脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき (ブルーバックス)

  • 講談社 (2020年12月17日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065219195

作品紹介・あらすじ

【第37回 講談社科学出版賞 受賞作!】

なぜ、私たちは「特別」なのか?――その答えはここにある。

心のはたらき、知性、ひらめき……
ニューロンだけではわからなかった、
「人間らしさ」を生み出す、知られざる脳の正体

脳のはたらきは、ニューロンが担っている
――この常識が覆されようとしている。
脳の中には、知られざる「すきま」があり、
そこを舞台に、様々な脳活動が繰り広げられていたのだ。
細胞外スペースに流れる脳脊髄液、
その中で拡散する神経修飾物質や細胞外電場、
そして、脳細胞の半分を占めるグリア細胞。
私たちの心や知性の源は、ここにあるかもしれない。
「神経科学の王道」に挑む、新しい脳科学が誕生!

◆おもな内容
・寝ている間に流れる「水」が脳内を掃除している
・認知症と脳を流れる水、睡眠の意外な関係
・脳の若さの秘訣は「すきま」にあった!?
・脳の「すきま」に拡散する物質が気分を決める
・ワイヤレス伝送のような脳の信号伝達があった!
・電気を流すと頭が良くなる? 神経回路がシンプルな人ほどIQが高い?
・知性やひらめきと関係する「もう一つの脳細胞」
・脳科学から考える、脳を健康に保つ方法
……など

◆目次
プロローグ 「生きている」とはどういうことか
第1章 情報伝達の基本、ニューロンのはたらき
 ――コンピュータのように速くて精密なメカニズム
第2章 「見えない脳のはたらき」を視る方法
 ――脳研究はどのように発展してきたか
第3章 脳の「すきま」が気分を決める?
 ――細胞外スペースは脳のモードの調整役
第4章 脳の中を流れる「水」が掃除をしている?
 ――脳脊髄液と認知症の意外な関係
第5章 脳はシナプス以外でも“会話している?
 ――ワイヤレスな情報伝達「細胞外電場」
第6章 頭が良いとはどういうことか?
 ――「知性」の進化の鍵を握るアストロサイト
エピローグ 「こころのはたらき」を解き明かす鍵
 ――変化し続ける脳内環境が生み出すもの

感想・レビュー・書評

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  • 【はじめに】
    『脳を司る「脳」』というタイトルは、脳をニューロンからなるデジタル系システムとすると、それだけではない「脳」の機能が脳活動を支えて制御しているという意味で括弧付きの「脳」という言葉を使っている。

    著者は、理化学研究所からお茶の水女子大学に移り、「生体組織機能学研究室」を立ち上げている若手研究者。生理学を脳神経のはたらきによって理解しようとする神経生理学を専門としている。

    本書のあとがきの中でもリンクが紹介されているが、以下のYouTube動画が著者の研究や本書で言いたいことを要約しているので、本を読む前に見ておくと内容理解の助けになるだろう。
    「Brain BLAST!: 健康な脳のカギを握る脳の中のメタコミュニケーション」
    https://www.youtube.com/watch?v=zPDvu4Xlzp8

    【概要】
    これまで脳の活動と言えば、ニューロン間のシナプスを介した情報交換に注目され、その他の組織についてはニューロンと比べると相対的にはほとんど無視されてきた。しかし、近年グリア細胞を始めとしてニューロン以外の脳の生体組織にも注目が集まっており、それらをまとめて解説したのが本書『脳を司る「脳」』となる。

    ここで解説されているニューロン以外の脳生体組織およびその活動として、具体的には、細胞外スペース、神経修飾物質(ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン)、拡散性伝達、脳脊髄液、細胞間質液、細胞外電場、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)となる。かなり網羅性をもって脳全体の活動要素についてまとめられていると思う。この辺り、ブルーバックスらしいまとめ方で好感が持てる。

    例えば、細胞外スペースについての新しい知見として、睡眠時と覚醒時には脳の細胞外スペースの大きさが違っているとらしい。睡眠時にはおそらくノルアドレナリン濃度の影響で細胞外スペースが広がっていて、脳脊髄液の流れがよくなるからだという。睡眠の健康に与える重要性が最近喧伝されることが多いが、生理学的にはこういった脳の代謝に関係しているのかもしれない。

    また、「エファプティック(非シナプス的)・コミュニケーション」と呼ばれる近接ニューロン同士のシナプスを介さない情報交換も最近注目されている脳内活動だという。脳組織の低周波数に対する誘電特性が生理的食塩水とは大きく違っており、なぜそうなのかも含めて研究の対象となっている。

    関係者の中でも流行中とされている、グリア細胞のアストロサイトが関与して行われている脳内の老廃物代謝のリンパ系的機能である「グリンファティック・システム」が提唱されたのはまだ2012年と最近のことであり、まだまだ脳の生理学的研究は知見を積みあげていくような新しい発見が次々と出てくるフロンティアであるのだと思う。

    グリア細胞であるアストロサイトの密度が霊長類になるに従い濃くなっているとか、アインシュタインの脳でニューロンの数には一般的な人と変わりがなかったが、グリア細胞の数が多かったということから、グリア細胞が知性に大きく関わっているのではないかとも言われている。なお、グリア細胞に関しては本書と同じくブルーバックスから出ている『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』がとても詳しく勉強になる。

    著者は、知能とは答えがあることに答える能力であり、知性とは答えがないことに答えを出そうとする営みだと定義し、ニューロンのデジタルな活動では知能の問題にしか対応できず、アナログ情報も含むニューロン以外の脳活動が人間を特徴付ける知性に関係しているのではないかという。著者は次のように語る。

    「脳の中のデジタル伝達とアナログ伝達の非シナプス的相互作用こそが、人間らしさの根源である「知性」の正体であると予想しています」

    それが、おそらく著者を含む脳神経生理学の世界が研究者を惹きつける理由なのだろう。

    【所感】
    脳神経を模擬した多層パーセプトロンによるニューラルネットワークが、画像認識、音声認識などのAIで領域によっては人間を超える能力を達成したことから、一部ではAIが人間を超えるのはいつなのかということを真剣に議論するようになってきた。しかしながら、現状のAI技術の延長でできることは、決して人間の脳ができることを超えることはできないだろう、というのが多くの識者の合意事項にもなっているように思う。著者はその理由としてアナログ情報である神経修飾物質や拡散性伝達、アストロサイトなどの働きを挙げられている。果たして著者が言うように知性の源泉がそこにあるのかはわからないが、そこにAIと人間の脳との違いがあるのは間違いないだろう。

    測定技術の進化により、今まで見えなかったことが見えてきたことで、新しい仮説が提案され理論が構築される。原子・分子の世界でも、細胞の世界でも、宇宙科学の世界でもそうだった。脳研究の世界も例外ではなく、これまで優位を高めていたニューロン中心主義からの脱却が必要とされる新しい時代が測定技術の進歩によってやってきたのだろう。著者も言うように脳にはまだまだわからないことが山ほど残っているのである。自分も真剣に学ぶと面白いかもしれないなと思う。

    なお著者は、科学者として理研時代からアウトリーチ活動の重要性にも賛同し、いつかブルーバックスで本を出したいと考えていたという。ブルーバックスがそういうポジションになっているというのは素晴らしいことである。いつもながら、ブルーバックスには感謝している。

    ---
    『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』(R・ダグラス・フィールズ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065020549#comment
    『つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線』(理化学研究所脳科学総合研究センター)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062579944

  • 化学的な作用機序の説明など、自分にはちょっと難しいところもありましたが、おおむね興味深く読むことができました。
    脳の中で神経細胞ではない細胞があり、「人間は脳を○%しか使っていない」という俗説が広まったという話は知っていましたが、その細胞(グリア細胞)が電気信号を発しないことから、知的活動と直接関係ないと思われていたことが理解できました。
    ちなみに、グリアとは、パテないし膠のような物質を指すということは初めてこの本で知りました。
    つまりグリア細胞は、脳の「埋め草」のようなものだと思われていたということですね。

    ところが、最近の研究によれば、グリア細胞にも重要な役割があるらしいと分かってきたとのこと。
    これは神経(ニューロン)中心主義の人間観にも影響を与えるものでしょう。
    もしかすると、「脳に電極を刺してサイバースペースにダイブする」というイメージにも修正が迫られるかもしれません。
    グリア細胞の役割を解明するには、実験手法上の難点もあって、まだ判明していない部分も多いようですが、今後の研究の進展に期待したいと思います。

  • これまでニューロンの働きや機能にフォカスされてきた脳科学だが、実はあまり注目されてこなかった脳の細胞外スペースやアストロサイト等が、こころのはたらきや知性の進化に関与しているのではないかということが、最新研究で分かってきたという、とても興味深い内容。さらに研究が進むみ、こころとは、人間らしさの根源である知性とは、何なのかが解明されていくことに少しづつ近づいているということが感じられる1冊。

  • ニューロンの仕組みや脳科学の歴史をおさらいしたところで、触れられることが少ないグリア細胞そして細胞外スペースの解説を行い、ニューロンとそれらの相互作用について考察する。細胞外スペースを拡散する神経修飾物質が気分などのモードに関係しているとかグリア細胞であるアストロサイトがシナプス伝達をの効率を変化させているなの興味深い話が満載、グリア細胞や細胞外スペースの作用を人工知能に組み入れられると面白いかも。

  • 脳の重層的な構造を暗示するかのようなタイトルに惹かれて読む。脳の謎を解き明かそうと脳が挑む、その営みの不思議さに謎は深まるばかり。
    従来の脳科学が、ニューロンを主体とするネットワークとして取り組んできた研究に、脇役として重視されなかったグリア細胞などのニューロン以外の働きについて着目する。ニューロンによるシナプスでの情報伝達の働き以外に、広範囲に拡散する動きがあることを実験を通して明らかにする。
    人間らしさや知性(知能とは違う)は、こうした仕組みに依拠すると推察している。分解すれば化学反応の連鎖に帰着する脳、そのダイナミックなシステムは驚異そのものである。本書で展開される論旨に追従していくには、一気に読み進めることが必要と感じた。

  • これはおもしろい! こんなことが新たに分かってきているのだ。脳はニューロンだけで情報伝達をしているわけではなかった。脳のすき間を埋めている液体中の化学物質やアストロサイトをはじめとするグリア細胞のはたらきも大きいという。そして、このアストロサイトを活性化させるには、新しい刺激のある環境が良いのだとか。すると、やはりふだんと違う教室で受ける特訓授業などが子どもたちの記憶に残りやすいのは、この辺の影響があるわけだ。著者が「おわりに」で書かれているが、特別支援学校にボランティアに行ったのがこういった研究に進むきっかけになったとのこと。アルツハイマーをはじめ、脳の病気に関わる研究をこれからどんどん進めていかれると思うが、ぜひ、発達障害のある子どもたちの脳の状態も調べてみてほしい。何か、大きなことが見つかりそうな予感がする。YouTubeも観てみた。ちょっと速すぎる。読み切れない。でも、なんかすごいことが起こっていそうな気がする。「知能」と「知性」分かる気がする。これをきちんと考えていけば、AIが人間を超えるなんていうことはあり得ないんだろう。

  • 脳の構造・ニューロンの働き・脳科学の歴史を踏まえた上でニューロン以外の脳の最新研究が紹介されており、たまに脳関連のニュースを見聞きする自分にとっても初見の内容が多々ありました。

    時々刻々と、細胞外スペース・細胞間質液・脳脊髄液・アクアポリン 4・アストロサイト(グリア細胞)・広範囲調節系・神経修飾物質など、多くの要素が相互作用している脳内環境。

    近年、脳に関連する情報がメディアやネットでも積極的に発信されて「ニューロン」「シナプス」「神経伝達物質(ドーパミンなど)」などの用語を見聞きすることも増え、一素人でもなんとなく脳に対する漠然としたイメージがありましたが、本書を読むと、そんなイメージを軽々と超えてくる脳の果てしない複雑さ、奥深さを再認識させられます。

  • 2023/10/13 kindle

  • 脳については、ニューロンが神経伝達物質の情報伝達を担っていることは知っていた。
    この本を読んで、アストロサイトなどのグリア細胞もまた脳内でとても重要な働きをしている事がわかった。

    「ニューロンを取り巻く環境が、時々刻々と変化し続け、ニューロンと相互作用し続けることがこころのはたらきという状態なのかもしれない」

    生きているとは変化し続ける脳内の環境が知性やこころのはたらきを織りなすこと。それ故に私たちは「生きている」と実感できる、
    アストロサイトをキーワードに、脳を理解するには、物質そのものではなく、それらの関係性を明らかにすることが必要だという観点が新しくて興味深かった。

    日常生活で脳を健康に保つ方法も書いてあり、参考になった。
    アストロサイトの働きがうつの改善やレジリエンスに関与している。アストロサイトを活性化させるために、ノルアドレナリン(真新しい環境における注意の上昇に対しても放出が高まる)の放出が欠かせない。
    目新しいしい環境に身を置くこと(新たなストレスに対するアラートシステムを働かせて脳の活動性を高める)、例えば新しい人と会う、新しいことに挑戦する、読書、映画観賞、旅行など新しい出会いや発見をすることは、ストレスではあるが、ノルアドレナリンの放出につながるため、日常で実践するといいということだった。是非参考にし、実践したい。

  • 脳のメカニズムはこれまで、ニューロンとシナプスによる神経伝達のみが、メインだったが、実際には、脳の細胞間の液体やグリア細胞などが、知性などに深く関与しているとの説

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著者プロフィール

毛内 拡(もうない・ひろむ):お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業。2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。著書:『「気の持ちよう」の脳科学』(ちくまプリマ―新書)、『脳を司る「脳」――最新研究で見えてきた、驚くべき脳の働き』(講談社ブルーバックス)で講談社科学出版賞受賞、『すべては脳で実現している。』(総合法令出版)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP研究所)、分担執筆に『ここまでわかった!脳とこころ』(日本評論社)などがある。

「2024年 『「頭がいい」とはどういうことか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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