いちばん大事なこと ―養老教授の環境論 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202199

作品紹介・あらすじ

環境問題のむずかしさは、まず何が問題なのか、きちんと説明するのがむずかしいことにある。しかし、その重大性は、戦争、経済などとも比較にならない。百年後まで人類がまともに生き延びられるかどうかは、この問題への取り組みにかかっているとさえいえる。だからこそ、環境問題は最大の政治問題なのである。そもそも「人間社会」対「自然環境」という図式が、問題を見えにくくしてきたし、人間がなんとか自然をコントロールしようとして失敗をくりかえしてきたのが、環境問題の歴史だともいえる。本書は、環境省「二一世紀『環の国』づくり会議」の委員を務め、大の虫好きでもある著者による初めての本格的な環境論であり、自然という複雑なシステムとの上手な付き合い方を縦横に論じていく。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに養老先生の紙の本を読んだ。
    環境問題という漠然としたテーマに養老先生はどのように切り込むのかに興味があり、本書を読んだ。
    結論から言えば、本書は「森林破壊」や「大気汚染」などの環境問題の個々のテーマを扱ったものではない。それらを含んだ環境問題の全体を扱っている。違う言い方をすれば、環境問題を引き起こした「人間」、環境問題に対峙する「人間」がテーマである。
    まず、「環境問題がなぜ難しいか」から解きほぐす。環境はシステムであり、システムを断片的に切り取って情報化することに邁進してきたがゆえに、システムの全体像を掴むことができなくなっている。ゆえにシステムを上手く運用することも出来なくなりつつある現状だが、そこでは日本人が得意としていた「手入れ」の思想が役に立つ。日本人の自然への対峙の仕方は柔軟で、「手入れ」でシステムをより良く運用する知恵を昔の人は心得ていた。その思想は生活全般を支えるものであった。
    環境問題は都市化がもたらした。自然を破壊して成立するのが都市だからである。そしていまは脳化社会である。意識中心の社会である。コントロールが可能な人工物で溢れている。それは、コントロールできない自然や身体、子どもを否定するところで成立する。
    だから、環境問題は一人ひとりの考え方の問題に帰着する。しかも、すべての人に関わりがある。すべての人に関わる問題を政治問題と言う。
    養老先生は「環境問題は最大の政治問題である」という。すべての人に関わる環境問題を、政治問題の根本に据えるべきと解く。

    それにしても養老先生の本は学びが多い。本書も線を引きながら、付箋を貼りながら、思索しながら読んだ。養老先生の博覧強記に驚く。
    『利己的な遺伝子』のドーキンスをばっさり切り捨てたところは圧巻であった。
    養老先生の慧眼、洞察力にただただ驚く。

  • #図書館 (引用→解釈→行動)
    ①「なにもしないこと」の重要性→「する」ことではなく、「しない」ことを決めるべき→「本を読む」ではなく「スマホの時間を減らす」
    ②「システムは複雑」、教壇から教えると「ああすれば、こうなる」型になる→自然環境(システム)は因数分解しても完全に理解できない。部分最適が全体最悪になることがある→小さく変えつつ、視野を広く取り、影響を検証する。

  • あの”脳科学者”で知られる養老孟司氏が、環境論に関する著書を出されているとは、いささか驚いた。序論で御本人も「なぜ環境問題に口を出すのか」と部外者であるかのように謙遜されているが、環境省の諮問機関の委員もされているとのこと。さらに驚いたのは、「そもそも私は脳科学者なんかではない」と。「本業は虫取り?」とまで。
    内容は実に専門的だ。特に環境論の発端を歴史的に分析するあたりは、環境論に関する議論の根幹は何であるかということを考えさせられた。
    環境問題とは単に目の前にあることを解決するだけでなく、我々が(後世まで続く世界を鑑みて)どう生きるかを考えることだと思う。

  • 「歴史は起こったことの連続である。何かが起こらないようにするために日常的に払われている努力を無視している」

  • 「バカの壁」などで有名な養老孟司氏が環境問題を通して、なぜ環境問題が大切なのか、多様性の問題などについて語っている本。

    環境問題というと、自分はいわゆる環境原理主義的なものをイメージしてしまうが、世間的にはそうでないようで、環境問題は、環境省とか政府とかに任せておけばいい、自分には関係ないものと考える人が多いと著者はいう。
    著者は、その点について、
    ・そもそも環境問題はこのまま行けば人類の滅亡にもつながるのだから、経済とか紛争とかよりももっと大事な政治問題だ
    ・一般人がそういった考えだから、何気なく自然を壊してしまっているのではないか
    ・壊された自然による失われた生物多様性は、自然というシステムのなかでなにか重要な役割をなしていたのではないか。そのことにより、回り回って大変なことになるおそれがあるのではないか
    と警鐘を鳴らしている。
    なるほど、生物多様性の理論については考えさせられることも多く、個人として環境問題の大切さについて思いを深めた。

    なお、いつものとおりの口述筆記なのでしかたがないとは思うが、文章としてはいまいちまとまりに欠け、主張のつながりが飛躍したりするのでちょっと読みにくかった。

  • 「環境問題は政治問題である。」
     最初は意味がわからなかったが、読み進めていくうちに、なるほどそういうことかと納得させられた。システムを理解することの難しさ、現代の科学が秘めている問題点、進歩しているとばかり思っていた科学の世界が実は情報化という方向にのみ進歩していたという新たな気付きも発見することができた。
     しかし、私は都会から田舎に出てきた若者として思うのは、楽を知ってしまった都会人に田舎に強制的に住めというのもどうかと思う。もちろん、皆が環境問題を看る医者としての意識を個人個人が持つ必要があるのだろうが、現実問題としてそんなことが可能なのか。まだまだ考える余地が残されている問題ではないかと感じた。

  • 環境問題は最大の政治問題。西洋の人間対自然という考え方は絶対保護につながる。日本では里山に代表される手入れの自然観を持つ。
    中国の思想は、自然とつきあう老荘思想と世間とつきあう儒教(孔子、孟子)に分かれる。

  • 養老孟司という人は本当に頭の良い人なんだろうなあと思う。
    何と言うか、文体が「速い」。
    どんどん話題が進んで行って、それにぐいぐい引っ張られて、いつの間にか最初のゴールにたどり着いている。
    読み終わった後は、なんだかもの凄く頭が良くなった気がする。

    でも、たぶん読み終わった後に、
    「分かりました、養老先生。『ああすれば、こうなる』式の思考から脱却しなければならないんですね!」
    何て言おうものなら、
    「それこそが『ああすれば、こうなる』って言うんだ、馬鹿者!」
    って怒られそうだ。

    つくづく怖い本(人)だと思う(笑)。

  • この人のわかりやすさ、発想力はもの凄いです。でもユーモア溢れていて、楽しめます。まぁ読んで下さい、環境論です。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 20100803

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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