- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087202281
作品紹介・あらすじ
地震や洪水、火災などの災害に遭遇した時、身をまもるために素早く行動できる人間は驚くほど少ない。現代人は安全に慣れてしまった結果、知らず知らずのうちに危険に対して鈍感になり、予期せぬ事態に対処できなくなっている。来るべき大地震のみならず、テロや未知の感染症など、新しい災害との遭遇も予想される今世紀。本書では災害時の人間心理に焦点をあて、危険な状況下でとるべき避難行動について詳述する。
感想・レビュー・書評
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災害心理学者として、災害を洞察しており、タイトル以上の内容が含まれている。
災害とは何かを知り、社会が、個人が、災害に際してどのように反応するかを知ることが、災害を減ずることにつながる。
パニック神話の話が興味深かった。災害時に人々がパニックになるのは、実は限られたケースであり、むしろ災害=パニックという先入観により正確な情報を与えないことが、被害の拡大に繋がりうる。パニックにつながる要件を把握して、パニックを防止しつつ、適切に情報提供することが大事という話。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
プロローグ 古い「災害観」からの脱却を目指して/第1章 災害と人間/第2章 災害被害を左右するもの/第3章 危険の予知と災害被害の相関/第4章 「パニック」という神話/第5章 生きのびるための条件/第6章 災害現場で働く善意の力/第7章 復活への道筋/エピローグ 「天」と「人為」の挟間に生きる人間として
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人は災害時にパニックにならない、という前提をもとに、災害に備えた社会を説く。韓国の地下鉄事件の被害者の落ち着き払った様子や、9.11の世界貿易センタービルのテロ事件の際の人々の行動などからその前提を解説している。ただ、内容的には危機対応時の人間について語っているので、アマンダ・リプリーの『生き残る判断、生き残れない行動』なども参照した方が、タイトルの疑問については理解しやすいであろう。
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■避難勧告や避難指示が出された場合でもこれに従う人々は驚くほど少ない。これは日本だけのことではなくアメリカやヨーロッパでも同じ。
■災害の被害を避けるために避難の指示や命令などが発令されても避難する人々の割合が50%を超えることはほとんどない。安全に慣れてしまって危険を実感できないでいる。
■私たちの心は予期せぬ異常や危険に対してある程度鈍感にできている。常に移り行く外界の些細な変化にいちいち反応していたら神経が疲れ果てまっとうな日常生活が崩壊してしまう。心に遊びを持つことでエネルギーのロスと過度な緊張に陥る危険を防いでいる。ある範囲までの異常は,異常だと感じずに正常の範囲内のものとして処理するようになっている。このような心のメカニズムを「正常性バイアス」という。この「正常性バイアス」が身に迫る危険を危険としてとらえることを妨げてそれを回避するタイミングを奪ってしまうことがある。
■最終的に自分の身を守るのは自分自身であることをしっかりと自覚すること
■PTSDの主な症状
①過覚醒
・意識が過度にピリピリと敏感になっている状態
・いつ再びやってくるかもしれない同じ危険に対して常に身構える体制をとり続ける
・自己防衛機制が行き過ぎて働く結果
②侵入
・外傷を受けた瞬間の情景を目覚めているときにはあたかも実際に今起こっているかのようにありありとフラッシュバックの形で再現して想起する
・眠っているときには外傷性悪夢として繰り返し繰り返し仮想体験する
・外傷性記憶が繰り返し意識の中に執拗に「侵入」してくるので日常生活は混乱して家族や親しい友人との間でも満足な心の交流やコミュニケーションが取れなくなってしまう
③狭窄
・不快感をもよおす脅威に満ちた恐ろしいものは決して見たくない。私たちは見たくないものを見ないようにするために無意識に自分の興味や関心をより狭い範囲に制限しようとする。そして極端な場合には自分自身や家族の生活への関心,それまでの生活においてエネルギーの大半を注ぎ込んでいた仕事や趣味への情熱などをまったく失ってしまうことがある。災害や事故で自分自身が経験した危機的な状況を再び思い出させるような場面に直面したくないという心理がこの狭窄の症状をもたらす。
■避難行動のメカニズム
・避難行動とは個人や家族のような集団が脅威や破壊にさらされたときに,その事態を回避するための移動行動。避難行動は単純に見えてなかなか複雑な要素を抱えている。
・避難行動の特徴は個人の単独な行動というよりは集団的な行動という点にある。避難行動はそのメカニズムを見るとそれをともに行う個人の間では相互作用的であり,複合的であるため様々な要因がこれに関与して避難行動を促進したり遅延したり,場合によると中止したりする。
・また,多くの場合,移動は一時的なもので危険が去った後には再び元の場所へ戻ってくるが,時には移動した場所で定住したり,そこから更に別な場所へと移動を重ねることもある。そのような各段階に,個人や集団の意思決定のプロセスが介在している。
・避難行動は,まず危険を知らせる情報が伝えられるところから始まる。この情報にはマスメディアからの災害情報の伝達の場合もあるし,市町村による防災行政無線のスピーカーや,消防や警察の車両からの避難勧告や指示の伝達の場合もある。いずれにしても我が身に降りかかる危険が現実にあることを実感しなければならない。
・だが,仮に危険を感じたからといって直ちに避難行動を始めるわけではない。その次は危険の大きさを評価する段階がくる。中には危険を過大にとらえる人々もいるが,一般には,危険は実際よりも過少に評価される傾向がある。そのために多くの災害では避難勧告や避難指示が出されてもそれに従って避難する人々は少ない。
・最後に考慮すべき事柄は,果たして避難するに際して何か重大な障害があるかどうかということ。例えば避難の途中に大きな危険がないか。避難所は十分に準備されているか。避難所までの距離はどうかなど。さらに,様々なことが思案される。その結果,避難しないよりも避難した方がより安全だと思える時に公的な非難の指示や自分自身の判断に従っての避難行動が開始される。
・避難行動を行う人々の割合が一般に低いのは,避難には大小様々なコストがかかるという理由によるものである。
■人々は警報を受け取っても自分たちに危険が迫っていることをなかなか信じようとはしない。
・警報のメッセージに少しでも曖昧なところや矛盾したところがあったりすると警報の信頼性に対して疑いの目を向ける傾向がある。
・正常性バイアスという私たちの心に内蔵されている機能は元々は私たちが過度に何かを恐れたり不安にならないために働いているはずであるが,時にこの機能は私たちをリスクに対して鈍感にするというマイナスの役割を果たす。 -
(2012.06.28読了)(2012.06.22借入)
【東日本大震災関連・その95】
この本は、2011年の東日本大震災よりだいぶ前に書かれた本なので、地震や津波に特化して書かれた本ではありません。そういう意味では、地震や津波について知りたかった人には、物足りない面があるかと思います。
そういう向きには、東日本大震災後に出版されたものの方がいいでしょう。
【目次】
プロローグ 古い「災害観」からの脱却を目指して
第1章 災害と人間
第2章 災害被害を左右するもの
第3章 危険の予知と災害被害の相関
第4章 「パニック」という神話
第5章 生きのびるための条件
第6章 災害現場で働く善意の力
第7章 復活への道筋
エピローグ 「天」と「人為」の狭間に生きる人間として
参考文献
●異常や危険に鈍感(11頁)
私たちの心は、予期せぬ異常や危険に対して、ある程度、鈍感にできているのだ。
ある範囲までの異常は、異常だと感じずに、正常の範囲内のものとして処理するようになっているのである。このような心のメカニズムを、〝正常性バイアス〟という。
災害心理学の観点からすると、人間はなかなか動こうとしない動物なのである。
●パニックにならない(14頁)
地震や火事に巻き込まれても、多くの人びとはパニックにならない。
異常行動としてのパニックは、多くの災害や事故ではあまり起こらないのである。
●津波の経験(77頁)
津波を経験したことのない地域を津波が襲った場合には、大きな悲劇が待っている。地震のあとには津波の危険があることをイメージできない人々は、避難しようとしない。
●危険の過小評価(84頁)
かりに危険を感じたからといって、直ちに避難行動を始めるわけではない。その次には、危険の大きさを評価する段階がくるのである。なかには危険を過大にとらえる人びともいるが、一般には、危険は、実際よりも過小に評価される傾向がある。そのために、多くの災害では、避難勧告や避難指示が出されても、それに従って避難する人びとは少ない。
●幼い子供と老人(89頁)
幼い子供がいる家族では、避難行動は早めに始まる傾向があり、老人や病人のいる家族では遅れる傾向がある。このため、後者への支援がより重要になる。
●パニックを恐れるあまり(130頁)
パニックを恐れるあまり、危険の大きさを緩和して伝えたため、事の重大さが伝わらず、そのために、多くの人びとの死傷を避けることができなかった。
●パニック発生の条件(140頁)
第一の条件は、緊迫した状況に置かれているという意識が、人びとの間に共有されていて、多くの人びとが、差し迫った脅威を感じている、ということである。
第二の条件は、危険をのがれる方法がある、と信じられることだ。
第三の条件は、脱出は可能だという思いはあるが、安全は、保障されていない、という強い不安感があることだ。
第四の条件は、人びとの間で相互のコミュニケーションが、正常には成り立たなくなってしまうことである。
●パニックを防ぐには(146頁)
パニックによる死傷者を出さないためには、すでに述べた四つの条件のうちの、いくつかが成り立たないようにすればよい。
●サバイバー(153頁)
生存者を、災害を生きのびたサバイバーととらえるか、被災者ととらえるかの違いは、あたかもグラスにビールが半分ほどになった時に、まだ半分あると考えるか、もう半分しかないと考えるかのちがいに似て、生存者の人生に、生き方の上で大きな差異を生み出す。
●老齢者ほどきつい(155頁)
災害は、被災した人々の生活環境を激変させるが、激変した環境に適応できる人々と、適応できない人々を、選別して分離する。阪神大震災を見ても、関連死を含めた死者全体の半数以上が60歳以上の人びとで、この震災は老人の災害という側面を持っている。震災後の経済的・社会的ストレスも老齢者ほど重いのである。
●生き残りの条件(171頁)
生きたいと強く希望することは、生き残りのための十分条件ではない。生きたいと強く願えば、必ず生き残れるというものではない。けれども、生きたいと欲し、決して諦めないことは、生き残りのための必要条件である。
●被害の不平等(191頁)
広島で被爆して生き残った人々の中に、「もう一度ピカが落ちて、みなが同じようになればよい……」と語った人がいる。
●関東大震災後(200頁)
1923年の関東大震災以前の東京は、政治や文化の中心ではあったが、経済や商業に関しては、大阪の実力は、東京とほぼ肩を並べていたのである。しかし、震災復興の過程で、東京の都市機能が格段に整備されたために、復興後の東京は、文字通り日本における政治・経済・文化の中枢として発展することになった。
(2012年7月4日・記) -
タイトルは「なぜ逃げおくれるのか」であるが、その原因について洞察しているというよりは、災害全般について、筆者の考えが整理されている。
パニックとはギリシャ神話に出てくる半獣神「パン」が由来だというのは初耳であったし、災害ではパニックは簡単に起こらないということも主張している。
また、日本では災害で生き残った人達を「被災者」と呼ぶが、実は「サバイバー」なのだという見方は斬新である。 -
タイトルと内容が噛み合ってなくてストレス
ようやく読み終えた
実際の災害が多数挙げられているが、人はなぜ逃げ遅れるか?という問いに対する結論を導くために事例を挙げているというのではなく、ただ列挙されているだけに感じた 散漫な印象 -
竹内薫・科学ブックガイドから。非常時、パニックにならないのが危ないっていうの、目から鱗だった。言われてみればその通り。自分のことを振り返ってみても、思い当たることがあって冷や汗もの。話題は感染症にまで及び、かなり前の出版ながら、内容はかなりタイムリー。常日頃から色んな可能性に思いを馳せ、より確実な準備を整えていくことが肝要。当たり前のことなんですけどね。