生物はなぜ死ぬのか (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065232170

作品紹介・あらすじ

【死生観が一変する〈現代人のための生物学入門〉!】
生命の死には、重要な意味がある。
遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」とは?



なぜ、私たちは“死ななければならない”のでしょうか?

年を重ねるにつれて体力は少しずつ衰え、肉体や心が徐々に変化していきます。
やむを得ないことだとわかっていても、老化は死へ一歩ずつ近づいているサインであり、私たちにとって「死」は、絶対的な恐るべきものとして存在しています。
しかし、生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり私たち人間が死ぬことにも「重要な意味」があるのです。
その意味とはいったい何なのか――「死」に意味があるならば、老化に抗うことは自然の摂理に反する冒涜となるのでしょうか。
そして、人類が生み出した"死なないAI"と“死ぬべき人類”は、これからどのように付き合っていくべきなのでしょうか。


■主な内容
・恐竜が絶滅してくれたおかげで、哺乳類の時代が訪れた
・宇宙人から見た「地球の素晴らしさ」とは
・地球上で最も進化した生物は昆虫である
・遺伝物質DNAとRNAの絶妙な関係
・「死」も、進化が作った仕組みである
・ヒトだけが死を恐れる理由
・"若返る"ベニクラゲの不思議
・超長寿のハダカデバネズミは、なぜがんにならないか
・ヒトの老化スピードが遅くなっている理由とは?
・「若返り薬」の実現性
・少なめの食事で長生きできる理由
・老化細胞は“毒”をばらまく
・テロメアの長さと老化は関係ない?
・生物学的に見ると、子供が親よりも「優秀」なワケ
・ヒトが生きる目的は、子孫を残すことだけではない
・“死なないAI”を生み出してしまったヒトの未来
・有限の命を持つからこそ、「生きる価値」を共有できる
・私たちは、次の世代のために死ななければならない
――すべての生き物は「死ぬため」に生まれてくる。

第1章 そもそも生物はなぜ誕生したのか
第2章 そもそも生物はなぜ絶滅するのか
第3章 そもそも生物はどのように死ぬのか
第4章 そもそもヒトはどのように死ぬのか
第5章 そもそも生物はなぜ死ぬのか

感想・レビュー・書評

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  • スケール大きく、知的刺激溢れる。しかも、説明上手で分かりやすい。生物学の込み入ったDNAの話とか、関心があるのに理解が及ばない領域に一歩踏み入れたい人にはオススメの入門書と言えるだろうか。話は宇宙の成り立ちから始まる。

    現在観測できる最も遠くの星は、2018年にハッブル宇宙望遠鏡がとらえたイカロス。地球からの距離は90億光年。幅が30メートルある巨大な望遠鏡TMTでは、138億光年先が見える。宇宙にはおよそ10の22乗個、つまり1000億の1000億倍以上の恒星があると推定される。太陽系のように恒星である太陽の周りに惑星が8個あるのは例外的に多く、恒星の周りに惑星がない方が一般的。現在までに発見されている惑星は4400程度で恒星に比べるとかなり少ない。中でも生物が存在する可能性のある惑星はかなり限られる。

    ビックバンの巨大なエネルギーが宇宙を膨張させ、星を作り、太陽系を作った。ビックバンは物質や質量を生み出すと同時にそれらの化学反応も作った。化学が登場する。つまり物理学の後に化学が生まれ、生物学はその後に続く。

    そこからなのだ。地球の素晴らしさは、生物の多様性だと著者は言う。多様性は進化の歴史だ。絶滅を伴うターンオーバーが生物の進化を加速。例えて言うなら、容赦ない生物界のリストラが進化の原動力。やがて絶滅するか生き延びるかと言う生命誕生時代ステージから、共存のステージへと変わっていく。そのことが多様性を生んだ。

    適応放散とは、恐竜などの生活場所に別の生き物が時間をかけて、適応進化してその場所で生活できるようになること。食料不足に強い小型の生物や食料の探索能力が高い鳥類が生き残った。昼行性の恐竜がいない新生代は夜行性である必要もなくなった。その頃に豊富な果実によって、霊長類の祖先は、体内でビタミンCを作る遺伝子を失った。代わりに、夜行性の時代には、2色の色覚遺伝子のみだったが、色覚遺伝子が1つ増えた。これにより、より果実が見つけやすくなったと考えられる。

    よりミクロな話。DNAが誕生する前にRNAが遺伝物質として使われていたと考えられていた。DNAの方がより安定して、しかも2本がくっついた二重螺旋構造なので、より長い分子が維持できてたくさんの移転情報を持つことができる。しかしDNAもRNAも脆弱。紫外線によって強く欠乏してしまうし、放射線によってDNAはすぱっと切断されてしまう。活性酸素によってもDNAが酸化。

    ミトコンドリアは酸素呼吸を行うプロテオバクテリアと言う細菌だった。それを取り込むことで真核細胞が誕生した。一方、葉緑体はもともとシアノバクテリアだった。それを取り込んで、植物細胞が誕生した。

    細胞の話から、ようやく死の話へ。細胞が老化すると、アポトーシスが起こりにくくなり、組織にとどまる傾向がある。そのとどまった老化細胞が、サイトカインを撒き散らす。それにより炎症反応が持続的に起き、臓器の機能を低下させたり、動脈硬化や癌などの原因となる。また、DNAに傷がつくことで、老化が促され結果として死に至る。

    個体にとって、死は忌むべきアクシデント。しかし、種の保存や進化にとって、個々の死は必要な過程だと改めて学ぶ。また、しかし人間には死を悼む情緒も備わっており、必ずしも生態系における合理性だけでは死を扱えないという点にも触れる。バランスの良い内容だ。

  •  語りかけるように説明されています。まずはビッグバンから、えぇ!?そこからですか?、もしかして、小林先生、お子様や学生さんに説教するとき、ビッグバンから入るタイプですか?

     といういうわけで、ビッグバンから生命(生物)誕生、生物の進化について説明されます。そこでのキーワドの一つが「ターンオーバー」作っては分解して造り変えるリサイクル、もうひとつが「選択と変化」と「多様性」です。特に強調されていたのが、進化を加速するものとしての「絶滅」です。恐竜の時代から哺乳類の時代へ移れたのも絶滅のおかげ、という訳です。
     そしていよいよい「生物はどのように死ぬのか」「ヒトはどのように死ぬのか」とすすみ、最終章で「生物はなぜ死ぬのか」と、まとめていらっしゃいました。

     私が面白かったのは、「どのように」のところですね。いろいろと知らないことを教えていただき、勉強になりました。
     私が特に面白かったのが、テロメア短縮で老化スイッチON!なんだけど高齢者テロメアは極端に短い訳じゃなくて個体レベルではまだよく分らん、そうなんですね勘違いしてました。
     そして「アポトーシス」に関わるお話も興味深かったです。細胞死しない老化残留細胞は、炎症性サイトカインまき散らして、大暴れするそうです。細胞死を邪魔しているのが、FOXO4というタンパク質。そんでもって、そいつを邪魔すると、マウスの毛がフサフサとか。

      テロメア合成酵素も大切、酸化・DNA損傷を避けることも大切、そしてアポトーシスも大切なんでね「老化」には。
     私の場合、自分が死ぬという意識が希薄なのか、「死」よりは「老化」視点で読んじゃったみたいです。

  • ーつまり、死は生命の連続を維持する原動力なのです。本書で考えてきた「生物はなぜ死ぬのか」という問いの答えは、ここにあります。
    本文より引用

    ここ一週間以上、体調を崩して本を読む事ができなかったのだが、久々に読書ができて嬉しい。しかしまだ頭がぼーっとするので全て頭に情報が入ったかどうか…
    それはさておき。
    タイトルに惹かれて手に取った本書。きっと私以外にもたくさんの人が興味を示すテーマである事だろう。本書は生物学の観点から、様々な視点から生物の絶滅や進化、そして死について語る。
    「生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。」という言葉は強く印象に残る。
    次の世代のために死ななければならないヒトと、死なないAI。そういった見方も興味深かった。
    そして死を意識するのはヒトだけであるとしたうえで、なぜヒトは死を恐怖するのか?について、「ヒトにとって「死」の恐怖は、「共感」で繋がり、常に幸福感を与えていてくれたヒトとの絆を喪失する恐怖なのです。また、自分自身ではなく、共感で繋がったヒトが亡くなった場合でも同じです。」と綴られており、なるほど確かにと頷いた。
    共感能力が高いからこそ、ヒトはここまで進化してこれたし、死に怯え、悲しむ。
    難しく感じる部分もあったが、思った以上にするりと読めた。生物はなぜ死ぬのか。最後まで本書を読んでも、全てが釈然としたわけではない。きっとそれこそ、死ぬまで考えるテーマになるのだろう。これからもヒトが追い続けるテーマなのだろう。
    そう思えば思うほど、死と生の奥深さを改めて感じる。

  • 生物学者が論じる生と死の話は、138億年前の宇宙の始まりに遡ります。
    地球を含む太陽系ができたのは46億年前。
    宇宙は、今もなお膨張し続けているのだとか。
    目の前のあれやこれやが、とんでもなく小さく感じられます。

    地球に生命が誕生した奇跡について、こんな例え話がありました。
    「25メートルプールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、
    ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、
    しかも動き出す確率に等しい。ゼロではないが奇跡」
    奇跡というよりはゼロに近い気がするけれど
    生命誕生の神秘はじゅうぶんに伝わりました。
    私たちは、そのとんでもない奇跡の延長線上で
    毎日、泣いたり笑ったり しているのですね。

    恐竜などの生物種の70%が消えたのは、6,650万年前の白亜紀。
    原因は隕石の衝突と考えられているようですが
    その結果、人類の祖先である小型哺乳類が生き延びたそうです。
    その後の進化は 恐竜の絶滅(死)によってもたらされたもので
    死と進化の間には密接なつながりがあるとのこと。
    生物学的観点からの解説が興味深いです。

    子孫を残した後、さっさと死んでしまう昆虫やサケ。
    死骸は他の生物の餌となり、生を繋いでいきます。
    一方、ヒトは子どもを産んだあとも長く生きますが
    それは一人前になるまで親やコミュニティーの保護が必要だからで、
    自分で産まなくても、社会全体で子育てに関わるのがヒトだと。
    「子育ての質」は「社会の質」という言葉があって、
    素敵な表現だけど、難しいことでもありますね。

    また、老化を防ぐ研究についても述べられます。
    研究に 寿命の短い酵母を使った というのがびっくりでしたが
    餌の糖分を四分の一に減らしたら、寿命が30%延長したとか。
    食事は腹八分目。
    糖分の摂取を抑えるのが効果的なのだそうです。
    でも、大好きな甘いものをやめたらストレスが溜まる!
    なんでも、ほどほどに…。

  • 人類必読!私たちが死ななくてはならない「2つの理由」 とは?(小林 武彦) | 現代新書 | 講談社
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81898

    生物はなぜ死ぬのか? 小林武彦東大教授インタビュー WEDGE Infinity(ウェッジ)
    https://wedge.ismedia.jp/articles/-/23934

    『生物はなぜ死ぬのか』(小林 武彦):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000351419

  • 生物学の知識が全く無い私でも読みきることができた。
    途中何ヵ所か、生物学の用語を交えた遺伝子分裂等の説明があり難しく感じた。ただし、遺伝子が変異を起こして「多様性」が生まれることや、死に方によって種の存続のために細胞の変異の仕方が変わり、進化を遂げるという大筋は何となく理解した。
    更に、人間の身体が健常であるプログラムが55歳であり、細胞がガン化するリスクが急激に高まるといった解説は興味深い。55歳以降は、老化と医療技術との戦いということか。
    死ぬことが創造の始まりという哲学的な解釈は、いずれ死ぬという運命を多少は受け入れる気持ちになるし、より良く生きようという気持ちを強くさせてくれる。

  • 小林武彦(1963年~)氏は、九大大学院医学系研究科博士課程修了、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東大定量生命科学研究所教授。前日本遺伝学会会長。
    本書は、生きている我々にとっての根源的な問いである「なぜ、私たちは死ななければならないのか?」について、生物学的視点から考察したもので、著者は、その謎を解くカギは「進化が生物を作った」という事実にあるとする。
    本書の構成および概要は以下の通りである。
    第1章:そもそも生物はなぜ誕生したのか・・・生物を定義づける「自己複製(自身のコピー、子孫を作ること)」の仕組み。これによって、「ターンオーバー(生まれ変わり)」が可能となった。
    第2章:そもそも生物はなぜ絶滅するのか・・・生物の進化、多様化の仕組み。変化(変異)と選択(絶滅・死)の繰り返しを経て、我々を含む現存の生き物が結果的に誕生し、存在している。即ち、「進化が生き物を作った」のである。
    第3章:そもそも生物はどのように死ぬのか・・・(老化しない)細菌的死に方、単細胞真核生物的死に方、(生殖で死ぬ)昆虫的死に方、(大きさで寿命が決まる)ネズミ的死に方、(超長寿の)ハダカデバネズミ的死に方、大型の動物の死に方、等、生き物によって違いはあるものの、それぞれの死に方は共通して、生き残るために進化していく過程で「選択された」ものである。
    第4章:そもそもヒトはどのように死ぬのか・・・老化の仕組み。細胞分裂に伴うゲノムの傷の蓄積(がん化)が、それを抑えるために進化で獲得した免疫機構や細胞の老化の仕組みの限界を超えると、老化を主因とする病気との闘いが始まることになるが、その限界年齢(進化で獲得した、ヒトの想定年齢)は55歳くらいであり、ヒトはその想定を超えて長生きになってしまった。
    第5章:そもそも生物はなぜ死ぬのか・・・上述の進化(変化と選択)の仕組みの通り、生物学的に見れば、子供の方が親よりも多様性があり、生き残る可能性が高い存在である。よって、ヒトにとっても、全生物にとっても、生れて来たものは、より進化した次の世代に命のたすきを委ねて、利他的に死ななければならない。

    「我々は、自分たちよりも進化・多様化した次世代のために、死ななければならない」という結論は極めてロジカルであり、目から鱗である。それによって、この世界から自分がいなくなることへの恐怖が即座に薄れるわけではないが、死の意味、延いては生の意味を大局的に考えるきっかけになる一冊と思う。
    (2021年4月了)

  • 重そうなタイトルだか、生物学的視点から興味深く読むことのできた一冊です。
    死は現在生きているものから見ると、「終わり」だが、進化が作った重要な仕組みで、長い生命の歴史から考えると、新たな変化の「始まり」でもあるのだ。

  • 自然科学 (天文学、物理学、化学、生物学)がそれぞれ扱う時間領域の違いを示してくれた箇所が本当に面白かった。

    腕時計を部品にバラして、25メートルプールに入れて
    かき混ぜたら部品が近寄ったり離れたりするが、
    とてつもない小さな確率で、かき混ぜたプール内で時計が組み上がり、それが作動する それくらいの小さな確率で星に生物が登場する、と書いてあった箇所はしびれました。

    進化が生き物を作った。ただしそれはたくさんのプールがあって、たまたま有利で生き残ったから進化となった、と何度も繰り返して書かれている。
    生物学の視点から死に方の分類が提示されていたのも目から鱗が落ちるようだった。

    • 心配症子さん
      フォローありがとうございます^^
      高倉の健さんもよい名前ですね♪
      よろしくお願いしますmm
      フォローありがとうございます^^
      高倉の健さんもよい名前ですね♪
      よろしくお願いしますmm
      2023/01/18
  • 多様性の最新データを持った子孫を残すために、私たちは生きて死んでいく。

    (現在の)人間の最大寿命は115歳くらいで、ゲノムの傷の蓄積量が限界値を超えるのが55歳ということらしい。

    どんどん平均寿命が伸びている気がしていたので、人間ってどこまで生き続けられるんだろうと思わなくもなかったが、限界がちゃんとあって、なぜかホッとしている自分がいる(笑)

    先進国からどんどんと少子化が進んでいき、やがて人間という種がいなくなる危険性まで指摘されているのだけど、それは社会的な要因だけが理由なんだろうか。

    つまり子供を産みやすい環境にさえなれば、幾らでも回復する可能性があるのだろうか。

    人間の意志や意識と、生物としての本能、無意識の重なりを色々と考えてしまう。

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著者プロフィール

生物学者。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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