新人生論ノート (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202809

作品紹介・あらすじ

戦後六十年にわたって、ハイデガーをはじめとする西欧の哲学や思想に向き合ってきた、哲学者木田元。本書は、著者が培ってきた思想のエッセンスをわかりやすく開陳した、ユーモアと機智に富んだ一冊である。故郷、記憶、運命、笑い、人生行路の諸段階、死、理性、性格、読者、自然、戦争体験、遊び、そして時間-。人生にまつわる十三のテーマは、現代日本屈指の哲学者の目にどう映ったのか。古今東西の古典から、時にはテレビドラマや流行歌の一節までを交えて軽やかに語った、味わい深い人生の書。

感想・レビュー・書評

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  • 16日に逝去した、ハイデッカーの哲学研究の第一人者木田元氏を偲び、本棚にあった本書を9年ぶりに再読。
    ハイデッカー研究の専門たる「時間」についての章はけっこう難解であるが、その他は、初出が集英社のPR誌であることもあってか、氏の哲学者らしくない素顔が出ていて、割と読みやすかった。
    氏が、以前急性膵炎で病院に担ぎ込まれ、これで死ぬんだなと思ったとき考えたことの一つは、男性デュオ「ふきのとう」の歌った「白い冬」を覚えないでしまったな、ということらしい。いまわの際になんていうことを考えるのだろうと、あとからあきれているそうだが、今回の死に際しては、氏は何を思っていただろうか。

  • 「哲学は難しい」や「哲学者は小難しい」といったイメージを払拭してくれるのが木田元のエッセイだ。氏のエッセイはこれまでにも読んだことがあった。偉ぶらない氏の文体が好きだ。
    本書のタイトルは三木清『人生論ノート』から来ており、テーマは多岐に渡る。哲学の知識と自身の経験を織り交ぜて編み上げるエッセイは読者の知性を刺激する。特に西洋哲学に対する懐疑の一端が示されたところは、目から鱗が落ちる思いがした。
    デカルトの言う理性は神の理性の「のれん分け」であって、キリスト教的宗教観がもとになっている。古代ギリシア時代にキリスト教はなかったが、(というよりキリスト教が古代ギリシア哲学をもとに構築されるが)プラトンのイデア論でさえ超自然的な概念である。
    超自然的なイデアや神からスタートする西洋哲学が日本人にすんなり飲み込めるわけがあるまい。そして、西洋哲学だけが哲学ではない。木田元の「反哲学」とは「反西洋哲学」という意味なのかしらと想像するが、それが合っているかどうかは氏の著作を読んで確かめたい。

  • 木田元は戦後の混乱期、海軍兵学校を卒業してもいく場がなく、父も大陸から引き上げて来ず、闇屋で危険な綱渡りをしながら生きてきたのは有名な話だ。本書のなかで、戦後のその時期によく笑っていたと木田は述懐する。
    第四章「笑いについて」の中で、ベルクソンの「社会的矯正としての笑い」や、スタンダールの「優越感にもとづく笑い」を挙げた後、戦後のあの時期の笑いを最もぴったりと言い表しているのが、それらのどれでもなく、坂口安吾の言う笑いだと木田は語る。
    「道化は昨日は笑ってはいない。そうして、明日は笑っていない。一秒さきも一秒あとも、もう笑っていないが、道化芝居のあいだだけは、笑いのほかには何物もない」そう安吾が言うように、「その場での超越」を笑いがもたらしていたと。

    戦後のあのころ、私は笑いころげることによって、どこに逃げ出せるわけではないが、悲惨な現実にとりこまれて窒息するのをまぬがれようと、必死になって「その場での超越」を試みていたような気がするのだ。(p.66)

    闇屋になったり、ホームレスに近い暮らしをして、「いざとなれば自分がどんなことを考え、どの程度のことまでできるか見きわめがついたので、いまさら気どってみてもはじまらない」(p.70)という、自分自身に対するペシミズムが根にあって、それだからこそ、あの時期笑わずにはいられなかったし、現在も周囲に対してオプティミストでいられると木田は言う。

  • 第4.5.8.9.13章は興味深い内容だった。読み返すたびに新たな発見がありそうな本なので、また読み返したい。

  • 著者の木田元氏(1928~2014年)は、メルロ=ポンティ、フッサール、ハイデガー等の仏独の現代思想家の研究・翻訳で知られる哲学者。
    本書は、題名の通り、昭和初期の哲学者・三木清のベストセラー『人生論ノート』を念頭に置いて始まった、集英社のPR誌「青春と読書」における連載15篇(2003~2004年)をまとめ、2005年に発刊されたものである。
    取り上げられているのは、故郷、記憶、運命、笑い、人生行路の諸段階、死、理性、性格、読書、自然、戦争体験、遊び、時間の13のテーマと、終章「それぞれの秋」であるが、哲学者らしく、ハイデガー、ベルクソン、スピノザ、カント、ヘーゲル、キルケゴール、ニーチェ、ソクラテス、プラトン、孔子、サルトル、デカルト、メルロ=ポンティ、フッサールらの古今の思想を縦横に引用しつつ、自己の体験を交えた人生論となっている。
    性格について~「なにかを好きになる能力、なにかに夢中になれる能力をつちかう必要がある。なにかを好きになるというのは、訓練して養わねばならない一つの能力なのである。・・・人が押しつけてくる性格なんてものにわずらわされずに、本当に好きになれるもの、本当に夢中になれるものを探すがいい。そうすれば、人生をいまよりももっと深く豊かに生きることができるようになる」
    読書について~「詩や小説を読むということは、深く感じる力をもった人の書いた作品を読むことによって、その感じ方を追体験し、自分の感じる力を鍛えることではないかと、私は思っている。それには、やはり最初の一行から最後の一行まで読み通さなければならない・・・私たちは日常の暮らしのなかでは、喜びであれ悲しみであれ、よくよく浅いところでしか感じていないものである。振幅のせまい感情生活しか送っていないのだ。・・・上っつらだけの感情生活しか送らないか、深く感じながら生きるかでは、同じ時間を生きても、その深さに大きな違いがあると思う」
    また、著者は随所にユーモアを交えて語っており、「死について」では、自身が50歳になった直後に病院に担ぎ込まれ、「自分は間違いなくこれで死ぬんだな」と思ったときに考えていたのは、当時好きだったフォークソングを覚えないでしまったということだったと、「自分でもあきれてしまった」と振り返っているが、2014年に85歳で亡くなった著者は、そのときどんなことを考えていたのだろうか。。。
    (2005年2月了)

  • 2014.12
    先日、お亡くなりになったことがきっかけで手に取った。木田さんのお茶目な人柄に惹かれた。

  • ハイデガーやメルロ=ポンティの研究で知られる著者が、「故郷」「運命」「性格」といった人生の機微に関わるテーマや、「記憶」「理性」「自然」といった哲学の問題など、13の主題について、自由に語ったエッセイです。

    哲学だけでなく、読書や音楽にも旺盛な好奇心を寄せる著者のポジティヴな姿勢がストレートに伝わってきます。

  • 洞察が鋭い。

  • 20120320Amazonマーケットプレイス

  • [ 内容 ]
    戦後六十年にわたって、ハイデガーをはじめとする西欧の哲学や思想に向き合ってきた、哲学者木田元。
    本書は、著者が培ってきた思想のエッセンスをわかりやすく開陳した、ユーモアと機智に富んだ一冊である。
    故郷、記憶、運命、笑い、人生行路の諸段階、死、理性、性格、読者、自然、戦争体験、遊び、そして時間―。
    人生にまつわる十三のテーマは、現代日本屈指の哲学者の目にどう映ったのか。
    古今東西の古典から、時にはテレビドラマや流行歌の一節までを交えて軽やかに語った、味わい深い人生の書。

    [ 目次 ]
    三木清と『人生論ノート』について
    故郷について
    記憶について
    運命について
    笑いについて
    人生行路の諸段階について
    死について
    理性について
    性格について
    読書について
    自然について
    戦争体験について
    遊びについて
    時間について
    それぞれの秋

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著者プロフィール

中央大学文学部教授

「1993年 『哲学の探求』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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