現代生活独習ノート

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 1186
感想 : 120
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065260371

作品紹介・あらすじ

偶然録画していた興味のない番組
冷蔵庫内の陣地争い 貧弱な食事ばかりのSNS画面 資料室の籠城騒動

キラキラはしていなくても、
冴えない日常は、案外愛しく、悪くない。

短編の名手がおくる 私たちの‘今’が詰まった8つの物語

怒り、あきらめ、情けないこと、ときどきは幸せなこと
“通り過ぎていくものたちのどれかは、手になじんで輝いてくれるだろう”

収録作
「レコーダー定置網漁」
「台所の停戦」
「現代生活手帖」
「牢名主」
「粗食インスタグラム」
「フェリシティの面接」
「メダカと猫と密室」
「イン・ザ・シティ」

感想・レビュー・書評

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  • 津村さんは疲れた人の疲れっぷりを表現するのが上手な作家さんだと毎回思う。

    例えば第一話「レコーダー定置網漁」の冒頭。
    『リフレッシュ休暇をもらったが、もはや私にはリフレッシュする気力自体が残っていなかったのだった』という一文でもう持っていかれる。

    他にも「粗食インスタグラム」の主人公が仕事で『判断すること』に疲れすぎて貧弱な食事のブログに癒されるその心境を『せめて悲しい食事で生きようとしている仲間を探して安心している』と評しているのが津村さんらしくてクスっとする。

    極め付きは「メダカと猫と密室」の冒頭で主人公の先輩安田さんが係長からの電話を受けている最中に『突然気力がなくなった』と言って私に受話器をよこしてそのままいなくなるというシーン。
    何とも衝撃的で主人公の横井もメモの字が大きく歪むくらいなのだが、それが何ともユーモラスなのだ。

    先の「レコーダー定置網漁」では仕事で予約録画した番組を長らく見られなかった間に『刑事コロンボ』シリーズが終わっていたのだが、代わりに録画されていた後番組のユルい料理番組やらワイドショーやらにいつの間にか引き込まれ元気をもらっているし、「粗食インスタグラム」では仕事と人間関係に振り回されつつも少しずつ食事がまともになっていっているし、「メダカと猫と密室」では資料室に籠ってしまった安田さんと主人公横井と中村課長との攻防が楽しい。

    こんな人いるよなぁとか、こんなことあるよなぁとか、その気持ち分かるよなぁと頷きながらも予想を超えた展開と大変なのに笑えるのが津村さんらしくて楽しめた。

    かと思えば、収奪され続ける人たちを描いた「牢名主」とか殺人事件を解き明かす「フェリシティの面接」というシリアスモードな作品もある。
    違う作者が描けばサスペンスだったりホラーだったり嫌ミスだったりになりそうなものをギリギリのところで踏みとどまらせるのは巧みだなと思う。

    他にネットや防犯については発達した未来を描いているのになぜか宅配は人とロバとを選べるという「現代生活手帖」という変わり種もある。

    そして中には難しい親子関係を描いた作品が二編あるのだが、そのどちらもユーモアの一方で繊細さも見せてくれる。
    祖母、母、娘の女ばかり三代で暮らしている一家の台所戦争を描いた「台所の停戦」では主人公である母の、祖母にとっては娘であり、娘にとっては母である双方の立場と出戻りであるという引け目が分かるし、双方難しい親に悩んでいる女子中学生たちの話「イン・ザ・シティ」では主人公キヨがゲームをきっかけに親しくなったアサの家庭事情を思わず知りながら、そこに踏み込んでいいのかどうか悩む心情が細かに描いてあった。

    どの作品も物事が万事解決したというわけではない。だが何故かホッとするような、そんな気持ちにさせられる。
    「粗食インスタグラム」の最後の方の文章を借りれば『やはり、つまらない食事だと思う』と言いつつも『でもそれでもよかった』と言えるようになったのが良かったと思う。変わらないようで何かが変わったというその微妙さ繊細さを伝えるのが上手いなと改めて思う。

  • 【今週はこれを読め! エンタメ編】勇気づけてくれる短編集 津村記久子『現代生活独習ノート』 - 松井ゆかり|WEB本の雑誌
    https://www.webdoku.jp/newshz/matsui/2021/12/01/110309.html

    『現代生活独習ノート』(津村 記久子)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000358053

  • 全話クスッと笑える箇所があり、テンポよく読める話だった。
    ちょっと生活に疲れたという人の表現がとてもいそうな加減でしっくり来た。

    強制的に期限に間に合わせるため、相手が困ってるていのメールを勝手に送ってくれるサービス、私も欲しい…
    出てくる近未来的なシチュエーションは羨ましいと思う範囲で、すっと理解できた。

  •  なんとも不思議な物語だった。8つの短編から成る物語だが、どれもが不思議な設定であったりして私には少し入りづらかった。

     ただ、どれも面白くないか?と聞かれたらそれはNOで、面白いか?と聞かれても、NOだ。

     もちろん人それぞれ感想が違うのは当たり前だし、好みの違いだとは思う。

     最後の章に出てくる『インザシティ』が無性に聴きたくなったし、スケボーも始めたくなった。

  • 何気ない日常を8つの短編にしているが、どれもあるようでちょっと笑えるところもあって楽しめた。

    自分の中でハマったのは、冷蔵庫内の陣地争いで
    なんやそれ、って突っ込みをいれたくなった。
    でも当人にすればそれぞれの言い分があるのだろう…と。
    それに次いで、粗食インスタグラムも夢中になってしまった。
    「つらつらと何かを選ぶという判断をすることに倦んでいる。」
    確かにそういう気分の時ってあるんだなぁ。
    Instagramでも綺麗な器に彩りの素晴らしい料理が、これでもか、というくらいある。
    それより、つまらない食事がポツンとあると、なんだこれって二度見してしまう。
    それでもあるよなぁ、こんなときって思えて愛おしくなったりする。

    自分の中で、情けないなぁと思ってもちょっと笑えることがあればいいのでは…と感じた。

  • 本屋さんで関西弁丸出しの帯に惹かれて、手に取りました。
    この帯、関西だけ?地域によって違うのでしょうか。
    書店員さん達の言葉に納得!
    「この感覚、なんかわかるわ〜」な短編集。
    特に1つ目の「レコーダー定置網漁」。
    これ、私やないか!(笑)
    ひたすらダラダラして、見るつもりなかったけど見たテレビ番組で紹介されてたことをやってみて、何か気が晴れちゃったりして。

    特に事件は起こらないけど、平凡な毎日が一番心地良い。
    そんな1冊。
    ゆるゆるな気分な時、ダラダラしたい時にオススメです。

  • 淡々と生きることは意外と難しいことなのかもなあ。なんとなく人生をバランスよく生きてそうに見える人も、自分をちゃんと持ってそうに見える人も、悩んだり傷ついたりして、でもひょんなことに慰められたりして生きているのかもなとか考えちゃう本でした。

  • ずっとキンドル化されるのを待っていたけれど全然なりそうにないので、紙の本をきのう買ってきたら一気読みしてしまった。
    とても津村さんらしい短編集。
    各短編の登場人物はとにかくいろいろなことに疲れ切っている人たちが多い。いろいろあって(ってひとことで言えば「ストレス」というものなんだろうけど)、なにを食べるか決めるのがしんどいとか、なにかするのがとてつもなく面倒だとか、友達がいないとか、SNSがつらいとか、会社がしんどいとか、人間関係のトラブルにあったとか。そういう人たちがほんの少しだけましになっていく、という話が多いんだけど、そのきっかけみたいなものが意表をついていていい。粗食の写真をアップするとか、会社でこっそりメダカを飼うとか。文章にユーモアがあって、描かれている状況はしんどいんだけれど、笑えて、けっこう楽しそうじゃん?とも思えてしまうような。わたしは本当に津村さんの文章が好きだ。
    とくに中高生を書いたものがすごく好きかも。中高生って思わせないような普遍的なものがあるような。ああいう中高生だったらよかったなと思うような。

    あと、近未来の話とか過去の話とかSFっぽいものもあるんだけど、ちょっとコニー・ウィリスみを感じるのはわたしだけかなあ。

  • 【収録作品】レコーダー定置網漁/台所の停戦/現代生活手帖/牢名主/粗食インスタグラム/フェリシティの面接/メダカと猫と密室/イン・ザ・シティ

     仕事に倦み疲れながら、どうにか生き延びている人々の日常生活に焦点を当てた短編集。しんどい心に効く気がする。
     「フェリシティの面接」は、ミステリ風味。フェリシティの正体(?)を考えると楽しい。

  • 短編集。タイトル通り、現代を生きる人々の日常の中のちょっとした苦難の乗り越え方がモチーフになった作品が多かった。苦難の種類はさまざまながら、真面目に生きようとすればするほど人は心を病み、とはいえささいなきっかけで癒され、立ち直れたりもする。

    仕事に疲れた女性が、偶然録画されていた深夜のテレビ番組に癒される「レコーダー定置網漁」と、粗食をインスタにアップし続ける女性の「粗食インスタグラム」が個人的には好きでした。とくに後者、私も、空腹にはなるけど何を食べたらいいかわからないということは多々あり、考えるのが面倒なので気に入った同じものを食べ続ける傾向があるので、とても共感した。

    「牢名主」は、とても怖かった。A群(アドリアナ・スミス)とB群(バーブラ・ウィリアムズ)という言葉やそのストーリーにものすごく説得力があったので、実際にある言葉かと思って検索してみたけれど、どうやら著者の創作のようだ。でもこれ、実際にありそうで怖いなあ。要は、搾取する側とされる側の呼び名なのだけど、ものすごいリアル。こういう関係性に陥ってるひとたちは絶対たくさんいると思う。

    表面的にはB群だけど立ち直ろうとしてる人たちの自助会の話ながら、タイトル「牢名主」が象徴しているのはおそらく彼らのリーダー格である人物のことで、彼の場合あきらかにB群ではなく別の病気(心の)だろうな。そして病気になりたがっている変なクレーマー男とかも、心理的に別の病名がつきそうだ。

    ※収録
    レコーダー定置網漁/台所の停戦/現代生活手帖/牢名主/粗食インスタグラム/フェリシティの面接/メダカと猫と密室/イン・ザ・シティ

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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