英仏百年戦争 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
3.76
  • (63)
  • (86)
  • (111)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 697
レビュー : 93
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202168

作品紹介・あらすじ

それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 著者:佐藤賢一(1968-、鶴岡市、小説家)

  • ドーバー海峡を挟んで隣国であるフランスとイギリスが、最近まで剣呑の仲であることは承知していましたが、歴史をたどっていけばその謎も解けるというものです。

    この戦争を機に現在のイギリスとフランスの地盤が出来たといっても過言ではないでしょう。
    フランス王家から分かれたイングランド。
    フランス王家といえども、国内の諸侯の力が強すぎ、かつ、その諸侯たちも自分たちの思惑でフランス側についたりイングランド側についたり…
    このような内戦ともいえる状況を乗り越えてこそ国家としての自覚が誕生するものなのですね。
    注目すべきはイングランドの黒太子エドワードの戦術と、風のように訪れてフランス王の窮地を奪回し、風のようにこの世を去っていったジャンヌ・ダルクです。

    その一方で、両国が戦争に明け暮れた結果、戦争が済んだら傭兵を解雇した結果、一番の被害を被ったのは紛れもなく、普通に平凡な暮らしをしていた一般市民たちです。
    フランス国内で「ジャックリーの乱」が勃発し、農民たちが暴徒化するのも至極当然といえます。

    「ジャックリーの乱」を肯定する訳ではありませんが、この戦争中にイングランドをフランスが得たもの、失ったもの…それぞれの意味を考えることは、現代社会においても決して他人事ではなく、しっかりと考えていかなければいけないところです。

    余談ではありますが、一時は「魔女」として火あぶりの刑に処せられたジャンヌ・ダルクの名声を復活させ、愛国心溢れる女性戦士として再注目させ、自身の宣伝活用に大いに利用したのはナポレオンです。

    個人的には、気持ちが荒んでいるときに何度でも再読し、自分を深く顧みることのできる一冊です。

  • 久しぶりに読んだけど、やっぱり面白いな。著者が小説家だからかな?
    この本を読むと『英仏百年戦争』の内容よりもイングランドの発祥がフランスのノルマンディ公である事に最も驚くのではないだろうか?
    普通に考えれば、王家と公爵家は王家の方が上位に位置していると思うもんだよ。少なくとも日本の歴史の授業ではそのように読んでいたしね。
    [more]
    文中で何度も触れられているが『英仏』が『百年戦争』をしたのではなくて、『百年戦争』の中で『英仏』が誕生したという事は自ら調べない限りは気が付けないね。
    そして中央集権国家の誕生がここにあるのは中々に面白い。
    この時代の貴族同士の関係を日本でいえば、戦国時代の大名に置き換える事ができるんじゃないかな?王家は幕府といったところか…
    それにしてもローマ帝国が広大な範囲を統治できていたのは、強力な外圧と強力な軍隊があってこそだったのだろうな。

  • 百年戦争の入門書として最適な良書。

    まず、現在語られている歴史は、国民国家の時代を生きる我々の価値観に合わせて作られたモノだと筆者は述べる。
    英国の最初の王朝はフランス人によって作られたものであり、英仏百年戦争の序盤はフランスのお家争いであったのだ。
    これは中々衝撃的な内容であった。

    その後、国民国家としてフランス、英国が成り立つ過程を丁寧に描いている。

    入門書としてだけでなく、歴史を学んだ人でも面白いと思える良書であった。

  • ・英仏百年戦争はフランドルの羊毛貿易問題、ボルドーの葡萄酒貿易問題、なかんずくアキテーヌの領有問題、フランス王位継承問題等々を争点として、中世末に行われた(1337年〜1453年)。序盤は圧倒的なイギリスの優勢で進んだ。クレシーの戦い(1346年)、ポワティエの戦い(1356年)で立役者となった軍事的カリスマ、エドワード黒太子の活躍で勝利。十五世紀に突入するにつれ、フランスは国土の半ばを占領され、国家存亡の危機となるが、オルレアンの攻防(1428年〜1429年)で救世主ジャンヌ・ダルクの登場(これは後世に大部分が創作されたもの)により勝利を収め、そこからフランスの快進撃が始まる
    ・英仏百年戦争は元々「フランス人」同士の争いであったが、戦争を経る中で、イングランドがイングランドとして、フランスがフランスとして、今日の国家に通じる形が誕生した
    ・現在では英仏百年戦争が生み出した国民国家そのものが過去の歴史になろうとしている

  • 2003-11-00

  • イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦った二大勢力はともに「フランス人」だったとは知りませんでした(汗)

  • 歴史は後から俯瞰してみると、最初から間違った意識のまま見誤ってしまうことが多い。今回もそうでした。

    歴史じゃないんだ。
    生きた人間が一人ひとり動いて、そこに出来た何かが残っていくんだという事が良く分かった一冊に。

    英仏百年戦争。
    フランス人のイングランド領主と、フランス人のフランス領主との戦いであったのが驚きでした。
    そもそも、フランス人という認識もこの時点ではないはずなので、この表現も間違ってますが。。。笑

    大きい意味では内紛 (領地の争い)
    中くらいの意味で一族の争い (家の争い)
    小さい意味で隣村との小競り合い (利権の争い)

    この100年程の期間に、その時々に起こった事実(領土問題や領主の交代や政略結婚や古いしきたりなど)を、その時その時で、時の領主が解決しようとした。

    その偶然の結果で、イギリスという国とフランスという国、「らしきもの」、が成立したんですね。

    シェークスピア。
    そのお陰?で、シェークスピアという才能が生まれ、生き生きとした物語としてみんなに愛される時代となった。
    何が何だか分からなくなる、ヘンリー何世だのシャルル何世だのが、なんとなく一人の人間として肉付けしてくれてて、ホントに有り難い。笑

    ジャンヌダルク。
    本来は当時すら使い捨てにされただけで、ほぼ同時代の文献にも出てこない、歴史にも埋もれるはずだったジャンヌダルクすらも、一時代のヒロインとして創作され語られるようになる。
    ナポレオンが政治的宣伝として忘れられていたジャンヌを発掘したらしい。

    まさに日本で言うと、坂本龍馬の様な、後世の都合で作られた英雄が、そこかしこに存在する。

    それが理解出来たので、急に身近に感じれました!

    しかし、やっぱりですが、政治はロマンではなく、現実や事実があるだけですね。笑

  • 何度も何度も挑戦しては挫折するのが、西洋史。
    百年戦争も薔薇戦争も、何冊も本を読んでいても全く頭に入ってこない。
    だって、イギリス人はヘンリーとエドワードとジョンばっかりだし、フランス人はルイとシャルルとフィリップばっかりなんだもの。
    誰が誰やら、ちんぷんかんぷん。

    それはこの本を読んでももちろん変わらず、ヘンリーとかアンリとかがたくさん出てきますが、でも、この本は一味違う。

    まず最初に書いているのが、イギリス人のシェイクスピア症候群。
    西洋史にあまり詳しくない日本人でも、劣勢だったフランスがジャンヌ・ダルクの登場で戦況を覆し勝利した、ことぐらいは知っていると思うけど、イギリス人にとっての百年戦争はイギリスの勝利が常識になっているのだそうだ。
    それは、イギリスの司馬遼太郎とも目される(?)シェイクスピアが、数々の戯曲でそのように書いているから。
    司馬史観ならぬ、シェイクスピア史観。

    “ちょこざいなシャルルが歴史にフランス王として罷り通るのは、イギリス自身の不幸な内乱(薔薇戦争)のせい”だとシェイクスピアはほのめかしている。らしい。

    でもって、シェイクスピアもびっくりなのが(しなかったかもしれないけど)、イングランド王って、イングランドの貴族たちって、みんなフランス人だったってこと。
    フランスの、フランスによる、フランス人のための戦争が、英仏百年戦争だった。

    そもそもフランスの王家と大貴族には、明確な格差がなかった。
    侵略や結婚などで領地が増えたり減ったりしているなかで、王家より力の強い貴族が現れることもあり、そうなると反逆だ内乱だということになってしまうのは、当たり前の流れ。

    その一つとして、フランスの貴族と、母方の遺産としてイングランドを領地として持つ貴族の娘が結婚したことにより、莫大な領土を治めるフランスの大貴族が出来上がる。
    彼らとフランス王家とのいざこざが、そもそものはじまりなのだ。
    つまりフランス貴族とフランス王家との争い。

    このころのフランスって、鎌倉幕府のような感じ。
    一応王様がいるけれど、分家や婚姻で関係が入り乱れて、一枚岩になれない。
    つねに謀反や裏切りの危険にさらされている。
    鎌倉幕府も、将軍や天皇はさておき、北条家がまさにそんな感じでずっとごたごたしていた。

    オルレアンの少女、ジャンヌ・ダルクは、ナポレオンが見出すまでは決してメジャーな存在ではなかった。
    これもまた、司馬遼太郎に見いだされるまで無名の若者だった坂本龍馬を思い出させる。

    歴史って、事実の上に主観の上塗りをされるから、洋の東西を問わず似たようなストーリーが出来上がってくるのかもしれない。

    シェイクスピアが書くヘンリー五世
    “父親との不仲ゆえに非行に走り、身分卑しき悪漢どもと徒党を組んで、不良少年の一頃をすごしながら、父親の死で王位につくや、とたん君主の鑑に生まれ変わると、シェークスピアは日本史における織田信長ばりの神話を紡いでいる。あるいは一連の描写に、王子を気さくな庶民派たらしめる作為を読み取るなら、むしろ「暴れん坊将軍」のようだというべきか。”

    史実なのか、物語なのか。
    それの見極めは、かなり難しい。
    それが常識とされてしまうと、もはや疑ってかかることすら至難の業だ。

    ところで。
    英語の単語の中には、フランス語由来のものが結構あるのだそうです。
    大陸の、文化の中心である大国のフランスの言葉は、田舎の島国であるイングランドの言葉よりも論理的だったり、抽象概念を表す言葉が豊富だったから。
    日常的な、単純な事柄は英語で表現できても、複雑な思考や公的な事柄を表すにはフランス語の力を借りなければならなかった。
    この辺は、中国語と日本語の関係を見るようでもあります。

    そして人名。
    英語名のヘンリーがフランス語名になるとアンリであるとか、英語名のジョンがフランス語名のジャンだとかは知っていたけど、フランス語名のギョームが、英語名だとウィリアムになるってのはどうよ!?
    ムしか合ってないじゃないの。

    しばらくしてまた西洋の本を読んだら、一から勉強しなくちゃならないくらいに忘れているんだろうなあ。
    でも、英仏百年戦争が、フランス人同士の戦争であったことは、もう忘れないと思う。

  • 本書を読んで、「英仏百年戦争」の込み入った事情と、中世の英仏両国の歴史の流れが理解できた。

    ノルマン・コンクゥエストは、フランスの有力領主がイギリスを植民地化した出来事だったこと、その為イングランドの支配階級は仏語を話し、大量の仏語が英語に借用されたこと、当時はまだ国家意識がなく、諸侯が半ば独立国を形成していたこと、「英仏百年戦争」は基本的にイングランドを征服したフランス領主とフランス国王の勢力争いだったこと、英語しか話さないヘンリー五世の代になってはじめてイングランド王がフランスを侵略する侵略戦争になったこと、女救世主ジャンヌ・ダルクの伝説はナポレオンが大々的に宣伝するまではローカルな逸話に過ぎなかったこと、「英仏百年戦争」を通じて英仏両国に国家意識(ナショナリズム)が生まれ、同時に中央集権的な国家組織が誕生したこと等々、とても興味深かった。

    語り口も軽妙で読みやすかった。

全93件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

佐藤 賢一(さとう けんいち)
1968年山形県鶴岡市生まれ。東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程単位取得満期退学、以降作家活動に専念。1993年『ジャガーになった男』で第6回小説すばる新人賞、1999年『王妃の離婚』で第121回直木賞、2014年『小説フランス革命』で第68回毎日出版文化賞特別賞をそれぞれ受賞。
作品はほかに『傭兵ピエール』『オクシタニア』『小説フランス革命』(以上、集英社)、『二人のガスコン』(講談社)、『双頭の鷲』(新潮社)、『黒い悪魔』『褐色の文豪』(文藝春秋)など多数。またノンフィクションに『ダルタニャンの生涯──史実の「三銃士」』(岩波新書)、『英仏百年戦争』(集英社新書)がある。

英仏百年戦争 (集英社新書)のその他の作品

佐藤賢一の作品

英仏百年戦争 (集英社新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする