旅する練習

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 160
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065221631

作品紹介・あらすじ

第164回芥川賞候補作。

中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。
2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、
ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。
ロード・ノベルの傑作!

「この旅のおかげでそれがわかったの。
本当に大切なことを見つけて、
それに自分を合わせて生きるのって、
すっごく楽しい」(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • この旅がずっと続けばいいのに、と思っていた。
    サッカーのことはよくわからないけど、鳥のこともよく知らないけれど、ずっとずっと彼らと一緒に旅をしていたかった。目的のないままの私では彼らの旅の同行者にはなれないだろうか。でも、それでも私は彼らと一緒に歩きたいのだ。
    大声で真言を唱えた後、リフティングをする亜美を、友だちのいない小説家の叔父さんがところどころで景色を書く姿を、少し離れたところで見ていたい。
    彼らとの旅の中で、私は何の練習をするだろうか。途中で加わったみどりのように、何かを手に入れるために何かを捨てる練習をしようか。それとも叔父さんの真似をして言葉を連ねる練習をしようか。
    そして、きっと最後に両手を広げて上を見て、次の旅のための準備をするんだ。
    いや、本当に言いたいのはそういうことじゃない。
    ずっと、悲しい予感から目をそらしていた。小学六年生の少女と、その叔父さんとのとある目的を持ったロードノベルは、淡々とそして鮮やかな色でもって描かれる。素直でまっすぐなサッカー少女のその小さくて大きな成長を目を細めながら眺めていた。でも、その、隙間から見え隠れする知りたくない未来から目をそらし続けてもいた。知りたくなかった。読みたくなかった。心の奥深いところから悲鳴が聞こえる。
    形にならない約束が、来ることのない未来が、そしてかなうことのない夢が、私の中で、何かを生んだ。
    私は今、どこに立っているのだろう。どこへ向かって歩いているのだろう。
    彼女の、ちいさな物語を読んでしまった今、私は私の中で生まれた何かを探す旅に出るのだろう。
    言葉にならなないこの思いを、自分の中で形にするための、練習の旅に。

  • 「旅する練習」は、サッカー少女とその叔父が利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出るという話だ。コロナで予定がなくなるなどタイムリーな出来事が小説中に登場する。この小説の魅力は構成にある。

    乗代雄介の小説は、書物の題名や引用、エピソードが読み込まれるのが特徴だ。その特徴は『旅する練習』でも健在で、柳田國男や小島信夫それに加えてサッカー選手のジーコの引用やエピソードが挿入される。さらにはおジャ魔女どれみや真言宗も重要なモチーフとなっている。

    『旅する練習』は、叔父が語り手として亜美との「練習の旅」を描くという構造になっている。「練習の旅」の時点で描いた名所の描写に、後から当時の様子を細かく描いたという体裁だ。『旅する練習』はこの構造にちょっとした仕掛けがある。

    語りの工夫によって、『旅する練習』は最初に読んだ時と2度目に読んだ時とでは印象が異なる小説に変貌する。僕は1度目に読んだときは衝撃を受けて、読み返したときは語りに隠された真実に心を揺さぶられた。

  • 《「でしょー?」笑って後ろに傾いだ戻りしな「そしたらさっ」と声を張り上げる。「もうサッカーばっかりして学校なんか行かなくていーじゃん? それだときっと毎日が日曜日みたいだし、やな宿題はぜーんぶゴミ箱にすてちゃえ、になるんだけど、どうやってサッカーが上手くなるかっていうのは、教科書みても書いてないけどだし、子猫にきいてもそっぽ向くけどって感じで練習あるのみなの。でもね、だからがんばって練習したら、もしかしてほんとーにできちゃうかもしれないじゃん?」》(p.107)

    《この旅を書くことで、その足取りの頼もしさを確かめたいのだと今ならわかる。ただ大事なのは発願である。もう会えないことがわかっている者の姿を景色の裏へ見ようとして見えない、しかしどうしようもなく鮮やかに思い出されるものがある。その感動を正確に書き取るために昂ぶる気を抑えようとするこの忍耐も、終わりに近づいてきた。》(p.156)

  •  
    ── 乗代 雄介《旅する練習 20210114 講談社》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4065221633
     
    (20210112)
     

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著者プロフィール

1986年、北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年、「十七八より」で第58回群像新人賞を受賞し、デビュー。2018年、『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞を受賞。著書に『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』がある。

「2021年 『旅する練習』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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