ラテンアメリカの文学 17

  • 集英社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784081260171

感想・レビュー・書評

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  • 独裁政権下のペルーを舞台にし、ラ・カテドラルという名の安酒場で再会した主人公たちの対話を通じて物語が始まります。この対話を通じて主人公は確執があった自身の父親の知られざる側面を知ることになりますが、知ることによる充足感はありません。元々の確執も、対立でもすれ違いでもなく、お互いを理解できないことが原因となっているので、主人公が満ち足りない感情を抱きつつけるのも仕方がないのかもしれません。父親の死によって確執は無くなるのですが、主人公には漠然とした挫折感が残ります。
    話者の転換が非常に激しいので初めは取り掛かりにくい印象を受けますが、徐々に明らかになる人物関係に引き込まれました。一度読み通した後に初めから読み返してみるとストーリー展開がより鮮明になったので、もう一度読んでみたいと思わせる小説です。野犬狩りにさらわれた愛犬を救いに行くことをきっかけに物語が始まることも主人公の置かれた立場を象徴しているかのようで印象的でした。

  • 2017/8/5購入

  • 話の盛り上がりもなく、わかりやすいオチもなく、魅力的な登場人物がいるわけでもなく、ユーモアもなく、読後感はちょっと消化不良かな。

  • リョサ初期の長篇ながらすでにただならぬ挫折感が漂う。ペルーという国とその国民性について。何をしたいのか、どうなりたいのか分からないままに常に状況に身を任せてしまう自分について。身を滅ぼすと知りながら、やめられない酒や煙草、女そして男。ついに分かり合うことのない父と子の関係。失意と挫折から若くして敗残者としての凋落の日々を送る男が探る父の秘密。

    ペルーの首都リマを舞台に繰り広げられる、あるブルジョワ一家をめぐる物語である。主人公サンチャーゴは、独裁政権を陰で支える裕福な商人ドン・フェルミン・サバロの次男。成績優秀で父親にも溺愛されているが、本人は父の庇護下から抜け出したいと願っている。母の反対を押し切りサンマルコス大学に入学すると、級友の影響を受け共産主義にかぶれ、シンパになる。ストライキの密議の最中公安に踏みこまれ逮捕されるが、公安のトップカジョ・ペルムデスはドン・フェルミンの顔を立てて釈放する。サンチャーゴは大学を去り、伯父の伝手を頼って新聞記者となる。友を捨て戦線離脱し、生計のために詩を捨てて売文業に成り果てたサンチャーゴは以後淫売屋と酒場通いに明け暮れる。

    ラ・カテドラルとは、下町の安酒場の名だ。愛犬が野犬狩りに捕まったのを救い出しに行った先で再会したのが、かつて父親の運転手をしていたアンブローシオというサンボ(インディオと黒人の混血)。第一部は、すでに結婚したサンチャーゴがアンブローシオと語る過去の回想から始まる。リョサの特徴とも言える唐突な話者の転換に最初のうちは戸惑うかもしれないが、挿入される過去の逸話の中に張られた伏線が、この大部の小説を読みすすむ上での重要な手がかりとなる。意表をつく話題の提出が異化効果となって、後になって効いてくるのだ。

    アンブローシオは、若い頃チンチャで高利貸しを営む禿鷹の息子カジョ・ペルムデスが後に妻となる娘を誘拐する手伝いをしたことがある。リマに出て来たアンブローシオは、昔なじみのカジョの運転手として雇われ、そこで、後にその運転手となるドン・フェルミンと出会う。アンブローシオはサバロ家の女中アマリアとつき合いはじめるが、何故かそのことを隠したがる。カジョはナイトクラブの歌手であった美女を囲っていたが、サバロ家を出た後アマリアはその女ムサの家で雇われる。

    オドリア政権時代を中心に描かれるが、独裁者その人は登場しない。望めば大臣職にも就けるはずのカジョは公安の長にとどまることで政権の裏にあって側近の秘密や弱みを握り権力を操ることに暗い情念の炎を燃やしていた。成績優秀で将来は大臣と目されていたカジョがしくじったのは例の牛乳屋の娘との一見が父にばれて半殺しにされたことがきっかけだった。

    世代も人種も社会的階層も異なるが、サンチャーゴとカジョ、アンブローシオは相似形をなす。サンマルコス大学で文学と法学を学ぶサンチャーゴが作家自身と重なるのは無論だが、父親との確執が子の人格形成に影響を与えている点ではあとの二人も同様である。三人の父親は質はそれぞれ異なるものの「力」で息子を圧倒する。サンチャーゴは、父の資産や名声に庇護される存在である。彼はそれをよしとせず自立を図るが、挫折してしまう。カジョは剥きつけの権力と暴力を奮う父の支配下に育った結果人を愛することのできない人間になる。アンブローシオは、父の力を恐れるあまり、常に人の機嫌をうかがわずにいられない臆病者となった。何故、父とうまくやっていくことができないのか、その理由を知りたいというのが、リョサが文学を志す契機だったという。小説の中では一人の女が殺される。その謎を追うサスペンスが後半部を牽引するのだが、見ようによっては、それも父と子の確執が遠因になっている。

    人が人を愛するというのはデファクトスタンダードではない。人は成長する中で人を愛するということを学ぶのではないか。キリスト教圏では、父と子(息子)というのは他の関係に比べ絶対的なものがある。父は絶対者であり、子は一方的にその愛を求める存在である。しかし、必ずしも父に愛されるとは限らない。理不尽にも他者に愛を奪われることもある。その不条理をそのまま肯定できる強者がどれほどいるだろう。愛されなかった子はそれ故他者を愛せなくなったり、愛を乞うようになったりする。父の死は、サンチャーゴにとって父からの解放を意味した。小説は、サンチャーゴと彼を取り巻く世界との緩やかな和解を暗示させて終わる。サンチャーゴに息子ができる日も近いだろう。

  • 一昨年ノーベル文学賞を受賞したバルガス・リョサの作品です。
    この作品のエピグラフに次のようなものがあります。

    「小説が国家の私的な歴史である以上、真の小説家となるためには、社会生活のすべてをくまなく探求しておくことが必要である」(バルザック「結婚生活の悲惨」)

    この時代錯誤感。でも、価値相対的な世の中で、いまだにこんな大志を持って創作するリョサの良さも分かってあげて下さい(笑)。ストーリーテラーとして一流なのは間違いないので、この作品も面白いです。
    こんな感じの冒頭で始まります。

    「…彼はペルーみたいだった。彼、サバリータは、どこかの時点で駄目になってしまっていた。彼は考える、何のことを?クリジョン・ホテルの正面で一匹の犬が彼の足をなめにくる、狂犬病をうつすなよ、あっちに行け。ペルーはすっかり駄目になってしまった、彼は考える、カルリートスも駄目になってしまった、誰も彼もみんな駄目になってしまった。彼は考える、解決の道はない、と。…」

  • 様々な生活階級に属する登場人物を通して、1945〜60年代ごろのペルー社会を描き出す。
    なかなか分量が多く、前半は構造も複雑なため、手ごわい小説かと思いきや、複雑な入れ子構造にはすぐ慣れるし、話自体読みやすい。ストーリーが云々というより、登場人物の生活・思想を追いかけていく感じ。

    解説にもあったが、ペルー社会の現実を描ききれているかといったら微妙かもしれないが(そもそも大変な取り組みだ)、登場人物たちの生活の中にすっかり引き摺り込まれ、もぐりこんだような感覚に捉われた時点で、やはり良い小説と言わざるを得ない。

    登場人物たちの想い出話でも聞くつもりで、一日一日少しずつ気長〜に読み進めていく感じの本。

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