動物化する世界の中で ―全共闘以後の日本、ポストモダン以降の批評 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087201888

作品紹介・あらすじ

一九四八年生まれの笠井潔と、一九七一年生まれの東浩紀。親子ほどに年が離れた批評家同士の往復書簡は、九・一一米国同時多発テロ、および、アフガニスタンへの報復攻撃という異様な状況下で企画された。二〇〇二年の二月五日からその年の暮れにかけて集英社新書ホームページ上で公開された往復書簡は、連載途中、対立の激化のため何度も継続が危ぶまれた。批評の最前線で、今、何が起きているのか。そして、両氏の対立の真意とは。妥協のない意見交換を通じて、「動物の時代」という新しい現実に対応する言葉を模索した、知的実践の書。

感想・レビュー・書評

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  • 東浩紀と笠井潔による往復書簡。なんだか議論のすれ違いが徐々に深刻になり、文字通り喧嘩のような様相をなしています。話が噛み合ってなさすぎて、途中で読むのやめようかとおもった…
    ちなみに、わたしは東の怒りはまったく妥当だとおもいました。笠井さんの議論スタイルなのかわかりませんが、どうにも話がずらされ、彼の自分語り、思い出語りに終始してしまっていたのは確かだと思います。ただ、最後まで読んで、笠井さん側の言い分もそれなりに納得した。良くも悪くも団塊の世代である笠井さんにはマルクス主義の経験があまりに大きく、戦中派の親を持つ世代としてあくまで一貫性というものに拘り、またサルトルの洗礼からポストモダン思想とその流行を通過しても尚逃れることはできないのであって、彼の人間性の問題というよりも本当に世代間ディスコミュニケーション。で、要するに、本書を読んで学んだのはある年代の人間が否応無く持ってしまう時代性と、それが阻害するコミュニケーションの事実性です。時代がどれだけ人間を決定づける大きなものなのか考えさせられざるを得ない。そして彼等はそれぞれ時代の刻印を受けているわけですが、わたしは現在性に対するコミットをひたすら忌避してきた自覚があるのだけれども、もう少し今この時代に生きるわたし、というものを意識したほうがいいのかなあとか。いまわたしが生きているのはどういう時代なのか、そしてそれをいかに相対化していくか、そろそろ考えなければ。

  • 東浩紀/動物化 のキーワードに反応してついつい手に取った一冊。

    東さんと真面目な議論を公の往復書簡というスタイルで穏便に、無難に、平和的に繰り広げられるとは到底思えないと再確認。その良し悪しは置いといて。

    低評価与えれるほどは精読し理解できたとは口が裂けても言えないのでとりあえず星3で。

  • とても面白かった。今日の現実の社会における思想言論の意義について語らせたがる東と、自分の全共闘的文脈ばかり語る笠井。笠井にとって思想言論は、現実から遊離していようがなんであろうが、ひとつの社会的関心領野として続いていくものだと信じられている。それは、思想言論と実際の社会運動が結びついていた60年代の記憶があるからだ。しかしそれを体験したことのない東にとって、現実から遊離し、霧消していきつつあるかのごとくの思想言論のありかたは危機的であると映る。ゆえに現代社会を反映するサブカルチャーと思想史的文脈の切り結びを強調する。

    思想言論が現実から遊離しているのはそれが現実と接続する文脈を持たない場合である。東はポストモダン以降の思想の文脈からの断絶を前提として思想の危機を語りたがるが、笠井はその断絶を否定して連続性の話を個人史に結びつけて語る。しかし東はその連続性を否定したところから話を始めようとするので、話が噛み合わない。

    東の葛藤は、思想史研究をやっている僕にとって非常に共感できるものである。対して、笠井の諦念あるいは保留(文筆活動が社会を良くするかどうかなんてわからないが、やるしかないじゃないか、というような)は、確かに腑に落ちる回答である。
    とはいえ、大きな物語の消失、ある言論が力を持つことについての恐怖、これらに取り憑かれた僕らは、なにか新しいものを作れないかともがいて焦っている。東はユートピア論を書くらしい。

  • 批評とは何か?
    極めて個人的なものである、と思う。
    ポストモダン、60年代と80年代のギャップを感じる。ハイカルチャーとサブカルチャー。誰のための論争、批評であったのか?目的(読者?)対象もよくわからず。

  • 9.11以降の文学者の沈黙 大塚英志
    →柄谷批判

  • 両人の話が噛み合っていない分、話がとっちらかっていて、途中から何を言っていたのかよく分からなくなってきたが、「思想や文学の言葉と現実社会の乖離をいかに克服するか」という問題に対し、その現実社会の捉え方自体が、両人とも自分の過ごしてきた時代(60年代と80年代)をベースにせずにはいられないという点だけは印象に残った。余談だが、文字ベースでの議論がリアルタイムに進むTwitterに馴れてしまうと、このような往復書簡という形式自体がどうにもまどろっこしく感じられてならない。

  • 東浩紀と笠井潔が往復書簡というかたちで議論を交わしている本です。

    両者の議論は、80年代の評価と現代の状況認識の点で最初からすれ違いを見せており、しだいにディスコミュニケーションの様相を濃くしていきます。そのため、一部には企画としては失敗だったという評価もあるようですが、ここであらわになっている問題はある意味で普遍的なものであり、そのことが浮き彫りにされているという点で、個人的には興味深く読みました。

    簡単に整理しておくと、笠井はハイ・カルチャーとサブカルチャーの区別がなくなりフラット化した状況のなかで、あくまで実存的な関心にもとづいて議論を組み立てていくというスタイルをつらぬいているということができます。これに対して東は、「棲み分ける批評―浅田彰と福田和也に象徴される90年代批評の問題」以来の問題関心にもとづいて、そうした批評のありかたへの危惧を訴え、より唯物論的でパフォーマティヴな次元での対話的実践を笠井に求めつづけています。

    もちろん東には、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)などで展開しているサブカルチャー批評が、多くのフォロワーたちによって実存的な問題へとすり替えられてしまっていることを「誤解」だと明言してはいるのですが、デリダの研究からその思想家としての経歴をスタートさせた彼には、こうしたすり替えが原理的にはけっして防ぎえないことを、だれよりもよく承知しているはずです。それだけにおそらく東は、すり替えが生じるのを防ぎえないことに開きなおっているばかりの笠井の「実存」的な態度に業を煮やし、議論を前進させようと呼びかけつづけていたのだと思われます。

    ただ、これは東がこれまでに何度もくり返しているパターンで、そうした事前の問題意識の共有が、笠井とのあいだで十分になされていなかったのでしょう。個人的には東の立場に同意しますが、笠井に対しても同情を感じたのも事実です。

  • 動物化する世界の中で―全共闘以降の日本、ポストモダン以降の批評 (集英社新書)

  • 中途断念。笠井の方がどうしても理解出来ん。論旨を受け入れ難いという意味ではなく、純粋に自分の理解が追いつかないって意味で。ただ、東の方はそれなりに首肯出来る部分があることを考えると、徒に難解な文章で煙に巻かれている気もしてしまう。だって、東の方が間違いなく勢いあるもの。頑張って途中まで読んだけど、どうしても字面を追っているだけになってきてしまったんで、今読む意味無しと判断し、断念。

  • 笠井氏の「矢吹駆シリーズ」は全部読んでいて、「本質直観」とかよくわからないけど、矢吹駆のミステリアスな雰囲気とか、物語全体のまるで今にも降り出しそうな程に低く黒く垂れ込めた曇天の下のような感じが好きなのだが、そこには、笠井氏の「自分と世界がどんな具合に繋がっているものかよくわからない」ことへの苦しさが影響しているのか。
    まあそれはそれとして、脱思想化され脱文学化された21世紀の世界に対しては、東氏ほどではないにせよ、僕も「大丈夫か?」と感じていたので、第一信を読み、かなりの期待を持ったのだが、見事にスカされた。その原因は世代の違いではなくて、笠井氏の「個人的な動機」によるもの。思想や文学と社会的現実との乖離が90年代に始まろうが70年代に始まろうが、それはどうでもよくて、これから先、どうするのかを聞きたかったのだが…。

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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