旅する練習

著者 :
  • 講談社
3.50
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本棚登録 : 1830
感想 : 186
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065221631

作品紹介・あらすじ

第164回芥川賞候補作。

中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。
2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、
ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。
ロード・ノベルの傑作!

「この旅のおかげでそれがわかったの。
本当に大切なことを見つけて、
それに自分を合わせて生きるのって、
すっごく楽しい」(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 道連れ旅の、物語です。旅で人は成長する。自分はたいした旅をしてこなかったから成長がないのかな、とも思った。もやもやして読み終わったので、最近文庫化されたらしい同書を買って、読み直そうと思う。

  • 中学入学前の姪と小説家の叔父の二人旅。
    サッカーに夢中でサッカーボールさえ蹴っていれば機嫌のいい天真爛漫な姪の頼みで、コロナで世間が騒がれ始める2020年3月、鹿島アントラーズの本拠地を目指して「歩く、書く、蹴る」をひたすら繰り返す旅物語。
    姪がリフティングをすれば叔父は旅先の風景を描写し共に歩き…。二人の仲の良さと春の長閑さが相まって穏やかな雰囲気に包まれる。

    物語の途中で挿まれる、過去を振り返る叔父の文章がとても意味深で、読み進めるにつれソワソワしてしまった。この後の展開に不安がよぎる。

    春の二人旅を終えた後、二人で辿った道程を再び一人で歩く叔父。
    あの穏やかだった貴重な時間を思い出しながら、ひたすらに記録を続ける叔父の悲壮感はいかばかりか。
    二人でした約束が約束のまま果たせなかった後悔ばかりが後に残る。
    いつか本番を迎えるための練習のはずが、練習のままで終わってしまった無念さが悲しい。
    いるのが当たり前だと思っていた。
    逢おうと思えばいつでも逢えると思っていた。
    コロナ禍の最中、そんな当たり前が当たり前でなくなることを日々思い知らされる。
    そんな世の中になってしまった現実を突きつけられたような読後感。

  • 風景や鳥について詳しく描写されているのに、何というか情景がスーッとは思い描けないようなところがあったが、徐々に私も一緒に旅をしている感覚が増してきた。「練習」は人生のなかの一つの過程ということなのか。

  • 一緒に旅をしました。
    ラストに涙しました。違うラストが良かったけど。

    亜美ちゃん、大好き。

  •  乗代雄介さんにはまっています。「それは誠」を読んで、2作目に読んだのがこの作品でした。
     少女とオッサンの歩き旅という設定がとてもいいし、二人と、途中に合流したもう一人の女性との「会話」がとてもいいのです。
     ただ結末に、オチというか、ドンデン返しというか、作品の構成を一気に動かしたいのかなという書きかたに、ちょっと引っ掛かってしまうところがあって、それはそれでいいのですが、チョットあざといなとも感じながら、にもかかわらず、これはどうしてんねやろという興味も沸いてはまり続けています(笑)。 
     「ゴジラ老人シマクマ君の日々」というあほブログにもあれこれ書いています。読んでいただけると嬉しいです。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202402080000/

  • なんで借りたのか覚えていないが、図書館のマイリストに入れてあった。
    去年の話で、コロナ禍で学校が休校になっている小学最終学年の亜美(アビ由来の名前)と小説家の叔父とが、千葉の我孫子から茨城の鹿島アントラーズの本拠地まで徒歩旅に出る。我孫子から鹿島まで約68キロ徒歩で14時間弱。内容的には頭にあまりのこらなかったが、我孫子というと鳥研の所在地、ロケーションに手賀沼がやたらとでてきて、手賀沼のコブハクやオオバンなど、野鳥もちらほらと登場。鳥の博物館に行く約束もキーワードとなってくる。ラストがさらっと字数すくないながら、とてつもなく辛いので、読了感はとても悪いが、コロナ禍の中でコロナ由来の不幸が増えただけでなく、普段通りの不幸ももちろん普段通りに起きている。この流れなので、新型コロナで死ぬ話か?と思って読んでいたが、嫌な方向に外れた。なんとも嫌な気分になった。

  • サッカー部がある私立中学に入るため、受験勉強をがんばり、無事合格したサッカー少女・亜美(アビ)と、小説家の叔父。コロナ禍で予定がなくなった2020年の春休み、ふたりは、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地そばの合宿所を目指す旅に出る。

    やけに静かな語り口だなと思ったら、案の定のラストで、つらい。眩かった分、現実の非情さを突きつけられる。でも、諦めるわけではない。

  • 芥川賞とってほしい作品でした。
    作中に出てくる「大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きる!」って、いい言葉ですねー。
    ぜひぜひ、読んでみてください

  • 高橋源一郎と文学youtuberベルの推しで三島賞も獲得ということで読んでみた。このコロナ下の真っ只中の同時代小説である。最近では珍しいくらいの爽やか小説で一気に読み進められた、だがラストのグダグダは何だ、あまりにも少女趣味過ぎた内容に作者の照れ隠しなのだろうか、それにしてはちょっと酷いではないか、ここまで読者を喜ばせといてこれは裏切りだちょっと許せないラストは変更して欲しい。何度も「おジャ魔女どれみ」が出てきたが最近そのスピンオフ的な映画も上映されて、リバイバルも期待できるのかな。

  • この旅がずっと続けばいいのに、と思っていた。
    サッカーのことはよくわからないけど、鳥のこともよく知らないけれど、ずっとずっと彼らと一緒に旅をしていたかった。目的のないままの私では彼らの旅の同行者にはなれないだろうか。でも、それでも私は彼らと一緒に歩きたいのだ。
    大声で真言を唱えた後、リフティングをする亜美を、友だちのいない小説家の叔父さんがところどころで景色を書く姿を、少し離れたところで見ていたい。
    彼らとの旅の中で、私は何の練習をするだろうか。途中で加わったみどりのように、何かを手に入れるために何かを捨てる練習をしようか。それとも叔父さんの真似をして言葉を連ねる練習をしようか。
    そして、きっと最後に両手を広げて上を見て、次の旅のための準備をするんだ。
    いや、本当に言いたいのはそういうことじゃない。
    ずっと、悲しい予感から目をそらしていた。小学六年生の少女と、その叔父さんとのとある目的を持ったロードノベルは、淡々とそして鮮やかな色でもって描かれる。素直でまっすぐなサッカー少女のその小さくて大きな成長を目を細めながら眺めていた。でも、その、隙間から見え隠れする知りたくない未来から目をそらし続けてもいた。知りたくなかった。読みたくなかった。心の奥深いところから悲鳴が聞こえる。
    形にならない約束が、来ることのない未来が、そしてかなうことのない夢が、私の中で、何かを生んだ。
    私は今、どこに立っているのだろう。どこへ向かって歩いているのだろう。
    彼女の、ちいさな物語を読んでしまった今、私は私の中で生まれた何かを探す旅に出るのだろう。
    言葉にならなないこの思いを、自分の中で形にするための、練習の旅に。

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著者プロフィール

1986年北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年『十七八より』で「群像新人賞」を受賞し、デビュー。18年『本物の読書家』で「野間文芸新人賞」を受賞する。23年『それは誠』が「芥川賞」候補作となる。その他著書に、『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』等がある。

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