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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784065380079
作品紹介・あらすじ
世界がキリスト教化する前、ローマ帝国は伝統的なギリシア・ローマの神々に加え、オリエントの神々、さらにはキリスト教、ユダヤ教の一神教に至るまで多彩な信仰や宗教で賑わっていた。そのなかでひときわ勢力を誇ったのがミトラス教である。
キリスト教最大のライバルとまで言われながらも消滅したこの宗教の実態は、文献史料の乏しさゆえに今も謎に包まれている。最新の発掘成果や研究を踏まえつつ、その全体像に迫る。
なぜミトラス教は帝国の数ある信仰のなかで隆盛し、そしてキリスト教に敗れたのか――。
壮大なスケールで異教にぎやかなりし帝国の姿を描き、ヨーロッパ世界の深層を照らし出す。
「もしキリスト教が何らかの致命的疾患によってその成長を止めていたならば、世界はミトラス教化していただろう」。19世紀フランスの宗教学者エルネスト・ルナンはこのように述べて、キリスト教最大のライバルとしてミトラス教を名指しした。
ユピテルやマルスなどの伝統的な神々にエジプトのイシスやアヌビス、小アジアのキュベレアッティスなどのオリエントの神々、さらに一神教のキリスト教、ユダヤ教に至るまで、数多くの信仰で賑わった異教時代のローマにおいて、なぜミトラス教は信仰を広めることができたのか。そして、なにゆえキリスト教に敗北したのか――。
古代オリエントの神々のなかでも例外的に広く東西に伝わったミトラ(ミスラ)の存在は、中央アジアを越えて日本にも伝播しており、平安貴族に日記としても使われた具注暦にその痕跡を残している。
この古代オリエント、ヘレニズム時代に始まるミトラ崇拝とローマ帝国の密儀宗教ミトラス教は、どのような関係にあるのか。いつ、どこでどのようにミトラス教は誕生し、拡大したのか。宗教組織や儀式、神話、信者がこの宗教に求めたものに至るまで、異教時代のローマ帝国の姿とともにその全貌に迫っていく。
オリエントを射程にいれた大きなスケールで歴史を捉え、ヨーロッパ世界の深層が浮かび上がる!
【本書の内容】
はしがき――宗教的カオスの中で
序章 謎の宗教への挑戦――一歴史学者のみた夢
第1章 古代オリエント世界の信仰――密儀宗教化前夜
第2章 亡国の王族か、解放奴隷か――教祖の存在と教線の拡大
第3章 密儀と七つの位階――ギリシア神話との関係
第4章 孤独と忍従――ローマ帝国の兵士と奴隷の人生
第5章 異教の時代の終焉――キリスト教の圧力
終章 世界はミトラス教化したのか――ヨーロッパ世界の深層へ
感想・レビュー・書評
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名前は聞いたことがあるが、精々「ミトラ」という名の太陽神を奉じている、ということくらいしか知らない謎多き「ミトラス教」を概説的/網羅的に記述した興味深い本
どうやら、キリスト教が出現しコンスタンティヌス帝が公認するまでは、ローマ帝国で広く信仰されていたという大規模な宗教だったらしい
文献資料がほぼ遺されておらず、神殿に刻まれたレリーフや図像、論駁者が相手(ミトラス教)の主張として出したものを参考に丹念に全体像を描き出していく。
教祖・教義として明らかな物が遺されていないにもかかわらず、ミトラス教がフォーカスした社会階層や、取り入れた思想などを考察していくのが面白かった。
密儀宗教(密教)らしく、位階のシステムや昇格にあたっての秘密の儀式などもあったようで、そういった点でも読んでてワクワクさせられた詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
・BC27年、アウグストゥスが即位。
マルクス・アウレリウスの実子コンモドゥスは暴君とされ、その即位をもって五賢帝時代は終わったとする。
・193年に上パンノニア総督のセプティミウス・セウェルスが新たにセウェルス朝を開くも、235年に断絶。284年まで軍人皇帝時代となる。
・ディオクレティアヌス帝が即位した284年~を後期帝政と呼ぶ。 -
ミトラス教について研究史、資料、儀式や位階、その誕生から終息、どうしてローマ帝国の西側で流行したのか?など網羅的に書かれた本。ただしミトラス教は文献資料が大変少ないために推測に頼る部分も多く、研究者の間でも意見が異なることが少なくないようだ。ミトラス教は兵士に人気だったローマの密議宗教という教科書程度の知識しかなかったので、難しい部分もあったが勉強になった。
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ゾロアスター教や仏教の弥勒菩薩などとの関連が取り沙汰されている以外は今一つハッキリわからなかったミトラ神、それを主軸に据えた宗教ミトラス教について、フランツ・キュモンの研究史から始め数少ない文献と各地に残る遺跡を用いることで、その起源や信仰の内容、教徒となった人々の階層、ローマ帝国に及ぼした影響や、ローマの伝統宗教やキリスト教との関係といった様々な側面をつぶさに解きあかそうとしている。
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1. ミトラス教の起源
- フランツ・キュモンの研究: ペルシア起源のミトラス教の研究に大きく貢献し、彼の解釈は日本の教科書にも影響を与えた。
- キュモンの論文: 1888年に発表した「ラテン語碑文に現れる永遠なる神々」と「エデッサにおけるミトラ崇拝」により、ミトラス教の研究が始まる。
2. ミトラス教の文献と資料
- 文献史料: キュモンは1899年に「ミトラの密儀に関する文献史料と図像史料」を発表し、ミトラス教の研究を体系化。
- 主要な文献: 第一巻では儀礼、信者、ローマ帝国との関係、密儀の教義などが取り上げられている。
3. ミトラス教の特徴
- 神話と信仰: ミトラスは太陽神と関連付けられ、多くの儀式や信者がローマ時代に広がった。
- 儀式の内容: 牛を殺す儀式や密儀が信者に行われ、特定の位階が存在していた。
4. ミトラス教の社会的影響
- 信者の層: 軍人や高官など、特定の社会層に支持され、ローマ帝国の広範囲に浸透。
- 他の宗教との関係: キリスト教との対立や共存が見られ、ミトラス教の儀式や信仰が時にキリスト教の影響を受けることもあった。
5. 近年の研究動向
- 新たな発見: 1990年代には新たな遺跡や資料が発見され、ミトラス教の実像に関する理解が深まる。
- 現代の学者の研究: R・ベックやR・メルケルバッハなどの研究が進展し、ミトラス教の位置づけが見直されている。
6. ミトラス教の教義と位階
- 七つの位階: ミトラス教には、父、ライオン、太陽の走者などの位階が存在し、それぞれ特定の儀式や役割があった。
- 位階の意義: 各位階は神話の登場人物と関連付けられ、教義の中で重要な役割を果たす。
7. ミトラス教の衰退とキリスト教の台頭
- 異教の終焉: コンスタンティヌス帝のキリスト教の公認後、ミトラス教は次第に衰退。
- ユリアヌス帝の復興策: 一時的に異教の復興を試みたものの、最終的にはキリスト教の普及により影響力を失う。
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