脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
3.76
  • (23)
  • (30)
  • (26)
  • (3)
  • (4)
本棚登録 : 516
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065219195

作品紹介・あらすじ

脳のしくみについては、これまで主にニューロンのはたらきについて研究されてきました。
しかし、最近になって、「ニューロン以外」の脳のはたらきが、さまざまな役割を担ってきていることが注目を集めています。
じつは、これこそが私たちの知性や人間らしさを担っている可能性があるのです。

・伸び縮みし、私たちの「気分」を決める「脳のすきま」
・脳内を掃除し、認知症とも関係している「脳の中を流れる水」
・脳内に存在するワイヤレス伝送のような信号伝達のしくみ
・知性のカギを握るニューロン以外の「もう一つの細胞」のはたらき

……こうした、これまで注目されてこなかった脳のメカニズムについて最新研究とともに紹介し、私たちの知らない「脳」が司っている「こころのはたらき」を解き明かしていきます。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【はじめに】
    『脳を司る「脳」』というタイトルは、脳をニューロンからなるデジタル系システムとすると、それだけではない「脳」の機能が脳活動を支えて制御しているという意味で括弧付きの「脳」という言葉を使っている。

    著者は、理化学研究所からお茶の水女子大学に移り、「生体組織機能学研究室」を立ち上げている若手研究者。生理学を脳神経のはたらきによって理解しようとする神経生理学を専門としている。

    本書のあとがきの中でもリンクが紹介されているが、以下のYouTube動画が著者の研究や本書で言いたいことを要約しているので、本を読む前に見ておくと内容理解の助けになるだろう。
    「Brain BLAST!: 健康な脳のカギを握る脳の中のメタコミュニケーション」
    https://www.youtube.com/watch?v=zPDvu4Xlzp8

    【概要】
    これまで脳の活動と言えば、ニューロン間のシナプスを介した情報交換に注目され、その他の組織についてはニューロンと比べると相対的にはほとんど無視されてきた。しかし、近年グリア細胞を始めとしてニューロン以外の脳の生体組織にも注目が集まっており、それらをまとめて解説したのが本書『脳を司る「脳」』となる。

    ここで解説されているニューロン以外の脳生体組織およびその活動として、具体的には、細胞外スペース、神経修飾物質(ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン)、拡散性伝達、脳脊髄液、細胞間質液、細胞外電場、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)となる。かなり網羅性をもって脳全体の活動要素についてまとめられていると思う。この辺り、ブルーバックスらしいまとめ方で好感が持てる。

    例えば、細胞外スペースについての新しい知見として、睡眠時と覚醒時には脳の細胞外スペースの大きさが違っているとらしい。睡眠時にはおそらくノルアドレナリン濃度の影響で細胞外スペースが広がっていて、脳脊髄液の流れがよくなるからだという。睡眠の健康に与える重要性が最近喧伝されることが多いが、生理学的にはこういった脳の代謝に関係しているのかもしれない。

    また、「エファプティック(非シナプス的)・コミュニケーション」と呼ばれる近接ニューロン同士のシナプスを介さない情報交換も最近注目されている脳内活動だという。脳組織の低周波数に対する誘電特性が生理的食塩水とは大きく違っており、なぜそうなのかも含めて研究の対象となっている。

    関係者の中でも流行中とされている、グリア細胞のアストロサイトが関与して行われている脳内の老廃物代謝のリンパ系的機能である「グリンファティック・システム」が提唱されたのはまだ2012年と最近のことであり、まだまだ脳の生理学的研究は知見を積みあげていくような新しい発見が次々と出てくるフロンティアであるのだと思う。

    グリア細胞であるアストロサイトの密度が霊長類になるに従い濃くなっているとか、アインシュタインの脳でニューロンの数には一般的な人と変わりがなかったが、グリア細胞の数が多かったということから、グリア細胞が知性に大きく関わっているのではないかとも言われている。なお、グリア細胞に関しては本書と同じくブルーバックスから出ている『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』がとても詳しく勉強になる。

    著者は、知能とは答えがあることに答える能力であり、知性とは答えがないことに答えを出そうとする営みだと定義し、ニューロンのデジタルな活動では知能の問題にしか対応できず、アナログ情報も含むニューロン以外の脳活動が人間を特徴付ける知性に関係しているのではないかという。著者は次のように語る。

    「脳の中のデジタル伝達とアナログ伝達の非シナプス的相互作用こそが、人間らしさの根源である「知性」の正体であると予想しています」

    それが、おそらく著者を含む脳神経生理学の世界が研究者を惹きつける理由なのだろう。

    【所感】
    脳神経を模擬した多層パーセプトロンによるニューラルネットワークが、画像認識、音声認識などのAIで領域によっては人間を超える能力を達成したことから、一部ではAIが人間を超えるのはいつなのかということを真剣に議論するようになってきた。しかしながら、現状のAI技術の延長でできることは、決して人間の脳ができることを超えることはできないだろう、というのが多くの識者の合意事項にもなっているように思う。著者はその理由としてアナログ情報である神経修飾物質や拡散性伝達、アストロサイトなどの働きを挙げられている。果たして著者が言うように知性の源泉がそこにあるのかはわからないが、そこにAIと人間の脳との違いがあるのは間違いないだろう。

    測定技術の進化により、今まで見えなかったことが見えてきたことで、新しい仮説が提案され理論が構築される。原子・分子の世界でも、細胞の世界でも、宇宙科学の世界でもそうだった。脳研究の世界も例外ではなく、これまで優位を高めていたニューロン中心主義からの脱却が必要とされる新しい時代が測定技術の進歩によってやってきたのだろう。著者も言うように脳にはまだまだわからないことが山ほど残っているのである。自分も真剣に学ぶと面白いかもしれないなと思う。

    なお著者は、科学者として理研時代からアウトリーチ活動の重要性にも賛同し、いつかブルーバックスで本を出したいと考えていたという。ブルーバックスがそういうポジションになっているというのは素晴らしいことである。いつもながら、ブルーバックスには感謝している。

    ---
    『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』(R・ダグラス・フィールズ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065020549#comment
    『つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線』(理化学研究所脳科学総合研究センター)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062579944

  • 化学的な作用機序の説明など、自分にはちょっと難しいところもありましたが、おおむね興味深く読むことができました。
    脳の中で神経細胞ではない細胞があり、「人間は脳を○%しか使っていない」という俗説が広まったという話は知っていましたが、その細胞(グリア細胞)が電気信号を発しないことから、知的活動と直接関係ないと思われていたことが理解できました。
    ちなみに、グリアとは、パテないし膠のような物質を指すということは初めてこの本で知りました。
    つまりグリア細胞は、脳の「埋め草」のようなものだと思われていたということですね。

    ところが、最近の研究によれば、グリア細胞にも重要な役割があるらしいと分かってきたとのこと。
    これは神経(ニューロン)中心主義の人間観にも影響を与えるものでしょう。
    もしかすると、「脳に電極を刺してサイバースペースにダイブする」というイメージにも修正が迫られるかもしれません。
    グリア細胞の役割を解明するには、実験手法上の難点もあって、まだ判明していない部分も多いようですが、今後の研究の進展に期待したいと思います。

  • これまでニューロンの働きや機能にフォカスされてきた脳科学だが、実はあまり注目されてこなかった脳の細胞外スペースやアストロサイト等が、こころのはたらきや知性の進化に関与しているのではないかということが、最新研究で分かってきたという、とても興味深い内容。さらに研究が進むみ、こころとは、人間らしさの根源である知性とは、何なのかが解明されていくことに少しづつ近づいているということが感じられる1冊。

  • ニューロンの仕組みや脳科学の歴史をおさらいしたところで、触れられることが少ないグリア細胞そして細胞外スペースの解説を行い、ニューロンとそれらの相互作用について考察する。細胞外スペースを拡散する神経修飾物質が気分などのモードに関係しているとかグリア細胞であるアストロサイトがシナプス伝達をの効率を変化させているなの興味深い話が満載、グリア細胞や細胞外スペースの作用を人工知能に組み入れられると面白いかも。

  • 脳の重層的な構造を暗示するかのようなタイトルに惹かれて読む。脳の謎を解き明かそうと脳が挑む、その営みの不思議さに謎は深まるばかり。
    従来の脳科学が、ニューロンを主体とするネットワークとして取り組んできた研究に、脇役として重視されなかったグリア細胞などのニューロン以外の働きについて着目する。ニューロンによるシナプスでの情報伝達の働き以外に、広範囲に拡散する動きがあることを実験を通して明らかにする。
    人間らしさや知性(知能とは違う)は、こうした仕組みに依拠すると推察している。分解すれば化学反応の連鎖に帰着する脳、そのダイナミックなシステムは驚異そのものである。本書で展開される論旨に追従していくには、一気に読み進めることが必要と感じた。

  • これはおもしろい! こんなことが新たに分かってきているのだ。脳はニューロンだけで情報伝達をしているわけではなかった。脳のすき間を埋めている液体中の化学物質やアストロサイトをはじめとするグリア細胞のはたらきも大きいという。そして、このアストロサイトを活性化させるには、新しい刺激のある環境が良いのだとか。すると、やはりふだんと違う教室で受ける特訓授業などが子どもたちの記憶に残りやすいのは、この辺の影響があるわけだ。著者が「おわりに」で書かれているが、特別支援学校にボランティアに行ったのがこういった研究に進むきっかけになったとのこと。アルツハイマーをはじめ、脳の病気に関わる研究をこれからどんどん進めていかれると思うが、ぜひ、発達障害のある子どもたちの脳の状態も調べてみてほしい。何か、大きなことが見つかりそうな予感がする。YouTubeも観てみた。ちょっと速すぎる。読み切れない。でも、なんかすごいことが起こっていそうな気がする。「知能」と「知性」分かる気がする。これをきちんと考えていけば、AIが人間を超えるなんていうことはあり得ないんだろう。

  • 脳の構造・ニューロンの働き・脳科学の歴史を踏まえた上でニューロン以外の脳の最新研究が紹介されており、たまに脳関連のニュースを見聞きする自分にとっても初見の内容が多々ありました。

    時々刻々と、細胞外スペース・細胞間質液・脳脊髄液・アクアポリン 4・アストロサイト(グリア細胞)・広範囲調節系・神経修飾物質など、多くの要素が相互作用している脳内環境。

    近年、脳に関連する情報がメディアやネットでも積極的に発信されて「ニューロン」「シナプス」「神経伝達物質(ドーパミンなど)」などの用語を見聞きすることも増え、一素人でもなんとなく脳に対する漠然としたイメージがありましたが、本書を読むと、そんなイメージを軽々と超えてくる脳の果てしない複雑さ、奥深さを再認識させられます。

  • h10-図書館2022/02/23ー期限3/9 読了2/28 返却3/1

  • 計算論的に脳の研究をしている大学院生ですが、知らなかった情報が満載でとても楽しめました!
    本書では、序盤に古くからあるニューロンを中心とした研究の話題を、その後に最近注目を浴びているグリア細胞や脳脊髄液の話題に移るという構成です。この本の主題は後半のグリアや脳脊髄液だと思いますが、ニューロンに関する内容も分かりやすくまとめられていて理解が深まりました。グリア細胞については、アストロサイトの神経伝達物質の回収や数珠状突起による広範囲への投射、オリゴデンドロサイトのミエリン形成によるパルス伝達速度の向上、ミクログリアによる異物の排除など、最新の研究成果を含む興味深い内容が盛りだくさんで非常に勉強になりました。グリア細胞以外にも、脳脊髄液の循環による老廃物の排除や、広範囲調節系からの神経修飾物質の拡散による脳のモードチェンジなど、最新の研究で明らかになった内容が多分に含まれており、とても面白かったです。
    これまで何冊か脳科学の本を読んできましたが、最も楽しく読めた本で、自信を持っておすすめできます。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

毛内 拡(もうない・ひろむ):お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業。2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。著書:『「気の持ちよう」の脳科学』(ちくまプリマ―新書)、『脳を司る「脳」――最新研究で見えてきた、驚くべき脳の働き』(講談社ブルーバックス)で講談社科学出版賞受賞、『すべては脳で実現している。』(総合法令出版)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP研究所)、分担執筆に『ここまでわかった!脳とこころ』(日本評論社)などがある。

「2024年 『「頭がいい」とはどういうことか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

毛内拡の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×