希望のがん治療 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202618

作品紹介・あらすじ

医者が見放した末期のがんから見事に生還した人たちが、少なからずいる。それも現代の三大療法である手術、抗がん剤、放射線だけにたよらずに。早期発見、早期治療でなくてもがんは治るのである。本書は、実際にがんが治った大勢の人たちへの取材を通じて、現代医療のもつ限界と、人間の自然治癒力を基本とし、免疫学の新しい知見に裏づけられた代替療法の有効性、可能性を浮き彫りにしていく。"がんは治る""がんは自分で治せる"病気であることを実例によって紹介する希望の書である。

感想・レビュー・書評

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  • 「べてるまつり」に出かけた浦河では、『治りませんように―べてるの家のいま』の著者・斉藤さんの「いきだおれ荘」に泊めてもらった。

    滞在中の食費などを払ったら、斉藤さんがどれでも本を一冊どうぞとおっしゃるので、本棚にたくさんあった『希望のがん治療』をいただいた。帰りのヒコーキの待ち時間に半分くらい読んで、大阪へ帰り着いてから読んでしまった。

    「がん」というと、10年前に同居人が入院して手術した骨の腫瘍のことや(骨の腫瘍は、厳密には「がん」とはよばないらしいが)、亡くなったi先生のがんのことを思う。近いところでも、伯母さんのがん、伯父さんのがん、同居人の母上のがん、友人知人のがんなど、見聞きしている例はたくさんあるし、私自身も10年ちょっと前に小さいポリープをとって(今となっては、この切除手術はすぐしなくてもよかったよなあと思う)、その後もたまにがん検診をやられては「細胞の顔つきがちょっと…」てなことを言われていた。

    同居人の骨の腫瘍が「悪性のようだ」と言われたときに病院で聞いたのは「悪性=ほっといたら死ぬ」、「良性=ほっといても死なない」というのが医学的な定義だということだった。手術やら再発で生活が不自由になるとしても(生活の質Quality of Lifeが下がるとしても)それで死なないのは「良性」で、一般的にいう「良性/悪性」とはちょっと違います、とも聞いた。

    人間みんな死んでいくけれど、そう遠くないうちに死ぬかもしれへんのか…と、あのときは思った。

    1クールだけ抗がん剤も使ってみたものの、「腫瘍に全く効いていません、良性か、あるいは抗がん剤の効かない悪性か」とのことで(生体にはばっちり効いて、身体はよれよれ、頭はツルツルになっていた)、それから手術までは「悪性」という前提でいろいろなことが進められたが、手術をしたあとも診断がなかなかつかず、「良性のような悪性」「悪性のような良性」と、ウケねらいか!どっちやねん?状態だった。

    このときの経験でつくづく思ったのは、病気の分類は人間が線引きしてるんやなあということだった。同居人の症例は、担当医に言わせれば「これまでの自分たちの認識を書き換えるもの、線を引き直すもの」だったそうだ。

    『希望のがん治療』は、「早期発見、早期治療でなくても、がんは治る」(p.8)ということについて、多くのがん患者に会い、がんを退縮させ、完治させたというその人たちの経験を取材して書いている。かならずしも早期とはいえない状態のがんと診断されてから、手術や抗がん剤、放射線といった三大療法に頼るだけでなく、現代医学の枠をこえた治療法、いわゆる代替療法を探し求めてきた人がほとんどだという。

    斉藤さん自身、「がんは治る」という話を、マユツバだと思い、なにか新手の金儲けではないかと疑いながら聞いてきた。最初は信じられなかった、しかし多くの患者が自分の知恵と力でがんを生きのびてきた話を聞きながら、何度も旧来の思考をくつがえされた、と書いている。

    がん、といえば、早く手を打たないと手遅れになる、ほっておいたら遠からず死に至る病だと思われている。私も、年寄りのがんはともかく、50代くらいまでの若いうちのがんはヤバイとずっと思っていた。

    この本を読んでいって、そうではないのかもしれへんと思った。がんと診断されて生きのびてきた人たちの体験談とともに、七章で紹介されている安保免疫学の話には、なるほどなあと思えた。歴史でもなんでも、常識が書き換えられるときはままあるのやし。

    斉藤さんが第一にあげる「がんとの向き合い方」

    ▼一、まず立ちどまって考える
     がんだとわかると、現代医療は三大療法(※抗がん剤、手術、放射線)を、それもできるだけ早く受けるようにと勧めるだろう。よほどの緊急時をのぞき、患者たるものここで立ちどまらなければならない。最初の診断で医者に言われるままに即手術、というのはあまりに芸がない。とりあえずセカンド・オピニオンを求めよう。あるいは、そういって時間をかせぎながら、ひとまず自分のおかれた状況を冷静に考える努力をしてみる。すぐ治療を受けなければ死んでしまうといわれたら、治療を受けたからといって、かならずしもうまくいくわけではないことを思いおこし、だからこそどうすればいいかを考えるのだと、自らにいい聞かせよう。(p.224)

    この本を読みながら、「がん」も難病の一種だと言われるけれど、その他の難病、原因不明で治療法が確立していないという病気にも、こういう「がんとの向き合い方」はある程度効くんかなあ、どうなんかなと思った。斉藤さんは向き合い方の第三に「必要に応じて現代医療でも代替医療でもなんでも使いながら、しかし最後に治すのは自分だ」と書いている。

    病は気からというのはたしかにあると思うし、治すんやという気概はあったほうがいいと思う。母の罹った神経難病も、そういう気概で、少しは好転することがあるのか、さすがに難しいのかと、そんなことも思いながら読んだ。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。1947年生まれ。慶應義塾大学卒業後、TBSテレビ報道局の記者、ディレクター、プロデューサー、解説者として取材、番組制作に従事。ワシントン支局時代に、ろう者の世界と出会う。2008年開校時から明晴学園校長を務める。著書に『原爆神話の50年』(中公新書1995年)、『もうひとつの手話』(晶文社1999年)、『悩む力-べてる家の人びと』(みすず書房2002年、第24回講談社ノンフィクション賞受賞)『希望のがん治療』(集英社新書2004年)『治りませんように-べてるの家のいま』(みすず書房2010年)などがある。

「2010年 『きみはきみだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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