貝に続く場所にて

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 285
感想 : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (162ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065241882

作品紹介・あらすじ

第64回群像新人文学賞受賞。
第165回芥川賞候補作。

コロナ禍が影を落とす異国の街に、9年前の光景が重なり合う。静謐な祈りをこめて描く鎮魂の物語。 
ドイツの学術都市に暮らす私の元に、震災で行方不明になったはずの友人が現れる。人を隔てる距離と時間を言葉で埋めてゆく、現実と記憶の肖像画。

(群像新人文学賞 選評より)
記憶や内面、歴史や時間、ここと別のところなど、何層にも重なり合う世界を、今、この場所として描くことに挑んでいる小説 ーー柴崎友香氏

人文的教養溢れる大人の傑作
曖昧な記憶を磨き上げ、それを丹念なコトバのオブジェに加工するという独自の祈りの手法を開発した ――島田雅彦氏

犠牲者ではない語り手を用意して、生者でも死者でもない「行方不明者」に焦点を絞った点で、すばらしい。清潔感がある。 ーー古川日出男氏

感想・レビュー・書評

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  • 思いがけず、四日前に芥川賞を受賞したこの本が
    手に入ってしまいました。
    まだあまりレビューがないうちに
    さっさと勝手な解釈を書いてしまおう。

    最初はずっと「震災で亡くなったと思っていた友人に再会したのだ」と思って読んでいたけど、やはり彼はまだ「生きていることが確認されていない」と思いました。

    この小説で大事なポジションにある「冥王星」
    〈プルートは冥王星のラテン語由来の名称で、
    ローマ神話の冥府の神を表している。
    死者の行く場所〉

    そしてこの地にゆかりのある物理学者寺田寅彦も
    登場しています。(昭和10年没)

    著者は宮城出身ですが、津波の被害は受けていません。
    もちろん辛い体験の記憶はもっているのですが、
    それと同時に、自分よりもっと被害の大きかった人たちへの想いを
    この小説で整理させたかったのではないでしょうか。

    そこで〈私の研究主題は、中世以降のドイツにおける十四救難聖人の図像の発展と信仰問題であった〉ので、
    聖女の皆さんに登場していただいたのでは。

    ローマ総督に乳房を切り取られたアガータ。
    長い髪で羊を抱くアグネス。
    ウルスラにはマント。
    塔への散策を提案したバルバラ。
    眼の形の首飾りをしたルチア。
    車輪をもつカタリナ。
    そして自分は歯痛の聖女アポロニア。

    彼女は知ります。
    〈私が恐れていたのは、時間の隔たりと感傷が引き起こす記憶の歪みだった。〉

    〈記憶の痛みではなく、距離に向けられた罪悪感。
    その輪郭を指でなぞって確かめて、
    野宮の時間と向かい合う。
    その時、私は初めて心から彼の死を、
    還ることのできないことに哀しみと苦しみを感じた。
    九年前の時間が音を立てて押し寄せる〉

    はー。
    これから他の人のレビューや大先生の講評など
    楽しませてもらいます。

  • この作品を読んでまず感じたのが、ちょっと難解な作品かなと私は感じました。でも共感する部分も多くて、震災から10年、これからの世代にどのようにして震災の経験を伝えるのか、風化させてはいけないなど、今を生きる私たちがどう行動するか考えさせる作品でした。第165回芥川賞受賞作。

  • ページ数が多い訳じゃないんだけど難しくて読み解いて進むのに時間がかかった。貝というよりは月とか星なのでは?って思ったけどラストは「あ~」ってなった。不思議なお話。

  • 読み解くのが難しいと感じ、何回も繰り返して読むことをしていたら読み終えるまで時間がかかりました。(読みやすいところもありましたが)
    中でも震災の描写がリアルでした。
    著者が宮城出身とのことで仙台気候の表現も美しかったです。数年後にまた読み返そうと思います。

  • 犠牲者ではない語り手を用意して、生者でも死者でもない「行方不明者」に焦点を絞った点で、すばらしい。清潔感がある。〜群像新人文学賞選評、古川日出男氏〜


    第64回群像新人文学賞受賞作。
    第165回芥川賞受賞作。
    コロナ禍のドイツ、ゲッティングで9年前の震災で行方不明になった友人が還ってきた。
    惑星の模型が施されたブロンズ板、冥王星と都市伝説、過去を掘り起こすトリュフ犬、ウルスラの仲介。
    比喩がふんだんに散りばめられており、それを難しいと捉えるか、美しいと捉えるか。
    歴史は繰り返される。
    決して風化させてはならない。

  • 本編では美術史というワードが散見されるが、図像学の本質を表している。図像学も物語も記憶を紡ぐための手段として用いられていながら、芸術として成り立っている。文字で表すことのできない感情を綴るために文学を用いるとは、こういうことか。

    終始滑らかな糸が、記憶を漂っている。生涯読み続けたい作品。

  • 群像2021年6月号掲載のものを読んだ。紙の本で。図書館に返してしまったのでブクログでは検索できなかった。
    ブクログのこういうところは何とかならないのだろうか。。
    結局、選考会までには読み切ることができず、受賞決定後に読了した。
    マジックリアリズムというのだろうか。以前の「百年泥」のような印象の作品。選考会までに読めていたとしても、手放しで素晴らしい作品だと思えていたのか、正直なところ恥ずかしながら予想はできなかったのではないかと思う。「百年泥」は、実のところ個人的にはあまり好みの作風ではなかった。また、同作では現実離れした要素は、どこかユーモラスな印象を伴って描かれていた。それに対し、本作では、終始、どちらかというと淡々と、しかし丁寧に、真摯な描写に貫かれている。
    非現実的な事象も、当然現実と同様の筆致で描かれることになるが、その真摯さが、何故か自分には違和感になって受け止められることが多かった。それは個人的な好みの話なのだと思う。
    キノコでないものを掘り当てるようになったトリュフ犬。消失したり出現したりする惑星像。幽霊の存在。持物に象徴される聖人たち。確かに、震災という難しい題材も取り入れて、「場所の記憶」というのか「場所の表情」というものを表層的にならず、巧みに表現している小説なのかな、とそれ自体表層的かもしれない感想は持った。
    けれど、トリュフ犬が物を掘り当てたりするあたりで、「そういうことかな」という予感がし、その通りに進行したので、その意味では驚きがなかった。もちろん、推理小説ではないのだから展開の意外さなど求められるものではないのだろうけど。

  • 凄い勢いで読み終わりました。
    やや難解な作品でしょうか。惑星や太陽系のことに関して言えばあまりピンと来なかったので、少し時間を置いて読み直すとまた違った印象を受けるのかもしれません。
    ドイツのゲッティンゲンでのお話なので、なんとなくイメージが湧きましたし、出てくるドイツ語も分かるのは素直に嬉しかったです。
    芥川賞の候補に挙がっているときから気になっていたので、読み終えてひとまず満足しています。

  • 2021年 第165回 芥川賞受賞
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50248482

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著者プロフィール

いしざわ・まい
1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。現在、ドイツ在住。2021年、「貝に続く場所にて」で第64回群像新人文学賞を受賞。同作が第165回芥川賞受賞のダブル受賞。

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