すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集

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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065241660

作品紹介・あらすじ

魂の作家による19の短編。
ロングセラー『掃除婦のための手引き書』のルシア・ベルリン、待望の新邦訳作品集。

『掃除婦のための手引き書』の底本である短編集 A Manual for Cleaning Women より、同書に収録しきれなかった19編を収録、今回も傑作ぞろいの作品集です。

〈収録作品〉
虎に噛まれて/エル・ティム/視点/緊急救命室ノート、一九七七年/失われた時/すべての月、すべての年/メリーナ/
友人/野良犬/哀しみ/ブルーボネット/コンチへの手紙/泣くなんて馬鹿/情事/笑ってみせてよ/カルメン/
ミヒート/502/B・Fとわたし

感想・レビュー・書評

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  • 前作に収録されなかった短編作品集。メキシコ人がよく登場しますが、貧困でアル中でヤク中、哀れなヒロインは文盲だったりして、アメリカ版ラ・ミゼラブルの貌を呈します。アル中あるあるは、リアルすぎて体験談と見まごうほどです。でも、ルシアは相変わらず冷めた目と乾いた文体で見届けています。いきなりの名前の洪水で混乱させるのは常套手段ですね。突然、人称が変わり、異なった視点で同じ物語を語る作品がいくつかありますが、とても成功していると思います。初恋の物語などはほのぼのしましたが、「ミヒート」はあまりの境遇に哀れを誘います。

  • ケイト・ブランシェット、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督初の英語作品に出演決定 「掃除婦のための手引き書」の映画化 - WEEKEND CINEMA
    https://weekend-cinema.com/21445/

    「すべての月、すべての年」 細部にまで満ちる著者の気配 朝日新聞書評から|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14642253

    『すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集』(ルシア・ベルリン,岸本 佐知子)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000353810

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      かけがえのない人生の瞬間 [評]中江有里(女優、作家)
      <書評>すべての月、すべての年:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www....
      かけがえのない人生の瞬間 [評]中江有里(女優、作家)
      <書評>すべての月、すべての年:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/692709?rct=s_books
      2022/06/13
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ルシア・ベルリン、待望の第二弾『すべての月、すべての年』|G’s BOOK REVIEW | 【GINZA】東京発信の最新ファッション&カル...
      ルシア・ベルリン、待望の第二弾『すべての月、すべての年』|G’s BOOK REVIEW | 【GINZA】東京発信の最新ファッション&カルチャー情報 | CULTURE
      https://ginzamag.com/culture/2207greview-book-02/
      2022/07/12
  • 前作を読んで3年分歳をとったからなのか、以前よりそばに主人公たちがいる気がした。悲惨な話の登場人物たちにも、悪いことばかり起きるとしても、彼らがこの世からいなくなる前に、ときどきなにかよいことが訪れるように感じられる。読み終わってしばらく考えて、自分は勇気づけられたんだなとわかったのだが、それはそういうことが理由なんだと思う。

    自分や自分の人生がどうしようもないな、とわかったとき人は若者であることをやめるのだろうと思っているのだが、そのあとが割と長く、遠くで頭痛やら腹痛やらを我慢しているような何十年が続く。その何十年の一瞬一瞬を切り取ってありありと見せてくれて、かつ勇気づけてくれる点で、ルシア・ベルリンはおばさんの希望の星だと思う。べつにおじさんの星でもいいのだが、おじさんたちにはすでにたくさんのおじさん的視点が提供されているはずなので、ベルリンはわたしの星にさせてもらいたい。

  • 「掃除婦のための手引き書」を購入して積読してあるのに、それをすっ飛ばして本書を図書館で借りて読んでしまった。
    どちらから読んでももちろん問題ないのだけど笑

    ひとまず感想というか印象としては、基本人生の陰と陽があれば、本書に収録されている19の短篇のうちのほとんどは陰。もしくは陽の中にも陰が差す、みたいな切なさなどがあった。
    決して気分が高揚するような話ではない。
    なのにどの話もものすごく惹きつけられる。
    なんでだろうと思ったら、著者であるルシア・ベルリンの描くこれらの物語が、文学としてエンターテイメントでありフィクションでありながらありふれた現実ー悲喜劇ーで、親しみやすいからかもしれない。
    正直悲劇要素の方が強いのに、そのうえ生々しさもあるのに、あまり読んでても落ち込まないというか、グイグイ読ませられる。
    著者は悲劇とも呼べる人生のあれこれを決して悲劇で終わらせない。それは良い方に向かう兆しが見えるから、というわけではなく(見えそうな話もあった気がするが)、それでいいじゃない、と肯定するような描き方をしているからかもしれない。
    人生の酸いも甘いも、それどころでない苦しみもすべて、人生として肯定する。
    物語に出てくる登場人物の人生をまるまる否定しないというか。しっかりとこんな人だよって描写がされているのに、悪い意味でレッテルを貼っていないというか。
    私はそう感じた。
    たとえば「笑ってみせてよ」は、むしろ、それまでのマギーことカルロッタとジェシーの様子を見てきた後では、今後の2人にあまり良い未来は待ち受けてはいないように見える。破滅的な未来すら見える。それでも最後に描かれる2人は、幸せそうなのだ。
    お涙頂戴なところがないのも、好きだと思う理由かも。
    いい意味でアメリカ文学を読んでいる気が全然しない作品集でした。
    そのうち買って何度も読み返したい…そう思える。
    ちなみに好きな短編は、「視点」「哀しみ」「泣くなんて馬鹿」「情事」「笑ってみせてよ」「ミヒート」…ってやっぱりほとんどじゃないか笑
    「502」も印象深かった。

    掃除婦のための手引き書も早く積読消化したい。

  • 各方面で高く評価されるルシア・ベルリン、最新の作品集。それぞれショートショートのような短さである19編だが、いずれも鮮烈な印象を残していく。
    アル中やヤク中がでてくる話が多い。
    なんとも言えないけれど「笑ってみせてよ」と「ミヒート」がとりわけ好き。

  • 待望の ルシア・ベルリンの新刊です。

    最初の一編『虎にかまれて』から釘付けになりました。
    前作に登場したあの西テキサス一の美女、ベラ・リンが登場します。これは群像で読んでいたけど、そんなことすっかり忘れていて、
    あの『セックスアピール』のベラ・リンだわぁと楽しめました。
    ラストが暖かくてとっても良いっ。
    どの短編にも通ずる、このニューメキシコとメキシコの国境あたりの空気感が魅力ですよねー。スノッブなニューヨークや西海岸の雰囲気じゃない、田舎のアメリカ。差別と偏見まみれの社会と時代がなんとも。

    ルシア・ベルリンさん自身のことを書いた物もいいけど、看護婦時代に見た景色のような作品もとても面白くて。。

    私は『情事』がとっても好きでした。オチがたまらなくいい!

    『笑ってみせてよ』は、弁護士側と依頼者側と一人称が2つの視点で進んでいって、長編作品みたいなおもしろさがありました。

    『ミヒート』も看護師側と、やってくる患者との視点で同じように描かれていたけど、あまりにも悲しくてやりきれない貧しさと無知さ、若さに目を覆いたくなりました。けど…やっぱりうまい。

    先日
    代官山蔦屋書店さんによる岸本佐知子さんのトークショー
    「佐知子の部屋」をオンラインで拝見しました。

    岸本さんが、ルシア・ベルリンの文章にはフリルがない。除湿されている。
    なんていうお話をされていましたけれど、全くですね。
    美しい比喩なんてほとんどない。でも情景描写にキレがあって美しいところがあるんですよね。

    本当にいい作家はどんなに時間がかかっても、いつか世にでてくる。

    のだそうです。
    2004年にガンで亡くなるまで、ベルリンさんは知る人ぞ知る作家だった。
    今、ようやく時代がその時の"知る人" のところに追いついたのですねぇ。

  • 『掃除婦のための手引書』に収録されなかった19篇の本書を読み終えて思うのは、ルシア・ベルリンの愛情の深さだ。
    先に編まれた短編集24篇では、幼少期の性的虐待、アルコール依存症、シングルマザーなどの過酷な人生を歯切れ良く描く文章の見事さに痺れていて、見逃していた要素かもしれない。
    冷徹で突き放すようなな観察者の目で描くこと(それは独り語りで自分自身を描く時でも徹底している)と同時に、描かれる人物の存在を決して否定することなく真っ直ぐに心で触れること。そのどちらもが一つの短編の中で鮮やかに両立して煌めいている。

    愛情や友情、親切心は最良の結果を約束している訳ではない。いつだって彼女の視線はクールだ。どの物語も、温かい眼差しや安易な同情などが入り込む余地がないくらい研ぎ澄まされ、結末ではすっぱりと断ち切るように放り出される。
    それでも愛としか呼びようのない人間臭さが、読了後に心に残る。

  • 「虎に噛まれて」「エル・ティム」「視点」「緊急救命室ノート、一九七七年」「失われた時」「すべての月、すべての年」「メリーナ」「友人」「野良犬」「哀しみ」「ブルーボネット」「コンチへの手紙」「泣くなんて馬鹿」「情事」「笑ってみせてよ」「カルメン」「ミヒート」「502」「B・Fとわたし」の19編。
    「掃除婦のための手引き書」を読んだ際、webで見つけた以下のようなカテゴリ分けを参考にした。
    ーーーーー
    ※( )はやや頑張って組み入れた
    /鉱山町で過ごした幼少期
     『マカダム』『巣に帰る』(『ファントム・ペイン』)
    /テキサスの祖父母の家で過ごした暗黒の少女時代 
     『ドクターH.A.モイニハン』『星と聖人』『沈黙』(『エルパソの電気自動車』『セックス・アピール』)
    /豪奢で奔放なチリのお嬢時代
     『いいと悪い』『バラ色の人生』
    /四人の子供を抱えたブルーカラーのシングルマザー 
     『掃除婦のための手引書』『わたしの騎手』『喪の仕事』
     (『エンジェル・コインランドリー店』『今を楽しめ』『ティーンエイジ・パンク』『さあ土曜日だ』)
    /アルコール依存症との闘い
     『最初のデトックス』『ステップ』(『どうにもならない』)
    /ガンで死にゆく妹と過ごすメキシコの日々
     『苦しみの殿堂』『ママ』『あとちょっとだけ』(『ソー・ロング』)
    ーーーーー
    今回は自分でそれをやってみようとしたが、そのカテゴライズがうまくいかず、「/その他」を作らざるを得なかった。
    ーーーーー
    ※( )はやや頑張って組み入れた
    /鉱山町で過ごした幼少期
    /テキサスの祖父母の家で過ごした暗黒の少女時代 
    /豪奢で奔放なチリのお嬢時代
     「メリーナ」(「コンチへの手紙」)
    /四人の子供を抱えたブルーカラーのシングルマザー 
     「虎に噛まれて」「エル・ティム」「緊急救命室ノート、一九七七年」「失われた時」「情事」
    /アルコール依存症との闘い
     「野良犬」「502」
    /ガンで死にゆく妹と過ごすメキシコの日々
     「哀しみ」「泣くなんて馬鹿」
    /その他(※「掃除婦のための手引き書」にはなかったカテゴリを新設)
     「視点」「すべての月、すべての年」「友人」「ブルーボネット」「笑ってみせてよ」「カルメン」「ミヒート」「B・Fとわたし」
    ーーーーー
    原著を2冊に割り振った際に、前著は作者自身の経験に沿ったものが多かった(結果的に日本の読者に作者を印象付ける入門編になった)のに対し、本書は作者自身を離れたものがやや多め、ということなのかな。
    とはいえ読後感は変わらず、人の喋り方や声、生活や感情の切り取り方が、いい。
    もっと読みたい作家。
    カバーを外して読んだが、仮フランス装の表紙や裏表紙がしっとりと優しい手触りで、嬉しい発見だった。

  • 『掃除婦のための手引き書』があまりに強烈だったため、今回はさほど衝撃を受けることはなかった。それでも、どの作品にも明らかに作者と思われる人物や、それ以外でも必ず彼女の分身と思しき人物の視点で描かれており、魅力的な人物や背景・風景の描写に、作者の作品に対する思い入れのようなものを感じる。
    訳者あとがきで岸本氏がとても的確にこの作品について記しておられる。共感したり、理解するのに大いに役立った。

    最後に一番印象に残った箇所
    『すべての月、すべての月』の「彼女は両脚を彼の体に巻きつけ、二人は回転しながら暗い海の中を揺れた。彼が体を離すと、精液が二人のあいだを白いタコ墨のようにただよった。あとでそのできごとを思うとき、エロイーズはそれを人や性の営みの記憶ではなく、自然界の現象のように思い出した。小さな地震や、夏の日に吹きすぎる風のように。」
    この感性、表現に脱帽。勿論日本語訳にも。

  • 「掃除婦のための手引き書」に収録されなかった短編を集めたものらしい。「掃除婦~」に続いてこれもすごくよかった。たくさんの人が出ては来るし、家族や恋人の愛もあるけれど(いやむしろだからなのか)乾いた孤独が一貫して感じられる。そっけない文章で、ドラック、アルコール、暴力、死、無計画な妊娠、そういうものにまみれた世界で上品なストーリーは全くない。しかし粗雑ではなく繊細なディテールに引き付けられるし、時々びっくりするほどの美しさに胸ぐらをつかまれて話の中に引きずられていく感じがする。そしてオチの余韻やひっくり返しがすごくきれい。これはこの人の小説じゃないと味わえないなと思う。

    「あれってどういうものだと思う、とわたしは彼に訊いた。彼は手を出して、指と指をぴったり合わせてわたしの手と重ね、わたしに親指と人さし指でなでてみろと言った。どっちがどっちの手かわからなかった。きっとそんな感じじゃないかと思うんだ、と彼は言った。」
    子供にこれ、言わせるか!と思いつつ、こういう超然とした子供の話がすごく面白いんだよな。私が好きなのは、オチが好きな「エル・ティム」、圧巻の水中世界を見られる表題の「すべての月、すべての年」、コミカルな進行にオチでちょっと泣かせてくる「情事」、愛と破滅が裏表でくるくる回ってるみたいな「笑ってみせてよ」。この人の小説をもっと読んでみたい。

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著者プロフィール

1936年アラスカ生まれ。鉱山技師だった父の仕事の関係で幼少期より北米の鉱山町を転々とし、成長期の大半をチリで過ごす。3回の結婚と離婚を経て4人の息子をシングルマザーとして育てながら、学校教師、掃除婦、電話交換手、看護助手などをして働く。いっぽうでアルコール依存症に苦しむ。20代から自身の体験に根ざした小説を書きはじめ、77年に最初の作品集が発表されると、その斬新な「声」により、多くの同時代人作家に衝撃を与える。90年代に入ってサンフランシスコ郡刑務所などで創作を教えるようになり、のちにコロラド大学准教授になる。2004年逝去。レイモンド・カーヴァー、リディア・デイヴィスをはじめ多くの作家に影響を与えながらも、生前は一部にその名を知られるのみであったが、2015年、本書の底本となるA Manual for Cleaning Womenが出版されると同書はたちまちベストセラーとなり、多くの読者に驚きとともに「再発見」された。邦訳書に『掃除婦のための手引き書』(岸本佐知子訳)がある。


「2022年 『すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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