「不時着」しても終わらない

著者 :
  • 主婦の友社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784074473625

作品紹介・あらすじ

Netflix配信『愛の不時着』にハマった人に贈る、韓国ドラマの背景を深掘りして楽しむエッセイです。著者は俳優であり、芸能界きっての韓国通として知られる黒田福美さん。どんな運命も乗り越えようとする生き方や、不器用だけど真摯に女性を支える主人公、韓国ドラマにファッションショー的なシーンが多い理由、ケンチャナ文化、韓国流儒教など、韓国文化と日本文化のちがいを実感すると、さらに100倍、ドラマを見るのが楽しくなります。contents プロローグ「〝理想の男性〟リ・ジョンヒョク」Part1「セリズチョイス 自分の生き方は自分で決める」Part2「『恨』の文化 ユン・セリの上昇志向の原動力」Part3「韓国文化と日本文化 韓国ドラマをもっと深く楽しむための基礎知識」Part4「韓国女性のいま」Part5「38度線がもたらす重い現実」おまけ「韓国ドラマあるあるキーワード集」

感想・レビュー・書評

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  • 思っていた以上に面白かったし、韓国の文化をもっと知りたいなと好奇心も芽生えた。
    ドラマ『愛の不時着』の軽いガイド本だと思って、なかなか手に取らなかったことを後悔。
    思い込みはいけません。

    はじめてわたしは知ったのですが、著者の女優 黒田福美さんは芸能界きっての韓国通なのだそうです。
    〈著者の経歴紹介〉や〈あとがき〉によると、黒田さんは80年代から韓国への往来をはじめ、30余年にわたって、放送、著作物、講演などを通して韓国理解に努めてこられた方です。
    そんな黒田さんが書かれた『愛の不時着』についての解説本ですから、いわゆるただのドラマ解説本では終わりませんでした。
    「1984年に初めて訪韓してから今日まで、ただの一度も観光気分で韓国を訪ねたことがない。
    日韓理解の一助になりたいと、常に〈取材者〉としてネタを探し、体験を重ねきた」という黒田さん。
    『愛の不時着』をベースにしながら、日韓の「文化の違い」にまで迫ってゆく本にしたいとの依頼者側からの趣旨を汲みながら、女優さんだからこその視点でドラマの魅力も描かれており、大変興味深い本になっていました。これは黒田さんにしか書けなかった本ですね。

    わたしもそうなのですが、『愛の不時着』から韓国ドラマにハマった初心者さん、またドラマを観て韓国の文化について知りたいなと思った方々にとって、おすすめの解説本です。

    内容は6章にわかれ、最後に韓国ドラマあるあるキーワード集が掲載されてます。
    もうね、めちゃくちゃ長い感想になるのが目に見えてる 笑。なので、とにかく各章、いーっっちばん「そうなのか!」と感心したことを、簡潔にまとめておきたいと思います。

    もしも『愛の不時着』ってどんな内容?と気になった方がおられましたら、この本棚のどこかにある「シナリオ集『愛の不時着完全版 上・下』」の感想が、ほんのちょびっとくらいは役立つ……かもしれません。
    あと『愛の不時着』はNetflixのオリジナルドラマで、残念ながら今のところDVDはまだ出ていません。

    Part1 私たちはなぜ リ・ジョンヒョクに心惹かれるのか? 

    それはヒョンビンさんのリ・ジョンヒョクだからでしょう!……というのはさておき。

    その1つに黒田さんは、リ・ジョンヒョクが話す言葉の語感をあげておられます。
    これはね、韓国語について全く知らなかったわたしには新鮮な気づきでした。
    ジョンヒョクは北朝鮮のエリート軍人なのね。わたしが関西弁を話すように、北朝鮮と韓国では言葉遣いやイントネーションが違うのです。
    黒田さんは、たとえば「ナマン ポシオ!」(僕だけを見て!)の簡潔で、キリリとした語尾とイントネーションが、いかにも「頼れる男」という雰囲気を醸し出していたと、「男性の北言葉がこんなに直線的で色っぽいとは知らなかった」とおっしゃってる。
    韓国語で「ケンチャナ」(괜찮아)は「大丈夫」と訳されることが多いのだけれど、北朝鮮で「大丈夫」は「イル オプソ」、リエゾンして「イロプソ」(何事もない)と聞こえる言葉になる。
    韓国語のやさしいイントネーションとは違い、男らしいジョンヒョクにぴったりの言葉なんです。

    ほんとにね、「ジョンヒョク、かっこいい……」とジョンヒョクばっかり見つめていたわたしは、教えてもらわなければ気づかずに、知らないままでいるところでした。
    改めてドラマを見直しましたよ「イロプソ」。
    このシーンも、そのシーンも、あのシチュエーションの「イロプソ」も!
    ああ、本当だわ。「イロプソ」だけじゃなく、北朝鮮の言葉って響きが全然違うよ。それに色っぽいというのもわかる(……気がする。ちょっとまだ初心者なので)。
    もしつけ加えるとするならば、わたしは「ケガは……ない?」のとこも好き……。

    Part2 憧れの女性像 ユン・セリは自分のことは自分で決める

    ジョンヒョクがユン・セリに「よく食べて、よく生きる」ってことを何度も言うのね。
    これは満足な食事ができることの喜びは、豊かな生き方の象徴でもあるという考え方があるからですって。
    また韓国ドラマでは、女性も男性も口いっぱい頬張って食べるシーンがよくある。
    これも“食べる福”に満ちた姿として、けっしてはしたないことではないのです。
    日本では、あるもこれも頬張って食べるのはマナー違反になるよね。
    でも黒田さんが書いておられる、「日本は素材の味を吟味する文化。韓国は幾種類もの味を一度に口に入れて、噛みしめるごとに口の中に広がる「味のハーモニー」を楽しむ文化」だということをちゃんと知ったら、モグモグ食べるシーンは、本当に幸せそうに見えてきますよね。
    それに女優さんたちが食べ物を頬張る姿はチャーミングなんですよ。

    Part3 韓国独特の「恨」(ハン)の文化がユン・セリの上昇志向の原動力
     
    「恨」(ハン)とは、朝鮮民族の独特な情緒。この言葉は韓国のことを知ろうと思ったら、必ず出合う言葉。
    誤解しちゃいけないのは、日本語の「恨む」とは全く異質のものだということ。「恨み」という感情ではないのです。
    黒田さんのご友人の言葉が、わたしにもわかりやすかったので紹介します。
    「自分ではどうすることもできない、哀しみや苦しみが心の中に降り積もって、降り積もって、たくさん降り積もって。でも、どうすることもできなくて、それが心の中で長い年月をかけて石のよう固くなってしまったような、悲しみの塊のようなもの」

    Part4 遠くて近い韓国文化と日本文化 違いと魅力

    「自分の結婚なのに、親の意見になぜあんなに素直に従うの?」
    これは、『愛の不時着』に限らず、いつも韓国ドラマではジリジリしちゃうシーンです。
    韓国は「儒教」の国。親に孝行し、年配の方を敬い、女性は慎み深く……。
    結婚相手や仕事の選択といった人生の重大事も、韓国の若者は親が反対すれば考え直すところがあるそうです。
    ドラマのなかだけじゃないんだ……、ちょっとびっくりしちゃいました。

    Part5 韓国人女性の“これまで”と“いま”

    封建的な考えが現代でもどこかに残っている韓国社会では、いまだに「幸せな結婚をして家庭に入り、子どもを産み育てることこそが女性の幸せ」というイメージがあるのも事実だそうです。
    「◯◯の長女」、「◯◯の嫁」、「◯◯の母」として、家庭内でのポジションをこなす。結婚後も仕事を続けることには周囲の偏見がある……
    黒田さんもあげておられるのですが『82年生まれ、キム・ジヨン』が思い出されます。

    Part6 越えてはならぬ38度線が強いる「兵役」と「統一」への願い

    韓国映画のイメージを大きく変えたのは『シュリ』(99年)だった。北朝鮮工作員と韓国の諜報部員との攻防。ハリウッド映画のようなスケールとスペクタクルに、観客は心を奪われ韓国映画の分岐点ともなった。「『シュリ』以前、『シュリ』以降」といわしめたほどの衝撃的作品だったと黒田さんは述べる。
    以下、なるべく簡潔にまとめてみます。
    続いて、38度線の非武装地帯で繰り広げられた南北兵士の切ない友情を描いた『JSA』(00年)も大ヒット。ポイントは北の兵士に「温かい血の通った人間」のイメージを観客に与えたこと。
    当時は金大中政権で、初めての左派政権。
    00年には北の金正日委員長との頂上会談を実現させ、南北の融和ムードは加速。その後も同じく左派政権である盧武鉉氏が大統領に就任。この頃の韓国映画は『トンマッコルへようこそ』(05年)、『約束』(05年 原題は『国境の南側』)、『大胆な家族』(05年)などなど、北を話題とした作品が続々誕生。
    現在、親北派といわれる文在寅政権。
    『愛の不時着』で北朝鮮に対するイメージが変わったという方も多いだろう。
    北朝鮮をこんなにも好意的に描いた作品が制作されたのは、時の政治体制も無関係ではない。
    いつの時代でも「政治的プロパガンダ」というのは、映画などのソフトなところから始まる。
    ドラマ制作が実現した裏側にも、「南北」の政治的な綱引きがあるのが半島の持つ現実である。

    〈韓国ドラマあるあるキーワード集〉
    そうそう、そういうちょっとした疑問の答えが知りたかったのよ。
    そのなかでいちばんスッキリしたのは、「なぜ一般人はパジャマに着替えて寝ないんだぁー!」ってこと。

    おっと、忘れてた。
    イラストがね、よかったのですよ。なんかゆる~い感じなんだけど、俳優さんたちの特徴もちゃんと捉えてあったし、ドラマのシーンも完全再現。
    ジョンヒョクがロウソクの火を指でジュッと消すシーンと、庭でみんな(ジョンヒョク、セリ、隊員4人)でお酒飲みながら貝を食べるところが、とくに好きなイラストでした。

  • 日本人と韓国人の考え方の違い、社会の違いなどが分かりやすく書かれている。愛の不時着を、楽しんで観た人ならすんなり読める。

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著者プロフィール

1956年東京生まれ。桐朋学園大学演劇科卒業。女優。
韓国の「WeIcome to Korea市民協議会」広報委員、2002年「ワールドカップ日本組織委員会」理事。
TX系毎週土曜「マネー天使」にレギュラー出演、他ドラマでも活躍中。
著書に『ソウルマイハート』(講談社文庫)『完全版ソウルの達人』(三五館)など。

「1999年 『ソウル・マイハート 2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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