下垣内教授の江戸

  • 講談社 (2024年12月18日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784065377291

作品紹介・あらすじ

ほんとうに人を斬ったのか──幕末から戦前までを駆け抜けた、日本美術家の生涯。近代美術のすごみが横たわる圧巻の長篇時代小説!

東京美術学校の発足に携わり、帝室博物館でも要職を務めるなど、「日本美術」の目利きと称された下垣内邦雄が、関東大震災、金融恐慌、世界恐慌に襲われたあとの1931年、歴史の大きなうねりの中で亡くなった。思い起こされるのは、ある新聞記者による4年前の単独取材だった。美術に関する意図とおりの質問のあと、下垣内教授は自らの半生について語り始める。「俺は人を斬ろうとしたことがあるんだよ」。凡百の出世物語とは似ても似つかぬ、幕末活劇とはまったくちがう話に、記者はかっさらわれたのだった……。

感想・レビュー・書評

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  • 青山文平の描く武士の姿に、武士とは何かを考えさせられる。武士個人の哲学や生き方を描いているようでも、時代の掟にがんじがらめになっている、と思えてならない。

    豪農で武士の資格をとった下垣内家の家長昌邦は、自分は武士に向いていない、俳句を嗜んで人生を送りたいと思っていても、忠実に武士であろうとする。
    突然の出来事により、弟邦雄は兄の仕事を受け継ぐのだが・・・。
    兄からは前を向け、と言われたにも関わらず、邦雄は後ろを向いて、武士であろうとすることを選んだ。兄の思いを知るために。

    ある新聞記者の取材のもとに、美術の目利きとして明治時代に活躍した下垣内邦雄の、幕末の意外な姿が描かれる。

    知識がすごい人なので、まずその蘊蓄にとっつきにくい入りかもしれないが、頑張って読み進むと、ひらけた展開と、意外性のある物語が待っている。最後までとても面白かった!

  • 小説現代2024年11月号のものを2024年12月講談社刊。月刊誌に一挙掲載というのに驚き。幕末の出来事が書かれていて、まぁこんなこともあったのだろうなと思うものの興味が持てず楽しめませんでした。残念。

  • 全ては「俺は人を斬ろうとしたことがある」といった兄の言葉を聞いたことから始まった・・弟は 相手を徘徊浪人と定め、下野の国から歩き始める。

    森戸村の名主、寄場惣代、農兵相談役の肩書を持った兄は武士にはなりたくなかったが・・幕府が崩れていこうとするその時でも言えの格式と武士たる権威を保とうと懊悩した。
    そして弟は儒学と剣術のほか、書、画,麝香と古琴と茶しか能がないと己を貶めつつも兄の跡を受け継いでいく。

    中盤まで、この下りをじっくり隠忍して読んで行かないと彼が何ゆえに「後ろを向いて歩みを進めたか」腑に落ちないはず。

    圧巻の時代小説というには看板倒れと言えなくもないが、明治の夜明け、刀を離さなかった男がふと出会った男と白根図、そして21世紀まで実際会った美術雑誌ガセット・デ・ボザールに纏わる埋もれた史実を明かしてくれる。

  • 目には入っていても、見てはいない。何につけ、見落として見ていないと、何も見えてこない。
    何より大事なのは、今を生きることだ。死んだ者への高校は、生きているものの将来を損なわいやすい。後ろに引かず、前へ進め。気持ちの持ち方次第で景色がガラッと変わって見えることがある。

  • 正史には残らない市井の幕末。あれだけの混乱期、それはそれは色々あっただろう。幕府は倒れるべくして倒れた事が腑に落ちたし、混乱を乗り越え我が道を進んだ美術家もいたんだ。阿片戦争、アロー戦争のイギリスの非道ぶりに「よくもあれだけの不正義を抜け抜けとやるものだ」NHKの映像の世紀見たあとだけに驚かないが、今まさにアメリカが傍若無人に…なのに皆マヒしつつある…

  • 三人の人を斬った兄の気持ちを知るため、下垣内教授は手練れ浪人を探す旅に出るのだが…彼が出会った剣の手練男と白根山の絵画との奇縁に心を打たれた。美しさと哀愁を帯びた物語。

  • 人を殺すと斬る、人を殺した後は何を思うのか、兄が人を殺したと知りどう感じるのか人を殺そうと決意する18才の弟が色々波乱に富んだ江戸から明治にかけての世相の中旅に出る。様々な人との出会いから自問自答しながら生きていく過程は自分も考えさせられる内容だし、偶然が重なって今に至るのも流れに身を任せる人生も有りなんだと感じたが、教養も必要だし勉学や踏み出す勇気も必要なんだと思う。後半まで言葉の羅列で難しいが最後まで読んでよかったと思う。
    重さがある内容だった。

  • 幕末、豪農の次男として生まれ
    “当代きっての日本美術の目利き”と言われるまでになった下垣内邦雄。
    昭和初期にかけ芯を持って生き抜いた。
    その身の上を新聞記者に語る。

    家を継ぐのは長兄の昌邦。
    幕末江戸の混沌とした背景や
    下垣内家の内情も少しずつわかってくる。

    つましく生きる兄が人を斬った。
    その訳を探るため邦夫は旅に出る。
    出会った縁がその先へ、前に進むことを促す。

    皆さんが書かれているように前置きが少々長い。
    読破している青山文平さんのご著書なのだから
    おもしろいことはわかっている。
    邦雄が人を斬る旅に出たところから引き込まれていった。

    青山文平さんのお陰で、また新たにその時代を知ることができました。

  • 東京美術学校の発足に携わった下垣内教授の自らの半生のお話。実在の人物・・・じゃないようなどうなんだろう?

    正直、半分くらいまで読んでかなり退屈を覚えまして。当時の背景みたいなものが多くて・・これ面白くなるのかな?と挫折しそうになりながらも読み進めていたら、兄が急死し家督を整理して・・・傍から見たら自暴自棄な旅にも思える「人を斬るための」旅にというあたりから後半はなかなかに興味深いことに。人を斬ることと美術とどういう関係が?と思っていたら、なるほどそういう・・・なかなかに奥深いお話でした。

  • 3.5
    2025.04.04

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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