新旧論 三つの「新しさ」と「古さ」の共存 (講談社文芸文庫)

  • 講談社 (2024年12月12日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784065376614

作品紹介・あらすじ

昭和初期に鮮やかに出現し、いまなお文学に関心を抱く者がどこかで出会う、小林秀雄、梶井基次郎、中原中也――
彼らの文芸評論、小説、詩はどこが新しく、どこが古かったのか?
著者は通念にとらわれず、すべてをゼロから読み解くことで、この三人の文学者の表現を徹底的に検討し、思いの外自らに近いところに三人の存在があるという理解に至る。
「早稲田文学」1981年11月号に発表されたものを徹底的に加筆訂正し、1987年7月に刊行された二番目の評論集『批評へ』に収録された長篇文芸評論が37年を経て再刊される。
文芸評論家としての加藤典洋の出発点に再び光が当てられる。

感想・レビュー・書評

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  • 面白い、古さや新しさは、単に時系列的な直線上に並んでいるものではなく、それぞれの関係を構造化した上で、それらを橋渡しするような営みが、それ自体として新しさとなることがある。

    新しさは、古さに対するただのアンチテーゼとして打ち出されるものではない。

  • 新旧論 三つの「新しさ」と「古さ」の共存 (講談社文芸文庫)

    小林秀雄の世代の「新しさ」

    概要

    本稿では、小林秀雄の世代における文学的な「新しさ」について探求しています。特に、彼と同時代の作家たち、特に梶井基次郎、中原中也、富永太郎との関係性や、彼らの作品が持つ現代性、またそれがどのように「社会化された私」と「社会化されえない私」という概念に関連しているかを考察しています。


    1. 文学における「新しさ」とその背景

    小林秀雄は、梶井や中原らと共に、故郷を失った文学という新たな文学的現象を生み出しました。秋山が指摘するように、彼らは「現代」や「近代」の枠組みを超えた新しい視点を提供しています。このような新しさは、既存の理論的枠組みの中で理解されるものではなく、むしろそれ自体を問い直す視点を必要とします。


    1.1 同世代の作家たち

    小林、梶井、中原は、同じ時代に生まれた作家として、互いに影響を与え合いながらも異なる文学的アプローチを持っていました。小林は特に、彼らの作品を通じて「他者」としての存在を認識し、初めて同世代の作家の重要性を理解しました。


    1.2 現代性の感覚

    小林が1933年に感じた「現代性」は、彼の後の作品においても重要なテーマとして扱われています。この現代性が、梶井や中原の作品にどのように反映されているかを考察することは、彼らの文学的価値を再評価する上で不可欠です。


    2. 小林と「社会化された私」

    小林は、「私小説論」において、私という存在が社会との関係の中でどのように形成されるかを探求しました。彼は、フランスの自然主義文学との比較を通じて、日本における私小説の特異性を論じています。


    2.1 日本における私小説の特徴

    小林は、日本の私小説が日常経験の信頼に基づいているが、社会化される過程がまだ不十分であると指摘します。これに対し、フランスの作家たちは、既に社会化された私を持っていたため、その作品はより深い社会的意味を帯びていました。


    2.2 「社会化されえない私」

    小林は、社会化された私と社会化されえない私という二つの概念を提起し、特に後者が彼自身の文学的探求においてどのように重要であるかを考察します。彼にとって、「社会化されえない私」は、文学創作において独自の価値を持つ存在でした。


    3. 梶井基次郎の文学

    梶井は、小林の世代の中でも特異な作家であり、彼の作品は時に「古めかしい」とされることもありますが、その中に新しさを見出すことが重要です。彼の文学は、当時の社会や文化の枠組みを超えた新しい視点を提供しています。


    3.1 「白樺派流」の影響

    梶井は「白樺派流」に属し、その影響を受けながらも独自の表現を追求しました。この流派の特徴は、彼の作品における主観的な視点や内面的な探求が顕著に現れています。


    3.2 作品における新しさ

    梶井の作品には、当時流行の「紋切型」にとらわれない新しい表現があり、彼の文学が持つ特異性は、後の作家たちにも影響を与えました。彼の作品には、社会や人間関係の複雑さが見事に描かれており、それが現在でも新しさを感じさせる要因となっています。


    4. 中原中也の詩とその新しさ

    中原中也は、独自の詩的表現を持つ作家であり、その作品はしばしば「古めかしい」と表現されますが、その中に潜む新しさは見逃せません。


    4.1 詩の形式と内容

    中原の詩は、古い形式を用いながらも、その内容においては非常に新しいテーマを扱っています。彼は、物象性を否定し、言葉の時間性を重視することで、古い形式を新たな意味で再構築しました。


    4.2 新しさの選択

    中原が「古さ」を選択することにより、彼の詩は他の同時代の詩人たちとは異なる視点を提供しました。彼にとっての新しさは、単に形式やスタイルの問題ではなく、深い内面的な探求に基づくものでした。


    結論

    小林秀雄の世代における「新しさ」は、梶井基次郎や中原中也といった作家との関係を通じて、文学が持つ可能性を広げるものでした。彼らの作品は、単に時代を反映するだけでなく、社会との関わりの中で新たな文学的価値を生み出しています。このような探求は、今後の文学研究にも重要な影響を与えることでしょう。

    「新しさ」と「古さ」の三つの形態とは何ですか?


    「新しさ」と「古さ」の三つの形態について
    概要
    「新しさ」と「古さ」の三つの形態は、加藤典洋の著作において、文学や文化における新旧の共存を探求する重要な概念です。彼は、特に小林秀雄、梶井基次郎、中原中也の文学を通じて、このテーマに触れています。

    三つの形態. 個人の内面における新しさと古さ
    近代において、個人は社会に対して自由や平等を求める一方で、内面的には普遍的な真理を要求される。この二重性が「新しさ」と「古さ」を生む。
    社会との関係における新しさと古さ

    個人の自由が強調される一方で、個人の内面にも社会性の影響が及ぶ。これにより、個人は社会との関係を再認識し、新旧の価値観が交錯する。
    文学的表現における新しさと古さ

    小林秀雄は、新しい文学を理解するために古い価値観を捨てなければならないとし、梶井基次郎は、古い世界観を持ちながらも新しい作品を生み出した点が「新しさ」と「古さ」の共存を示す。
    文学者たちの例
    小林秀雄

    新しさを手に入れるために、古さを捨てる必要があると考え、彼の批評はこの矛盾を反映している。
    梶井基次郎

    彼の作品は、古い価値観にとらわれながらも新しい文体を生み出すことに成功している。
    中原中也

    彼の詩は、古さを感じさせつつも新しい感覚を持ち合わせている。詩の時代背景を考慮すると、彼の作品は当時の視点でも「古めかしい」と見なされていた。
    まとめ
    「新しさ」と「古さ」の三つの形態は、文学や文化における価値観の変遷を理解するための枠組みを提供します。これらの形態は、個人の内面、社会との関係、そして文学的表現において、どのように新旧が交錯し、共存しているかを示しています。各文学者のアプローチは、彼らが直面した新旧の矛盾をどのように表現したかを考察する際の鍵となります

    これらの概念はどのように相互作用していますか?


    概念の相互作用
    近代思想と文学
    近代における日本の思想は、西洋からの合理性と実証主義に対する疑問を通じて形成されてきました。この背景の中で、文学者たちはその影響を受けながらも独自の問題を抱えるようになりました。特に、先行する思想や文学との対比を通じて新たな視点を模索する過程が重要視されています。

    例えば、梶井基次郎や小林秀雄は、彼らの間に存在する「深い溝」を認識し、それを越える努力をしました。この「深い溝」とは、新しさと古さの共存を指し、彼らはその中で自らの立ち位置を探り、文学的なアイデンティティを築き上げようとしました。

    芸術と自己表現
    中原中也や梶井基次郎などの芸術家は、自己の不安や葛藤を表現するために、周囲の現実や美しいものに引き寄せられました。彼らの作品には、自己の内部での葛藤と、外部世界との関係が反映されており、これが彼らの芸術的表現における重要な要素となっています。

    特に、梶井は、彼の作品を通じて不安を美しい表現として提示し、読者に深い感情的な影響を与えようとしました。このように、芸術家の態度や視点は、彼らが直面する時代の問題や個人的な経験と密接に結びついています。

    文学的課題
    このような相互作用の中で、文学者たちは、時代の変化や社会的背景を反映した作品を生み出すことが求められました。特に、近代文学の現代化は、彼らにとって一つの重要な課題であり、これは彼らの作品に新しい意味や価値を与える要因となっています。

    まとめ
    近代における日本の思想や文学は、西洋からの影響を受けつつも、独自の問題を抱え、相互作用が生まれました。文学者たちは、新しさと古さの間での葛藤を通じて、自己の表現を追求し続けています。これらの要素が相互に作用し、彼らの作品に深い意味を与えているのです。

    文化的な表現における「新しさ」と「古さ」のバランスはどのように取られるべきですか?

    文化的表現における「新しさ」と「古さ」のバランス
    文化的な表現における「新しさ」と「古さ」のバランスを取ることは、文学や芸術において重要なテーマであり、特に小林秀雄や梶井基次郎といった著名な作家たちの作品において顕著に見られます。以下では、彼らの考え方を基に、このバランスの取り方について具体的に見ていきます。

    1. 新しさと古さの共存
    小林秀雄は「新しさ」を獲得する過程で、自身の「古さ」を捨てざるを得なかったと述べています。彼は、過去の文化的背景が新しい表現を理解するための障害となることを認識していました。
    梶井基次郎は、古い世界観に囚われながらも新しい小説を創作したことで、その「新しさ」が際立っています。彼の作品は、現代文学に通じる新しい視点を提供していますが、同時に古い価値観も反映されています。
    文化的表現においては、「新しさ」と「古さ」が深い溝を形成していることを認識し、それを乗り越える努力が必要です。この「深い溝」を越えることが、真の創造性を生む鍵となります。
    2. 新しさを理解するための古さの価値
    新しい文学や芸術が形成される際、過去の伝統や文化的背景を理解することが重要です。小林は、西洋文学の伝統についての正確な理解が、新しい世代にとって必要であると強調しています。
    歴史的な文脈を踏まえた上での新しさの追求は、文化的表現の豊かさを増すものであり、単に過去を否定するのではなく、過去からの学びが新しい創作に活かされるべきです。
    3. 批評の役割
    批評は、新しい表現がどのように古い価値観と交差し、影響を与え合うのかを探る重要な手段です。小林や梶井のような作家たちは、批評を通じて自らの表現を見つめ直し、変化させていきました。
    批評の中で「新しさ」と「古さ」の共存が語られることにより、文化的表現の深層が明らかになります。これにより、未来の表現に向けた新たな視座が生まれることが期待されます。
    結論
    文化的な表現における「新しさ」と「古さ」のバランスは、作家や芸術家が自身の背景を理解し、それを踏まえた上で新しい創作を行うことによって取られるべきです。過去を否定するのではなく、それを受け入れ、活かすことで、より豊かな表現が可能になるでしょう。

    伝統と現代の要素を融合させることの利点は何ですか?


    伝統と現代の要素を融合させることの利点
    1. 文化的多様性の促進
    伝統と現代の要素を融合させることで、さまざまな文化や価値観が共存し、より豊かな文化的体験を生み出すことができます。これは、異なる背景を持つ人々が交流し、理解を深める機会を提供します。

    2. 創造性の向上
    新旧の要素を組み合わせることは、創造性を刺激し、新しいアイデアや表現方法を生み出す助けになります。特にアートや文学において、古典的な技法やテーマを現代的な視点で再解釈することで、斬新な作品が生まれることがあります。

    3. アイデンティティの強化
    伝統的な要素を取り入れることで、個人やコミュニティのアイデンティティが強化されます。これは、現代社会におけるルーツや歴史を再確認し、自己理解を深める機会を提供します。

    4. 経済的な利点
    伝統と現代を融合させた商品やサービスは、独自性を持つため、マーケットでの競争力が向上します。特に観光業や地域産業において、このアプローチは新たな顧客層を引き寄せる効果があります。

    5. 社会的なつながりの促進
    新旧の融合は、異なる世代やコミュニティ間の対話を促進し、社会的なつながりを強化します。共同のプロジェクトやイベントを通じて、参加者の間に協力と理解が生まれます。

    6. 環境への配慮
    伝統的な知恵や技術は、持続可能な方法での資源利用に関する洞察を提供することがあります。これを現代の技術と組み合わせることで、環境に優しい解決策を見つけることができます。

    7. 教育的価値
    伝統的な要素を学ぶことで、次世代に重要な文化的知識や技術を伝えることができます。この教育は、若い世代に対する文化的な自信を育むことにも繋がります。

    8. 心理的な安定感
    伝統的な要素は、個人やコミュニティに安心感や帰属意識を提供します。現代の急速な変化の中で、過去とのつながりを持つことは、精神的な安定にも寄与します。

    伝統と現代の要素を融合させることは、文化の発展に寄与し、社会全体に多くの利点をもたらします。

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著者プロフィール

文芸評論家・早稲田大学名誉教授

「2021年 『9条の戦後史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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