- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065273470
作品紹介・あらすじ
東京、炎上。正義は、守れるのか。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
【業界、震撼!】
著者の集大成とも言うべき衝撃の爆弾サスペンスにしてミステリの爆弾。取扱注意。
ーー大森望(書評家)
この作家は自身の最高傑作をどこまで更新してゆくのだろうか。
ーー千街晶之(書評家)
登場人物の個々の物語であると同時に、正体の見えない集団というもののありようを描いた力作だ。
ーー瀧井朝世(ライター)
この作品を読むことで自分の悪意の総量がわかってしまう。
ーー櫻井美怜(成田本店みなと高台店)
爆風に備えよ。呉勝浩が正義を吹き飛ばす。
ーー本間悠(うなぎBOOKS)
自分はどちらの「誰か」になるのだろう。
ーー山田麻紀子(書泉ブックタワー)
感想・レビュー・書評
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スズキタゴサクと名乗る49歳のホームレスの男が酔っ払って酒屋の店員を殴って逮捕されます。
沼袋の野方署でタゴサクと名乗る男は十時ぴったりに秋葉原で何かある。自分には霊感があるのだと言い、爆弾が仕掛けられていることに警察は気づきます。
タゴサクは次々と刑事たちにクイズ形式で爆弾を仕掛けた場所のヒントをしきりに喋り続けます。
秋葉原に続き、東京ドームシティ、代々木と爆弾が発見されますが多数の死傷者が出ます。
タゴサクは自殺した元警察官の長谷部の起こした事件と何らかの関係があることがわかってきます。
次にタゴサクはSNSを使い自分が犯人から脅されて読んだという犯行声明文を拡散させます。今度はSNSの閲覧者数が指定された人数に達すると爆発が起こる仕掛けでした。
これは模倣犯が出たら怖いことだと思いました。
こんな恐ろしい自己顕示欲の塊のような犯人はどうして生まれたのかと思いました。
犯人になりたくてしょうがない男。
気味が悪かったです。
ミステリー部分の謎は面白く読めました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鬼ヤバい★5 爆弾魔と警察の疼く戦い 爆発を防ぐ警察官たちの緊張感と毒気に満ちた頭脳戦がスゴイ #爆弾
変な中年男が警察署に微罪で連行される。彼は意味不明な言動で警察官を惑わせるが、ふと都内で爆破予告を伝える。警察官は信憑性のない情報だと一蹴するが、実際に爆破事件が発生してしまい…
ヤバい。
これは年間ミステリーランク1位のポテンシャルがある。2022年は同志少女が本命だと思ってたけど、これもありうるぞと思ったレベルの作品。
まず登場する意味不明なおっさんが怖い。
これから始まるサスペンス&ミステリー劇場の主役。このおっさんが素晴らしいんです。悪意がヒドイ。
また警察官たちも雰囲気バチバチでリアル描写抜群!
様々な性格をもった警察官たちが大活躍するのですが、まぁカッコいいし、それでいて公務員として、また一人の人間としても味がある。
サスペンス要素も高品質で、次々迫りくる爆発のタイムリミットと、それを阻止する警察の必死さったら。ワクワクドキドキがスゴくて、読む手が止まりません。そしてミステリーとしても真相があまりに衝撃的なんです。刮目してください!
あと、この作者さん初めて拝読するのですが、日本語や言葉選びが独特で、気品や芸術性を感じるんですよね。脳みそどうなってるんだろうか。
本作のとっておきの魅力は2つ。
1)爆弾魔との舌戦
これがマジすごい。
なんとなく読んでるとよくわからないような会話なんですが、狂った犯罪者と対抗する警察官の深層心理に迫った魂のやり取りが垣間見れます。お前はいったい何なんだ、愉快犯なのか、狂っているのか、それとも知略に満ちているのか… 少しずつ見てくる爆弾魔の思想や正体が超怖いです。
2)警察官ひとりひとりに宿る、正義や仕事に対する深い信条描写
爆弾魔の知的攻略を試みる交渉刑事、爆弾処理に必死に奔走する現場警察官、悪を許せない正義感や迷い、手柄と失態と勇気と犠牲…
彼らも警察である前に、気丈ながらも弱い一面を持った一人の人間であるということ。とっても心に突き刺さりました。
本作、社会派としてのテーマ性も強烈です。情報化社会のデジタルな世の中、はっきり白黒上下が分かれてしまった功罪… 本作を読んで、果たして我々はなにをすればよいのでしょうか。
とある一般女性が少しだけ希望を見せてくれています。本作においてとても重要なシーンだと思いました。
ミステリーとしてもサスペンスとしても高品質、エンターテイメント性も社会問題性も高い、名作です。読みましょうっ -
傷害事件で、中年のスズキタゴサクと名乗る男が野方署に連行された。
単なる酔っ払いと思いきや、男は取調べの最中、「自分には霊感がある、十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが予言通りに爆破される。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」
警察は爆発を止めることができるのか。
タゴサクは犯人なのか?
ちょっとこれまで読んだことが無いような小説だった。
爆破メインというより、類家という賢い警察官と、タゴサクとの心理戦。ここがかなり読ませる。
タゴサクの口調は読んでるだけでイライラしてくるが、読者の深層心理にも迫ってくる。
分厚い本だが満足感が凄い。
自分好みかと言われると、少し違うのだが、このミス第一位というのには納得の重厚感だった。 -
◇◆━━━━━━━━━━━━
1.あらすじ
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物語はスズキタゴサクの取り調べから始まります。
そして、9月27日22時1分、秋葉原で爆発騒ぎが発生します。
爆弾を仕掛けた犯人はスズキタゴサクなのか?
スズキタゴサクは何者かなのか?
刑事たちとスズキタゴサクとのながい心理戦が始まります。
それは、とても重くて、とてもながく感じられるものでした。
◇◆━━━━━━━━━━━━
2.感想
━━━━━━━━━━━━◆
心が重い…。
本自体も分厚くて重い…。
読み進めるペースがゆっくりになってしまい、さらに重い時間が続く…。
読んでいる最中も、読み終わった後も、どんよりとした感覚に覆われてしまう作品でした。
とても繋がりがよくできていて、素晴らしいサスペンスであるとともに……
やはり、人間の負の部分… いまではSNSなどによってオープンになった、各々が抱えている闇の部分を明らかになるところ、その部分のやりとりが、この作品のすごいところだと思いました。この心理バトル、心の葛藤が、心を重くしていくものでした。
作中で何度も出てくる「心の形」、心に目を向けて、その形を意識すると、また違った一面が見えてくるような気になりました。
謎多きスズキタゴサクについても考えてしまいました。
スズキタゴサクに関わる部分だけ抜き出して考えると、何が真実かわかりませんが、なかなかに考えさせられました。スズキタゴサク、闇の塊ですね。
スズキタゴサクだけでなく、登場した彼、彼女の人生は…と考えると、ほぼ全員が重いものを背負う感じなので、そんなところも、なかなかに重いです。タイトルの爆弾っていうのが、考えれば考えるほど、しっくりくる感じでした。心に重い爆弾を仕掛けられた感じです。
同時に「方舟」を読んでいたので、そちらの作品の密閉感も相まって、さらに、何かに覆われている感じが強く、どす闇い世界観に身を置いている感じでした。
現実にこういった事件が起きえることは、意識しておかないと…ですね。意識することで、最初の一歩が違ってくるかもしれないです。
全然ストーリーと関係ないですが、鶴久の「考えるのはこっちでやるから、おまえらは脚を動かせ」という指示に対して、沙羅が、「こうした振る舞いをリーダーシップと呼ぶ人間もいる。考えるなといわれ、むしろ士気を上げる者も」というセリフがあって、まぁ、ほんと、実在するよなと、感じました。リーダーシップは環境に適応させるというのは、今意識していることですが、古い会社ほど、複雑さが増している現実をつよく感じました。
◇◆━━━━━━━━━━━━
3.主な登場人物
━━━━━━━━━━━━◆
容疑者)
すずきたごさく 容疑者、おっさん
野方警察署)
等々力功 評判悪い、キレもの
伊勢勇気 記録係
鶴久忠尚 課長、75点の男
長谷部有孔 鶴久の先輩刑事、等々力とコンビ、実力者
交番勤務)
倖田沙良
矢吹泰斗 たいと、伊勢の同期、高卒
警視庁捜査一課)
清宮輝次
類家 〃 もじゃもじゃ、スニーカー、キレもの
長谷部家族)
石川明日香 元妻
美海 みう、娘
辰馬 息子
…)
細野ゆかり
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最初オーディブルで聞いていたんだけど、面白すぎて書籍も買っちゃいました。
東京を次々と爆破テロが襲う。
次はどこで爆弾が爆発するのか?
スズキタゴサクを名乗るあやしい予言者と警察のちえくらべ。クイズと称して出される次の爆発場所のヒント。
スリリングな心理戦に、手に汗握る。
そして、生命の価値について、読んでいる者に問いかけてくるー
第167回直木賞候補作。
個人的には「夜に星を放つ」より面白いと思った。
本屋大賞を狙えるのでは?
しかし、タイトルが安直というか、もう一捻りなかったのかな? -
ブクログランキングの上位にあったので
手に取った一冊
初めての作家さんです
2023年一冊目の読了本となりました
読書時間はまずまず取れていたのに
なかなか読むのに時間がかかりました…
タゴサクの語りが長いからなのか
その間の清宮の感情と交互に読むと
イマイチ頭に入ってこなくて
結局中盤までは斜め読みになってしまいました。
終盤はどんどん展開していき
読み進められましだが
うーん、、、
登場人物の心理描写も
たくさん書かれているんですが
どうも感情移入できず。なんでだろ。
タゴサクと刑事のやりとりが
私には難しすぎたのかもしれないです
謎、解けるか!!って感じです笑
あと、ちょうど最近
奥田英朗さんのリバーを読了したばかりで
そちらがとても面白く
なんとなく比べてしまって
余計に楽しめなかったのかもしれないです
星二つと迷って三つで。 -
図書館の待ちがえらいことになっていたので、諦めてオーディブルにて。
これは13時間弱。聞き流すとすぐに話がわからなくなるのでさすがに大変だったのだけど、ナレーターのお二方、特に星祐樹さんによるスズキタゴサクの怪演が素晴らしかったです…。地の文、刑事の等々力や類家などは聴き心地の良いお声なのに、スズキタゴサクのターンが続くともうムズムズして、長く聞いていられなくなるの。
褒め言葉ですが、超キモイ!べったりとした悪意が絡みついてくるようだ。
昨日聴き終えて、夢に出てきた。飛び起きて、スズキと相対した刑事達はみんな、夜に安眠できなくなったんじゃないかなと思った。
ある夜。
酔って自販機を蹴り、咎めた店員に暴行を働いた男が、野方署に連行される。
スズキタゴサクと名乗り、人を食った物言いをする中年男は、住所も忘れたとすっとぼけ、示談にするお金がないと刑事に泣きつく。
うんざりしていた刑事の等々力だが、スズキは霊感と称して、5分後に秋葉原で事件が起きると言い、まさにその時間、秋葉原で爆発騒ぎが起きる。
「私の霊感じゃ、ここから三度、次は一時間後に爆発します」
はたしてその1時間後、東京ドームシティーで爆発が起きた。…この男の爆発予告は本当か?警察には一気に緊張が走る。
ここから、スズキを追及する警察(清宮、類家)と、のらりくらりとかわしながら質問形式でヒントを出すスズキの、怒涛の駆け引きが始まる。
一方、現場の刑事にも、爆発事件についての糸口を見つける者がいて、取調室と現場の双方向から、都内に仕掛けられた爆弾を探す1日を過ごすこととなる。
そう、これは濃く長い1日の話だった。
…さて、アホなんですけど、私は二度目の爆発が起きてしばらく経つまで、スズキは本当に霊感のある変な男なのだと思って聴いていましたよ。気付くの遅っ。完全に平和ボケした小市民です。モブにもなれやしない。
単独犯なのか?どんな方法で、どこに爆弾を仕掛けたのか?真の動機は何なのか?
そして、この事件には、醜聞により辞職し、自殺した元刑事と繋がりがあることも明らかになっていく。
仕掛けられた時限爆弾。一体どうやって次の犯行を食い止めればいいのか…?
刑事とスズキタゴサクの心理戦は、スリリングすぎて息が浅くなる。
気持ち悪いスズキタゴサクの声が、自分の中の脆弱なる正義感や倫理観、社会規範などを揺さぶってくる。
スズキタゴサクを全否定し、「命の重さは誰もが等しい」と真っ向から言える人はどれだけいるだろう?
「滅んでしまえ、こんな世の中」
そんな風に一度も思ったこともない人はどれだけいるのだろう?
──明日○○が爆発すればいいのに。
──リア充爆発しろ。
そんな怨嗟、世の中に充満している。
実行したいとは思ったことないけど、全然わからないとは思わない。
スズキタゴサクは超キモイとしても、自分の中に、スズキタゴサクは潜んでいないか。
でもな、この話聞いててずっと疑問だったのだが、清宮や類家と張り合って、むしろだし抜けるくらい頭が働いて弁舌巧みなら、正業でも裏稼業でも、社会から取り残されたりしないんじゃないだろうかと。並べて悪いけど、政治家とか、詐欺師とか。笑
卑下して自虐ばかり言い、世間一般の倫理観はないが、認められたい欲求は人一番強く、良くも悪くも、人と関わるの大好きやん。無職で人との関わりがないぼっち、"無敵の人"の設定にはあまり現実味がない気がするの。
スズキタゴサクの本名は何だったんだろう。今更だが不気味なネーミングだ。そして不気味なラストだった。-
さすがオーディブルマスター!!
図書館予約なら1年以上かかるかも知れない人気作でもすぐに「聴ける」。
良い使い方ですね。
さすがオーディブルマスター!!
図書館予約なら1年以上かかるかも知れない人気作でもすぐに「聴ける」。
良い使い方ですね。
2023/02/20 -
土瓶さん
こんにちは!いやまだ2ヶ月目の見習いですよ。笑
図書館で借りにくい話題作を聞けるのはいいですねー^_^ 意外に配信が早くてびっくり...土瓶さん
こんにちは!いやまだ2ヶ月目の見習いですよ。笑
図書館で借りにくい話題作を聞けるのはいいですねー^_^ 意外に配信が早くてびっくりしています。2023/02/20
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酔っぱらって酒店主を殴り、自販機を蹴飛ばし凹ませた件で取り調べを受けている男。
この男、49歳でスズキタゴサク。
住所不定。記憶をよく無くすとふざけたことを言う。
霊感があるのだと曰い、爆発を予言する。
直後、秋葉原で本当に爆発が起きる。
ここからこのスズキと警察との闘いが始まる。
いったいこのスズキって何者なんだろうか⁇
頭が良いのか、どうなのか…
とにかく、喋る。よく喋る。
乱暴な刑事は、相手にせず、寝たふりをしてやり過ごす。
落とせない。
なんとも厄介な奴なのである。
警視庁の清宮をも難解なクイズでやり込める。
そして頭脳明晰で冷静な類家とのやりとりも負けてはいないのだ。
とにかく狭小な取調室の中で次々と爆発を予言し、それに翻弄される警察。
いつまで続くのだろうと思えるほどの熱を帯びた戦い。
実際、爆発でたくさんの人が、亡くなるのだが、結局スズキが何者で、どれだけのことをしたのかは、はっきりしないのである。
最後までスズキの心は、読めなかった。
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【感想】
バットマンの「ジョーカー」を模した人物を小説に出すのは、かなりリスキーだ。というのも、犯行動機や犯行方法に一定のスケールを持たせなければならず、かつその人物の「知性」や「カリスマ性」を巧みに描写しなければならないからだ。どこかひょうきんながらも威厳を保ち、正義に反旗を翻す悪のカリスマ。そうした難しい役割を、本書の犯人であるスズキはかなりやり遂げているのではないだろうか。
「スケール」で言えば、本書の舞台はかなり広大だ。都内に住む1,400万人が人質に取られ、どこかに仕掛けられた爆弾が一定間隔で爆発していく。手がかりは取り調べ室に隔離された謎の中年男性「スズキ」。このスズキと捜査官達がゲームを繰り広げながら、爆弾のありかとスズキの正体を探っていくタイムサスペンスとなっている。
本書の面白さは、この「スケール」と「制限時間」を活かした群像劇、そして事件が進むごとに刑事たちを蝕んでいく「葛藤」にある。これらが「スズキ」という絶対悪を中心に交差することで、手に汗を握る人間ドラマが生まれていく。
特筆すべきは、登場人物たちの心理描写だ。
例えば、物語の中心を担っているスズキのどす黒さ。
警視庁特殊捜査係の清宮と類家は、爆弾犯から情報を聞き出すためのゲームという設定で、スズキに取り調べを行っていく。ここで披露されるスズキの話術が、この小説の面白さを担う重要なファクターなのだが、スズキのねじ曲がった欲望と狡猾さ、そして社会に不満を抱えた「無敵の人」という歪みが、上手く表現されている。スズキが喋ることは卑屈な中年男性のエゴなのだが、その言葉には世の中の微妙な真理をついている部分もあり、一蹴できない。スズキの言葉一つひとつが棘のようにチクチクと心に残り、不快ながらも一旦立ち止まって考えざるを得ないよう、会話が見事に設計されている。
また、警察側の葛藤も読みどころの一つだ。
例えばあの警官が取調室に殴り込んできたシーン。動乱、切迫、憎悪、暴力。それもこれもスズキという人間の腐った欲望が作りあげたものなのだ。そのエネルギーが室内に発散される一部始終を読んで、思わず興奮し唸ってしまった。加えて、長谷部の性癖を知ってしまった等々力。起こっていく爆発事件を目の当たりにしながらも、等々力の心のうちはどこか冷めていく。その様子が、全く別の境遇にあり性格も真逆であるスズキとどうリンクしてくるのかと思ったが、「他人なんて、世の中なんて、どうでもいいや......」という感情を軸に、ピッタリとつながってくる。こうした対比の描き方も非常に上手いと感じた。
――仲間が傷つけられたのだ。報復を望むのは当然じゃないか。警官としてではなく、人として。
等々力は黙って車を発進させた。それも同感だと、本音で思った。そして同時に、スズキとのちがいはなんなのかと、濁った疑問にとり憑かれた。
仲間じゃないから殺してもいいと考える男と、仲間の仇だから殺すのも仕方ないという思想が、等々力の中で混じり合い、落ち着かない色味を醸しだしていた。どろどろの絵の具がグロテスクな抽象画となり、その支離滅裂さは、同時にある調和を形づくって、色味と色味の狭間で自分は息を止めているのかもしれなかった。無差別殺人の絵の具と、報復の絵の具はちがう。法に照らせばおなじ違法行為でも、たしかにちがう。直感的に、そのちがいは明白に思える。だがつぶさに絵の具を、絵の具の粒のその粒まで見つめていけば、ほとんど変わらない粒子にたどり着く気もするのだった。
いい小説は、読み手にも問いを投げかけるような小説だと思っている。自分が主人公と同じ立場に置かれたらどうするか。選択に迫られた際、自分だったらどちらを選ぶか。本書ではそれが「他人事でいられるのか」というテーマになって、読者に問いを投げかけてくる。都内に爆弾が仕掛けられていると告げられても、まさかそれが自分の足元で爆発するとは想像しない。人の命は平等だと言っても、ホームレスと子どもたち、そして仲間の警官を天秤にかけたとき、冷静な判断を下すことができない。そうした「選択の数々」によって、読者に揺さぶりをかけてくる。
――スズキ「それを冷めた心で受けいれて、冷めた自分に安心している。あなたは誰にも与えない。与えることは拒まれる可能性を孕むから。あなたは他人に平気で嘘をつける正直者で、同時に自分は騙されたくない臆病者だ。あなたは自分が嘘まみれの世界にいることを自覚して、嘘しかないとあきらめて、あえて騙されているんだと嘯く青っ白い強がりだ。でもあなたは知ってる。勘づいている。もっとある。もっと美しいもの、もっと自分の命にふさわしい欲望が、どこかに存在していることに」
とても面白く一気に読んでしまったのだが、本書の評価は「スズキに共感できるか」の一点でガラリと変わってくるだろう。この和製ジョーカーを、矮小な中年おじさんと思うか、稀代の凶悪犯と思うかで、読者の感情は真っ二つに分かれる。ただ、いずれにせよスズキの心理描写は秀逸であり、ジョーカー化を見事にやってのけた、と感じた。是非オススメの一冊だ。
著者プロフィール
呉勝浩の作品






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