終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202977

作品紹介・あらすじ

1999年のNATO軍の空爆により、コソボ紛争は公式には「終結」したことになっている。しかし現地では、セルビア系の民間人が三〇〇〇人規模で行方不明になるなど、空爆前とは違った形で「民族浄化」が続き、住民たちは想像を絶する人権侵害の危機にさらされている。また、空爆による劣化ウラン弾の被害は甚大で、すべての回収には一〇〇年を要するという。本書は、空爆終了後六年間にわたって現地に通い続けた唯一のジャーナリストが、九・一一やイラク戦争の開始以降ほとんど報道が途絶えてしまったセルビア・モンテネグロの現状を告発した、渾身のルポルタージュである。

感想・レビュー・書評

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  • ユーゴスラビア解体後の”セルビア・モンテネグロ”の戦慄する現状がレポートされている一冊。
    著者が直接現地に赴き、取材を重ねて、その現状を赤裸々に綴っている。

    セルビア人が他民族を「民族浄化」したことは間違いない、しかしその”逆”が現在行われているのが現実。。。
    「暴力」は絶対悪なのに、”される”側と”する”側が入れ替わりそれが消滅しない現実、思考を破壊する”憎悪”、、、。

    どうすれば解決できるのか...!
    解決には長い”時間経過”を待つしかないのか。。。
    答えが出てこず、今も考えているっ。

  • 「ユーゴスラビア現代史」を読んで、そういえば昔ストイコビッチの本を読んだあとに関連本を買ったな!と本棚を探したらありました。まだ歴史的背景がキチンと頭に入っていなくて、少々ついて行くのに苦労しましたが、忌まわしい「民族浄化」のことを少しだけ理解できたように思います。

  • 現場からの取材から伝わってくる民族紛争の悲惨さ、やるせなさが痛々しい。冒頭は読み続けるのも辛い事実が続く、恨みの連鎖には言葉がない。

  • 分かりやすいことはいいことだけれど。
    どうにもジャーナリストってのは…。

    この本だけでやめたらだめだ。
    それだけ。

  • NATOによるコソボの空爆は正しかったのか?セルビアが虐殺をしているからと空爆をしたが、果たしてその事実はあったのか?

    今でこそ、セルビア悪玉論が意図的な情報操作によって宣伝されていたことが、それを扱った米国の広告代理店の存在などから明らかになり、残虐行為があったのは決してこの勢力によるものだけでないことがよく知られてきた。

    国連無視、劣化ウラン弾の使用、意図的な誤爆、対立する過激派勢力への武器しようと軍事指導。

    「当時、我々もあらゆる情報を収集して日本外務省にユーゴ空爆の不当性を報告していたんです。しかし本省からは梨の礫。痺れを切らして打電したら‥‥」
    こう返信が来たという。
    「空爆が不当かどうかなど問題ではない。大切なのは日米安保なのだ」

  • あくまで現地取材にこだわった筆者のルポ。
    他民族国家の旧ユーゴとしてまとまっていた国が、あっという間にここまで分裂、崩壊してしまうとは...。民族の違いとは何なのかすら今ひとつ実感として刷り込まれていない自分のような日本人には、本質的に理解してない(出来てない)部分があるような気もする。

  • 旧ユーゴスラビアの国々への思い入れが深い作者によるドキュメタリー。
    セルビアとマケドニアの対立を主軸に描かれる。
    拉致や虐殺、そこにかかわってくるアメリカ。
    何度も現地に脚を運び、つぶさに現状をルポタージュしている。なので各国の現在のありようがまざまざと浮かび上がる。貧しさや苦しみが。
    もともとは民族融和が謳われていた国々で、他民族婚も多く行われていた国々で、近所同士がいがみ合い、騙しあい、果ては殺し合い...
    そんな報復の連鎖を、国単位、団体単位、そして家族単位にまでインタビューをして描いている。
    ジャーナリズムとは、ルポタージュとはかくあるべし。
    その中で、劣化ウラン弾についての記述が心に残った。
    原発などでゴミとして生じるのが劣化ウラン。もちろんこれも放射性物質である。そしてこれを爆弾にしたのが劣化ウラン弾。金属の硬度が高いため、良質な爆弾となる。しかし、もちろん打ち込んだ先に待っているのは被爆である。
    半ば合理的に放射性物質を爆弾として処理するアメリカ。それを打ち込んだ先のセルビアで起こる被爆。ババ抜きのババのように、弱いものにまわされていく・・・

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    文庫&新書百冊(立花隆選)153
    ユニークな視点で読み解く世界史

  • 数年前、ボスニアヘルツェゴヴィナを旅した。ヴィシェグラードという国境付近の街を目指して、スルプスカ側(セルビア人共和国側)に入ったとたん、旅行者の目にも何となく貧しさが感じられた。そういうものの背景に何があるのか、どういう事態が引き起こされていて、それに対しひとりひとりどんな気持ちでいるのか、じっくり考えることが出来るルポだった。

  • 1999年のコソボ空爆以来、西側には終わっていると報道されている現地の状況報告。何年も現地で丹念に取材した、ルポタージュ、報道(ジャーナリズム)とは、このようなことに原点があるのだと思う。

    アカデミズムとは一線をおいた現地の現状であるので、その評価は読者やそれを読んだ人にゆだねられていると思う。

    近親憎悪という形や、恐怖が次々と惨劇を生んで行くことなど、人間の業の深さを感じてしまった本だった。巻末の東大の柴教授との対談もよかったと思う。

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著者プロフィール

1962年愛知県生まれ。中央大学卒。ノンフィクションライター。東欧やアジアの民族問題を中心に取材、執筆活動を続ける。おもな著書に『オシムの言葉』(集英社文庫)、『蹴る群れ』(集英社文庫)、『無冠、されど至強 東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代』(ころから)、共著に『さらば、ヘイト本!』(ころから)など。

「2019年 『13坪の本屋の奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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