汝、星のごとく

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2045
感想 : 34
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065281499

作品紹介・あらすじ

その愛は、あまりにも切ない。

正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。


ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

感想・レビュー・書評

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  • あなたの今の人生は、あなた自身が選んだものでしょうか?

    どの服を着るか?どの店で昼食を摂るか?そして、次はどの本を読むか?私たちはおびただしい選択の繰り返しの中に毎日を生きています。コンビニでおにぎりの具を梅干しにするかこんぶにするか、そんな選択まで入れると、私たちは一体一日にどれだけの選択をしているのだろう、改めて考えると怖くなってもきます。そんな選択の結果は当然に、その先に続く未来の姿を変えていくものでもあります。おにぎりの具程度であれば、全く異なる未来が待っていたということも起こり得ないと思いますが、思った以上に些細な選択の結果が未来を変えていくものです。

    そして、そんな選択によって私たちは未来は大きく変化していきます。進学するか、就職するか、このレビューを読んでくださっているあなたが過去に辿ってきた、そんな選択の先には、一方であなたが辿らなかった未来もあったはずです。だからこそ、そんな選択の場において人は不安に苛まれます。それは、その選択の結果がもたらす未来を恐れる感情があるからです。また、そんな選択には、あなた以外の誰かの事情に配慮した選択を求められる場合もあったかもしれません。

    『人は群れで暮らす動物です。だからなにかに属さないと生きていけない』。

    私たちは私たちが人間であるが故に課される制限もあります。しかし、

    『誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない』。

    私たちは自分で選択することに怖れを感じ、だからこそ、その選択を誰かのせいにする、そんな感情もあるように思います。しかし、

    『誰もあなたの人生の責任を取ってくれない』。

    あなたの人生はあなたのものです。その責任を他の人に求めるのは間違っているのだと思います。それは、あなたの身近な人、親であっても同じことです。なかなかに選択の先の人生を生きていくのも大変なことだと思います。

    さて、ここに『自ら選んだ時点で、人はなんらかの責を負う』という先の人生を生きていく主人公の姿を描いた作品があります。『瀬戸内の小さな島』に暮らす高校生二人が主人公を務めるこの作品。片や『俺は東京へ行く。プロの漫画家になる。こんな暮らしと縁を切る』という選択をした一方で、片や家族を慮り『島に残る』という選択をした二人の主人公が描かれるこの作品。そしてそれは、そんな二人がそれぞれ歩むその先の未来に、『幸せになれなくてもいいのだ。ああ、ちがう。これがわたしの選んだ幸せなのだ』と語る主人公の姿を見る物語です。
    
    『魚が安いから漁港まできて』というスマホに表示されたメッセージに『めんどくさいからいやだ』と返すも『既読がつかず』諦めて港へと来たのは主人公の青埜櫂(あおの かい)、十七歳。『父親は俺が生まれてすぐ胃がんで死んだ』という『母子家庭』に育った櫂。そんな櫂の母親は『この島で唯一のスナックをやってい』ます。そんな店で出す食材として魚を調達する母親のことを『一時たりとも男なしでは生きられない女』だと思う櫂は、『物心ついてから常に男出入りが激しかった』今までを思い出します。そして、『今回も京都で知り合った男を追って、瀬戸内の小さな島へと』母子で移り住むことになりました。『早くここから解放されたい』と思う櫂。家に帰ってしばらくすると、ほどなくして『ほのかちゃんにあいたかった』と一人の男が入ってきました。『あーくん』と、息子から『一瞬で恋人へ』意識が向かった母親を見て、『今度こそ、長続きしてくれよ』と思いながら、櫂は自室へと入ってPCを開き『尚人から届いたメール』を開きます。『二年前、漫画や小説を投稿するサイトで知り合った』という久住尚人(くずみ なおと)とは、『原作と作画でコンビを組んで』漫画を作る間柄です。出版社へ投稿したことがきっかけで、編集者の植木と知り合い、アドバイスをもらいながら『青年誌の優秀賞を獲った』ことで、『連載枠の獲得を目指してい』る三人。『物語は夢ではなく、俺を現実から連れ去ってくれる必須の手段』と思う櫂。
    場面は変わり、『今夜もお父さんは帰ってこない』と恋人の元へと通う父親のことが島中に知れ渡った二年前。そしてついに『お父さんは家を出て行った』という中にメンタルクリニックへ通い出した母親のことを思うのは、もう一人の主人公である井上暁海(いのうえ あきみ)、十七歳。そんな暁海は、母親から『お父さんの様子、見てきて』と言われ、『今治で刺繍教室』をやっている女の住所のメモを渡されてしまいます。父親のことをさまざまに噂される日々の中に『島を愛する気持ちと、島から出ていきたい気持ち』が交錯もする暁海。そんな中、漁港で同じクラスの櫂と出会った暁海は、立ち話をする中に成り行きで櫂を『漁港前のバス停へと』連れて行き、一緒に今治行きのバスに乗りました。事情を説明すると『愛人んちに、ひとりで乗り込むのは根性いるわな』、『つきあってやるよ』という展開になった二人。そして、赴いた先で、愛人に見つかってしまい家にまで上げられてしまった二人。『あなたには申し訳ないと思ってる』と語る愛人の林瞳子(はやし とうこ)に、何も言えずじまいで家を後にした帰り道、櫂は『あれはあかん。手強すぎる』とつぶやきました。そんな櫂に『今日はありがとう』とお礼する暁海に、『この島には正しい家族しかおらんと思とった』と語る櫂。そして、いろんなことを語り合った二人。そして、家に帰りベッドに倒れ込んだ暁海は、『また、しゃべろうや』と語った櫂の姿を思い出します。『はよ脱獄したいわ』と島から出ることを願う櫂と、『島で生まれ育った』からこそ、愛着と『出ていきたい』気持ちの間で揺れ動く暁海という二人の主人公のその後の十五年の日々が描かれていきます。

    『わたしは愛する男のために人生を誤りたい』という内容紹介に取り上げられた本文中の強い言葉が印象的なこの作品。2020年10月刊行の「滅びの前のシャングリラ」以来の凪良ゆうさんの長編小説になります。元々BL小説を数多く手掛けられてこられた凪良さんのBL小説以外の作品は前作までで5作品。私はその内の三冊を既に読んでいましたが、極めて読みやすい文体の中に紡がれる”生”を感じる人の心理描写の鋭さに心を囚われてきました。残りの二作品も是非読みたいと思うものの、三冊ワンセットでしか読むことのできない私の読書パターンのせいもあって、新作の登場を心待ちにしてきました。もちろん、BL作品を読む選択もあったわけですが、BLっぽい作品は三浦しをんさん「月魚」しか読んだことがなく、レビューに自信がなかったこともあり、この作品の刊行を知って発売早々に入手しました。そんな経緯もあって発売日を心待ちにする気持ちの昂ぶりを久々に味わわせてくれたこの作品ですが、読み終えた今、まず言えるのは、この先余程の作品に巡り会えない限り、”2022年私のベスト本”が確定したということです。私のレビューを読んでくださっている方の中には、私がレビューの途中にこのようなことを書いたことは一度もないことはご存知かと思います。はい、この作品は、通常のレビューパターンを超えてまで私に傑作断定したくなる欲求を掻き立ててくれた作品になりました。

    では、そんなこの作品を三つの視点から見ていきたいと思います。まず一つ目は、舞台となった『瀬戸内の小さな島』の美しい描写の数々です。そんな島の『海岸線を自転車で走』る主人公の暁海が描かれるシーンです。

    『なににも遮られず島に届いた海風に髪が逆巻いて、額や頰を軽く叩かれる。一年を通して穏やかで明るいエメラルド色の海。ほのかに温かな日差しとまだ少し冷たい潮風。このままどこまでも走っていきたくなる』。

    文字を読んでいるはずなのに、海岸線を走る自転車、それに乗る主人公の姿が見事に浮かび上がるだけでなく、そこに風を感じ、光を感じ、そして潮風の匂いまで感じられる絶妙な描写に心が沸き立ちます。そんな描写の後、『島が嫌いなわけじゃない』という思いの中に、『生まれ育った島を愛する気持ちと、島から出ていきたい気持ち』という正反対の感情が『わたしの中で渦を巻いている』と書く凪良さん。風景の描写が暁海の心の描写に強い説得力を与えていきます。もう一箇所見てみましょう。西日が差す海岸に座って海を見る櫂と暁海という場面です。

    『太陽はもう水平線近くまで落下していた。海が静かに姿を変えてゆく。猛々しいほど煌めいていた海面は暗く沈み、まったりとしたうねりを見せはじめ、その下にとんでもない深さがあることをわたしたちに気づかせる』。

    そんな海を見て思わず『引きずり込まれそうや』、『怖いね』と会話する二人。海を見慣れているはずの暁海は、『島で生まれ育ったからこそ、海が怖い』と知っていると語ります。そして、そんな自然を人の世に例え、『世界に平穏はない。人生に嵐は避けられない』とまとめるこの場面。この先に、その時点では読者には予想もできない波瀾万丈の主人公たちの人生が描かれていくことを巧みに予言しています。

    ”今治の、舞台となったその島の、瀬戸内の海の美しさと素晴らしさを描き切ることができたという思いはあります”とおっしゃる凪良ゆうさん。これから読まれる方には、そんな凪良さんの絶品の自然描写の数々にも是非ご期待ください。

    次に二つ目は長年にわたってBL作品を執筆されてきた凪良さんがBL作品以外で触れられる『多様性が謳われる今でもゲイの恋愛は難しい』という先に見る彼と彼の物語です。誤解いただきたくないのは、あくまで一般文芸として書かれたこの作品では、いわゆるBL作品的なノリの延長線上の描写がなされるわけではありません。そんな彼と彼の物語を極めて冷静に描く凪良さんは、そんな関係性のあり方を主人公の心の声を通じてこんな風に語られます。

    『好きな相手と堂々と結ばれることが許されない国なんて出ていけばいい。国は俺たちのためにあるのであって、俺たちが国のためにあるわけじゃない』。

    この国では、まだ議論も進んでいない領域と思われる彼と彼の物語がどんな風に触れられていくのか、それも一つの注目点だと思いました。

    そして、三つ目は『オートクチュール刺繍』です。私が全く知らなかった領域の話題ですが、主人公の暁海がその世界に魅せられ、自身で手がけていく姿が描かれていきます。『漆黒の夜空を思わせる布に煌めくスワロフスキーを刺して模様を浮かび上がらせていく』という表現に既に魅了されますが、その作業工程をこんな風に描写する凪良さん。

    『繊細に、早く、正確に針を動かしているうちに自分という存在が薄れていく。少しずつ姿を現す美しいものに一体化していくようで、気づくと数時間が経っている』。

    刺繍に興味のない私にもそれがどんなもなのか是非手にしてみたいと思わせる繰り返しの描写が、刺繍というものへの興味をさらに掻き立てるこの表現。瀬戸内の雄大な自然描写と対になるかのように描かれる、机上の人の手による繊細な作品世界。この刺繍の描写もこの作品にはなくてはならないものだと思いました。

    そんな数々の描写が作品の魅力をより深くしていくこの作品ですが、一番の魅力は、やはり、凪良さんの心理描写の妙を感じる物語です。この作品で描かれる主人公の二人はそれぞれに家庭に問題を抱えていました。京都から島に越してきた櫂は、母子家庭で育ちましたが、その家庭を支えていくべき『母親は一時たりとも男なしでは生きられない女』であり、櫂がもの心ついてからも『常に男出入りが激しかった』と示されます。『父親がおらんのやから、ひとりで支えるなんて無理やん』とまるで他人事のように櫂のことも見るこの母親が見せる無責任な言動、行動の数々。一方で『お父さんに恋人がいる』という状況に当初は『鷹揚に笑って』いたものの、『今はもう一度も帰ってこない』という中に『メンタルクリニック』へと通うようになってしまった暁海の母親。『この島では些細なことすら秘密にはできない』という閉塞感のある島の生活の中で一人苦しむ母親は、櫂の母親とは全く異なる形で暁海の人生に影を落としていきます。『このままでは自分が娘の一生を食い潰してしまう、けれどどうしても出口が見えな』いと、娘のことを思いやる気持ちはあるものの、娘を慮るようには行動していけない母親の苦悩。物語は、櫂と暁海という二人の主人公それぞれが抱える母親の存在によって、子どもの人生が大きな影響を受けていく中に描かれていきます。親子という極めてプライベートな関係性は外からはなかなかに伺い知ることはできません。この作品では、全く異なる母親像を見せる中に、それぞれが違う苦悩を背負う子どもたち。そう、主人公たちが健気にそれぞれの母親を支えていく姿が描かれていきます。また、二人の関係の始まりがそれぞれの家庭が置かれた状況を垣間見ることから始まったこともあって、それぞれの苦悩を自分のものとしていく二人の姿も描かれます。お互いが近づけば近づくほどに、そんな親の苦悩を共有せざるを得ない現実の中に、それでも二人の関係性を深めていく二人は、そんな苦悩を共有する覚悟ができているとも言えます。そんな中に、

    『俺たちは親につかまれた手を離せない。振り払ってしまえれば楽なのに、それがわかっているのに、俺たちは、どうしようもなく、愛を欲している』。

    親と子の間のさまざまな関係性、そして、それぞれの想い。このレビューを読んでくださっているみなさんもそれぞれにそれぞれの家庭の事情を抱えて生きていると思います。『子供が親を養わなければいけない義務はありません』という『正論』を前に、親と子がどうあるべきなのか、この作品はなかなかに重い課題を投げかけているように感じました。

    そんな作者の凪良さんは”作品全体を通じて、私が一番重きをおいたのは、「人は生きたいように生きればいい」ということ”だとおっしゃいます。『正しさ』は大切だとしても、”本当に何かをしたいと考えたときに、他人が敷いたレールをかなぐり捨ててでも好きなことをやるべきで、それをみんなができるようになればいい”と続けられる凪良さん。そんなこの物語には、『俺は東京へ行く。プロの漫画家になる。こんな暮らしと縁を切る』という強い決意の元に、それを果たしていく櫂。その一方で、『お金は大事、仕事も大事、櫂も大事』と思うものの、いくら足掻いても『なににも手が届かない』、『わたしが誇れるものはなにもない』と、『島に残って』もがき苦しむ暁海の姿が描かれていきます。この見事なまでの対表現が描かれていく物語前半を見ると単純な明と暗がそこに描かれているように感じます。しかし、そこは凪良さんの抜群の構成力が物語をどんどん奥深くしていきます。それが、「流浪の月」でも見られた二人の主人公の視点の巧みな切り替えです。一点取り上げたいと思います。『瞳子さん経由で刺繡の仕事』をもらったことを暁海が櫂に話すという場面です。まず描かれるのは暁海視点です。そこでは、『刺繡で大きい注文をもらった』と説明する暁海は、『十点で八千円』という金額を告げると『材料費と手間考えたら利益出んやろ』と櫂に言われます。『プロじゃないし、利益より大事なものがあると思って』と言うも『金もらったらプロや』と言い切る櫂。しかし、次の瞬間『まあ、でも、せやな。趣味の延長で楽しんだらええか』と緊張を解く櫂はタブレットに目をやります。『好きなことでプロになって成功している櫂の前で、自分の甘さを浮き彫りにされたように感じた』という暁海は、一方でたいせつな話なのにタブレットに気を取られがちな櫂に失望もします。一方で、同じ場面が今度は櫂視点で語られます。『材料費と手間賃で報酬が飛んでいて、それはどうかと思った』という櫂の内心。『家計を支え』る暁海の状況を見て『会社を辞めること』ができないなら『趣味として楽しんだほうがいいと思ったが、暁海はプロになりたい』と言ったことを『甘い』と感じた櫂。プロになった櫂だからこそわかる『本気で目指すなら、捨てなくてはいけないものもある』という感情の一方で、『恋人の俺は暁海を応援したい』、その思いからタブレットを介して『右から左に暁海の話を通過させた』という櫂の本来の意図がわかります。登場人物に視点を交代させながら展開する物語は数多あります。この作品でも、基本は視点の交代により物語が進んでいくものですが、この場面のようにわざと同じシーンをダブらせることでそれぞれがその場面でお互いのことをどのように思っているかを見事に明らかにしていく、この凪良さんの手法は二人の感情の双方を読者が知ることができる分、二人がすれ違っていくことに何もできないもどかしさを読者の中に掻き立てます。その重ね方の絶妙さが凪良さんの作品の何よりもの魅力だと改めて思いました。

    そんな櫂と暁海の人生が対になるように描かれていく物語は、後半に入って劇的な様相を見せていきます。

    『いつになったら、あなたは自分の人生を生きるの?』

    そんな問いかけに答えを見せていく暁海。それは、凪良さんが大切にされた”人は生きたいように生きればいい”という問いへの答えを見せていくものでもありました。そこには、「流浪の月」で凪良さんが提示された『一度失敗した人間が挽回しづらい国ではあるよね』という視点も見せていきます。櫂と暁海のそれぞれがそれぞれの人生を見せていく物語。そこに十五年先の二人の姿を見せる結末が描かれていきます。

    『たくさんの人に出会い、傷つけ、傷つけられ、助け、助けられ、ようやく準備を整えた。自分が捨てていくものの価値をわかった上で、それでも自由に、自らの意志で、心のままに…』。

    そんな清々しい行動の先に展開していく物語の結末。生きることの自由さと不自由さの中に、それでも自らの幸せを自らの選択によって掴んでいく主人公たちの姿を見るこの作品。そこには、”人は生きたいように生きればいい”とおっしゃる凪良さんの凪良さんなりの答えが描かれていました。

    この作品には四つの章を挟むように〈プロローグ〉と〈エピローグ〉が置かれています。そんな〈エピローグ〉に読み進んだ読者は、そこに”えっ?えっ?”というまさかの驚きの感情を見ると思います。〈エピローグ〉のことなので、ネタバレを考えるとはっきり書くことは避けたいと思いますが、そこには”デ・ジャブ感”を感じる記述の中に、全く違う思いが読者自身の中に去来するという、まさかの物語が記されていました。そして、そんな読者は〈プロローグ〉を必ず読み返すことになると思います。全く同じものを見ているのにも関わらず、その背景を知ることで、人の心は正反対に揺れ動くということを読者に体感させる鮮やかな結末。これには、凄い!という言葉以外浮かびませんでした。そう、最初から最後まで、なんて良く考えられた作品なんだろう!、なんて良く構成された作品なんだろう!、そして、なんて素晴らしい作家さんなんだろう!”本屋大賞受賞作「流浪の月」著者の、心の奥深くに響く最高傑作”という宣伝文句が伊達ではない、と感じる深い、深い満足感の中に本を閉じました。

    『わたしはこれからどんな選択を繰り返していくのだろう』と『夕星』を見る暁海の姿が強く印象に残るこの作品。そんな物語は、『瀬戸内の小さな島』で17歳の青春を共に生きた主人公の櫂と暁海が、さまざまな苦悩の中にそれぞれの人生を生きていく姿が十五年にわたって描かれていました。瀬戸内の美しい自然を鮮やかに文字に写し取っていく凪良さんの見事な描写の数々にすっかり魅了されるこの作品。巧みな視点の切り替えと、同じシーンを重ねる構成によって、主人公二人の心の機微を余すことなく読者に伝えてくれるこの作品。そして、細やかな伏線の数々に凪良さんの確かな構成力を感じるこの作品。

    凪良さんらしく、極めて読みやすい物語の中に、佐藤春夫さんの「夕づつを見て」という詩からとったという「汝、星のごとく」という書名に込められた凪良さんの思いを味わい深く感じる絶品だと思いました。



    凪良ゆうさん、この作品、心に沁みました。凪良さんは、”登場人物になりきって書くタイプ”だとお聞きしました。物語を読み終えて、凪良さんのこの作品にかけられた熱い想いの中に囚われているのを感じます。こんなにも、こんなにも素晴らしい物語をありがとうございました!

    • まことさん
      さてさてさん。こんばんは♪

      読みました!
      私も、著者の心の奥深くに響く最高傑作という惹句にひかれて、予約していたのですが、届いたのが...
      さてさてさん。こんばんは♪

      読みました!
      私も、著者の心の奥深くに響く最高傑作という惹句にひかれて、予約していたのですが、届いたのが昨日だったのです。
      泣かされました。
      さてさてさんは、今年のベストとおっしゃられていますが、私はベスト3には入る感じはするのですが、まだわかりません。
      でも、もう、今年も8月だし…。どうでしょう。
      今、さてさてさんは凪良ゆうさんの作品を読まれていらっしゃいますが、次のレビューは『流浪の月』でしょうか?
      『滅びの前のシャングリラ』の時はさてさてさんから、コメントいただきましたね。
      それで、コメント欄で色々さてさてさんのことをお聞きしましたね。
      そんなことを思い出しました。
      2022/08/08
    • さてさてさん
      まことさん、ありがとうございます!

      まことさんもお読みになられたのですね。レビューにも書きましたが三冊ワンセットでしか読めない私の場合...
      まことさん、ありがとうございます!

      まことさんもお読みになられたのですね。レビューにも書きましたが三冊ワンセットでしか読めない私の場合、凪良さんの作品あと一作で足踏みが続いていましたので、早々に読みました。実は↑で指摘いただいた「流浪の月」と連続で読んだのですが、私は間違いなく「流浪の月」よりこの作品に感銘を受けました。細かいところまでよく練られていて、鬼気迫るものを感じました。私の場合、レビューがやたら長くなる傾向がありますが、この作品8,400字まで伸びてしまいました。長ければ良いわけでは当然ありませんが、私の中に込み上げるものが抑えられなかったということはあると感じています。実のところ、今年は良い本に巡りあえないという悩みを抱えておりまして、ブックリストの上半期ベスト3は上半期の最後にようやく出会えた作品たちでした。以前書きましたが、私の場合、レビューストックが一定数あります。それ込みで2022年の読書&レビューを見た場合、やはりこの作品は飛び抜けているという印象です。凪良さんの一般文芸は6作品を読み終えましたが、凪良ゆうさん自体とても好きな作家さんだと改めて感じています。もっと一般文芸を出してほしいですが、当面出ないですよね。とても残念です。しかも私の場合、三冊揃わないと読めないので、下手したら三、四年先かもしれませんね。こうなったら40作以上あるBL作品に手を出すべきか?とも思うのですが、やはり、レビュー前提を考えると少し不安があります。まあ、のんびり待ちますかね。まだまだ未踏の作家さんも沢山いますので。
      いずれにしても、期待以上の素晴らしい作品に出会えて良かったです。コロナ禍でどこにも行けない夏になりましたが、せめてもの幸せだと思っております。
      2022/08/08
  • ストーリーは書かずに、感想のみ書きます。

    一部、軽くネタバレしているので、これから読まれる方はお気をつけください。






    最初は暁海が自分の母親の弱さゆえに、ヤングケアラーとして生きるしかなく、高校時代からの恋人で、どんどん有名になって成功していく櫂とすれ違うようになっていくところは、暗く可哀想な話でしかありませんでした。

    暁海が父の浮気相手で、事実婚している瞳子には「ーいつになったら、あなたは自分の人生を生きるの?」と言われます。

    狭い島の中でずっと二人のことを見ていた北原先生に暁海が「僕と結婚しませんか」と言われる場面では、ああ、これでこの作品に本当のハッピーエンドはなくなるのかと思いました。

    「子は子、親は親です。
    附属物のように考えると悲劇が起きます」
    by北原先生

    そして、まさかの場面展開。
    「過去は変えられないと言うけれど、
    未来によって上書きすることはできるようだ」
    by暁海

    櫂と暁海が3回目に見ようとした、花火の音が書いていないけれど「ヒュルルルルー、ポンッ」と打ち上げられて夜空に全開するのが見えた気がしました。

    確かに泣かされましたが、最後の場面はずるい、禁じ手だよ。こんな残酷できれいなラストはないよと思いました。

  • 覚悟を持って選べばいい 著者の凪良ゆうさん/編集担当・河北壮平さん(今治出身)に聞く|愛媛新聞ONLINE(会員記事)
    https://www.ehime-np.co.jp/article/news202207280042

    『汝、星のごとく』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000366625

  • 切なかった・・・登場人物みんなそれぞれ悲しい。
    母に振り回される高校生のころの暁海と櫂はもちろん、大人になってからも不幸につきまとわれてしまう二人の姿がつらい。
    島に残った暁海もそうだけど、都会に出た櫂の転落ぶりが悲しい。
    櫂が血を吐いてしまう描写が何気ない感じ?なのかもしれないけれど、すごくハッとした。うわ、きた・・・ってなった。(きた?)  

    北原先生と暁海の新しい関係、お互いの不安を解消させるための【互助会】的な結婚。昔はこういう関係をつくる人たちの思いがうまく理解できなかったけれど、最近はわかるようになってきた気がする。
    「生きるとは、なんて恐ろしいことだろう。先が見えない深い闇の中に、あらゆるお化けがひそんでいる。仕事、結婚、出産、老い、金。闘う術のないわたしは目を塞いでしゃがみ込むしかない」
    経済的に自立していて【ひとりで生きられる】のと、【ひとりで生きたい】のはまた違う。ひとりで生きるって、やっぱり怖い。
    結婚したいわけじゃないんだけど、先のことを考えたりまわりの目を考えたりすると・・・と思う最近の私。まわりから色々言われるようになりましたね。結婚すれば偉いのか?そんなに結婚が大事なのか??とか思ってしまう・・・
    暁海の島みたいな狭くて閉じた世界って嫌だな。本当、価値観も止まってるんだよね、こういう田舎って。新しい価値観持ち出すと、ついていけないって顔されるし。(なにかあった人みたいになってるなぁ)

    「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でもわたしの経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない。」
    これは暁海の父の愛人・瞳子の言葉。
    “まわりなんて気にせず、自分の行きたい道を選べばいい。というか、そうしないといけない”という考えは瞳子も北原先生も同じなようで、繰り返し暁海に伝えている。
    自分の道を自分で選ぶ。それがいちばん良いのはわかってるんだけど、それが難しいんだよね。何が正しいというか、どうすればうまくいくのかなんてわからない。それでもやっぱり、誰かに選ばされて苦しむよりは自分で選んで苦しんだほうが良いんだろうな。生きるというのは難しい!怖い!

    プロローグとエピローグが良かった!最初プロローグを読んで、これは・・・?と引っかかっていたのが、最後にスッと入ってくる。
    エピローグの最後に櫂からプレゼントが届くのもまた良い。
    はぁ、、、切ない!すごく良かった!


    「人は群れで暮らす動物です。だからなにかに属さないと生きていけない。ぼくが言っているのは、自分がなにに属するかを決める自由です。自分を縛る鎖は自分で選ぶ。」

  • すごい物語を読んでしまった。暁海と櫂の年齢順と季節の構成がすんなり読めて素晴らしいかぎりです。読む手が止まらず一気読み間違い無し恋愛小説の最高傑作、ラストは悲しみを忘れさせてくれる終わり方でした。

  • 本作の文章1つ1つが心にのしかかってくるような表現力は素晴らしく、作者の魂が込められていると感じました。

    本作のテーマの1つに遠距離恋愛が挙げられますが、昨今のコロナ情勢で遠距離恋愛を行わざるを得なかった身の回りの人たちの話を聞いていると、物語の前半の話は現代の恋愛事情を切り取ったような描写であると感じました。

    また後半では、そんな2人の転機が描かれます。この転機により、2人の環境だけでなく愛情や考え方にも影響を及ぼし、物語のフィナーレへと向かっていくのですが、この後半部のメッセージ性は強く心に残りました。

    若干ネタバレになるので、文章の引用等はしませんが、暁海の決意が書かれている箇所はこの物語の象徴であり、読者に大きな勇気を与えてくれるように思いました。

  •  何とも切なく、生きる歓びと哀しみを〝これでもか!〟と突き付けてくる物語でした。
     瀬戸内の小さな島の高校生 : 暁海(あきみ)と転校してきた櫂(かい)2人の、濃密で波乱に満ちた日々が、やるせないほど見事に描かれています。
     共助精神が強い反面、ほぼプライバシーのない小さな島の中で、2人には、孤独と欠落を抱えているという共通点がありました。2人とも重い足枷を断ち切れず、引きずったまま物語は展開していきます。
     各章ごとに、瀬戸内の海を象徴するように「潮騒」「波蝕」「海淵」「夕凪」と題され、文字通り二人の人生の現況を表すこれらの言葉が不穏を招く予兆とさえ感じます。また、2人の視点で物語は交互に綴られるが為に、読み手は両方の立場と事情を知ることで、イライラ・疑問視・憤怒の気持ちが湧き上がり、一層心が揺さぶられます。
     読後、単純に「面白かった」では済ませられないくらい、深く考えさせられ、動揺している自分がいました。
     生きにくさ、選択、自由、人とのつながる意味・その形とは…? 正解のない答を追い求めた2人の、魂の軌跡を丁寧に掬い上げ記した〝奇跡〟と呼んでもいい傑作と受け止めました。

    • さてさてさん
      NO Book & Coffee NO LIFEさん、こんにちは!
      いつもありがとうございます。
      “正解のない答を追い求めた2人の、魂の...
      NO Book & Coffee NO LIFEさん、こんにちは!
      いつもありがとうございます。
      “正解のない答を追い求めた2人の、魂の軌跡を丁寧に掬い上げ”、おっしゃる通りだと思います。伏線も丁寧に張られていますし、凪良さんの魂がこもった作品だと思いました。私もとても感銘を受けました。自分のレビューに書きそびれましたが、表紙がまた良いですよね。手荒に扱うのはもったいない感じ。装丁まで含めてとても素晴らしい作品に出会えたように感じています。
      今後ともよろしくお願いします!
      2022/08/09
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      さてさてさん、おはようございます!

      コメントありがとうございます。
      読後直後(間違いなく興奮状態でした)のまとまりのないレビューにもかかわ...
      さてさてさん、おはようございます!

      コメントありがとうございます。
      読後直後(間違いなく興奮状態でした)のまとまりのないレビューにもかかわらず、感謝
      2022/08/09
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      途中で途切れてしまいました。
      凪良さんの名文・引用したくなる言葉が多く、自分の言葉が追いつかない状態でした。
      同じ⭐︎5つでも、揺さぶられ度...
      途中で途切れてしまいました。
      凪良さんの名文・引用したくなる言葉が多く、自分の言葉が追いつかない状態でした。
      同じ⭐︎5つでも、揺さぶられ度ハンパなしです。
      いつも緻密で丁寧なレビューありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
      2022/08/09
  • とても、とてもよかったです。

    凪良ゆうさんの本は、読む手を止めたくなる程の悲愴感漂うパートがとても長く感じます。
    今作でも、プロローグから暗雲が立ち込めていました。
    ですが、やはり期待してしまうのです。雨上がりの晴れ間を。
    プロローグとエピローグ、ほとんど同じ内容で、これだけ違う感じ方をさせることができるところが凪良ゆうさんの魅力だと思いました。
    登場人物たちのままならなさ、強さ、全部愛しいです。

    生きづらさを抱える全ての人へ届きますように。

  • 時々、茫然と立ちすくむことがある。
    今、私がいるここは、かつての私が望んだ未来なのか。あの頃の私に今の私は何を語れるのか。
    自分で選んできた道なのに、いくつもあった分岐点を超え、自分で考え、自分の足で歩き続けてきたはずなのに、
    それでも誰かに選ばされてきたと思いたくなることがある。そうしないと耐えられない今がある。
    立ちすくんだ後、前を見る。私はどこに向かう。何を選ぶ。

    海は世界とつながる。海を越えていけばどこか遠くの、ここではないどこかへ、どこへでも行ける。
    でも、海は世界とここを隔てる壁でもある。越えられない壁でもあるのだ。

    人と人は分かり合えない。言葉でしか伝えられない気持ちがある。でも言葉で伝えた気持ちは、自分の中の本当の何かとは別のものかもしれない。どこまで行っても平行線の、その二つの気持ちは、一瞬のすれ違いか、曲がることで重なって続くのか。

    凪良ゆうが描いたのは、一つの恋の始まりと終わり。でも、ここにあるのは、単なる恋愛小説ではない。
    地域格差やジェンダー問題やヤングケアラーなどの社会問題を内包しつつ、それでも人が人として誰かと生きる、その命の意味を問いかけている。
    何が正しいのか。正しくあるために何を捨てるのか。
    拾いすぎて両手いっぱいになって身動きの取れない誰かの、その荷物を降ろすきっかけ。
    多分、これはそんな一冊。

  • 北原先生が暁美を東京に送り出すシーンで泣いちゃった。「永遠に辿り着けない場所を目指して疾走するものが恋ならば、ゆったりと知らないうちに決定的な場所へ流れ着くものが愛のような気もする」

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著者プロフィール

凪良ゆう(なぎら ゆう)
小説「花丸」冬の号『恋するエゴイスト』(白泉社)でデビュー。『雨降りvega』(イラスト:麻々原 絵里依)、『365+1』(イラスト:湖水 きよ)などの作品を手がける。主にボーイズラブ系で活動。
作品多数。主な作品に、『積木の恋』『未完成』『美しい彼』『ショートケーキの苺にはさわらないで』『おやすみなさい、また明日』『2119 9 29』『雨降りvega』など。
『悩ましい彼 美しい彼3』がBLアワード2020 BEST小説部門第1位を獲得。『流浪の月』が2020年本屋大賞の大賞を受賞。

凪良ゆうの作品

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