〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く (講談社学術文庫)
- 講談社 (2021年2月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065224427
作品紹介・あらすじ
ジャーナリズムで、また学問の世界でも普通に使われる用語、「イスラーム世界」とは何のことで、一体どこのことを指しているのだろうか? ムスリムが多い地域のことだろうか、それとも、支配者がムスリムである国々、あるいはイスラーム法が社会を律している地域のことだろうか。ただ単に、アラビア半島やシリア、パレスチナなどの「中東地域」のことを指しているのだろうか? 本書は、高校世界史にも出てくるこの「イスラーム世界」という単語の歴史的背景を検証し、この用語を無批判に用いて世界史を描くことの問題性を明らかにしていく。
前近代のムスリムによる「イスラーム世界」の認識、19世紀のヨーロッパで「イスラーム世界」という概念が生み出されてきた過程、さらに日本における「イスラーム世界」という捉え方の誕生と、それが現代日本人の世界観に及ぼした影響などを明らかにする中で、著者は、「イスラーム世界」という概念は一種のイデオロギーであって地理的空間としては存在せず、この語は歴史学の用語として「使用すべきではない」という。そして、地球環境と人類史的視点から「新しい世界史」を構想し叙述する方法の模索が始まる。
本書は刊行当時、歴史学者・イスラーム学者の間に議論を引き起こし、アジア・太平洋賞特別賞を受賞した。文庫化にあたり、原本刊行後の議論を踏まえて「補章」を加筆。〔原本:『イスラーム世界の創造』東京大学出版会、2005年〕
感想・レビュー・書評
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・スマートフォンからGoogle検索で本書を検索すると、公式サイトのアイキャッチ画像が小杉本になってることに気づいた。
【書誌情報】
製品名 〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く
著:羽田 正
発売日 2021年02月12日
定価:1,441円(本体1,310円)
ISBN 978-4-06-522442-7
通巻番号 2647
判型 A6
ページ数 384ページ
シリーズ 講談社学術文庫
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000349457
【簡易目次】
目次 [003-007]
序論 「イスラーム世界」という語のあいまいさ 011
◆第I部 前近代ムスリムの世界像と世界史認識
第一章 前近代ムスリムの地理的知見と世界像 034
1 「古典時代(九 - 一〇世紀)」のアラビア語地理書 037
2 その後のアラビア語地理書(一一 - 一五世紀) 053
3 ペルシア語地理書に見える世界像 060
第二章 前近代ムスリムによる世界史叙述 077
1 アラビア語世界史書の歴史観と叙述方法 081
2 ペルシア語世界史書の歴史観と叙述方法 101
◆第II部 近代ヨーロッパと「イスラーム世界」
第一章 マホメット教とサラセン人(一八世紀以前) 122
1 マホメット教とイスラーム 122
2 デルブロ『東洋全書』とフュルティエール『フランス語辞典』 126
3 シャルダン 『ペルシア旅行記』 131
4 ギボン 『ローマ帝国衰亡史』 135
第二章 「イスラーム世界」の創造 145
1 ルナンとアフガーニー 145
2 「ヨーロッパ」と「イスラーム世界」 155
第三章 東洋学と「イスラーム世界」史研究 176
1 東洋学の成立 176
2 東洋学への「イスラーム世界」概念の導入 179
3 「イスラーム世界」史の誕生 189
4 ロシア東洋学とバルトリド 199
5 「イスラーム世界」史の完成 203
6 イスラーム主義者の「イスラーム世界」 史と中東諸国での歴史教育 213
◆第III部 日本における「イスラーム世界」概念の受容と展開
第一章 「イスラーム世界」概念の成立以前 230
1 江戸時代と幕末・明治初期 230
2 明治大正時代 233
第二章 日本における「イスラーム世界」の発見 252
1 「回教圏」研究の開始 252
2 「回教圏」研究の隆盛 260
3 第二次世界大戦中の地理歴史教育 282
第三章 戦後の「イスラーム世界」認識 293
1 「イスラーム世界」概念の継続 293
2 戦後の世界史教育における「イスラーム世界」 299
3 現代日本における「イスラーム世界」史研究 305
終論 「イスラーム世界」史との訣別 314
おわりに(二〇〇五年初夏 羽田 正) [340-345]
補章 「イスラーム世界」とグローバルヒストリー [346-360]
十五年の時を経て
世界史を語る言語
研究者の立場性
本書の限界
学術文庫版のあとがき(二〇二〇年 一二月 羽田 正) [361-363]
文献一覧 [364-375]詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/768233 -
【いずれにせよ大事なことは、まず同時代の存在として「イスラーム世界」という空間概念が創造され、その歴史は後から作られたということである。まず枠組みがあり、その枠組みに合うような歴史記述が求められたのである】(文中より引用)
普通に使われることに違和感を覚えることも少なくなった「イスラーム世界」という用語。この言葉の成り立ちや使用法を検討することで、日本や欧米の社会がどのような認識のレンズを通してイスラーム教を見ていたかを研究した作品です。著者は、『冒険商人シャルダン』や『新しい世界史へ』などの羽田正。
当たり前に使っている概念の再探訪といった趣の一冊。歴史を巡る歴史を目にしているかのような感覚になり、いわゆる「歴史書」とはまた異なる読後感を味わうことができました。
少し前の著作ですが古さを感じませんでした☆5つ -
あたりまえに存在すると思われてきたことを疑うのは、とてもエネルギーがいる。ましてや、それが今まで自分がよって立ってきたものの一部だったとすれば、なおさらである。
本書は、そのようなことを、「イスラーム世界」という事象を相手に取り組んだ本。筆者も含め、これまで無意識・無批判に使用されてきたこの枠組みが、実は実世界には存在しえないということを論破する。
あたりまえのことをそうじゃない、といわなければならないため、前のページから順に読み進めると、ロンの進みの遅さに若干じれったいおもいをさせられる感もある。思い切って補論から読み進めると、より深い理解が可能かもしれない。 -
イスラーム世界という単語には、近代ヨーロッパのカウンターパートとしての概念が含まれている。文明や文化は比較で論じられるものではあるが、近代以降西洋文明が基準だった日本人は、常にヨーロッパ視点を通してイスラームを眺めてきたという事でもある。江戸期も一部の学識者に認識されていた事実や、明治以後イスラームが(主に学校で)どう紹介されてきたか見るくだりは興味深いが、正直今日一般の認識と大差無く、ある意味進歩が無い感はあった。もっとも、イスラームが地理的概念でないという主張がすんなり頷けるのは、9.11以後イスラームが大いに注目された経緯で、そこは我々の知識がアップデートされたから、かもしれない。イスラーム世界の<中の人>にとっても、イスラームの捉え方は世代や地域によって今後ますます千差万別で、こういうものだと決めてかからず、ふわりとしたフラットな感覚で接していくのが大切に思えた。