英仏百年戦争 (集英社新書)

  • 集英社
3.79
  • (74)
  • (102)
  • (118)
  • (8)
  • (1)
本棚登録 : 949
感想 : 115
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202168

作品紹介・あらすじ

直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者が、錯綜する世界史上最大級の事件をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと誘う。これまであまり例のなかった、英仏百年戦争の本格的概説書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 昔世界史で習ったが登場人物が複雑すぎて漠然とした理解にとどまっていた英仏百年戦争。この本はわかりやすく整理されていて、この戦争によりヨーロッパの中世が終わったとされる理由がよくわかった。直木賞作家である著者・佐藤さんの筆がよい。

    当時イングランドとフランスという国はなかった。フランス語を話す「フランス人」同士の戦争であり、フランスの派閥争いという内紛の面もあり、これらが宗教的な価値観が最重要視される最後のフェーズで起きた。ジャンヌ・ダルクが生まれた背景もわかる。読む側が感情移入しようにも登場人物を突き放すような筆致もよい。

    備忘録をかねて百年戦争以外も含めて英仏の歴史を振り返る。
    ・フランスに定住したノルマン人らがイングランドを征服したノルマン・コンクエストが1066年。
    ・百年戦争は1337-1453年、この結果を受けてある意味双方はスッキリして、イングランドはブリテン島に籠り、フランスは欧州大陸の大国としての地位を確立する。
    ・ナポレオン戦争が1796年に始まり、大陸封鎖令などで英仏関係も緊迫化。英国が大勝したトラファルガーの戦いが1805年。
    ・2度の世界大戦を経験し、1944 年には今度は米英を中心とした連合国軍がノルマンディーに上陸しフランスを解放する。
    ・1973年にイギリスが欧州共同体(EC)に加盟。大陸との別の道を歩んできた外交を転換。
    ・ノルマン・コンクエストから950年後の2016年、イギリスが欧州連合(EU)離脱を国民投票で決定し、2021年1月1日に正式に離脱。

    英仏百年戦争を知ると、それ以外の事象もより鮮明り意味が浮かび上がって来るのが何とも言えず楽しい。

  • 個人的には王様の名前が同じすぎたり、ブルゴーニュとブルターニュがごっちゃになってしまってややこしかったりするが、本書にて11世紀から15世紀の英仏関係がよく分かる。我々は国民国家の概念が当たり前に刷り込まれているため、指摘されなければ想像できないが、英仏百年戦争の結果として両国のナショナリティが確立されたと考えれば腑に落ちる。時系列で見ると百年戦争が終結した頃にはすでに大航海時代が始まりつつあり、中央集権化の流れで議会制が残った英国が海洋覇権国家として台頭していく流れになる。外様の諸侯との折り合いや英仏の抗争が複雑に絡み合ってベネルスク3国の起源になっている点も興味深い。そして英仏百年戦争といえば悲劇のヒロイン=ジャンヌ・ダルクだが、ナポレオンが広報として宣伝して知られるようになったのは有名な話。

  • 14世紀の中頃、イギリスという国家が存在しなかった時代のイングランド王家は、フランスの政治文化圏に組み込まれていた・・・。フランスの王位継承権と大陸の領土覇権争いが発端となった「百年戦争(1337-1453)」は、イングランドVS.フランスのみならず中世ヨーロッパ諸国を巻き込む泥沼戦争となり、黒騎士の奮闘、ペスト(黒死病)の蔓延、農民の反乱、ジャンヌ・ダルクの栄光と悲劇を生んだ・・・。戦後、ド-ヴァ-海峡を挟んで、領土と国民を明確にした主権国家の形成が進むきっかけとなった西洋史最大の事件への入門手引き書。

  • フランスを舞台にした歴史小説を得意とする佐藤賢一氏による百年戦争の概説書である。

    百年戦争は、現代の主権国家体制に馴染んだ我々からすると、つい安直にフランスとイングランドが戦った戦争である、と思い込みがちである。
    そう思い込むと、大変分かりづらくなるのが百年戦争である。

    本書は、百年戦争以前にはいわゆる国家としてのフランス・イングランドは存在しなかったという前史を確認することから始まり、この百年の争いを通じてナショナリズムが芽生えていったとの結論で終える。
    元々、読みやすい文章を書く人だが、全体が上記のあらすじに支えられているため、茫漠としていた百年戦争の輪郭が読むほどに浮かび上がるようだ。

    読みやすさとそれなりに踏み込んだ歴史知識を盛り込んだ一般読者層向けの概説書を書かせたら一級品である。
    大変楽しく読めたし、この時代に関する理解が深まった。お勧め。

  • 英仏百年戦争というが、英国も仏国もなかった。フランス人同士の長い戦いの中で英と仏という国ができた。というお話。なるほど。世界史詳しくないので一つ理解できなかったのが、王とそれ以外の公や伯との違い。イギリス王だって元々ノルマンディ公ですよね。でも、王になるとフランス王と同格になる?他の領主に封を与える権利?これはどこから来てるの?ローマ法王?日本の戦国時代の将軍や天皇と各大名の関係とも違う気もするし。ここが理解できる本があったら教えて下さい。巻末に両王家の系図があるので確認しながら読むのをお勧めします。

  • いわゆる英仏百年戦争を前史・後史含めた全体を叙述した一冊。戦争を通して変容する国家観についての考察や、ジャンヌ・ダルクについての詳述など興味深い点が多い。前に読んだヴァロワ朝と記述がかぶる点も多いけれど面白かった。

  • また読みたいとは思わないかな

  • ヨーロッパ中世史を面白く読めるよう工夫された文章であるが、やはりこの時代のヨーロッパ史は複雑で、難解ではある。
    著者はこの時代を、英仏が国民国家として成立していく過程として重要なものであったと評価している。

  • 情報のポイントが絞られていて、概略として掴みやすかった。

    また、「英仏百年戦争」という現代的認識の誤解をかなり指摘していて、歴史を学ぶ醍醐味を味わえた。
    巻末に、「国民国家という軛」からの解放が近いのでは、という著者の考えにもとても共感した。というのも、ギリシャ史をまとめた本を読んだ時、「ギリシャ」という現代の地理的区分にこだわって叙述することの難しさや実態とのギャップを感じずにいられなかったからだ。これは、日本を含めどの地域でもそうだと思う。

  • [鹿大図書館・冊子体所蔵はコチラ]
    https://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA64475475

全115件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

佐藤賢一
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年「ジャガーになった男」で第6回小説すばる新人賞を受賞。98年東北大学大学院文学研究科を満期単位取得し、作家業に専念。99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を、14年『小説フランス革命』(集英社/全12巻)で第68回毎日出版文化賞特別賞を、2020年『ナポレオン』(集英社/全3巻)で第24回司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』『ハンニバル戦争』のローマ三部作、モハメド・アリの生涯を描いた『ファイト』(以上、中央公論新社)、『傭兵ピエール』『カルチェ・ラタン』(集英社)、『二人のガスコン』『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』『黒王妃』(講談社)、『黒い悪魔』『褐色の文豪』『象牙色の賢者』『ラ・ミッション』(文藝春秋)、『カポネ』『ペリー』(角川書店)、『女信長』(新潮社)、『かの名はポンパドール』(世界文化社)などがある。

「2023年 『チャンバラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤賢一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×