岩館真理子自選集 5 (集英社文庫 い 36-5)

著者 :
  • 集英社
3.45
  • (7)
  • (5)
  • (13)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 66
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784086172325

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • こちらもダメダメな母親に苦労させられる長女の物語。
    と、書くと暗くて悲惨な話のように思えますが、めちゃくちゃ笑えるコメディです。
    悲惨も度がすぎると笑っちゃうんだなあ。
    世界がすべて真理子先生の漫画みたいだったいいのに!!

  • 初めて読んだのは、母の愛読書の一つで、確か小学生ぐらいの時だったかと思う。子どもには幾分早い内容だけれども、その分中学生、高校生、大学生と経て大人になっていく中で、繰り返し何度も何度も読み返した。確実に、私の人生に最も強い影響を及ぼしている作家さんの一人。「少女漫画」というジャンルの中では、今でもこの人が間違いなく自分にとってのナンバーワンだと自信を持って言える。この人の作品はどれも心の琴線に触れるものがあるのだけれど、中でもこの『森子物語』は10代の頃の精神状態とひどくシンクロしていて思い入れが深い。鬱屈とした青春、閉鎖的な世界、とにかく「自由になりたい」と願う少女の理想と現実が、辛い痛みと甘やかな喜びの両方を伴って胸に突き刺さる。

    岩舘先生が描くヒロインはどこかしら(社会に不適合であるというニュアンスで)「おかしい」ところがあるのだが、この森子もその例に漏れない。花の女子高生でありながら、全員父親の違う腹違いの弟妹と水商売で生計を立てる奔放な母親の世話に追われ、どこか自分の現在の生を「仮初めのもの」ととらえているような節がある。その証拠に、日々の支えにしている言葉は「いつか私はここを出て、『あっち』の世界に行くの」というもの。高校を卒業したら、全ての義務から解放されて、自分一人のための自由な人生に歩み出すことを胸に、毎日の雑然とした諸々の世事をいなしている。ともすれば鬱々と重苦しいだけになりそうな物語も、岩舘先生の独特のユーモアセンスのおかげで、深刻になりすぎない軽やかさを持っている。森子だって、家事に追われながらも恋をするし、騒がしい弟妹たちや頼りない母親を衝動のままに怒鳴りつけたりもする。そうして、すっきりする。けれども、夢見がちな思春期の心が、同時にどこか遠いところに希望のよすがを求めようとするその精神構造には、自分でも痛いぐらいに覚えがある。

    個人的に、この作品の軸と思われるものは、やはり森子と彼女の憧れの人・東山くんとの対比だろう。途中、大好きな同級生・東山くんを見かけた森子が、彼が道端で自分に寄ってきた野良の子犬を蹴りつけるところを見てショックを受けるシーンは本当に衝撃的だ。先日、彼が配達で訪れた(東山君の家は酒屋さんをしている)お金持ちの家の飼い犬は、可愛がるように何度も撫でていたのに。汚らしい野良の子犬には、そんな酷い仕打ちをするのだと、森子は彼をまるで神さまのように崇めていた自分自身を恥じる。まるで彼女自身がどこか自分と切り離されたものとして崇拝する、「美しく綺麗なものたち」の世界に、問答無用で東山くんを分類していた自分に気づく。東山くんはただの人間で、嫌いなものに対してはひどく残酷に振舞う「並の人」で、そこで森子は「信仰」という名の、自らの歪な恋の終わりを思い知るのだ。この場面は本当に辛い。辛いというよりはキツい。厳しい現実から逃れるために、身近に「神」の如き象徴を築こうとする、うら若く繊細な心の身勝手さが生々しく描かれていて、これだけでも似たようなことを散々繰り返しては傷ついてきた自分には、そうとう手痛い仕打ちだと感じてしまう。
    が、あくまで「おかしな」人間たちに優しい岩舘作品、ヒロインはこの深い傷を乗り越えて、穏やかな諦めと共に新たな日々へと歩み出す。印象深いのは、途中何の不自由ない模範的で幸せな生活を送っていると思われていた東山くんですら、森子と同じように「ここを抜け出したい」思いを抱えていたことを吐露するシーンである。学校を休み、衝動的に飛び乗った町を出る電車の中で、彼は独りごとのように語る。「だけど、戻って来なきゃならないことを知ってるんだ」。現実はあくまで現実のまま、逃げ出したい思いを抱えていても、人は皆自らの抱えたしがらみの中で生きていくしかない。理想を夢見ていても、目の前の雑事にとらわれてやっていくしかない。神さまだった東山くんの失墜を目にして、森子は自らの現実に対し、少しずつ冷静な視点を取り戻していく。そうすると、見えてくるいろいろな事実。明らかになる意外な真実。

    物語そのものは、終盤驚きのどんでん返しを迎えるのだけれど、あくまで必要以上に近づきすぎない森子と東山くんの距離がいい。二人は、境遇は違えど実は似た者同士なのかもしれず、それでもお互いそれぞれに目指すものがあるから、完全には理解し合えない。寄りかかれない。それでも、何と言ったら良いのか、全体を通じてふっきれた明るさがある。諦めはしたが悲しくはなく、むしろ無理して背伸びしていた体がようやく元の立ち位置に戻って、等身大の自分で生きていこうということの気楽さを覚える。
    ここが、やはりいつ読んでも素晴らしいと思う。岩舘作品は、いつでも現実を容赦ないほど真っ向から見据えている。でも、決して悲しくはない。生きていくのは、実は絶望に浸り切るには思いの外忙しく、卑俗で雑然としていて、でもそうした諸々の事実の中に、人はささやかな幸福を見出そうと努力するからだ。「どこかへ行きたい」と思っていても、今ある生を認められないうちは、きっとどこへも行けはしない。森子は、いつだって自分の移し鏡だった。この作品の教訓があれば、人生はもう少し、気楽で生き易いものになるような気がしている。

  • 積読

  • 090228(a 090514)

  •  岩館真理子さんは最近注目しているマンガ家さん。MOEで紹介されていたので、読みました。「絵本好きに贈る〜」ときたら読んでみよう!と。すごく面白い!という風に興奮するわけじゃないんだけど、なぜか指が先へ先へ―!って動いちゃう。から、面白いってことなのかな。

  • 懐かしくて思わず買ってしまった

  • しあわせになってほしいといえば森子ちゃんだわ!でもいじけていても、のびのびしていて、自分のおもうだけ(とおりにではなく)生きてるところがすごく好き。わりに唐突だけどしあわせな話だと思う。ぜんたいを通して。絶望しそうだけどしあわせになる派

  • ためらい立ち止まることの美しさ。

全11件中 1 - 10件を表示

岩館真理子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×