月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784086016681

作品紹介・あらすじ

十七歳の貴志子は、親子ほどに歳が違う恋人の有実から、彼の娘の晃子を預かってほしいと頼まれた。晃子は十五歳。気が進まなかった貴志子だが…?表題作『月の輝く夜に』のほか、同じく文庫未収録作品『少女小説家を殺せ!』『クララ白書番外編 お姉さまたちの日々』を収録。そして文庫・単行本で134万部を記録した不朽の名作『ざ・ちぇんじ!』上下巻を併せた、氷室冴子ファン必読の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 彼女はあらゆる意味でもったいない作家だ。
    物語を書かせたら実にうまい。
    余計な描写をせずに登場人物をかき分ける能力、きちんとした文章、起承転結のうまさ。
    ただもったいないのが、未完の割合が実に多い作家でもある。
    大作『銀の海金の大地』を筆頭に、『碧の迷宮』『冬のディーン夏のナタリー』連載だけでも三本ある。
    さらに言うなら予定されていたスピンオフの多さときたら。
    『シンデレラ』シリーズは完結編である『おやすみシンデレラ』が宮崎事件を想起させるため自主的にとりやめた。そして作られた『碧の迷宮』は断絶。
    『なぎさボーイ』のシリーズは仲良し4人組みの最後『野江ダンディ』は予告だけずっとうたれていたが頓挫。
    それでも何本かはスピンオフが残されていて長らくそれは図書館で雑誌を探すしか手がなかったが、このたび復刊された。
    それがこの本に収録されている『少女小説家を殺せ』と『お姉さまの憂鬱』である。
    私は図書館で読んだくちだが、卒業したのでもう読むことができず、というか、文庫化を待ち続けるためにちょっとしか読んでいないという阿呆なことをやっていたので、この知らせは泣いた。
    そして、待ちに待った到着。自転車を走らせて発売日前に買いに行った甘い記憶を思い起こしながら、読む。
    やはり、面白い。
    氷室冴子は大人向けに転身できなかった小説家だが、それは違うと思う。
    彼女は大人向け、子供向けを書いていたのではなく、ただ物語をつづっていたのだ。
    ただ、当時の彼女の読者が子供だったのだ。
    むしろ、彼女があのまま書き続けていたなら、彼女はどちらにでも受け入れられる作家になっていただろう。
    同じようなテイストでベストセラー作家がいるが、正直氷室冴子の方が青春の痛々しさをすっきり描く技量は優れている。また本人が口で言うほどキャラクターに溺れていないので物語が破たんしない。
    月の輝く夜には、おそらく少女小説全盛期には受け入れられなかっただろう。
    茫洋としたつかみどころのない主人公に、ずるい大人の恋人。
    ジャパネスクを期待していたひとにはツマンナイと思われるかもしれない。
    が、現代にも置き換え可能な恋模様を平安の時代設定を使い自然に書いてしまうというのはやはりうまいと思う。
    彼女の最後の物語がこのような悲しいのに前向きな物語であったことは非常にらしかった。
    けれど、やはりもったいない。

  • でたー!
    新装丁という名の焼き直しが新刊の顔をして世をはばかる昨今、ほぼ入手不可能な作品を収録した編集者に乾杯。

    昔は作品に合ったイラストレーターがついていたものだけど、いまは中身よりも絵で印象付けて買わせようという魂胆が見えるのが悲しいですね。
    いや、今市子はいいんですけどね。一般的に。

    とはいえ、コバルトシリーズもラノベの走り。中身よりもファンの心をつかむ作者のお姉さまの、カリスマが喜ばれた時代でしたね。

    その中でも、氷室女史はちがったなあと、永遠に結末を知ることのできない名作の数々を思い出す。
    ラノベは今も昔も、流行物は流行り物なんですけどね。

    徳間から出した「海がきこえる」を文庫化にあたり、彼女はその流行ものの固有名詞に若干手を加えていました。
    高知での同窓会二次会で、里伽子が歌ったカラオケがウインクから安室奈美恵になるとかね。
    ともかく、夜中にかかってきた彼女からの電話に、帰宅したばかりの主人公があわてて出る、なんて、いかにも携帯のない時代のリアクションではあります。

    細かい流行廃りはあっても、氷室冴子が選ぶ言葉は、いつも変わらないような気がする、今回の再録集です。

  • ざ・ちぇんじ! が、氷室冴子さんとの初めましてでした。平安時代がこんなに身近?

    何人にこの本をプレゼントしたか!

    青春と読書の連載、女性誌の連載、ずっと読み続けていたのに、亡くなられた時は、悲しくて ご冥福を御祈りします。

  • 昔、読んだ「ざ•ちぇんじ」を思い出して手に取った一冊。リアルタイムに読んでいた頃が思い出されると同時に、今読んでもやっぱり面白い。

  • 2008年6月に逝去された氷室冴子さんの(多分)最期の作品「月の輝く夜に」が収録された作品集です。

    3㎝弱ある分厚い一冊ですが、単行本未収録作品は全650頁のうち200頁のみです。
    その殆どは「ざ・ちぇんじ!」の再録が占めているので。
    でも氷室作品は「なんて素敵にジャパネスク」シリーズのみしか手元に残していないので(山内直実版は持ってますw)、久しぶりに読んだ活字の「ざ・ちぇんじ!」は良かった!
    山内さんの再現率の高さも今更ながら感心してしまいます。
    そしてこの濃い目のピンクの背表紙は私の中学時代のど真ん中に在していました。
    手にした時にはあの頃の青い思い出たちが鷲掴みに目の前へと突きつけられたようで嬉しいやら気恥ずかしいやら。

    中学生にしか出来ない読書があると思います。
    それを私に授けてくれたのは、氷室冴子さんであり新井素子さんであり久美沙織さんや田中雅美さんといったコバルト作家陣でした。
    漫画じゃないけれど漫画の頁をめくるようにすらすらと、そして色鮮やかに脳内で漫画化(映像化とは少し違った気がする)されたコバルト文庫の秀作たち。
    特に氷室冴子さんの「なんて素敵にジャパネスク」があったから今源氏物語を趣味のひとつに挙げられる私がいると言えます。

    その氷室センセが鬼籍に入られて4年が過ぎた今、こうして単行本未収録作品が随分なごちゃ混ぜ編集ではありますがまとまって単行本として世に出たことは氷室ファンにとって僥倖以外の何物でもありません。

    長くなりますが各作品について。

    ・月の輝く夜に ★★☆☆☆
    2005年2月号Cobaltに掲載された作品。
    掲載時のコメントに、

    「月の輝く夜に」は書いた時から、好きな作品でした。ページ数が足りなくて苦労した記憶が・・・。掲載原稿を元に打ち直して、幾らか増えています。

    と、背表紙裏にあります。
    「銀金」シリーズはどうにも合わなくて読んでいなかったのですが、体調・精神面・創作意欲といった色んな面からも「月の輝く夜に」の頃から既にかなりトーンダウンしていた感が否めません。
    この作品自体が、平安時代の受け身でしか結婚も恋愛も出来ない女人を主人公にしているので暗くロートーンになるのは仕方がないと言えますが、それにしても作品に力が無いというか・・・。
    未完作品の「碧の迷宮」もここまで中途半端に物悲しいだけのお話では無かったように思います。

    しかし、氷室冴子は少女小説家でしたが生涯少女小説家だったわけではありません。
    対象読者の年齢を上げて内容も少しずつオトナになっていった結果がこの「月の輝く夜に」に見受けられます。
    読者だっていつまでもコドモじゃないんだ。
    オトナの恋愛、どうしようもないってことが現実にはあるってことを「なんて素敵にジャパネスク(人妻編)」では既に描いていますしね。

    読後感がいまひとつ良くないのとなんとも言えない物足りなさを感じてしまったのと、やはり久しぶりに新作を読む期待値が大きすぎたせいで星が減りました(苦笑)
    でもこんなんじゃ読めないままでもよかった、とは思いません!
    山内さんのコミックス版も読みたいなぁ。
    初版は売り切れ、今は再販がかかるかどうかもわからない状態です(-_-;)

    ・ざ・ちぇんじ! ★★★★★
    「とりかえばや物語」を元に創作された平安ラブコメディの代表作ですね。
    帝の純情で単純なところが今読んでもかわゆいですw
    ほんとよく出来たお話ですよねぇ。
    おとなになってから読むと何か違うかしらと思ったのですが、心は一気に中学生の頃へと巻き戻されてしまってなんてこたーない楽しいばっかりでしたw

    ・少女小説家を殺せ!Ⅰ・Ⅱ ★★☆☆☆
    「少女小説家は死なない!」の番外編。
    相変わらずの火村彩子センセに若干引き気味になりますw
    今なら「ラノベ作家」となるのでしょうが呼び方が変わっただけで内実は案外このままなのかも?w
    脳みそからっぽにしてがーっと読める作品ですw

    ・クララ白書 番外編 お姉さまたちの日々 ★★★★☆

    このシリーズ大大大好きでした!
    女学校!寄宿舎!中高一貫のお嬢様学校!お姉さま!
    あこがれてんこ盛りですw
    自分自身高校が女子高で一年上のバレー部のエースに憧れていたのですが、超地元だったため寮に入ることは出来ずあることないこと想像して憧れを強くしていたものです、あぁ懐かしいw

    この番外編は本編とは違ってお姉さま方達が主役です。
    地の文章は煌めきの虹子女史。
    そこへ軌跡の高城さんと今回の台風の目清らかなる椿姫白路さん!
    しーのと一緒になって憧れまくっていたお姉さま方たちが主役の番外編なんてもうたまらんですw

    みさきのあさんのコミックスは再読しまくりで本棚に並んでいますが、この番外編も漫画化されないかなぁ。
    そういえば中学の国語の授業課題で「短編小説を書く」と言うのがあって、私は「アグネス白書ぱーと2」の後日談を書いたのでしたw
    冒頭400字程は一気に書けたのに、構成も何も考えずの見切り発車だったのであっという間に頓挫して完成させることなく中途半端な状態で提出しました。
    お陰で小説家になろうなんて夢を見ずに済みましたが!(苦笑)

    本編を読んだだけではまさかここまでとは思ってませんでした、白路さんの天然ぶっ飛びぶりwww
    虹子女史の、

    白路のアホッ!だから、あんたの友人、やめたいのよ。

    は、ソウルボイスですwww
    めいいっぱい楽しませてもらいました。
    読めて良かったー!

    Cobalt本誌を購読してない方にとってはこの200ページは至福の時を与えてくれると断言しちゃいます。
    初版後たった2週間で再販がかかったことからも、まだまだ氷室ファンは健在だぜ!とガッツポーズをしてみせたい気分です。
    氷室センセ、ずっとずっと大好きですよー!

  • 平安時代だからこそのチェンジだよねえ。
    懐かしいです

  • 初夏のある日、部活帰りに友達が「これ、面白いから読んでみて」と貸してくれたのが「ざ・ちぇんじ(前編)」。そう、昔は前編と後編に本が分かれていたのだった。夕暮れどきの薄暗い部屋で電気も点けずに読み耽ったのを思い出す。当時、私は中学一年生。この本で「直衣」や「御簾」の読み方を覚えたのではなかったかな。

    平安時代の登場人物たちが現代の言葉で生き生きと話し、恋に悩み嫉妬に狂えば、人生に迷う。私たちと大して変わらないじゃんと歳の近い彼らに親しみを覚えた。一気に読んで翌日、後編も貸して欲しいと友達にお願いしたのは言うまでもない。

    10代前半で読んだ時は80年代当時の感覚として特に引っかかることもなかったけど、ジェンダーで役割分担がガッツリ固定化されていた平安時代は姉綺羅のように能力ある者にとっては、さぞかし窮屈で生きにくかっただろうなと同情する。初版から40年近く経った令和の現代ではジェンダー役割が流動的になってきているから、今の子供達が読んだら何と感じるだろうか。そして、十人並の容姿でこれといった特徴もない三の姫が宮中で姉綺羅と人気を二分する宰相中将をしっかり射止めるところが昔の少女マンガの王道的展開(読者の少女達の夢を壊さない著者の優しさ)のようだなぁと微笑ましく思った。

    空蝉の術や、あらぬ人の恋の恨みを買う夕顔や葵の上、といったような源氏物語に由来する例えがちょくちょく出てくる。とりかへばや物語を下敷きにした小説だけど、氷室先生は設定に源氏物語からヒントを得たところもあるのではないだろうか。

    セリフに「おたんこなす」と出てくるあたりが昭和の作品らしいと、ふと懐かしくなった。

  • 中学生の頃に大好きだった氷室冴子さんの「ざ・ちぇんじ!」をウン十年ぶりに再読。
    子供の頃好きだった本って、大人になってから読むとガッカリする場合もあったりするので少し心配だったのですが、全くの杞憂でした。図書館から帰ってすぐ、前後編続けて一気に読んじゃいました。
    昭和ならではの表現もあり、今の時代に同じテーマで書いたら全く違ったお話になっただろうな…と思いつつ、でも読んでる間ずーっとニマニマが止まらないくらい楽しかった!

  • 表題作の他に、単行本未収録と思われる(昔、雑誌で読んだ記憶がある)短編がいくつか。
    ああ、氷室先生、もっと書いてほしかった。

  • 氷室さんの文章が好きです。
    切なくて美しい。 何度も読み返したくなる。

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著者プロフィール

氷室冴子(ひむろ・さえこ)
1957年、北海道岩見沢市生まれ。 1977年、「さようならアルルカン」で第10回小説ジュニア青春小説新人賞佳作を受賞し、デビュー。集英社コバルト文庫で人気を博した『クララ白書』『ざ・ちぇんじ!』『なんて素敵にジャパネスク』『銀の海 金の大地』シリーズや、『レディ・アンをさがして』『いもうと物語』、1993年にスタジオジブリによってアニメ化された『海がきこえる』など多数の小説作品がある。ほか、エッセイに『冴子の東京物語』『冴子の母娘草』『ホンの幸せ』など。 2008年、逝去。

「2021年 『新版 いっぱしの女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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