invert 城塚翡翠倒叙集

著者 :
  • 講談社
3.74
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感想 : 672
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065237328

作品紹介・あらすじ

★★★★★
★第20回本格ミステリ大賞受賞
★このミステリーがすごい! 1位
★本格ミステリ・ベスト10 1位
★SRの会ミステリーベスト10 1位
★2019年ベストブック
さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補
あまりの衝撃的結末に続編執筆不可能と言われた、5冠獲得ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』待望の続編!

すべてが、反転。

あなたは探偵の推理を推理することができますか?

綿密ば犯罪計画により実行された殺人事件。アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだった。
だが、犯人たちのもとに、死者の声を聴く美女、城塚翡翠が現れる。大丈夫。霊能力なんかで自分が捕まるはずなんてない。ところが……。
ITエンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。すべてを見通す翡翠の目から、彼らは逃れることができるのか?

ミステリランキング五冠を獲得した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、待望の続編は犯人たちの視点で描かれる、傑作倒叙ミステリ中編集!

invert
in・vert
他…を逆さにする,ひっくり返す,…を裏返しにする;
〈位置・順序・関係を〉反対にする;〈性質・効果などを〉逆転させる;
inverted detective story:
倒叙推理小説

感想・レビュー・書評

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  • invertとは「ひっくり返す」で、inverted detective storyは「倒叙推理小説」のこと。3篇ともまず犯人の殺人から始まる。警察に協力する霊媒師の城塚翡翠が、手練手管を使いながら犯人を追い詰めていく。表向きは霊媒師だが、実際は観察力と推理力で装っているだけのようだ。「雲上の晴れ間」では、犯人の恋人になってしまう翡翠。これを楽しんで演じていて、変態度満点。「泡沫の審判」は真っ当な論理力で犯人の女性教師を追い詰める。殺された男は卑劣な奴で、教師に同情の余地はありそうだが、翡翠は殺人に正義はないと言い切る。「信用ならない目撃者」これにはやられたなあ。このどんでん返しには驚く。実にいい。それにしても翡翠って、へんなやつ。翡翠の世話役の千和崎真の存在も面白い。

    • かなさん
      goya626さん、おはようございます。
      翡翠ちゃんもそうですけど、真ちゃんのキャラ、気になりますよね!
      もうすぐ「invert II ...
      goya626さん、おはようございます。
      翡翠ちゃんもそうですけど、真ちゃんのキャラ、気になりますよね!
      もうすぐ「invert II 覗き窓の死角」が発売になるので
      今から楽しみです。

      goya626さんとはいいねのやりとりはあったけれど、
      今後も読書を通じての交流出来たらと思いますので
      フォローさせていただければと思います。
      今後もよろしくお願いします。
      2022/09/06
    • goya626さん
      かなさん
      ほよよ~、invertⅡが出るのですか。それは楽しみです。真ちゃん、いけてます。今度はどうかな。
      私もフォローさせていただきま...
      かなさん
      ほよよ~、invertⅡが出るのですか。それは楽しみです。真ちゃん、いけてます。今度はどうかな。
      私もフォローさせていただきました。これからよろしくお願いします。
      2022/09/06
  • 霊媒探偵・城塚翡翠の二作目。
    発売の1か月前に図書館予約したら今回は一番に借りられました。

    翡翠ちゃんが、今度は一体どんな活躍をみせてくれるのか期待して読みました。

    中編が三篇。

    一作目、「雲上の晴れ間」
    殺人犯の自宅に「隣に越してきた城塚で~す」で出た~!と思いました。でも、犯人の男性はいくら翡翠のことを好きになってしまったからといって、自らも犯行現場を翡翠と一緒に訪れるバカだと思いました。
    霊感があると翡翠は言っていますが、翡翠には霊感など全然ないことが前作でわかっているので、読んでいて可笑しかったです。
    あと、翡翠が言葉のあとに何でも「さん」をつけるたびに(翡翠ったらうっかりさんとか)翡翠ちゃん可笑しいけどやっぱり可愛いと思いました。

    二作目「泡沫の審判」
    元校務員が小学校で転落死して、犯人は小学校の女性教員なんですが、動機が頷けるものなんですが、翡翠ちゃんがそれでも「殺人はしてはならないものです」と言い犯人に自首を勧めてあげます。

    でも、ここ、二作目までは前作のどんでん返しがあまりに強烈に面白かった為、期待値が上りすぎて少しパワーが落ちてきている気がしていました。

    そこに三作目「信用ならない目撃者」
    これは、期待を裏切らない面白さでした。
    犯人と犯人の犯行を目撃した女性が恋に落ちるんです。
    もちろん目撃者は犯人の顔は覚えていません。
    そこに翡翠ちゃん登場。
    元刑事の犯人の狡猾さに翡翠ちゃん苦戦を強いられて「ええっ!翡翠ちゃんの命が!」と思いきや見事に翡翠ちゃんにはまた騙されました。翡翠ちゃんパワーが炸裂しました。ここまで騙されると逆に気分がよくなりますね。翡翠ちゃんに言わせると「あんなのは小者」だそうですが。
    今回はサポート役の真ちゃんの活躍ぶりもお見事でした。
    面白かったです。

    翡翠ちゃんは会話が楽しいし、次回作があるとしたら今度は一体どんな風に騙してくれるのか楽しみです。

  • 『はたして、あなたは探偵の推理を推理することができますか?』

    「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編。
    こちらではサブタイトルが『城塚翡翠倒叙集』となっていて、『霊媒探偵』の肩書が消えている。個人的には彼女の言う『魂の匂い』『オーラ』のようなものが見えるという言葉を信じたい気持ちもあるが。

    『相手をもっとも苛立たせる言葉は、あわわ、ではなく、はわわ。あららではなく、あれれ、です』

    やはりわざとやってたのか、あれ。

    今回は『倒叙集』というだけに、刑事コロンボシリーズや福家警部補シリーズのようにあらかじめ犯人は分かっている。そしてコロンボ刑事や福家警部補のように一見冴えなかったりドジっ子だったりして相手を油断させておいて、しつこく食い下がってボロを出させるという手法なのだが、そこは城塚翡翠、ただの探偵ではない。

    ある時は犯人の隣人として、またある時は犯人の同僚として現れ付きまとう。
    若くて美しく時に天然っぽさを見せれば男は見事引っかかるし、女性は逆に苛立って感情をあらわにする。だが最後の犯人はなかなかボロを出さない。何故なら殺人事件捜査を知り尽くしている元捜査一課刑事だからだ。

    翡翠のやり方は執拗で厭らしい。私が犯人だったらいい加減にしてくれと叫び出しそうだ。だが捕まるわけにはいかない犯人は必死で保身のための策をめぐらす。その時点ですでに翡翠に負けているのだが。

    『ボールを進めるための複雑怪奇な装置の役割は、凡人には理解が難しすぎる』
    『推理小説においても、読者にとって論理はないがしろにされるもののような気がします』
    『推理小説は、推理を楽しむことよりも、驚くことが目的となって読まれているんじゃないでしょうか』

    翡翠のなかでは犯人を犯人とするだけの論理があるのだが、警察はそれだけでは逮捕できないし、読者も理解できない。それをどう面白く、理解できるように見せるのかで行き着いたのが城塚翡翠というキャラクターなのだろう。

    前作ではあまり登場シーンのなかった千和崎真がけっこう活躍していて嬉しい。彼女は私のような読者視点で翡翠を見てくれているので、唯一肩が凝らない。真まで信用ならないキャラクターだと一体この作品をどう見れば良いのか分からなくなってしまう。
    真が思うように翡翠はどこまでが本当の姿なのか。何もかもが計算ずくで真の姿はまた別にあるのか。
    翡翠がなぜこれほどまでに殺人者を徹底的に追及するのか、そこは今後明かされるところなのだろうか。

    個人的には第二話の犯人は同情するのでそこまで追い詰めなくてもとは思ったし、第三話はちょっとズルいなとも思ったが、思い返せば前作でも似たようなことをしていたし、翡翠のキャラクターや行動は変わっていなかった。

    すでに第三作が出ているらしい。ここではどんな翡翠が見られるのか。真も活躍して欲しいが、くれぐれも身の安全だけは確保して欲しい。

  • 前作で大どんでん返しを見せ、犯人にも読者にも遠慮がなくなったのかぶりっ子・ドジっ子のギアをしっかり上げてきた城塚翡翠 笑。「はわわ」等のぶりっ子用語?と色じかけで追い込まれる犯人に同情してしまいます。。他の方もレビューで書かれていますが、先に犯人の視点で物語が語られて翡翠がそれを解いていく流れなので古畑任三郎に似ています。真ちゃんの何気ない言動がヒントになり、バイオリンを弾く真似からの〜解決編をスタートさせる決めゼリフ 笑。

    中編3部作となっており、『信用ならない目撃者』の犯人雲野は元刑事の強敵で翡翠が敗北するかに思われたのですが…そこは前作を超える大どんでん返しでした。

    翡翠の美貌、奇術、推理、洞察力は異次元レベル過ぎて終わってみれば何でもありだなと言う感想。ドラマやアニメ化にピッタリの作品になってしまっています。中盤に翡翠が推理小説について語っているシーンがあり、推理小説は本来推理や論理を楽しむものなのに…読者が求めているのはびっくり小説…という現実に嫌気がさしてるような反応でした。しかしながら、この作品自体読者を驚かせる事に特化させているような…苦笑。

    犯人を追い詰めるのにかなりじれったい感じがあって、証拠やトリックを理解するのにも頭も使いますが安定して評価☆3になるシリーズだと思いました。次作も読んでみます!

    • アンシロさん
      なおなおさん、こんばんは。

      なおなおさんが言われてた古畑任三郎は読んでてすぐ、なるほどと思いました(^^)

      真ちゃんは家事や報告書や裏方...
      なおなおさん、こんばんは。

      なおなおさんが言われてた古畑任三郎は読んでてすぐ、なるほどと思いました(^^)

      真ちゃんは家事や報告書や裏方に徹してると思いきや、演技や声真似まで幅広い笑。演出のお手伝いも笑えました。名コンビですね!

      まさかまさか梓も翡翠も偽物だったとは…誰も思いつかない展開でした。3作品目はどう騙されるのか、楽しみです(^^)

      なおなおさんはドラマをご覧になってますか?私は観たことないのですがとても面白そうですね。
      2023/11/05
    • なおなおさん
      アンシロさん、お返事をありがとうございます。
      私も3話目はまさかの展開で最後まで騙されました。こういうどんでん返し系は好きです。
      次作も楽し...
      アンシロさん、お返事をありがとうございます。
      私も3話目はまさかの展開で最後まで騙されました。こういうどんでん返し系は好きです。
      次作も楽しみですね。
      私の方は図書館順番待ちでやっと20番目です。年内に読めるか読めないか…。
      私もドラマを観ておりません。
      だいたい映像化されていたことも知らず…小説もドラマも出遅れました_| ̄|○ il||li
      2023/11/05
    • アンシロさん
      1作品目で霊感は嘘、2作品目で翡翠は最強&真ちゃんは前線でもバリバリ活躍できる事が分かったのでさてさて3作目はも〜〜騙されない!!はず笑。
      ...
      1作品目で霊感は嘘、2作品目で翡翠は最強&真ちゃんは前線でもバリバリ活躍できる事が分かったのでさてさて3作目はも〜〜騙されない!!はず笑。

      20番待ちですか?!大人気ですね^^;うちの市は人口が少なくて予約は1人2人なのですぐ予約したい所ですが、『楽園のカンヴァス』をじっくり楽しんでからにします(^_^)v図書館の予約のタイミングは神経使いますねり

      本屋で本のカバー見るとドラマのものがついていて、映像がピッタリ合いそうと思いました。『invert』の3話目の変装は無理があるかも?!笑。
      2023/11/05
  • 翡翠ちゃん第二弾。
    犯人目線で進むお話3編。
    犯行現場は社長の家、学校、また犯人が捜査現場をよく知る元刑事など、なかなか落ちない設定。
    犯行後にやってくる警察、そして謎の女性(翡翠ちゃん)に、犯人目線でハラハラドキドキ。
    大丈夫…証拠隠滅はしたし、アリバイも完璧!
    が、しかし……。「あれれ…?」とわざとらしく勘付く翡翠ちゃんの手強いことよ(-_-;)

    翡翠ちゃんが望む演出が面白く、エンタメ小説のよう。ドラマ古畑任三郎を観ているみたい。

    翡翠:皆さん、お待たせしました。ここからは解決編です。すべての手がかりは提示されました。……城塚翡翠でした──(優雅にお辞儀する)
    真ちゃん:(何なんだ?この小芝居は…。照明を落としてやればよかったか?)

    翡翠ちゃん✕真ちゃんコンビを楽しめた。
    表紙の絵にも納得。

    • アンシロさん
      なおなおさんのお陰で遠田志帆さんのお名前を知り、意識して見てみると多くの作品でご活躍されているんですね。

      思わずインスタをフォローしました...
      なおなおさんのお陰で遠田志帆さんのお名前を知り、意識して見てみると多くの作品でご活躍されているんですね。

      思わずインスタをフォローしました。ジャケ買い&ジャケ読みがブームになりそうです(^^)

      「invert」大人気ですね。自分のそばの図書館も予約待ちです^^;
      2023/10/15
    • なおなおさん
      アンシロさん、いいじゃないですか…ジャケ読み!
      ブクログは並べて楽しめますもんね。
      私なんてしょっちゅう自分や皆さんの本棚を見てはニヤニヤし...
      アンシロさん、いいじゃないですか…ジャケ読み!
      ブクログは並べて楽しめますもんね。
      私なんてしょっちゅう自分や皆さんの本棚を見てはニヤニヤしております(˶‾᷄ ⁻̫ ‾᷅˵)
      2023/10/15
    • アンシロさん
      リアルの本棚と違って一気にジャケットを並べられるので見ていて楽しいですよね!

      皆さんの本棚でジャケットを見て、スクショからの本屋で探す感じ...
      リアルの本棚と違って一気にジャケットを並べられるので見ていて楽しいですよね!

      皆さんの本棚でジャケットを見て、スクショからの本屋で探す感じです
      2023/10/15
  • さてさて城塚翡翠シリーズ第二弾『invert』です

    前作『medium』を読み終えて、あまりの鮮やかさに「この設定でさらなる傑作を生み出すのは無理」としたり顔で断言し、シリーズを追うつもりはないなどと曰いましたが、なにやらこの次のシリーズ第三弾『invertⅡ』がなかなかの傑作とのことで(autumn522akiさん調べ)あっさりと前言を翻してまずは順番通りに本作を手に取りました
    えー、全く恥ずかしくありませんよ
    ちっぽけなプライドでせっかくの傑作を読まずにいるなんてもったいないことはしません
    autumn522akiさん調べは帝国データバンクなみに信用できるしね

    さて、本編ですがこれまた鮮やか!相沢沙呼さん、甘く見てました
    ごめんなさい
    まぁ厳密にいうと多少粗いところもあって突っ込みどころはあるにはあるんですが、細かいところをぐちぐち指摘しても単なる負け犬の遠吠えなのでやめておきます
    ただ、これを読んで次作への期待感はかなり高まりましたよ!
    さて次はどんなトリックで驚かせてくれるのか楽しみ!


    あ、それと今回ふと思いいたって読むスピードを測ってみました
    普段から自分では読むの早い方だと思ってるんですが、実際に数字を出してみようかなと思いまして
    結果としては100ページ/47分でした!おそらくもっと面白いやつならさらにスピードが上がると思われます(地味に失礼)が!比べる相手がいなかったわさ!
    どうしよ、たいして早くなかったら…w

    • 土瓶さん
      ༼⁠;⁠´⁠༎ຶ⁠ ⁠۝ ⁠༎ຶ⁠༽(号泣)(笑)
      「聴く読書」にしようかな~。
      でも、絶対寝る自信あるわ。
      買ってちょうだい。
      ༼⁠;⁠´⁠༎ຶ⁠ ⁠۝ ⁠༎ຶ⁠༽(号泣)(笑)
      「聴く読書」にしようかな~。
      でも、絶対寝る自信あるわ。
      買ってちょうだい。
      2022/10/11
    • みんみんさん
      聴く読書Σ(-᷅_-᷄๑)
      音が苦手…日々無音ですわ笑
      聴く読書Σ(-᷅_-᷄๑)
      音が苦手…日々無音ですわ笑
      2022/10/11
    • ひまわりめろんさん
      聞く時点で読書じゃないという狭量な人間なので買ってあげません(ガチ拒絶)
      聞く時点で読書じゃないという狭量な人間なので買ってあげません(ガチ拒絶)
      2022/10/12
  • 翡翠さんシリーズ中編集。倒叙ミステリーはあまり好きでないけれど、翡翠さんの犯人へのねちっこい追い討ちや畳み掛ける解決編、その後の真さんとの馬鹿馬鹿しくもかわいらしいやりとりが楽しい。「信用ならない目撃者」にはこちらも騙された。

  •  霊媒探偵として警視庁と連携して捜査にあたる権限を持つ城塚翡翠の活躍を描く、連作中編ミステリー。シリーズ2作目。
              ◇
     狛木繁人は、1つの決断をして吉田直政宅に向かった。吉田は狛木がシステムエンジニアとして勤務する会社の社長である。

     狛木が開発したプログラムシステム。それを吉田は、狛木の同意を得ずに売却しようとしている。口下手な狛木なりに何度か抗議と交渉を試みはした。だが、エンジニアとしては凡庸でも弁が立ちプレゼン能力に長けた吉田の前にまったく歯が立たなかった。

     吉田は狛木を侮りきっている。今も狛木を前にしながらまともに取り合おうとせずに、キッチンで漢方薬を煮出したりしている。
     狛木は交渉を諦め、計画を実行すべく、リュックから用意してきた凶器を取り出した。 (第1話「雲上の晴れ間」) 全3話。

          * * * * *

     前作同様、どんでん返しをウリにしたミステリーです。ただし倒叙型式で書かれるため、楽しむのは犯人やトリック等についての謎解きではなく、犯人を追い詰める翡翠の捜査過程と、翡翠に追い詰められていく犯人の心理描写になります。

     また、3話とも中編構成のため捜査過程も心理描写も十分で、短編ばかりの前作よりも読み応えがあってよかったと思いました。
     さてその3話を簡単に紹介すると……。

    第1話「雲上の晴れ間」
     口下手ではあるが、精密なプログラムコードを書ける能力を駆使した狛木の計画は鉄壁に見えた。
     事故死に見せかけた遺体の偽装工作も自身のアリバイ工作も、狛木の計画どおり隙のないもので、警察の事情聴取は問題なく通過。狛木が安心し始めた矢先だった。

     マンションの隣室に転居してきたと言って1人の若い女性が挨拶に訪れた。そそっかしく舌っ足らずな話し方をするその女性は城塚翡翠と名乗り、狛木に笑顔を向けている。邪気のなさそうな翡翠につい気を許してしまう狛木だったが……。


    第2話「泡沫の審判」
     小学校教諭の末崎絵里は、元校務員の田草明夫の殺害を計画、実行に移した。
     田草は校内のトイレにカメラを仕掛け盗撮した児童や教師の動画データを売り捌いていたほか、動画拡散をネタにして教職員を恐喝しており絵里も被害にあっていた。
     絵里は自身や生徒たちを守るため、田草を自分の HR 教室で殺害し、偽装工作を施して田草が理科室のベランダから転落死したように見せかけた。

     思惑通り事故で処理されそうな捜査の様子にひと息つく絵里だったが、臨時休校明けのある日、白井奈々子というスクールカウンセラーの着任によって絵里の計算に狂いが生じ始める。
     教育現場にふさわしくない服装と言動を続ける奈々子にはじめは呆れ果てていた絵里だが、奈々子の呈する無邪気な疑問にしだいに追い詰められていき……。


    第3話「信用ならない目撃者」
     元警視庁の刑事だった雲野泰典は妻の病死を機に退職し、現在は探偵事務所を開いている。 
     雲野には事務所の勢力拡大のためには手段を選ばず、それが例えどんなに非情なものでも良心が痛まないという冷徹なところがあった。
     今回も、雲野の拳銃秘匿所持の件を訴え出ると言い出した社員の曽根本を殺すことにためらいはなかった。

     曽根本のマンションを訪れた雲野は隙を見て曽根本を射殺したあと、ふと気になって銃を持ったままカーテンが開きっぱなしの窓を見た。そして 50 メートルほど離れた雑居ビルのベランダにいる女性がこちらに顔を向けているのに気づいたのだった。
     しかし女性が特に慌てていないのを見た雲野は、殺害の瞬間は見られていないと判断。自殺の偽装工作と証拠の隠滅作業を施して現場を後にした。

     後日、曽根本の死に絡み刑事2人が事務所に雲野を訪ねてきた。応接室で出迎えた雲野は、刑事たちが伴ってきた1人の若い女性が、その知的な瞳を自分に向けているのに気がついた。


     最初の2話については犯人側に同情の余地が大きく、翡翠に追い詰められる姿に胸が痛みました。
     殺人を憎む翡翠の気持ちはわからないでもないですが、被害者が殺されて当然のクズ野郎なのだから、犯人を見逃してやって欲しかった。 ( 自首扱いにするぐらいでは足りないよ。)

     いちばんおもしろかったのは第3話でした。 
     犯人の雲野は元捜査一課の刑事だけあって計画から偽装工作まで完璧に近く、なかなか尻尾を出しそうにない男です。翡翠の強敵としては不足なしでした。

     また、知り合いの雑誌記者から翡翠の情報を得ていた雲野は、当初から翡翠を敵認定しており、翡翠お得意の韜晦作戦が通用しません。雲野の前に再々現れては果敢に切り込んでいく翡翠ですが、ことごとく雲野に躱されます。

     雲野にとって唯一の不安材料が殺人現場を目にしたかも知れない涼見梓という女性の存在。雲野は彼女の信用を取りつけて味方につけてしまおうとします。翡翠は阻止しようと動きますが、雲野の動きの巧妙さが上回ります。
     やがてそんな雲野の作戦が功を奏したように見えたのですが……。

     さすが相沢沙呼さん。翡翠の驚きの一手をはじめ、唸ってしまうような展開で読後満足感が高い出来栄えです。作品タイトル『invert』にふさわしい。
     また、千和崎真の活躍も見られてうれしかったです。

  • 主人公・翡翠によるミスディレクションに、気持ちよーく翻弄されました。

    シリーズ2作目。前作での豹変ぶりに驚きと軽い落胆を覚えつつ、ドラマにも追い越され、録画でやり過ごし、随分と時間が経ってしまいました。

    倒叙ミステリーということで、先に明かされる犯人への感情移入が知らず知らずに強くなります。次第に犯人の罪悪感を共有していき、翡翠の「あれれ」の一言に苛立ち(この言葉の威力は凄いですね)、最後は犯人が迂闊な一言を発して完敗。そして、自分は現実に戻る。ちょっと大袈裟ですが、そんな没入感が味わえます。

    最終章では、犯罪者の手口を熟知した周到な犯行に及ぶ元捜査一課の刑事が、息詰まる駆け引きの末、翡翠に踊らされていただけと知る。まさにinvert、反転という表題に相応しい結末でした。

    これで、やっとドラマの録画を思う存分見ることができる。というわけで、私は先本後画派でした。

    (追記)そうだ、続編がまだありましたね。

    • harunorinさん
      マメムさん はじめまして(*´꒳`*)
      いつも本棚とレビュー、楽しく拝見させていただいております

      コメントありがとございます!
      ほんと、お...
      マメムさん はじめまして(*´꒳`*)
      いつも本棚とレビュー、楽しく拝見させていただいております

      コメントありがとございます!
      ほんと、おっしゃるとおり最終章の展開たるや、あれれ?の極地でしたー 続きが楽しみです
      2023/07/15
    • マメムさん
      harunorinさん、お返事ありがとうございます。

      こちらこそレビュー拝見させてもらっています♪
      続編の後半も強敵ですので、感想楽しみに...
      harunorinさん、お返事ありがとうございます。

      こちらこそレビュー拝見させてもらっています♪
      続編の後半も強敵ですので、感想楽しみにお待ちしてます^_^
      2023/07/15
    • harunorinさん
      強敵なんですねー 新しい「あれれ」に、期待が高まります! ありがとうございました。
      強敵なんですねー 新しい「あれれ」に、期待が高まります! ありがとうございました。
      2023/07/15
  • 犯人はわかっている。
    ミスは何ひとつとして残していない…逃げきれると思っている。

    雲上の晴れ間〜ITエンジニア

    泡沫の審判〜小学校教師

    信用ならない目撃者〜元刑事の探偵

    この3編に城塚翡翠が挑む。

    今回はいつもは陰で秘書的な活動をする千和崎真の印象が強く感じられた。

    犯人がまったく証拠を残していないと推理力を駆使しても限界がある。
    その苦悩しているタイミングに何気ない真の仕草や行動で、一瞬にして閃くのだ。
    そしておきまりの「ちゃーらーん」とバイオリンを弾く仕草をする翡翠。
    「犯人は自明。ただし、わたしはこう問いかけましょう。はたして、あなたは探偵の推理を推理することができますか?」と言うこの台詞、きっとポーズ付きだろうなと…。

    殺人をする人が許せないという思いは、2話3話と続くにつれ加速していくようで、見た目の可愛いさとは裏腹にジリジリと追い詰めていく推理力は見事。
    3話の翡翠と真には驚いた。
    真もなかなかやるんだなと。
    ますますこの2人に目が離せなくなる。

    • まことさん
      湖永さん。こんばんは♪

      翡翠ちゃん、読まれているのですね!
      私は、殺伐としたミステリーが、多い中、翡翠ちゃんは癒しだと思って、とても楽しみ...
      湖永さん。こんばんは♪

      翡翠ちゃん、読まれているのですね!
      私は、殺伐としたミステリーが、多い中、翡翠ちゃんは癒しだと思って、とても楽しみに読んでいます。
      湖永さんは、いかがでしょう。
      この2作目では、3話の、真ちゃんの活躍には、目を見張りますよね!
      「invertⅡ」覗き窓の死角も、パワーは衰えず、真ちゃんも、大活躍?しますので、お楽しみに。
      フォロワーさんで、翡翠ちゃん読んでる方が意外と少なく寂しい感じでしたが、湖永さんのレビューで、嬉しく思いました。(*^^*)
      2022/10/11
    • 湖永さん
      まことさん。 こんばんは。

      私もけっこう社会派の重めの長編物が好きなのですが、今回ドラマ化になるようで気になり初挑戦の作家さんでしたが…。...
      まことさん。 こんばんは。

      私もけっこう社会派の重めの長編物が好きなのですが、今回ドラマ化になるようで気になり初挑戦の作家さんでしたが…。
      結果、はまりましたね。

      犯人がわかっていての推理というのもあり、その場合はやはり癖のあるキャラが重要で翡翠ちゃん、いいじゃないかと。

      3話は、びっくりですよー。
      ここまでするのか…って‼︎
      そうなると3作目が気になります。
      図書館には予約済みなんですが、待ち遠しいです。

      まことさんの本棚は、読みたくなるのがたくさんすぎて…
      よく、参考にさせて貰ってます。
      2022/10/11
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著者プロフィール

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)も発売中。

「2022年 『medium 霊媒探偵城塚翡翠(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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