虚傳集

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  • 講談社 (2025年1月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (248ページ) / ISBN・EAN: 9784065381427

作品紹介・あらすじ

虚も語れば実となる。
稀代の名手が贈る偽書歴史小説集! 

凄面白くて唸らせる……数々の名巨編を放ってきた著者初めての短編集! 

【収録作品】
「清心館小伝」 「兵は詭道なり」と説き異彩を放った江戸の道場
「印地打ち」 真田氏の下、投石の奇襲で名を馳せた山の三兄弟
「寳井俊慶」 出奔した天才仏師の数奇な生涯
「江戸の錬金術師」 猫屋敷の蘭方医にしてからくり興行の山師
「桂跳ね」 幕末の世、将棋で結ばれた若者二人の友情と運命 

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

虚構と歴史が巧みに交錯する短編集は、著者の独自の視点と創造力が光る作品です。各話は、実在の人物や出来事を基にしながらも、虚伝の魅力を存分に引き出しています。特に、江戸時代の道場や戦国時代の傭兵団、仏師...

感想・レビュー・書評

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  • なかなかにたくらみのある作品集。最初の足袋の話が笑えてよかった。

  • タイトル通り、すべて虚構の伝記ばかりの短編集。すべて歴史エッセイ風で、いかにも実在の人物のテイでの史料の引用などされているが、そもそもこの史料も史料の著者も捏造。虚構の主人公と直接関係ない同時代史料は普通に実在のものもあるので、巧妙に虚実の境目をぼかしてあってとても巧い。もし100年後とかにこの本が残っていたら、偶然読んだ人はこれを全部事実と思ってしまってもおかしくないクオリティでした。

    そしてもしこれが普通の小説として書かれていたら、そもそもフィクション=架空の人物が主人公の時代小説として当たり前に読めてしまい、誰もそれを実在の人物とは思わないので、あえて「虚構の伝記」=「虚伝」として、評伝風にしてあるのがトリッキーだなと。以下個別にざっくり。


    「清心館小伝」
    剣術道場の流行った幕末、江古田あたりに「清心館」という道場がありなかなか流行っていた。その頃の道場主は伊能涼雲という人物。彼が亡くなったあとは弟子の釘沢市助が跡を継いだ。

    奥泉光の時代ものというのがまず新鮮。無駄のない文章で、するする入ってくるのは流石。私は幕末ものの本は小説も史料も沢山読んできたけれど、捏造史料に全然違和感ない(笑)それにしても伊能涼雲の掲げたコンセプトが「卑怯」というのがすごい。まあ確かに理に適ってるけれども。大真面目に書いているようで、いろいろ笑わせに来ている。


    「印地打ち」
    こちらは石合戦の民俗学的考察から始まって、戦国時代の印地の衆の話に。戦国時代には雑賀衆とか、傭兵的な役割を果たした戦闘集団がいましたが、印地の衆も石打ちを得意としたそのような集団(印地打ち、印地衆のようなものは一応実在)。

    こちらの主人公たちは真田の配下に入り、徳川との上田の合戦の勝利に貢献。首領の息子の三兄弟(箕尾鳶太郎・兎二郎・巳三郎)は秀吉にも召されて褒美をもらう。だがその後の朝鮮遠征等への協力要請は断ったため、真田に滅ぼされてしまった。一人だけ生き残った末っ子が、のちに秀吉と偶然邂逅し、彼の曜変天目茶碗を一撃で割る。


    「寶井俊慶」
    江戸後期の仏師・寶井俊慶は、仏像作品がほとんど残っておらず、記名入りの張形のほうが有名。もともとそこそこ売れっ子の仏師だったが、あるとき木喰の聖に、お前の仏像には魂が入っていないと貶される。そうは言っても仏像を壊すことはできないだろうと俊慶が挑発すると聖は躊躇いなく俊慶の仏像を壊した。カッとなった俊慶は聖を殺害して出奔、盗賊の一味に加わる。

    盗賊となった俊慶は、寺に押し入っては仏像を破壊することを繰り返していたが、ある日、どうしても壊せないほど素晴らしい運慶の仏像と出会ってしまう。改心した俊慶は再び仏像を彫り始めるが、作っては壊し、それを薪にしてしまうことを繰り返していた。

    そんな俊慶がある日木を取りに行った山から戻らず、数日後戻ってきたので弟子が話を聞くと、自分が殺した木喰の聖そっくりな聖が現れて、彼の衣につかまり蓬来まで飛んでいくと、そこに死んだ仏師の集まる場所があり、運慶に会って教えを請うた。さらに修行をして、今はすべての木の中に仏の姿が見えるようになったと言う。ゆえに、木を彫る必要がないとし、ただの木を祀るようになった。

    俊慶が亡くなった死因は凍死で、なぜなら彼には木の中に仏が見えていたため、それを薪にして燃やすことができなかったからだと言う。

    別説では、俊慶を連れていったのは聖ではなく天狗であり、俊慶は天狗に頼まれて木を彫ったところ、天狗はそれを自分の鼻に付け替えた。俊慶は何人もの天狗の鼻を作ってやり、それに自分の名を入れた。こっちの説が冒頭の、記名入り張形と繋がるわけですね(笑)


    「江戸の錬金術師」
    薗倉瑞軒は優秀な蘭方医だったが、胡散臭い錬金術師のようなところがあった。平賀源内同様、エレキテルの研究をしていたが、雷の力を利用しようと奇妙な鎧を身に着けて走り回ったりさまざまな実験をする。高利貸しの検校がパトロンになっており、研究費用を出してもらうかわりにこの検校に頼まれて、お化け屋敷のからくりや出し物に協力(生きた人間の内臓を腑分けするなど)。猫を可愛がりあちこちで拾ってくるため家は猫屋敷となり、近隣で起こる化け猫騒動はすべて瑞軒の仕業とされた。最後は雷が家に落ちて焼け死んだとされるが、遺体は煙のように消えていたともいう。雷の力で別次元へ転送されたのかもしれない。

    終盤ちょっとSF的な余韻もあり、これがいちばんいつもの奥泉光ぽかったかも。さすがに本書には、ロンギヌス物質だの神霊音楽協会だのというエピソードはなかったですが、猫屋敷がやたらと出て来ました(笑)


    「桂跳ね」
    幕末~明治にかけて生きた棋士の菅原香帆。彼には10代の頃からともに将棋を学んだ高田諒四郎という幼馴染の好敵手がいた。だが諒四郎は江戸に行くことになり、二人は文通で将棋をするように。しかし時代は幕末、諒四郎はは江戸で桃井春蔵の士学館に入門したことから土佐勤皇党と繋がり、家を捨て出奔、吉村虎太郎の天誅組に加わって戦死してしまった。

    20年後、香帆は諒四郎の足跡を辿り、彼の評伝を書くことで彼の名誉を回復することに尽力。はっきりわからない諒四郎の最期を華々しく彩った。その調査の終わりにふと立ち寄った寺の住職から、ここで亡くなった天誅組の無名の隊士の時世の句と書付があることを知らされる。意味のわからない言葉があるので、見てほしいと言われ香帆が見ると、そこにあったのは「七桂」の文字。それは諒四郎と文通でやりとりしていた将棋の、次の一手だった。

    最後に友情もので泣かせてきたー!

  • 評価は3.5かなー
    読み始めてしばらくして、ん?これは小説?それともノンフィクション?と混乱。ためしに主人公の名前などを検索してみる。やはり実在する人物ではなさそう。なので、やっぱりフィクション。それくらい評伝・紀伝っぽい。文章は淡々と論文みたいだし、劇的な表現や展開もない。
    でも、趣向として面白い。作品集のタイトルが『虚傳集』というのが、そのままを示しているなあと。
    私は最後に収められた『桂跳ね』が好き。いちばん小説っぽかったかも。

  • 書名のとおり史実に織り交ぜた虚構に次ぐ虚構。

    幕末に逃げるが勝ちを奥義とした一風変わった剣道場、戦国末期の石礫投げを専らにした傭兵団、江戸中期の仏師、江戸末期の舎密師、同じく将棋好きの幼馴染二人。

    架空の文献やそれに対する架空の解釈も持ち出すなど細かい芸を駆使し、作者が楽しんで書いている様子がわかる、ストーリーテラーたる作者の面目躍如となる怪作。

  • 見も聞きもしない、というかそもそも存在しない事柄を恰も有る様に平然と語ってみせるのが小説の根幹だとするなら、この短篇集は正に小説らしい小説といえる。初めからまるっきり嘘しかないと分かって読み始めていたのに、文献の引用が重ねられる程にどこか真実味のようなものが芽生えてくるのが面白く、また恐ろしい。個人での情報の発信受信が容易になった反面、フェイクも横行するようにもなったポスト・トゥルース以後の現代社会を生きていく上で、提示されたものに飲み込まれず冷静に真偽を見極める能力は、私たちが最も磨いていかなければならない部分である。

  • 架空の人物の伝記集。資料や同時代の人物の話などでもっともらしくしてある。
    剣術の話は面白かったが最後の話は将棋がわからないのでいまいちだった。

  • 小説とはこんなにも自由で虚構に満ちていて楽しいものなんだとあらためて感じることができました。(ヘビーなノンフィクションを直前に読んでいたせいもあるでしょうか)
    わたしの知識量が少ないためどこからが虚構なのかわからない状態なのですが、普段は大長編を書かれる先生の初の短編集を堪能させていただきました。

  • 虚傳集?
    あまりにニッチなテーマなので、よほどの歴史マニアには受け入れられるかもしれないが、全く歴史に登場しない人物を描かれても親近感は湧かない。
    おまけに本書が虚傳となれば、もう少しドラマ演出してほしかった。

    武士道は卑怯なもの伊能涼雲。
    石を投げる印地の衆、箕尾三兄弟。
    霊木から仏像を掘り出した賽井俊慶。
    雷をエレキテル治療に用いた薗倉瑞軒。
    残念。

  • 浪漫がいっぱい。あえて軽妙で洒脱な語り口を封印して臨む虚構歴史検証小説。古書の原文を都度都度意訳して提示する手法が続きすぎるきらいはあるけれど、どこまでも本当の歴史本を意匠したかった嗜好性とそれを実現している手腕はさすが奥泉さんである。
    五篇のうち、いちばん笑ったのは「清心館小伝」で、いちばん泣いたのは「桂跳ね」だった。読後に他の三篇も含めて振り返ってみれば、いずれもがそれぞれに紛うことなく奥泉さんの小説の要素が顕されていることに深く納得感を覚えた。

  • 偽書歴史小説集。実在してもおかしくなそうな資料を実在してそうな歴史学者の解説を踏まえて小伝を記した体裁の小説。著者の博識と小説技巧で、まさに「凄面白くて唸らせる」小説集。

    【収録作品】
    「清心館小伝」 「兵は詭道なり」と説き異彩を放った江戸の道場
    「印地打ち」 真田氏の下、投石の奇襲で名を馳せた山の三兄弟
    「寳井俊慶」 出奔した天才仏師の数奇な生涯
    「江戸の錬金術師」 猫屋敷の蘭方医にしてからくり興行の山師
    「桂跳ね」 幕末の世、将棋で結ばれた若者二人の友情と運命

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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