オール・ノット

  • 講談社 (2023年4月19日発売)
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本 ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784065312193

作品紹介・あらすじ

友達もいない、恋人もいない、将来の希望なんてもっとない。
貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。
「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」
彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。

今度の柚木麻子は何か違う。
これがシスターフッドの新しい現在地!

感想・レビュー・書評

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  • あなたには、ある人との出会いがその先の人生を変えた…という経験はないでしょうか?

    私たち人間は人と人との関わり合いの中で生きています。もちろん、人付き合いが苦手で…と極力人と関わらない生活を心がけている方もいらっしゃるでしょう。しかし、私たちがこの世を生きていく中には、他の人と全く無縁に生活を送ることはできません。

    一方で、私たちが他の人について知っていることは限られてもいます。同じ職場で働いていても業務上関わり合いがなければ会話自体存在しないこともあるでしょうし、普段会話をする関係にあっても、相手の人生をどこまで知っているかと言えばそれは限られたものだと思います。そんな中では、いつも見かける人にまさかの背景事情が隠されていたと気づく瞬間の到来…そんなこともあるかもしれません。

    さてここに、『アルバイト先の』『スーパーマーケット』で、『試食販売のマネキン』として働く一人の女性と知り合った先に『変化は小さなものだがじわじわと始まっていた』と人生の変化を見る一人の女子大生が主人公となる物語があります。将来の負債となる『奨学金』に漠然とした不安を抱え『節約生活』を送る主人公を見るこの作品。そんな日々に変化をもたらした女性に隠されたまさかの背景事情に驚くこの作品。そしてそれは、「オール・ノット」という書名に込められた『全部ダメってわけでもない』という言葉に主人公の未来を見る物語です。
    
    『よろしければ、どうぞ』と『唐突に目の前に差し出されたあたたかな飲み物に』とまどうのは主人公の宮元真央(みやもと まお)。『七月の終わりで、外気温は三十度』という中の『熱いもの』に抵抗を抱くも『身体の内側がうるおいで満ちていく』中、『これって、アイスティーのモトですよね』と話しかける真央は、『何度もこの店のこの通路で、顔を合わせているひと』、『たぶん五十代くらい』と目の前の女性のことを思います。そんな女性に声をかけられ『紙パック入りのアイスティー原液一リットルを躊躇なくカゴに入れて』いく客を見る真央。『大学の授業料は、毎月、日本学生支援機構から振り込まれる十万円の奨学金でまかな』いつつ、『スーパーマーケット』と『ビジネスホテルの清掃業務で生活費を捻出』する真央は、大学卒業後に残る『奨学金四百八十万円の返済』のことを思います。そんな真央は『パート主婦の杉下』から『あのおばさんの苗字は山戸(やまと)』だということを教えてもらいます。『あの人が試食販売するとものすごくよく売れる』、『どのメーカーの営業』も『指名してくる』とおばさんのことを知っていく真央。
    場面は変わり、『あの、よかったら、これどうぞ』、『私が焼いたの。お口に合えばいいんだけど』とおばさんに渡された紙袋の中にはスコーンが入っていました。そんなことをきっかけに『仕事が終わる時間が近い日は』『おばさんを待ち伏せして、一緒に帰るようになった』真央は、『おばさんの名前は四葉(よつば)さん』だと知ります。そして、『この人、とてもお金持ちなんだ。正確には「元」お金持ち』ということも知っていきます。
    再度場面は変わり、『この中に、真央さんが欲しいもの、あるかしら』と、四葉に話しかけられた真央。『有名製菓メーカー』の『懸賞の賞品一覧』を見せる四葉は『ハガキにマークを貼る作業さえ付き合ってくれたら、全部、あなたの欲しいものに使ってもいい』と説明します。応募ハガキを書く中で、『四葉さんの実年齢は、四十一歳だ』と知った真央。そして、『神様、どうか真央さんにパソコンが当たりますように』と『指を組み合わせて目を閉じ』る四葉とポストに投函を終えた真央。
    そして、『お盆が明けるのと同時に、お菓子メーカーからの当選通知が四葉さんのもとに』届き、『最新式Macの登場で、真央の生活は一変し』ます。『漫画喫茶やメディアセンターに通わずとも勉強できる』日々の中に『夏休みが終わ』り、『大学二年生対象でインターン募集』を始めたホテルへと面接に赴く真央。
    再び場面は変わり、四葉に招かれ、アパートに泊まった翌日、『これが私の全財産』と『両手に載るくらいの、小箱』を差し出す四葉は、中身を説明する中に『これはね、オール・ノットっていうの』と『真珠の短いネックレスを指に絡め』ます。そして、四葉は言います。『この宝石箱をあなたにあげる。全部売れば、奨学金を全部今のうちに返して、将来を設計する分くらいにはなると思う…』。そんな突然の申し出を固辞する真央に『これはあなたの失敗のために使って。失敗は誰だって、していいものなの…』と告げる四葉。そんな『宝石箱』を受け取った先の真央の人生が描かれていきます。

    “友達もいない、恋人もいない、将来の希望なんてもっとない。貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく”と内容紹介にうたわれるこの作品。カタカナで記された書名の「オール・ノット」が『all not』という英熟語を思い起こさせます。では、そんな「オール・ノット」という書名の意味合いを含めこの作品の読みどころを三つの方向から見ていきたいと思います。

    まず一つ目は、この作品の舞台の一時期が『コロナ禍』にかかることです。この作品が刊行されたのは2023年4月19日であり、同時期には連休明けの感染症法上の扱いの変更も決まっていました。しかし、作者の柚木麻子さんが執筆されていらした時期はまだまだ『コロナ禍』であり、作品にそんな世の中が描かれているのは自然なことです。そして、『コロナ禍』を背景にした作品をすでに10冊以上読んできた私ですが、この作品で取り上げられる背景事情は初めてのものです。この作品の主人公となる宮元真央は、”貧困にあえぐ苦学生”としての日常を生きています。『我が家にそんな余裕はない』、『仕送りは絶対不可、と釘を刺され』一人上京した真央。

     『生活費を切り詰めても四万八千円の家賃と合わせたら、毎月の支出が十万円に届きそうな時がある』

    そんな日々の中に『奨学金四百八十万円の返済』が将来にのしかかっていく真央。そんな中に突如訪れた『コロナ禍』。

     『アルバイトは自宅待機を余儀なくされ』、『苦渋の選択で奨学金に手をつけて、数ヵ月をしのいだ』

    そんな状況は、

     『卒業の年になっても、コロナは収束する気配をまったく見せなかった』、『卒業式もオンラインだった』

    一生に一度しかない大学時代、それをまさかの『コロナ禍』で奪われ、かつ、それでなくとも生活苦に喘いでいた日々がさらに厳しいものなっていくという真央の人生。『コロナ禍』が”貧困にあえぐ苦学生”にどれだけ辛いものであったかを物語は描いていきます。この側面から『コロナ禍』を描いた作品は私にとって初めてであり、そんな『コロナ禍』を経てその後の人生を生きていく真央のことがとても気になります。

    二つ目は、上記でも触れた”その後の人生”という点です。実はこの作品の構成は非常に凝っています。というより大胆極まりない展開を見せるのです。それは、描かれる時代の幅の広さと、まさかの近未来が描かれていくという点です。物語を通しての主人公は宮元真央が務めます。

     『去年と変わらない、アルバイトだけの夏だった。大きな出来事はなかった。恋もしなかった。でも、それは真央の生涯で忘れられない夏となった』。

    そんな日々の中に大きな起点を作ってくれたのが、山戸四葉の存在です。『アルバイト先の』『スーパーマーケット』で『試食販売のマネキン』として働く四葉。物語は真央が大学二年、二十歳の時がスタート地点になります。何かと謎めいた存在である四葉の人となりは、ある人物を通して、

     『九〇年代初期の横浜で、山戸四葉にぴたりと寄り添うことは、この世界すべてを味方につけるに等しかった』。

    そんな過去が物語の中で語られていきます。えっ!と驚くまさかの過去が描かれていく物語は時代を感じさせる独特な雰囲気感に包まれています。このレビューではこれ以上触れることは控えますが、これから読まれる方には是非お楽しみにしていただければと思います。一方で私がここで触れるのは、この正反対に位置する時間のことです。この作品では、なんと近未来が描かれていくのです。と言ってもこの作品はSFではありません。”タイムマシン”も”ドラえもん”も登場しません。そこには、あまりに自然に未来世界を舞台にした物語が語られていくのです。それこそが、『三十四歳の真央は…』と語られる〈第三章〉、『今年で四十歳になった…』と語られる〈第五章〉に描かれる物語です。とは言え西暦何年のことかは物語中はっきりとは登場しませんので、記されている内容から時代を特定してみましょう。〈第一章〉で『もう二十歳だから、いいわよね』という記載と、『大学二年生対象でインターン募集』という記載がある一方で、早々に『大学の授業はすぐにオンラインに切り替わった』という記載があることから真央が『大学二年生』、20歳になる年度が2019年度であることがわかります。ここから算出すると、

     ・〈第一章〉: 真央20歳 → 2019年
     ・〈第三章〉: 真央34歳 → 2033年
     ・〈第五章〉: 真央40歳 → 2039年

    という数字が導き出されます。これは凄いです!作品の後半はまさかの未来世界が描かれていることになるからです。では、そんな未来世界を柚木さんがどんな風に描かれているのか、少しだけ見てみましょう。これが2039年の日本の姿です!

     『ここ数年で四十度越えが当たり前になった』

    これはリアルです。もう今年の夏さえもあり得そうで怖い予測です。次は、気候だけでなく身近な生活を見てみましょう。

     ・『正規の授業料を払えるような家庭は子に早い段階で留学させているのが普通で、そもそも多くの富裕層家庭はすでに海外に逃れていた』。

     ・『多くの日本の十代は高校卒業後、非正規のまま一生働き続ける』。

    あまりに衝撃的な未来観に言葉を失いそうです。流石にこんなことはないと信じたいですが、日々のニュースを見ていると100%来ない!と言い切れる自信がないところに今の落ちぶれた日本の現実を憂いもします。では、少し明るく、身近な話題も見てみましょう。

     『壁のスキャナーに真央は手のひらをかざした。これでマイナンバーとクレジットカードにひも付けられた情報はすべて読み取られる…慣れると財布や健康保険証がいちいち必要だった時代を思い出せない』。

    これは凄いです。『マイナンバー』と『健康保険証』の一体化が話題に上がる昨今ですが、そんな次元ではありません。15年後にこのような時代が来ているのでしょうか?楽しみでもあり、ちょっと怖い気もします。これから読まれる方には、是非、この柚木さんの描く未来世界も楽しみにしていただければと思います。

    そして、三つ目は書名の「オール・ノット」です。上記した通り、私はこの言葉に『all not』という英熟語を思い浮かべました。

     『全部ダメって意味もあるけど、全部ダメってわけでもない、っていう意味もある』

    そんな英熟語ですが、一方でこの作品の表紙をよく見ると連なるように真珠が描かれています。私は宝石に関する知識は一切持ち合わせていませんが、宝石がお好きな方はピンと来られたかもしれません。

     『一粒真珠を通すたびに、しっかり固く結んで、たとえ切れたとしても真珠がバラバラにならない』、『真珠を絶対に離れないようにつなぐ、そういうネックレスの技法』

    このことを「オール・ノット」と呼ぶのだそうです。物語では、『ネックレス』が登場しますが、その一方で上記した英熟語の意味合いもこの言葉にかけられてもいきます。なるほど、と納得するこの書名に繋がる物語。つくづく上手く作られた作品だと思いました。

    そんなこの作品は上記してきたように、”貧困にあえぐ苦学生”である主人公の真央が、アルバイト先のスーパーマーケットで『試食販売のマネキン』として働いている四葉と出会ったことから動き出します。

     『去年と変わらない、アルバイトだけの夏だった。大きな出来事はなかった。恋もしなかった』。

    そんな日常を一見淡々と過ごす真央ですが、卒業後に重くのしかかってくる『奨学金四百八十万円の返済』を踏まえ、『絶対に内定を得ないといけない』という思いの中にギリギリの生活を送っています。そんな中で出会った四葉は、不思議な魅力を真央に魅せていきます。

     『四葉さんと一緒だと、周りがとても優しくなる』。

    そして、

     『彼女の不思議な力を紐解いていくと、そこには必ず、明確な理由があった』。

    そんな四葉との関係を作っていく中に

     『この宝石箱をあなたにあげる。全部売れば、奨学金を全部今のうちに返して、将来を設計する分くらいにはなると思う…』

    そんな風に譲り受けた『宝石箱』。物語は、そんな『宝石箱』の由来となる過去の物語、そして、上記もした真央の34歳、40歳という時代を描きながら展開していきます。複数の時代を生きた数多の登場人物、数多の時代背景を鮮やかに一つに結びつけていく柚木さんの筆致は読む手を止めさせてはくれません。そんな物語は、上記した『貧困』、『奨学金返済』、『コロナ禍』といったリアルな問題だけにとどまらず、昨今強く光が当てられるようになった『性加害』の問題にまで及んでいきます。さまざまな社会問題が、これでもかと、もうてんこ盛りに盛り込まれていく先に見る物語の結末。そこには、そんな世の中にそれでも力強く生きていく真央の姿、清々しい読後感を見せる物語の姿がありました。

     『そうだよ。全部ダメってわけじゃないんだよ。なにごとも』。

    そんな意味を持つ「オール・ノット」という言葉と、真珠の『ネックレスの技法』を掛け合わせた書名を冠するこの作品。そこには、主人公・真央の二十年にも及ぶ人生の苦悩と歓喜の物語が描かれていました。まさかの近未来の描写に興味が尽きないこの作品。そんな物語に顔を出す数多の社会問題に鋭く光を当てるこの作品。

    数多の社会問題と幅の広い時代背景を描いていくにも関わらず、軸が全くぶれない見事な構成力を見せる物語の中に柚木さんの凄さを見る素晴らしい作品でした。

  • 読み始めた時と読み終わった今、ガラリと印象の変わる物語でした。
    読み始めは、奨学金で大学に通い、生活を切り詰めている真央が、バイト先で不思議なおばさん四葉に出会い、影響を受けていくという、どちらかというとホンワカという感じでした。
    謎に包まれた四葉と仲良くなっていくと、どうも昔は大金持ちのお嬢様だったらしいということが分かってくる。
    しかし、ここから先、ガラッと印象が変わってきます。なぜお嬢様が今、派遣社員としてスーパーで試食販売をしているのか…単純に考えると家にお金がなくなったから、ということになるのだけれど、それだけではないものが四葉さんにはある。
    四葉の周りには不思議と人が集まってくる。お金があるからと、それを目当てに集まってくるのであればそれは当たり前。でも、不思議と集まってくるのです。
    それはきっと、四葉に強い芯のようなものが一本通っているからなのだろうな。同じ女性として、それは憧れであったとしても、鬱陶しさであったとしても、無視できずに目で追ってしまう存在になってしまうのではないかな。(だけど、男から見たら違うんでしょう。「クソがー( #`꒳´ )」と思う男は出てきましたよw)
    四葉が子どもの頃から、中年になるまでの数十年間の物語だったので、世間の常識が180度といっていいくらいに変わっていきます。LGBTQや性加害など、今では当たり前に語られることが、声を挙げられなかった時代…そんな時代を生きてきた四葉の姿勢、行動は十年早過ぎた…ても、そうやって血を流してくれた人たちのお陰で今があるのかもしれません。
    しかし!何年経っても変わらないのは、お金と教育の問題!と柚木麻子さんは最後まで投げかけています。
    色々な女性の生き様が描かれた作品でした。

  • 下の世代が自分よりさらにひどい苦境に立たされているのを見て、腹の底から湧いてくるこの国への怒り

    ー そんな怒りがこの小説には満ちている。
    おじさんになるまで、そんな国の価値観や仕組みを作る一端を担った(この国に所在する組織で働くということはそういうことだ)者として、非常に読むのが辛い小説だった。
    さらに、読み終えて残るどこにも持っていきようのない、名状し難い感情…

    淡々と描かれているこの国の姿は非常に衝撃的だ。
    閉塞感漂い、国際競争力もなく、支え合う地域の縁もない社会。ディストピアなのだ。
    これが、いまから数年先にリアルにならなければ良いけど…

    ♫レクイエムー怒りの日(ヴェルディ)

  • 「ダイアナ」「アッコちゃんシリーズ」を読んでいたので、強いしっかりした女性をイメージしたのだが違ったようだ。帯に「新しいシスターフッドの現在地」とあり、女性の姉妹のような連帯の内容だった。
    どの女性も不幸に満ち溢れていて、読んでいて暗くなる。奨学金や生活費に追われる主人公の真央。様々な要因で没落していく四葉。ただ四葉は色んな物を人に与えて行く。PCや宝物を貰ったのに、宝物の価値が思った程で無いと離れて行く真央に呆れてしまう。
    自分本位に女性同士の恋愛に明け暮れるミャーコ。性被害に遭う女性。初老の自分には遠い世界に感じた。最後に未来が描かれていたが、多少ホッとする。

  • 奨学金を貰い、バイトで生活費を稼ぎ日々ギリギリの貧困に喘いでいる苦学生の真央が出会ったのは、スーパーマーケットの試食販売をしているおばさん。

    ただならないのは、どの商品にもひと手間加えて売っていて、しかもクレームが一切なくて、近隣地区では有名らしい。
    特別派手でも笑顔でもなく、大きな声でアピールするわけでもないのに…である。

    この山戸四葉さんから貰った紅茶が美味しくて、そのお礼からお菓子をいただいたりするようになる。
    常にお金もカツカツの真央にとっては、同級生との飲み会などまったくなく、バイト中心といってもいいくらいなので、四葉さんとのちょっとした交流はとても嬉しいものだった。

    少しずつ四葉さんのことを知るうちに「小公女」のような、生まれつき心のひろい人は、自分のもちものをおしみなく人にわかちあえるだけではなく、その心をもわかちあえる。これは、四葉さんのことのようだと。

    四葉が託した宝石箱。これが真央の人生を変えていく。

    中盤は、四葉の学生時代の頃や友人のこと。

    最終章は、時代の変化とともに大きく変わった真央の旅立ち。


    もうだめかも…辛くて厳しくて友もいないときに光のように見えたのが、四葉さんであったのだろう。
    誰かの支えで生活は一変することがある。
    けっしてその当時を忘れなければ、今度は誰かにしてあげることがきっとあるはず。

    一度でも切れたら終わり…ではないと。
    オール・ノットは、一粒真珠を通すたびに、しっかり固く結び目をつくることで、たとえ切れても絶対にバラバラにならない技法。

    そう、糸だけだと弱くて脆い。
    だけどしっかりと確実に結んでくれたあなたと私を。

  • 少公女の日本版。柚木麻子先生版。
    真珠のネックレスは、切れて散らばっていかないように、しっかりとつなぐ方法をオールノットという。奨学金をもらい大学に通い、アルバイトで生活費を稼ぐ真央、その生活は想像を絶している。
    アルバイト先で出会った凄腕試食販売員の四葉。
    四葉さんの人生を振り返りながら進む小説。
    柚木麻子ワールド全開のどろどろ感。でも私は、何故だか目を背けられない。
    人と人の繋がりについて考えさせられる。
    自分次第なんだと思う。
    子供の頃に読んだのを思い出した。
    もう一度読んでみようと思った

    うまれつきこころが広い人は、自分のもちものをおしみなく人にわかちあたえるだけでなく、その心をもわかちあたえる。だから、なにもあたえる品物がないときでも、その人の心はいつもゆたかであるから、心をふんだんにわかちあたえることができるのだ。つまりあたたかい、親切な助言やら、なぐさめやら、わらいやらである。ときには、あかるい、心からのわらいがなによりもありがたいことがあるものなのだ(少公女)

    真央は自分にそんなに詳しくないことがわかる。何が好きで、嫌いで、どういう風になりたいか。四葉さんは自分をよく知っているようだ。何ができて、何ができないか、熟知しているようだ

    そういうことだなと納得

  • オールノット。
    糸が切れにくくできている、パールのネックレス。ひと粒パールを通すごとに、糸をしっかり固く結びながら作る技法。


    私は嫁入り道具のひとつとして、真珠のネックレスを購入した。
    安心を得たくて、一応名の通った宝石店にした。
    その真珠は、冠婚葬祭、入学式、卒業式とその度に鏡台の引き出しから飛び出し“私の出番よ~”と大活躍している。

    この本は、山戸家の女三世代、
    お金持ちを背景に描かれている。

    真央は苦学生で、バイトを掛け持ちながらの大学生活だった。
    スーパーで働いていた時に、真央は山戸四葉に出会う。
    四葉はスーパーの試食販売をしていた。実は山戸家の生き残りだった。

    四葉は仲良くなった真央に、宝石箱をあげる、と言いだす。
    宝石箱の中身は――


    章が進むごとに、四葉を取り巻く様々な女性たちへと、語り手が代わり昭和から令和、そして――


    柚木麻子さんの本は、多分六冊目だ。多分というのはブクログを始めてから六冊ということ。
    正直言ってこの本はレビューに迷った。
    いつも読みながら、レビューの冒頭位は思いつくのだが、この本は苦労した。


    最後は良かったが、えっ?・・・と思ってしまう。

    2023、8、28 読了

    • 銀拓さん
      アールグレイさん

      これ図書館で予約中で、また数ヶ月先かな…
      あれ?って思うのですね〜
      ふむふむ…楽しみにしておきます!
      アールグレイさん

      これ図書館で予約中で、また数ヶ月先かな…
      あれ?って思うのですね〜
      ふむふむ…楽しみにしておきます!
      2023/09/03
  •  決して順調でない人生。そんな辛苦のなかを生きる女性たちのゆるやかにつながった縁(えにし)を描くヒューマンドラマ。
              ◇
     宮元真央は奨学金とアルバイトの掛け持ちで学費と生活費を賄う苦学生だ。

     真央が下宿先から通うのは東京でも名の通った私大だが、実家には仕送りしてくれるようなゆとりはなく、頼りにできる親類縁者もいない。おまけに時間に追われ容姿も平凡な真央には、恋人や友人もいない、まさに孤立無援の状態だ。
     経済的にも体力的にもギリギリの毎日は真央から希望を奪っていったが、そのことに気づく余裕さえ真央はなくしていた。

     ある夏のバイト先でのこと。スーパーのバックヤードから缶ビール2ダースを抱えて売り場に出てきた真央に、試飲用の熱い紅茶を差し出してきた中年女性がいた。
     暑さのあまり冷たい飲み物を欲していた真央だったが、ひと口飲んで驚く。7月末にも関わらずその熱い飲み物の美味しさはまったく格別で、いつの間にか真央は暑さを忘れてしまっていた。
     その女性こそ「何でもよく売れる」と評判の試食販売員、山戸四葉だった。( 第1章 )
                   ※全5章。

          * * * * *

     降りかかる数多の苦労に耐えながら人生を好転させていく女性を描く、ひと昔前によくあったタイプの物語かなと思ったら、趣が少し違っていました。

     苦学生の真央。没落長者の四葉。画家くずれの実亜子。モデルくずれの舞。
     皆それぞれ人生につまづき辛酸をなめるけれど、しぶとく生き抜き自分なりの道を切り開いていきます。
     そのポイントになった人物は四葉でした。

     育ちのよさなのか、四葉のスタンスは常に前向きで信じた相手に裏切られようと微動だにしない強さがあります。
     彼女が惜しみなく分け与える善意や指し示す進路により、真央が、実亜子が、そして舞が、苦境を脱し、人生が開けていきます。

     なのに真央たち3人ともが四葉の善意を享受しながら彼女を切り捨て一顧だにしないということに胸が痛んだし、読み続けるのが辛くてこのまま閉じてしまおうかと思ったりしました。
     四葉はある意味いちばんの不運と苦労を背負ったと言えるだけに、長所を活かす生活を手に入れたラストの描写には正直、安堵しました。


     感銘を受けた四葉の姿勢があります。

     1つめは、「嘘つき」でいること。
     ただし、自分のための嘘や人を不幸に陥れるような嘘はつきません。四葉が口にするのは、相手の心を和ませ少しでも前を向けるようにする嘘だけなのです。


     2つめは、縁あって出会ったと思う人間に対し、惜しみなく善意を向けていくこと。
     精神的に物質的に金銭的に。たとえそれで自身が窮することになっても気にしません。ただ相手の人生が立ち行くことを願い喜ぶのです。


     3つめは、窮しても決して挫けたりしないこと。これは、自分にできることとできないことをきちんと弁えているからでしょう。

     持てるものをすべて他人に分け与えて貧していく四葉に、童話『幸福の王子』に似ていると舞が言う場面があります。
     それに対して四葉が答えます。
     「自分は自己犠牲は嫌。絶対に長生きするし、ツバメにも町の人達にも幸せになってもらいたい。」と。そして永く語り継がれなくても構わないから、幸せな結末を迎えるという気概を見せます。
     こういう柔軟かつ強靭な精神を持つ女性は本当にステキだと思います。


     『オール・ノット』というタイトル通り、主要な女性たちは、たとえネックレスの糸が切れてもバラバラに散ってしまうことはない真珠玉のように、それぞれが独立しているけれど実は知らずのうちに細い糸で繋がっていました。
     そしてどんな苦境に陥っても、すべてが悪いというわけでもないということを感じてもいるのです。

     
     柚木麻子さんにしては暗い描写が多い作品でしたが、何かが心に刻まれたような気がする作品だったと思います。

  • 失敗してもいい。一人じゃない。柚木麻子さん新作に感じたこと。 『オール・ノット』 | BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/topics/2023/06/01021195.html

    <著者は語る>切れない絆描く 『オール・ノット』 作家・柚木(ゆずき)麻子さん:東京新聞 TOKYO Web(2023年5月21日)
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/251193

    <訪問>「オール・ノット」を書いた 柚木麻子(ゆずき・あさこ)さん:北海道新聞デジタル(2023年6月18日)
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/863749/

    柚木麻子さん「オール・ノット」に込めた2つの意味 女性同士の連帯、ほころびても絶望しない|好書好日(2023.06.20)
    https://book.asahi.com/article/14933034

    アーティスト | 河井いづみ Izumi Kawai Website
    https://www.kawaiizumi.com/

    『オール・ノット』(柚木 麻子)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000374944

  • どう書いたものか、レビューを寝かせてしまった。

    女子同士(とりわけ若い世代)の複雑な心情や友情、立ち位置などを描くことにかけて、柚木麻子さんのその力量たるや表現できないほどである。
    もう、読みながら首を縦に振りつつうなるしかない。

    この小説の舞台は、自分の育ったエリアでもあるのでより思い入れが深くなり、どう書いたものか悩んだのもある(どこに焦点を当てたものか...)。

    かつて栄華を極めた山戸家と銘菓。
    一代で築き上げたその頂は、あることをきっかけに脆くも崩れていく...。
    波乱万丈の人生であっても常に信条を変えることなく生きていく四葉の姿に、喝を入れられたような感慨が残った。

    バブル崩壊後の30年の中で生まれ育った真央のような世代には、夢を描くことも難しい人も多いだろう。
    そういう世界にしてしまった大人たちに、四葉の姿はどのように映るのだろうか。

  • 本の帯によれば、試食販売で出会ったなんでも売れる嘘つきのおばさんが出てくる話とあったので、もっとコミカルな話を想像していたのに、意外と深刻な現代の問題を内包していた。

    冒頭の軽いタッチの書き味から徐々に社会問題に移行していくので、重苦しく無く深い話に突入していくので、本の世界に引き込まれて1日であっという間に読んでしまった。

    宝石の通販番組の伏線が回収されて、そうなるのかーー!って面白く読み終われたのも楽しかった。

  • 柚木麻子さんの小説、これまで10作品読みました。
    いままでのと比べると期間が長い(昭和~令和以降)
    そして個性的な登場人物が多いと思いました。
    いや、多いっていうか、私とは全然ちがう人ばかり。

    でもポロっともらす言葉には「なるほど」と思うものがありました。

    〈切なそうに目を伏せながらも、あれ、私、悲しいっけ?
    と冷めた気持ちで、実亜子は自分の内側を点検している。
    悲しい、というより、また一からやらなきゃいけないんだ、
    という面倒臭さが大きい。
    すぐにこの穴を埋めないといけないし、
    埋めないまま生活するタフさは自分にはないとわかっている〉

    〈自分の薄情さはジョークとして許されるもの、
    魅力の一つとして換算されるもの
    とばかり思っていた〉

    〈一葉と四葉のあの宣言文は約十年、早かったのだ。
    この文言が受け入れられるほど、
    2010年代初頭の日本は成熟していなかった〉

    だけどひとつわからないことがありました。
    190頁
    〈その瞬間、彼は舞に向けた己の感情を完全に一人で引き受けていた〉
    この「彼」とは誰なのでしょう?
    どなたか教えてください。

  • 世の中は決して平等ではないですが、誰かのせいにし続けて生きていくのも、ちょっと違うなぁと思いながら読んでいました。後悔もあり、関係が途切れたとしても、またどこかで会いたい、会えるのではないかと思ったひと時でした。

  • なんとなくスッキリしない終わり方で、主人公の真央に共感できず、好きになれなかった。
    なぜだろうと思い、ざっと読み返した。
    第一章は真央と四葉さんの出会いから始まる。
    四葉さんの入れたお茶や手作りのスコーン、サンドイッチ。
    いつでもきちんとしていて、自分の考えを持ち、育ちの良さを感じられる。
    四葉さんから受ける良い影響は、真央の行動を変えていく。
    読書、英語の勉強、進路について。精神的に支えられていたと思う。
    そこまでは楽しく読んでいた。
    その後、四葉さんの宝箱を譲り受け、売ってしまう。思ったような金額で売れず、四葉さんとはそれをきっかけに疎遠になる。

    家庭環境に恵まれず、学費は奨学金で賄い、生活費はバイトで稼ぎ仕送りは一切なし。
    切り詰めた生活をしても、お金の心配は頭から離れない。
    そんな毎日を生きていると、人間は卑屈になってしまうのか。恵まれている人との格差を感じるだろう。
    セクハラ、ジェンダー、貧困と話は進み、問題が
    詰め込みすぎてまとまりがなかったように感じた。
    最後に真央が佐々木さんのために、オール・ノットを売りにいくが、それだけは自分の手元に置いておくべきだろうという思いが消えない。
    皆が四葉さんに対するリスペクトもなく、読了後もモヤモヤが消えない。

  • 時代があっちゃこっちゃ飛ぶので少し分かりにくかった。
    最終的には、現代より少し先の話になっているのかな…?
    登場人物も多く、時系列も入り乱れているし、でももう後戻りしながら読むのも面倒になって強引に読み進めた。
    貧困問題、性加害問題、LGBT問題など、現代社会が抱える闇が詰め込まれている。が、不思議なほど暗くはならない。物語の中心にいる四葉さんが、たくましく進み続けているからだろう。この内容なのに、読後感もよく、柚木麻子マジックにかかった気がする。
    巻頭に登場人物一覧を付けてくれたら星4つはつけられたと思う。

  • 女子の夢が詰まったような表紙と四葉さんの優しさのベースで進むストーリー・・・ではなかった!
    プレゼントされた宝石箱の中身の値打ちがさほどでもなかったことで「騙された」と思うことなど、登場人物の他者に対する怒りがほぼ共感出来ず不快。
    最後にデジタル化が進み、貧困が進む近未来的な日本社会が描かれるところで「このまま進んだら確かにこんな感じかも」とようやく話に入り込めた。

  • 感想を書くのが難しい。けど、私はこの本好き。
    ほろ苦い展開もあるけど、好き。

  • アッコちゃんシリーズに出てくるような生きていく生活の知恵もつまっている作品。真央の英語の勉強法はすごい。四葉さんの優しさが何年にも渡って人を助けていくことにつながっている。人を支援するって繋がりが後の人にも続いていく。四葉さんカッコ良すぎる。
    物を買う時って確かに誰から買うかって重要。本当に消費者の事を考えた接客って素敵です。

  • オールノット?って何のこと?
    all not? 全部、だめ?
    とおもっていたら、スペリングはnotではなくknotだった。
    でもまだ何のことかわからない。
    答えは物語の中に。
    ネックレスの繋ぎ方のうち、真珠の繋ぎ方の事だという。
    バラバラにならない繋ぎ方なのだそうだ。
    この物語は、真珠のネックレスの結び方を比喩にした、人と人を繋げる物語。
    読んでいる時は、横浜の物語、苦学生の物語、と思っていたけれど、後から考えてみれば、きっとそういう意味に違いない。

    舞台となる学校、都心の蔦の絡まるキャンパス、観光学部というと、池袋にキャンパスのある(出身者曰く、池袋より新座の方が過ごした時間が長いそうだが)有名大学をすぐに思い浮かべた。
    横浜の学校も、六本木の学校も、どれも中学受験で私にとっては馴染みのある学校だった。

    主人公の真央の物語は少し苦しい。
    女だから我慢させられるということはまだたくさん本当にあるようだ。
    特に地方では。

    私はたまたま学力があって、母親がお金をかけてくれて進学がかなったけれど、それでも奨学金はもらっていた。
    たまたまそれなりの就職先を得て、高校大学の奨学金を10年せず返し終わったけれど、ひとごとの物語ではなかった。
    四葉の話はどこか浮世離れしていてどこまで本当かわからないけれど、たった一人で何かを変えようとしていた強さは、心に火を灯した。257ページの真央の問いかけは、この国の、いや、人に対する問いかけだ。
    たった一人の力で何が変わる、だって?
    それが無駄なんてあなたはどこの場所からものを言っているの?
    弱さや脆さを指摘して、無駄だと笑うあなたはそもそも何か動いているの?
    人を見下して、嘲って、安全地帯から御高説を垂れていただかなくって結構。

    「うまくいかなくて当たり前」。
    何だかその言葉に力づけられる。
    成功しなきゃ無駄、なんてそんなわけないでしょう?
    作者の物語はいつもゆっくり、心の火を灯す。
    私も強くありたい。
    大事な人を守れる程度に。
    困っている人に、小さな手伝いを行える小さな強さを。

  • 一言で言い表すならば、世代を超えたシスターフッドもの。でも、一言では言い表せないほど複雑な思いが、登場人物たちの間には交わされていて、単なる仲良しこよしの話でも、男性優位の社会に対抗する話でもない。
    生まれ持った環境には抗えない、と考えること自体を諦めた瞬間に、強くなろうと奮起できる人は、強くなれると感じた。
    色々な感情が渦巻いて、うまく感想がまとまらないが、一つ確実に言えることは、「真央や舞が、四葉さんに会えて良かった」ということである。佐々木さんにとっての真央が、真央にとっての四葉さんになるといいな、と祈る。

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著者プロフィール

1981年東京生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。2010年、同作を含む『終点のあの子』を刊行。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほか作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『ついでにジェントルメン』『マリはすてきじゃない魔女』(絵・坂口友佳子)『あいにくあんたのためじゃない』などがある。2022年に初のエッセイ集『とりあえずお湯わかせ』を刊行。2022年、作家の山内マリコとともに「原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。」と題した声明を発表する。

「2024年 『柚木麻子のドラマななめ読み!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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