夢の国から目覚めても (星海社FICTIONS)

  • 講談社 (2021年3月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784065228081

作品紹介・あらすじ

百合同人漫画の執筆に没頭する有希は、サークル「ゆゆゆり」の相方・由香に「好き」という言葉を伝えられずにいた。
即売会で初めて出会った時、由香の傍らには彼氏がいた。
やがて彼氏とは別れたけれど、由香がなぜ百合を描くのか、この気持ちを打ち明けても彼女は突き放さないでくれるのか、有希にはわからないままだった。

レズビアンの有希とヘテロセクシュアルの由香。
有希がその想いを隠すことで成立した、脆い関係の行き先はーーーー。

百合小説の、百合小説による、百合小説のための新たなる金字塔!

みんなの感想まとめ

テーマは、百合というジャンルの本質やその存在意義を問い直すことで、読者に深い考察を促します。登場人物の有希と由香を中心に、彼女たちが直面する現実や社会の中での生きづらさが描かれ、特に女性同士の関係性が...

感想・レビュー・書評

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  • 宮田眞砂が2021年に発表した長編小説。百合同人漫画サークル「ゆゆゆり」の有希と由香を中心にした百合小説です。前半は有希と由香を中心に同人仲間たちとの日常が細やかな心理描写によって瑞々しく描かれています。後半は、同性カップルが直面する現実や社会の中で女性として感じる生きづらさなどが描かれます。そして、本作では「百合は誰のものか?」という問いが何度も登場します。その問いに対する様々な立場の人の答えが掲示されます。「百合」というジャンルをもう1度見直すきっかけとなる傑作だと思います。百合が好きな人は必読です。

  • 良作百合。

  • 「百合」創作に乗せるそれぞれの想いやSNSでよく見るダサピンク広告の話などうまく世相を取り入れている感じがする。ストーリーの運びにトリッキーなところはなく素直にするっと読める話だった。

  • 百合は誰のためにあるのか。リアルとも言い切れないが、エンタメとも割り切れない物語。
    レズの有希とヘテロの由香。現実と創作、レズと百合。難しい問題である。
    百合が消費され、創作と現実は切り離されていく。
    エンタメとして面白く、それでも現実的で幻想的なお話だった。
    百合は誰のためにあるのか。考えてしまったが、結局私は消費者にしかなれないのだろうなぁ、と思ってしまった。

  • 二行二段隔てて百合と夢、ふたりが重ね、有した由。

    「百合」――、ごく狭義の意味合いで言えば先に成立した男性同性愛を象徴する花「薔薇」の対義語。
    すなわち対をなす女性同士の友情、愛情を描いた創作の一ジャンルを意味します。

    もっとも近年のジャンル「百合」は愛から反転した憎悪、嫌悪、嫉妬などの負の感情を含むそうです。
    女性同士が巨大な自意識をぶつけあい、時に反転するさまを描くことで生まれる喜怒哀楽怨、感情のうねりがもたらす感動へとその範囲を広げているようですがそれはさておき。それも一説に過ぎません。

    ここで注目しておきたい観方は百合はあくまで「創作」の一カテゴリであるという点でしょうか。
    もちろん、「百合」も現実の女性同性愛「レズビアン」と重複する部分もあります。
    とは言え、フィクションと割り切って良くも悪くも客観視、理想化、偶像化などして楽しむための線引きとして捉える向きが強い。

    そういった点を踏まえたうえで、本作について続いて述べるとします。
    本作では「百合」という創作に向き合う現実、わかりやすい二項対立を前にした主人公を務めるふたりの女性が、苦悩と葛藤を経てから回復、調和していく流れを描きます。
    その中でタイトルにもある「夢」を絡め「百合」という命題に挑む――という構成を取っているのです。

    「夢(ゆめ)」と「百合(ゆり)」。
    一字違いでも五十音表からすれば隣り合える距離ではなく。
    「有希(ゆき)」と「由香(ゆか)」。
    主人公の女性ふたりは隣り合えていても理想を具現化した上記ふたつの概念とは隔たっている。

    「ゆ」がつないだ、たったの二文字に込めた思いがこの上なく伝わってくる、かもしれません。これまた私見ですが。

    そういったわけか、本作は二幕構成となっているのですが。
    前半は同性愛者である有希が煩悶し、苦悩する内向きの視点。
    後半はパートナーとして有希の思いに応えた由香が社会と折合っていく外向きの視点となっています。

    簡素な表現でこのふたりを言い表すことをお許しいただけるのならば。
    表紙の左半分を占めるボーイッシュで物憂げな有希がその印象を裏切らないほどには繊細で、ひるがえって右半分を占めるガーリッシュで物怖じをしなさそうな由香が、ささくれ立つほど臆病だからこそ強い。

    と、言った風でしょうか。
    孤独に自身の胸中を腕で抱きながら、必死に言葉を飲み込む有希。
    一足先に社会の荒波に挑んだからこそ、戦いの言葉を胸中で泡立たせる由香。

    もちろん、片側の視点に立てばもう一人の視点は見えません。
    この構成がまた、もどかしくもいとおしいのです。

    有希の視点からすれば、能天気にはしゃいでいるように見えた由香の姿は本人が抱える「女性」という性が潜在的に抱える不安の裏返しだったりで、外見と一見正反対だったので驚かせられました。
    それと同時に由香の視点に立てば、今度は実家の無理解という巨大な問題を潜在的に抱えながら、その先に、社会に挑んでいこうとする有希の姿が見え隠れするのに、力になりきれないのがもどかしい。

    そういったままならない現実を明け透けにしながらも、彼女たちは「百合」という創作(虚構)を愛し、微妙に噛み合わない双方の関係を、自身の言葉でかけがえのないものだと定義していきます。

    本作の前提として、主人公ふたりを繋ぐのが二次創作系同人サークルの共同執筆者という縁も大きい。
    ふたりは複数の劇中作、それから方向性は違えど、同じく「百合」を愛する男女問わずな、ほかの同人サークルの皆様とのゆるやかな連帯と対立を経て、答えを導き出していきます。

    ちなみに、劇中で取り上げられる作品としては創作三点、現実一点と順を追っての形。
    夢は夢だと知った上で、現実に穏やかに溶け込ませていくこの作品らしいですね。

    リアルに則し、互いに傷つけ、許し、最後は微笑みを向けられるはずの「凪と詩子」たちの物語。
    超越者になったからこそ誰よりも自由闊達に奔放に愛を囁けるようになった「まゆらとラァラ」の物語。
    ゆるふわで、だけど、だからこそマイノリティのそしりもなく互いを認め合える「おかしぶ」の物語。

    それらを受け、最後に紹介されるのは現実の百合の歴史を語る上では絶対に外せない、あの超有名作品。
    タイトルを出さずとも、あのフレーズだけで悟っていただけるはずの、あの作品です。

    作風は違えどこれらの作品を通して、百合が愛おしいものであるというメッセージを伝えてきます。
    その一方で、だからこそ、百合は大切なもので、傷つけたくないからこそ触れたくない――という相反する感情も頂点を極めるのですけどね。

    それを受けてのクライマックスを間近にし、視点に立たずとも同じく百合を愛する同好の士である男性の創作者が抱える煩悶も吐き出されるわけですが、ここで一つの答えが出たのだと、私は思いました。

    もちろんこれがすべてではないのだろうけれど、百合という名の理想に向き合う人々にはそれぞれの言葉が必要なのだろうけど、ほっとすることもできました。
    きっとこのレビューを書いている私自身、許しの言葉が欲しかったひとりになるのだと思います。

    ちなみに読者層としては、著者である宮田先生の紹介を見てもわかる通り、青い鳥のアイコンでおなじみのSNS「Twitter」文化圏に属し、「Pixiv」などの画像、小説投稿/閲覧サイトの文化に親しみ多少の知識を得ている方向けといえるのでしょう。もっとも、その辺の断りを今言っても詮無きことですが。

    時に2021年昨今、「新型コロナウィルス(COVID-19)」のために人と人とのつながりが絶たれ気味になりました。作中で重きを為す即売会もまた大きな影響を受けており、今後は不明にせよ僅かばかりの郷愁はあるのかもしれません。

    ただ、それらを抜きにしても本作は間違いなく「百合」という概念に向き合い、最前線を駆ける「最新」の作品です。最新が多少なりとも更新される日があろうとも、この最新は早々に揺るがない。
    なんなら、それを抜きにしても、その時の、たった今この時の、最新であることは絶対だと言い切ってしまってもいいです。答え抜きに大切だからこそ、どう向き合うか? という疑問は不動でしょうから。

    それと余談ながら、気まぐれで誰得な仕様変更を繰り返す、どこにいるやら青い鳥ですが「星(☆)」のアイコンを「いいね(ハート)」にしたことに感謝する日が訪れるとは思いませんでした。
    手に届かない星より、ぎゅっとしたい心と考えれば花弁の見立てと合わせこの作品に似合い過ぎていて。

    それでは最後のまとめも兼ねて少々思うことを述べさせていただきます。
    本書が二部構成というのは先に申し上げましたが、幕間からの転換は劇的な「夢」の実現という形で行われます。一度まぶたの帳を下ろしてから……、などと洒落込んだ言い方をしてもいいでしょうか?

    それから、少々はしたない言い方をお許しいただけるなら……。
    ひとつめは眠るときに見る「夢」――、寝屋での愛をささやくふたりの睦言を彩るためとして。
    ふたつめは現実に挑むためにぎゅっと胸の内に抱きしめる将来の展望や理想を具現化した「夢」です。

    そういった、夢の示唆として本書の表紙/挿絵を担当されるイラストレーター「切符」先生の筆による有希と由香、繊細ながらに、確かな存在に根差した美しいふたりにもまた注目しました。
    どちらの目が閉じられているか? もしくは、その逆か、目を閉じてゆっくりと、もしくは目を見開いてからじっくりと考えてみてもいいかもしれません。

    そうした上で、最後にもうひとつ。
    『夢の国から目覚めても』、タイトルにもあるこの言葉を、最も効果的なタイミングで引き出した、この作品ですが、あなたならどんな言葉を続けたいか? もしくは、言葉にしたくないか? 

    そういった問いを投げかけてきてくれるように思えてなりませんでした。
    さいわい、夢見る時も目覚める時も代わる代わるにやってきます。
    問いかけ自体が貴いとして、言葉紡ぐなら私はきっと、あわいを選ぶのでしょう。

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著者プロフィール

2020年に、第2回百合文芸小説コンテストに投稿した「天体の回転について」がpixiv賞を受賞。2021年、pixivに投稿していた同名の作品を改稿した『夢の国から目覚めても』(星海社FICTIONS)でデビュー。本作『ビブリオフィリアの乙女たち』が2作目となる。

「2022年 『ビブリオフィリアの乙女たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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