寡聞にして知らなかったが指導要領が改定されたことがきっかけで本書が書かれたらしい。最終章はいかにも、だがここが主眼ではないので注意。あくまでも、作者の解釈であると註をつけたい。と、斜めで見てしまうが、近代文学の成立が分かりやすくまとめられており、また、改定後の国語に対応する高校生にも読みやすい内容だと思う。国語に何が求められているのか。それは、他者との対話であり、他者とは何かという入口を示してくれる一冊。もっと深く知りたければ本書の中で紹介されている諸書籍にあたればいい。

  •  物語から目覚めることで、文学になる。
      等、エッジの効いた言い回しが多くある。

     社会と関わり、他者ともに生きる。そういう文学国語になれば良いのだが。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

大塚 英志(おおつか・えいじ):大塚英志(おおつか・えいじ):1958年生まれ。まんが原作者、批評家。神戸芸術工科大学教授、東京大学大学院情報学環特任教授、国際日本文化研究センター教授を歴任。まんが原作に『アンラッキーヤングメン』(KADOKAWA)他多数、評論に『「暮し」のファシズム』(筑摩選書)、『物語消費論』『「おたく」の精神史』(星海社新書)、他多数。

「2023年 『「14歳」少女の構造』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大塚英志の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
カルロ・ロヴェッ...
ミヒャエル・エン...
劉 慈欣
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×