真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065235348

作品紹介・あらすじ

日本の左翼は何を達成し、なぜ失敗したのか?
ーー忘れられた近現代史をたどり、未来の分岐点に求められる「左翼の思考」を検証する壮大なプロジェクト。

深刻化する貧困と格差、忍び寄る戦争の危機、アメリカで叫ばれるソーシャリズムの波。
これらはすべて、【左翼の論点】そのものである!
激怒の時代を生き抜くために、今こそ「左の教養」を再検討するべき時が来たーー。

◇◇◇◇◇

戦後復興期に、共産党や社会党が国民に支持された時代があったことは、今や忘れられようとしている。
学生運動や過激化する新左翼の内ゲバは、左翼の危険性を歴史に刻印した。
そしてソ連崩壊後、左翼の思考そのものが歴史の遺物として葬り去られようとしている。

しかし、これだけ格差が深刻化している今、必ず左翼が論じてきた問題が再浮上してくる。
今こそ日本近現代史から忘れられた「左翼史」を検証しなければならない。

「日本の近現代史を通じて登場した様々な左翼政党やそれに関わった人たちの行い、思想について整理する作業を誰かがやっておかなければ日本の左翼の実像が後世に正確な形で伝わらなくなってしまう。私や池上さんは、その作業を行うことができる最後の世代だと思います。」(佐藤優)


【本書の構成】

◇日本共産党の本質は今も「革命政党」
◇社会党栄光と凋落の背景
◇アメリカで社会主義が支持を集める理由
◇野坂参三「愛される共産党」の意図
◇宮本顕治はなぜ非転向を貫けたか
◇テロが歴史を変えた「風流夢譚事件」
◇労農派・向坂逸郎の抵抗の方法論
◇「共産党的弁証法」という欺瞞
◇労働歌と軍歌の奇妙な共通点
◇共産党の分裂を招いた「所感派」と「労農派」
◇毛沢東を模倣した「山村工作隊」
◇知識人を驚愕させた「スターリン批判」
◇天才兄弟と称された上田耕一郎と不破哲三
◇黒田寛一と「人間革命」の共通点
◇現在の社民党は「右翼社民」

感想・レビュー・書評

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  • 両著者による対談集は、すでに10冊以上出ている。それらの中でも、本書はかなり上位に位置すると思う。この名コンビのよいところがいかんなく発揮されているのだ。

    書名のとおり、日本の左翼史を振り返る内容。
    シリーズ化される予定だという。本書で俎上に載るのは終戦直後から1960年代初頭までで、それ以前と以後については別の対談集で扱うのだ。

    なぜいま、あえて日本左翼史なのか?
    一つには、世界的な格差拡大や貧困問題の深刻化に応じて、日本を含む各国で〝左翼の復権〟ともいうべき動きがあるからだ。

    《(近年)マルクスの読み直しが盛んに行われているのは、格差や貧困といった社会矛盾の深刻化が背景にあるからにほかなりません。(中略)
     格差の是正、貧困の解消といった問題は、左翼が掲げてきた論点そのものです》(14~15ページ/佐藤の発言)

    だが、知識層が左翼にシンパシーを抱くのが普通だった昔とは違い、いまの若い世代は死ぬほどノンポリであり、左翼史の「基本のき」すら知らない人が多数派だ。
    それは好ましくないということで、くわしい両著者が左翼史の基本からレクチャーしてくれるのが本書である。

    池上彰のヒット作に、『そうだったのか! 現代史』という平易な概説書シリーズがある。本書はいわば、『そうだったのか! 日本左翼史』ともいうべき内容だ。
    わかりやすくて面白く、資料的価値も高い、

  • 社会主義と言うと、どうしても共産主義と混同しがちである。
    最近は社会主義を見直そうと言う思想も出てきているが、とかくイメージが悪く、なんだかちょっと怖い気もしていた。
    しかし、「左翼」を私はよく知らない。
    そこで前回からこのシリーズを読み始めている。

    まず驚いたのはリベラルと左翼は本来は対立的概念であると言うこと。
    平和イコール左翼ではないなんて、目から鱗だ。
    人間の理性は不完全であり、だからこそ漸進的に社会を変えようとするのが右翼。
    国民の心情、精神に改造を施すというのは右翼は本来大嫌いで…となると、今までの私の感じていた右派左派が完全に逆転する。
    なんてこった。

    革マル派最高指導者、黒田寛一の思想にも驚きを隠せない。
    社会の一人ひとりが思想を通じ個々に人間革命を起こし…って人間革命?
    創価学会と同じ?!(殺人を肯定するか否かと言う違いはあるが源流に類似性がある)どちらも正直よく知らないけれど、
    政治思想と議席を得ることは矛盾していてもよくて、となると…。
    各党の主張がどれも信じられなくなってくる。

    さらに左翼を下支えする労働組合も、労働は美徳と言いながらサボればサボるほど革命に近づく(旧国鉄)など…
    果たして私がイメージしていた左翼ってなんだったんだ?

    シリーズを全て読めば多少はわかるのか。
    シリーズ3作目に何が書いてあるのか、怖いけれど楽しみでならない。

  • 私って左翼のこと知らなかったんだなあと
    読んでから知りました。
    わかっているような気になっていたんですね。
    勝手に解釈していたことが、ああ、そういうことだったんだーって。
    いろいろなことがすっきりして良かったので
    続編(佐藤優さんが生まれて以降)が楽しみです。

    分裂と統合の繰り返しはよくわかったのですが、
    どうしてもわからないところがあります。

    50年の分裂。
    コミンフォルム(コミンテルンが1943年に解散した後、戦争が終わり、また共産主義革命の機運が盛り上がると、やはり国際共産主義運動の拠点が必要だということになったので新たに「共産党間労働者党間情報局(=コミンフォルム)」を作った。最初、本部はユーゴスラビアのベオグラードに置かれたが、ユーゴスラビアが革命方針をめぐってソ連とぶつかってしまったので、ルーマニアのブカレストに移った)が、『日本の情勢について』という論文を機関紙に掲載、平和革命など非現実的だから武装革命、暴力革命をやれと尻を叩いた。

    これによって、日本共産党内部に酷く捻じれが生じ、二つのグループに分断。
    「コミンフォルムの指示には従わない」(6日後)徳田、野坂らその当時の主流グループ「所感派」と呼ばれる。
    「従うべき」と宮本顕治志賀義雄ら「国際派」と呼ばれる。

    ところが所感派はその5日後、中国共産党から平和革命路線を批判されたこともあって、「所感」の取り消しを決定、翌日180度方針転換して平和革命論の放棄を宣言。
    その後いろいろあって、徳田野坂は中国に亡命し、北京に移った指導部「北京機関」から武装闘争を指示するのです。

    なんで?どうして180度も転換するのでしょうか?
    大島渚監督の『日本の夜と霧』を見たら、
    何かわかるでしょうか。

  • 労農派と講座派の対立から説き起こした左翼の戦後史。
    明治維新の評価の差=日本社会の現状認識の差 となったというのが盲を啓かれた感じ。
    労農派は維新を封建制を倒したブルジョア革命と定義し、維新後の日本は資本主義→帝国主義段階と考えてダイレクトに社会主義革命を志向した。労農派≒社会党系の認識は、我々一般人にも理解の可能な範疇かと思う。
    が、講座派は維新後の日本を半封建社会と捉え、まずは民族主義革命による国民国家の樹立を目指せ!と二段階革命を号令する。この講座派=共産党の強烈な認知の歪みには、びっくり仰天な雑魚なのです。
    そして、おそらく正しい認識をしていた労農派≒社会党の現在がほぼ壊滅なのに対し、ヤバめで異常な認識から出発した講座派=共産党は冷戦敗北の試練を乗り越え一周回って党勢は再興。なんたる歴史の皮肉ね。
    これはアレですかね、教義は狂ってるほど良いって宗教大原則その1(個人の偏見です♪)が適用される事例なの?と考え込んだり。
    鉄の規律と歪んだドグマを金科玉条にゴリゴリと党組織を全国展開し、人材も資金も自前ので調達する共産党の昭和で20世紀な組織戦略が正解だったのか?と想いを巡らせたり、
    ノリと勢いに適度なゆるふわを売りに幅広く国民大衆を糾合したけど、党の組織や機能の強化を怠り、理論面は社会主義協会に丸投げで、資金や選挙運動は総評に依存した社会党の、ある意味今風な提携と外注を駆使した戦略は間違っていたのか??と思案したり。
    ともあれアウトソーシング全盛の現在に、自己完結型組織の強靱さを示した好例かも。とか歴ヲタとしては考え込んだりするのだな。
    何と言うか、時代が一周し戦乱の時代が迫る今こそ、ビジネスパーソンは考えるべきよ♪
    あと、革共同系の革マル派の理論家を推してたのが以外だったけども、よく考えてみれば、時代の徒花的に大暴れして玉砕したブント系よりも、曲りなりに今も命脈を保ってる革共同系の革マル派や中核派のほうが、依拠する革命理論とその理論の具現たる組織の骨格も見るべきものがあるって事なのかな?
    命脈を保ち元気にテロられても困るが、良いものは良いって認めようってこと?ぬぅ(-_-;)
    このあたりの、新左翼運動の勃興と壊滅は次巻のメインテーマになるとおもう。
    楽しみなのだ♫

  • スターリン批判が世界に及ぼした影響が、教科書的な知識よりも大きかったのですね。
    対談形式なので、語り手(佐藤氏)の口調に引きずられるのだけど。

    まあ1945年から1960年あたりは既知の話が多い印象。
    次巻で語られる1960年代以降、新左翼の話は佐藤氏も池上氏も地続きの時代に生活していたのでよりライブ感が出てくるのかなと楽しみ。私にとってはゴチャゴチャしているし。

    面白かったのはこのあたりの佐藤氏の発言。
    ーーーーー
    「どんなものにも良いものと悪いものがある」というロジックは、共産党的弁証法の特徴です。「良い戦争」と「悪い戦争」があるように、「良い核兵器」と「悪い核兵器」もあって、ソ連や中国などが持つ核兵器は帝国主義者による核兵器を阻止するものとして正当化される。
     そしてこの延長で「良いスキャンダリズム」と「悪いスキャンダリズム」という理屈も当然ありえるわけです。権力者のスキャンダルを暴くのはいいことだけど、共産党員のスキャンダルは党内部で処理するべきことであり、これを外部に漏らす行為は反階級的であり反革命だ、などというダブルスタンダードな言辞を悪びれることなく言えてしまう。
    ーーーーーー
    これを読んで、「良い円安」と「悪い円安」があるとか言ってた日銀総裁を連想してしまった。言われてみれば、(金融)政策で経済をコントロールできると考えていそうなところは計画経済信奉者っぽくも見えるし。

  • 一言で言うと、難しい。
    政治に対する予備知識が全く無い中で読むとほとんどが理解できない。
    今の共産党や社民党の姿だけを見ていると気づかない、戦後における両党の歴史について学ぶことができたものの、なかなか頭に入ってこない。。
    ただ、同様の左翼右翼についての本でも記されていたが、今はこう言った考え方を知らなくても良い程、日本は平和なのだろうと改めて感じた。
    左翼の考え方、やってきたことはどうあれ、国の行末を案じて本気で行動を起こしてきたことに嘘はないのだろう。
    このシリーズは他にも2冊あるようなので、とりあえずは読んでみようと思う。

  • 左翼本はこれまでちょくちょく読んできたつもりだったが、社会党についてはほぼ知らなかったなあ。と痛感し反省。共産党よりずっとインテリで議席もずっと多かったのか。ソ連を取り巻く空気感も書物を通してしか想像できないな。

    「左翼=平和路線ってなってるけど本来の左翼は革命のためなら暴力は辞さないし自分たちが有する暴力は肯定する」というの、私の考えと同じすぎて笑った。右でも左でもなくさおり、とか言ってたけど、普通に左やん笑

    私は共産党が今も革命政党であることが悪いことだと全く思わない。むしろ立派。
    資本論関連本が売れたりとか時代が左派的になってきているというのは否定しないけど、それでも共産党が政党として現代において力を持つ風景というものは正直全く想像できない。
    自己責任論を内面化している今の若い人たちが、この社会をどれだけ本気で「政治的な力で変えよう」と思えるのかがなぞいな。
    選択的夫婦別姓や同性婚など極めて現実的なイシューに対してならアクション起こしうる(実際に起こしている)が、理念的理想に向かって変革!とかなるのかな?と素直に疑問。

    「左翼の悲劇を繰り返さないために」という本書の問題意識には非常に共感するし、続刊も楽しみ。

  • 本とオーディブルの二本立てで読みました。基礎知識がないなりに、左翼というものの本質がわかった気がする。
    私にとっては、序章のベースの解説がとても参考になってありがたかった。

  • 現在の共産党、社民党の源流を点検し、コロナ禍で浮き彫りにされた格差社会を背景に見直されている、社会主義的考え方を正しく理解するための本。
    面白い。共産党の繰り返される、矛盾多き主義主張の方向転換。社会党を構成した人々の多様性と分派、分裂、再統合の繰り返しなど。

  • 池上彰x佐藤優の対談が好きなので、好み補正もあっての★5つ。
    でも、この2人の対談本は高度な内容なのにわかりやすくて、すごく好き。

    右翼左翼はいつもわからなくなって調べるんだけど、やっぱりよくわからない。
    本書でも正直明確に理解できたとは言い難い。
    しかし、左翼=リベラルと言いつつ、複雑な経緯を経ての今があり、だからこそ単純に分類して理解できるものではないということがわかった。
    社会党が輝いていた時代を知らないので、本書を読まなければ事実を知ることも、その背景を知ることもなかっただろうと思う。

    続編も楽しみ。

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著者プロフィール

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

「2023年 『世界を動かした名演説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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