月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784086016681

感想・レビュー・書評

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  • 彼女はあらゆる意味でもったいない作家だ。
    物語を書かせたら実にうまい。
    余計な描写をせずに登場人物をかき分ける能力、きちんとした文章、起承転結のうまさ。
    ただもったいないのが、未完の割合が実に多い作家でもある。
    大作『銀の海金の大地』を筆頭に、『碧の迷宮』『冬のディーン夏のナタリー』連載だけでも三本ある。
    さらに言うなら予定されていたスピンオフの多さときたら。
    『シンデレラ』シリーズは完結編である『おやすみシンデレラ』が宮崎事件を想起させるため自主的にとりやめた。そして作られた『碧の迷宮』は断絶。
    『なぎさボーイ』のシリーズは仲良し4人組みの最後『野江ダンディ』は予告だけずっとうたれていたが頓挫。
    それでも何本かはスピンオフが残されていて長らくそれは図書館で雑誌を探すしか手がなかったが、このたび復刊された。
    それがこの本に収録されている『少女小説家を殺せ』と『お姉さまの憂鬱』である。
    私は図書館で読んだくちだが、卒業したのでもう読むことができず、というか、文庫化を待ち続けるためにちょっとしか読んでいないという阿呆なことをやっていたので、この知らせは泣いた。
    そして、待ちに待った到着。自転車を走らせて発売日前に買いに行った甘い記憶を思い起こしながら、読む。
    やはり、面白い。
    氷室冴子は大人向けに転身できなかった小説家だが、それは違うと思う。
    彼女は大人向け、子供向けを書いていたのではなく、ただ物語をつづっていたのだ。
    ただ、当時の彼女の読者が子供だったのだ。
    むしろ、彼女があのまま書き続けていたなら、彼女はどちらにでも受け入れられる作家になっていただろう。
    同じようなテイストでベストセラー作家がいるが、正直氷室冴子の方が青春の痛々しさをすっきり描く技量は優れている。また本人が口で言うほどキャラクターに溺れていないので物語が破たんしない。
    月の輝く夜には、おそらく少女小説全盛期には受け入れられなかっただろう。
    茫洋としたつかみどころのない主人公に、ずるい大人の恋人。
    ジャパネスクを期待していたひとにはツマンナイと思われるかもしれない。
    が、現代にも置き換え可能な恋模様を平安の時代設定を使い自然に書いてしまうというのはやはりうまいと思う。
    彼女の最後の物語がこのような悲しいのに前向きな物語であったことは非常にらしかった。
    けれど、やはりもったいない。

  • ざ・ちぇんじ! が、氷室冴子さんとの初めましてでした。平安時代がこんなに身近?

    何人にこの本をプレゼントしたか!

    青春と読書の連載、女性誌の連載、ずっと読み続けていたのに、亡くなられた時は、悲しくて ご冥福を御祈りします。

  • 初夏のある日、部活帰りに友達が「これ、面白いから読んでみて」と貸してくれたのが「ざ・ちぇんじ(前編)」。そう、昔は前編と後編に本が分かれていたのだった。夕暮れどきの薄暗い部屋で電気も点けずに読み耽ったのを思い出す。当時、私は中学一年生。この本で「直衣」や「御簾」の読み方を覚えたのではなかったかな。

    平安時代の登場人物たちが現代の言葉で生き生きと話し、恋に悩み嫉妬に狂えば、人生に迷う。私たちと大して変わらないじゃんと歳の近い彼らに親しみを覚えた。一気に読んで翌日、後編も貸して欲しいと友達にお願いしたのは言うまでもない。

    10代前半で読んだ時は80年代当時の感覚として特に引っかかることもなかったけど、ジェンダーで役割分担がガッツリ固定化されていた平安時代は姉綺羅のように能力ある者にとっては、さぞかし窮屈で生きにくかっただろうなと同情する。初版から40年近く経った令和の現代ではジェンダー役割が流動的になってきているから、今の子供達が読んだら何と感じるだろうか。そして、十人並の容姿でこれといった特徴もない三の姫が宮中で姉綺羅と人気を二分する宰相中将をしっかり射止めるところが昔の少女マンガの王道的展開(読者の少女達の夢を壊さない著者の優しさ)のようだなぁと微笑ましく思った。

    空蝉の術や、あらぬ人の恋の恨みを買う夕顔や葵の上、といったような源氏物語に由来する例えがちょくちょく出てくる。とりかへばや物語を下敷きにした小説だけど、氷室先生は設定に源氏物語からヒントを得たところもあるのではないだろうか。

    セリフに「おたんこなす」と出てくるあたりが昭和の作品らしいと、ふと懐かしくなった。

  • 中学生の頃に大好きだった氷室冴子さんの「ざ・ちぇんじ!」をウン十年ぶりに再読。
    子供の頃好きだった本って、大人になってから読むとガッカリする場合もあったりするので少し心配だったのですが、全くの杞憂でした。図書館から帰ってすぐ、前後編続けて一気に読んじゃいました。
    昭和ならではの表現もあり、今の時代に同じテーマで書いたら全く違ったお話になっただろうな…と思いつつ、でも読んでる間ずーっとニマニマが止まらないくらい楽しかった!

  • 単行本に未収録だった「月の輝く夜に」が収録されているだけても価値がありますが、クララ白書や少女小説家は死なないの番外編も収録されていて充実した内容でした。

    今先生の表紙が美しく、収録作の「ざ・ちぇんじ」の挿絵も書いて欲しかったです。

  • なつかしの「ざ・ちぇんじ」も収録されている豪華版。
    内容は文句なく面白かったです。
    それにしても、懐かしいなぁ~

  • 表題+αの短編集。
    +αは元ネタを知らないので、未読。

    >月の輝く夜に
    完全なる創作古典かな?
    思っていたより、面白くなかったかな……。

    >ざ・ちぇんじ!
    『とりかえばや物語』をベースにした、創作古典。
    「いやいや、その誤魔化し方は無理でしょ!」と、ツッコミを何度も入れてしまった(笑)が、男女入替の王道物語を面白おかしく描いている。
    ラストがものすごいご都合主義で駆け足気味に感じたけれど、終わりよければすべて良し、ってことで面白かった。

  • 何組もの恋人たちのお話が重層的に出てきて、ものすごい読みごたえ。
    それもほぼ悲恋だから、すごく印象的で。
    キレイでものがなしくて、こういう話が書けたらいいんだけど。

    一度では追いきれないくらいの話だったので、何度か読んで、頭にしっかり入れたいところ。

    ほかには、少女小説家は死なない!の番外編2作も面白かった。
    宗教にかぶれさせよう作戦と、ハーレ由子との嘘の賭けの話。
    火村先生のキャラが強烈かつ、まわりもすごいから、話が転がる転がる!キャラ小説ってこうあるべきなんだろうな。
    同じく分析しつくしたい一作。

    クララ白書の番外編もあり。こちらは本編読まないとー。

  • 小学生だか中学生だかの若かったころ、氷室先生の「ジャパネスク」にはまったのを良く覚えています。このシリーズがきっかけで、源氏物語とかの王朝ものに興味が出てきたんでした。そういえば。
    懐かしくて、つい手にとってしまいました。
    名作といわれる「ざ・ちぇんじ」も恥ずかしながら初めて読みました・・。なんつぅか、瑠璃姫と融君に似てません??
    でも女房として後宮に乗り込みはしても、瑠璃姫は男装して出仕したりはしませんでしたっけ。

  • 懐かしい!!!あまりにも懐かしくて一気に読んでしまいました!

著者プロフィール

氷室冴子(ひむろ・さえこ)
1957年、北海道岩見沢市生まれ。 1977年、「さようならアルルカン」で第10回小説ジュニア青春小説新人賞佳作を受賞し、デビュー。集英社コバルト文庫で人気を博した『クララ白書』『ざ・ちぇんじ!』『なんて素敵にジャパネスク』『銀の海 金の大地』シリーズや、『レディ・アンをさがして』『いもうと物語』、1993年にスタジオジブリによってアニメ化された『海がきこえる』など多数の小説作品がある。ほか、エッセイに『冴子の東京物語』『冴子の母娘草』『ホンの幸せ』など。 2008年、逝去。

「2021年 『新版 いっぱしの女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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