掬えば手には

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065282489

作品紹介・あらすじ

ちょっぴりつらい今日の向こうは、光と音があふれてる。

『幸福な食卓』本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』に連なる、究極に優しい物語

私は、ぼくは、どうして生まれてきたんだろう?

大学生の梨木匠は平凡なことがずっと悩みだったが、中学3年のときに、エスパーのように人の心を読めるという特殊な能力に気づいた。ところが、バイト先で出会った常盤さんは、匠に心を開いてくれない。常盤さんは辛い秘密を抱えていたのだった。だれもが涙せずにはいられない、切なく暖かい物語。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『ぼくには人の心の中を読み取れる能力があるんだ』と言われたらどう思うでしょうか?

    私たちは、憲法第19条によって”内心の自由”が保証されています。心の中でどんなことを考えようがそれはその人それぞれの自由です。それが故に人と人との繋がりの中で生きていく私たちはなかなかに苦労させられることもあります。

    いつも朝は不機嫌な上司が、”おはよう!”と声をかけてきたとしたら、宿敵と思う同僚が満面の笑みで”ありがとう!”と声をかけてきたとしたら、そして、家に帰って妻に”お疲れ様!”と満面の笑みで迎えられたとしたら、それはある意味恐怖でしかありません(笑)。”腹の探り合い”という言葉がある通り、私たちはその内心が見えないために、さまざまな方法で相手が思っていること、その本心を知りたいと苦心します。『人の心の中を読み取れる』ことができたら随分と普段の苦労が軽減される…そんな風にも思います。もちろん、条件があります。自分の心の中が相手に見えては意味がありません。あくまで見えるべきは一方向のみですね(笑)。

    さてここに、『ぼくには人の心の中を読み取れる能力があるんだ』という一人の大学生が主人公となる物語があります。今までに幾度となく『人の心の中』を読み取ってきた過去の先の今を生きる主人公が登場するこの作品。そんな主人公が心の中を読み取れない現実に対峙する様を見るこの作品。そしてそれは、そんな主人公の思いの先に、”瀬尾まいこワールド”全開な優しさに満ち溢れた世界を見る物語です。
    
    『梨木君、ちょうどよかった』と『忘れ物を取りに寄った』『大学の第三体育館』で河野(こうの)に声をかけられたのは主人公の梨木匠(なしき たくみ)。『サークルでバスケの試合をして』いたものの『二試合連続で負けた』ことに『香山(かやま)君が落ち込んじゃって…』と説明する河野は『試合って言っても、遊びみたいなものでみんな楽しんでただけなのに』と『ぴりついた空気』の中に補足します。『梨木君、なんとかしてよ』、『香山君の機嫌取ってきて』と促す河野に『まったく知らない相手だ』、『突然ぼくに話しかけられたら戸惑うだろう』と思いながらも『使える力がぼくにあって、その力を必要としている人がいるんだったら、活用すべきだ』と考え香山の元へと向かいます。『なんかわかる。遊びだとしてもさ、一応試合してるんだから、負けたら悔しいよな』、『楽しむのもいいけど、スポーツするなら全力出すのが前提だよな』と話しかける梨木に、『香山は大きくうなずき、「そう、そうなんだよな」と体育館に響く大きな声を出し』ます。そして話を続ける中に『お前、マジでいいやつじゃん』と心を開く香山は『本当申し訳ないんだけど…その、なんていうか、君、誰だっけ?』と訊きます。『ぼくは梨木。梨木匠』と答える梨木に『そっか…うん、そうだったよな』と『ぴんと来ないのをごまかす』香山に『負けたにしても、ナイスゲームお疲れ』と返して場を後にする梨木に『ありがとな。梨木。今度は一緒にやろうぜ』と大きく手を振る香山。『ぼくのやるべきことは果たせたみたいだ』と『ああ、そうだな』と手を振り返した梨木。そんな梨木は『ぼくが最初に自分の能力に気がついたのは、中学三年生の十月だ』と過去を振り返ります。『入学した時からずっと不登校だった三雲さんという女の子が、初めて学校に来るということがあった』ある『金曜日の三時間目』。『三雲さんが保健室の先生と一緒に教室のドアを開けて入って』くるも『声も出さずじっと見守』るクラスの面々。『みんな喜んでいるよ』、『みんな待ってたんだよ』と『担任の先生』が言うも『どれも三雲さんにはヒット』しません。『もう座ってしまったほうが楽になれるのに』と思う梨木が彼女の顔を見ると『何かに怯えているようではあるけれど、その向こうにしっかりとした意志がある瞳が見え』ました。そしてはっとします。『二日前に衣替えをした』のに『三雲さんは夏服を着ている』、『もしかしたら…引っかかっているのは…一人だけ違うその服装かもしれない』。『いてもたってもいられなくなっ』た梨木は、すっと立ち上がると『全然、夏服でもいいじゃん。ぼくなんかさ、ほら見て』と言うと『学ランの前ボタンを外』すと『学校のワイシャツ着てないんだ。パジャマにしてるTシャツのまま…ドラえもんの柄だよ。超ダサいだろう?』と話します。それに『梨木、小学生かよ!』と突っ込みが入るなど『みんなも懸命に』場を『盛り上げてくれ』ます。そんな中、席に着いた三雲さんに『おおー』と『歓声が上がった』教室。そして、授業が終わった後、『どうして、梨木はわかったの』、『三雲さんが夏服を気にしてること』、『エスパーだな。エスパー』と取り囲まれた梨木。『梨木には力があるんじゃない』と言われ『ぼくにも何か特別なものがあるのかもしれないと、かすかに希望を与えられた気がした』梨木。その後、『学校に来るのは週に一、二日、数時間程度のこと』という三雲を気にかけ続けた梨木。そして、『卒業式の前日』『連絡先を教えてほしい』と三雲に言われ、『「もちろん」と携帯のアドレスを教えた』梨木ですが、『通信制の高校に進学』した三雲から『連絡があったのはほんの数回』でした。そして大学生になった今の梨木は『オムライス店でバイト』しながら大学生としての毎日を送っていますが、ある日、バイト先に一人の女性が新しいバイトとして仕事を始めます。何か秘めているその女性、そんな女性に『特別な力』で接するも『彼女の心はまるで読めな』いという現実に晒されます。そんな彼女が秘めたものとは、そして梨木の『特別な力』とは…”瀬尾まいこワールド”全開な物語が描かれていきます。

    “大学生の梨木匠は平凡なことがずっと悩みだったが、中学3年のときに、エスパーのように人の心を読めるという特殊な能力に気づいた。ところが、バイト先で出会った常盤さんは、匠に心を開いてくれない。常盤さんは辛い秘密を抱えていたのだった。だれもが涙せずにはいられない、切なく暖かい物語”と内容紹介にうたわれるこの作品。いきなり”エスパーのように人の心を読める”特殊能力を持った主人公の登場!絶品ファンタジー?と思わせる内容紹介がある意味でミスリードもしていきます。瀬尾まいこさんの作品はエッセイを除いてほぼコンプリートした私ですが、瀬尾さんほどファンタジーと紙一重の世界を絶妙に描かれる方はいないと思います。そして、そんな瀬尾さんの作品ではそれを当たり前のように見せていく独特な世界が広がっていると思います。ふわふわとした一見掴みどころのない世界。この世界に浸りきることが瀬尾まいこさんの作品を読む醍醐味でもあります。

    さて、そんなこの作品は魅力的な登場人物にあると思います。”瀬尾まいこワールド”に決定的な悪人は登場しません。というよりどこかほんわかとした雰囲気を持った不思議な人物が物語を引っ張っていきます。ここが読んでいて安心の世界観を紡ぎ上げていくのだと思います。この作品に登場する人物は次の五人です。そして、視点の主は一貫して梨木匠が務めます。

    ・梨木匠: 大学一年生、オムライス店『NONNA』で『ほぼ毎日』アルバイト、『人の心の中を読み取れる能力がある』

    ・河野悠: 大学一年生、梨木に『大学内で河野さんに会わない日はな』いと言わせる位に毎日会う存在

    ・大竹: オムライス店『NONNA』店長、39歳、『ヤンキー上がり』、『バイトが立て続けに辞める』口の悪さ

    ・常盤: 看護大学二年生。オムライス店『NONNA』でアルバイト、『何をどう思っているのかが、どこからも漏れてこない…不思議な人』

    ・香山: 大学一年生、『運動部でまっすぐにやってきた純粋なやつ』、梨木を『隣の市のマラソン大会』に誘う

    五人の属性を見ていただくとお分かりの通り、物語は大学と梨木のアルバイト先である『オムライス店』を舞台に展開していきます。そんな中で新しく働き始めた常盤が謎を秘めた存在として描かれていきます。必要なこと以外、会話を拒否するかのように接する常盤、梨木の誘いも拒絶し不思議感を深めていく中に展開していきます。

    そんな物語で光が当たっていくのが主人公である梨木が持つ『特別な能力』です。梨木は自分のことをこんな風に認識しています。

    『ナンバーワンにもオンリーワンにもなれる要素がなくて、個性と言えるようなものは一つも持ち合わせていない。どの集団にいても、ちょうどまんなか平均値に居座っているのがぼくだ。秀でたところなど、どこにも見当たらない』。

    『父はカメラマンで、母はバイオリニストで、姉は画家を目指すとかってアメリカに留学中』という『芸術一家』で育った梨木は『その家族の中で、ぼくだけが普通なんだ』という思いに苛まれながら生きてきました。

    『平凡はつまらないぞ。好きなことを思いっきりやれ』

    そんな風に父親から強くアドバイスされ続けてきた梨木は大学に入ってそんな家族と離れ一人暮らしを始めました。そんな風に『平凡』という言葉に対するマイナス感情を刺激される中に『特別』であることに憧れる思いを抱いてきた梨木は、自分に備わっているかもしれない『特別な能力』を意識します。それこそが、冒頭でもご紹介した、中学校のクラスで経験した、友人たちに『エスパー』と騒がれた『相手の気持ちを読む力』でした。

    『必要とされた時、何か言葉をかけたほうがよさそうな時、そういう時には惜しまず使おうと思うけど、自分の持つ力をわざわざ披露する必要はない』。

    そんな風に大学生活の中で人には積極的には伝えず友人たちと接していく梨木。物語ではその冒頭に『バスケの試合』で負けたことに端を発して場を『ぴりついた空気』の中に引き込んでしまっていた香山に対してその能力が依然として存在していることが匂わされます。それを自信に繋げていく梨木。

    『やっぱり、ぼくには人の心の中を読み取れる能力があるんだ。漏れてくる思いを感じられる力。そして、そこに応じた言葉を送れば、喜んでもらうことも、安心させることもできる。ささやかだけど誰かのためになる力。それがぼくにはある』。

    しかし、そんな梨木は自身の力が通用しない現実に向き合うことになります。

    『ぼくは人の心が読めるはずだ。なんとなく相手の気持ちがわかるはずだ。それなのに、どれだけ常盤さんを見つめてみても、彼女の心はまるで読めなかった。常盤さんは、重い扉の向こうにいるようで、何一つ凹凸のないガラスに包まれているようで、漏れてくる感情は何一つなかった』。

    『普通』、『平凡』という言葉を強く意識する中に自らが持つ『特別な能力』に自身のアイデンティティを見出す主人公の梨木。私たちは多かれ少なかれ誰にだって自分が他者より秀でていると言われることに喜びを感じます。この作品では『人の心が読める』という『特別な能力』に自身の存在意義を感じてもいく主人公の梨木がそんな能力が通じない現実に対峙していく有り様が描かれていきます。『漏れてくる感情は何一つな』いという常盤が抱えていものとは何なのか?物語は、そこに読者に衝撃的な事実を突きつけます。ほんわかとした物語に突如突きつけられる狂おしいまでの現実。そんな現実に勇気をもって、一区切りをつける梨木の姿が描かれていく結末。極めて納得感のある、それでいてこれでもか!と人の優しさを感じさせる絶品の結末に、あたたかいものが込み上げてくるのを感じながら本を置きました。

    『ぼくには人の心の中を読み取れる能力があるんだ。漏れてくる思いを感じられる力』。

    大学一年生の梨木の日常が淡々と描かれていくこの作品。そこには、人と人との関係性の中で『特別な能力』と向き合う梨木の姿が描かれていました。極めて読みやすい物語が心にスーッと入り込んでくるのを感じるこの作品。登場人物のまさかの繋がりに驚かされるこの作品。

    瀬尾さんが描く優しさに満ち溢れた物語世界の魅力にすっかり心を持っていかれた絶品だと思いました。

  • ほんわか、心温まる優しいストーリーです。

    ナンバーワンにもオンリーワンにもなれる要素がないと思っているぼくこと梨木匠。
    大学三年生。

    だけど、匠には、人の気持ちが読めるという能力があります。
    その能力を使って、中学生のとき、不登校だった同級生の三雲さんが、学校に来た日、三雲さんを救えたと匠は思います。

    今は大学に通いながらオムライス店で、バイトをしています。そこには、口の悪い店長の大竹さんがいて、バイトに来たものがすぐに辞めていってしまいます。
    匠はなんとか自分の特技を活かし、バイト継続最長記録を継続中です。

    そこへ、看護学生の常盤さんがバイトに入ってきます。
    匠は常盤さんを囲む重たい空気が気になって仕方ありません。
    それに常盤さんの背中から匠は自分に向けられた声が聞こえてくるのでした…。


    以下、ネタバレあります。これから読まれる方はお気をつけください。





    大竹さんは、口が悪いけど根っから悪い人ではないことがわかります。誕生日パーティのエピソードには笑みがこぼれます。

    常盤さんの秘密を知った時はなる程、そうだったのかと思いました。
    バイトを始める前に、昔、常盤さんがこのオムライス店を訪れた時の大竹店長とのエピソードには心温まりました。
    だから、常盤さんもバイトを辞めなかったのですね。

    • shukawabestさん
      こんばんは。shukawabestです。
      ネタバレからさきのレビューは読まずに、読み終えたら感想書こうと思います。良さそうな作品ですね。
      こんばんは。shukawabestです。
      ネタバレからさきのレビューは読まずに、読み終えたら感想書こうと思います。良さそうな作品ですね。
      2022/08/11
    • まことさん
      shukawabestさん。こんばんは♪

      ブクログでも、人気の作品みたいですね。
      瀬尾まいこさんの、やさしい世界観の作品でした。
      shuk...
      shukawabestさん。こんばんは♪

      ブクログでも、人気の作品みたいですね。
      瀬尾まいこさんの、やさしい世界観の作品でした。
      shukawabestさんの、感想楽しみにしています。
      2022/08/11
  • 瀬尾さんの作品では、もう忘れかけている思春期の心の揺れを思い起こさせてくれます。
    これも瀬尾さんが先生であった時代に思春期の子どもたちに寄り添ってきたからこその表現だと思います。自分もあの頃、そんなこと考えてたなと結構な頻度で頷いてしまうのです。
    本作品では青春の光も影も優しく描かれていきます。
    「高校生のころは、わけもなく心が揺れ動いて苦しくなったり、ぶつけようもない苛立ちに襲われたり、漠然とした不安に叫びたくなった。」
    「そう。いろいろあっただろ。単純明快に暗いところゼロで十代をやり過ごしているやつなんていないもんな」
    「だけど、あの時は思春期だったでしょう? 今のほうがずっと余裕」

    さて、大学生の梨木とバイト先の店長大竹さん、そして友人たちを巡り物語が展開します。
    物語が進むにつれて登場人物の背景が明らかになっていくのも瀬尾さんらしい展開です。
    心地よい文章で、つい時間を忘れて読んでしまう。

    現代はたくさんの人とスマホやSNSでゆるくつながっていける時代です。
    それとは逆に、人と人とが直接かかわり合う、気持ちを推し量り合うことでしかわからないことがあるのも事実。本作では人との関わりが中心に描かれます。
    梨木くんは、全てが平均的というけど人の心を酌むことのできる達人ですね。
    河野さんも常盤さんも、香山くんとの関わりも、リアルな人と人との関わりの賜物です。
    こんな体験できるといいですね。
    いい時間を過ごせたと思います。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ここからはネタバレです。
    常盤さんと秋音に関しては、自分ならとても耐えられないです。秋音が可愛らしければ可愛らしいほど、悲しみは消えないことでしょう。
    ここは温かな気持ちに到底なれなかったのでストーリーの流れのよさと差し引いても⭐3としてしまいました。

  • 特別な力、その力の意味、誰にでもあるけれど、それを認める自分やほんの一握りの誰かがいるか。それだけで、ずいぶん、人生が楽しくなりそうな気持ちにさせてもらった作品。聞こえない声でも、想像し、訊いて、自らの心で話せば、届くこともあるかな。寄り添うことができれば。

  • ちょっと物足りなかったなぁ。
    もっと色んな人の心の声が聞こえちゃうのかと思った。
    秋音ちゃんの声が聞こえるのは、他の人の声が聞こえるのとは別の能力に思えて違和感があった。

    河野さんは健気でかわいらしかった。

  • 久しぶりの瀬尾まいこ!ほんわか~。中3の時に人の心が読める能力に気付いた梨木匠。不登校の女子をクラスへ招き入れる優しい。彼が大学生になり、ある日、バイト先の看護学生・常盤さんだけは心が読めない。常盤さんの過去が気になりあれこれ聞き出そうとするが心を閉ざす常盤。こんな常盤を見て入ると「心を読んで」手を差し伸べる。いやいや、梨木は心が読めるのではなく、単に「相手が困っていることへの察知する能力があり、いち早く手を差し伸べることが出来る」ということ。心を読む能力よりも長けた「勇気あるお節介」なのだろうと思う。⑤

  • 偶然、「星を掬う」のあとに「掬えば手には」を読んだが、この作品では何を「掬った」のだろうか?
    瀬尾さんの作品は3作目。どの作品も心穏やかにサクサク読める。この作品も、即2度読んでしまった。
    主人公の梨木は平凡過ぎることが悩み。学業成績も中間、マラソン大会を2度走っても丁度中間。その彼が中学生の時に人の心を読める能力に気づき、相手を何人も助けて行く。ところが、どうやらエスパーでは無く、相手の行動を注意深く観察しての結果のよう。最初に助けた河野さんは「梨木君は、自分がどう見えるかより、相手の気持ちを感じ取って進むことを選べる人だよ。人の気持ちを読んでくれる人」として、同じ大学に進み、毎日のように梨木との出合いを求めている。
    梨木と同じアルバイトの常盤さんは、自分の周囲にバリアを張り巡らし閉じこもっている女性。この常盤さんから発っせられる別の声を聴き取り、その声と会話する梨木。オカルト的な内容になって来たが、その魂の声との会話により常盤さんを解放に導いて行く。
    バイト先の店長は、その毒舌や嫌味によるモラハラで誰も1週間持たないが、梨木の特殊能力と閉じこもった常盤さんは長期に続けて行く。嫌な店長が徐々に心を開いて行く過程も楽しい。
    帯にあった「究極に優しい物語」はその通りと思う。

  • ほんわかあったかい話でした


    梨木くんの語り口調のせいか
    のんびりとした空気が続いています

    その空気が心地いいような
    少し物足りないような


    もうひとつ何か欲しい気もしました



    とりあえず
    オムライスが食べたくなりました(^^)

  • お互いに無関心でいる方が、上手くいくとも思える現代に、心が温かくなる物語だった。
    人の心を読める(読んでしまう)のは、自分を疲れさせるしんどいことでもあるでしょう。梨木君は、物事が好転するように自ら動く。凄い能力だ。梨木君、自分を疲弊させていませんかと、心配になった。
    ストーリーのヤマというより、梨木君はじめ登場人物が、心に思い描いた景色を感じ取ることが出来た一冊だった。劣等感だとか過去の心の傷、人には言えない部分、少しずつ扉を開けることにより相手の心を解きほぐしてゆく。実際は難しいと思うけれど、この物語の中だけでも、やさしいお節介が沁みた。自分の時間を、大切な誰かのために使うことで得られる幸せってあると思う。梨木君本当の自分の取り柄に気付いて良かった。人との付き合い方で気を揉んだり、つい人と比べて疲れてしまったり、ちょうどそんな時だったので、すっと入ってきました。疲れたときは、自然と瀬尾まいこさんの棚を眺めています。

  • オーディブルで聴く。
    瀬尾さんらしく、優しくて心が暖かくなる話。

    主人公の匠が、人のために自然に動ける男。
    自分には人の心を読める特殊能力がある思い込んでいて、お節介を焼ける。
    その割に、自分がどう思われてるか、の読みは外しまくり笑

    愛すべきキャラです。
    世の中、こういう人が求められている、ということですね。

    バイト先の常盤さんの秘密にはびっくりでした。
    でも、気になる女性に冷たくされても何度もトライ&エラーを繰り返せる勇気に脱帽。
    ふつうはめげる。
    でも諦めず、最終的には救ってしまう。

    今風の男子のあり方が描かれています。
    若い男子はぜひ読んで勉強すべき。

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

瀬尾まいこの作品

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