姜尚中の政治学入門 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087203301

作品紹介・あらすじ

湾岸戦争以後、時代の重大局面に際し、さまざまなメディアで精力的に発言してきた「行動する政治学者」が、その揺るぎない思考を支える歴史観と、政治理論のエッセンスを、コンパクトな一冊にまとめました。アメリカ、暴力、主権、憲法、戦後民主主義、歴史認識、東北アジアという七つのキーワードを取りあげ、現代日本とそれが関わる世界の現状をやさしく読み解いた本書は、五五年体制の成立以来、半世紀ぶりの構造変化にさらされる社会の混迷を、正確に見据える視点を養ってくれます。未来への構想力を提言する、著者初のアクチュアルな入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 書名に注意すべきですが、本書は「姜尚中の政治学」の入門書です。この様な類の書名には誤解が付き物ですが、単なる「〇〇学の入門書」ではなく、「著者の思う〇〇学の入門書」ですので、留意が必要です。つまり、本書は様々な「古典」や過去の研究者の言説を引きながら、著者の考える政治学を点と点を線で結ぶ様に描き出した「作品」であると言えます。
    さて、本書は10年以上前に書かれたものではありますが、取り上げられている7つのキーワードの中「アメリカ」、「暴力」、「主権」、「憲法」、「戦後民主主義」、「歴史認識」については、現在においても本書に述べられている様な主題を克服できていないものと感じました。むしろ、問題が深刻化したものもあると言えるでしょう。今本書を書き直すとすれば、暴力としてのテロリズムや、アメリカのヘゲモニー終焉についてもう少しページが割かれることになるのでしょうか。
    日本については、著者は「「戦後70年」という言い方はなくなっているでしょう。」と予言して見せていましたが、これは外れましたね。しかしながら、安倍政権が憲法改正に執着し、さらには安保法制やら特定秘密保護法、組織的犯罪処罰法(共謀罪)の成立を目の当たりにすると、姜尚中氏の指摘する「七十年周期の国家形成にまつわる反復のリズム」が的外れであるとは断言できず、むしろ戦後70年経った今が、「戦後という時代区分」の終焉に当たるのかもしれないと意識させられます。
    なお、最終章の「東北アジア」なる地域圏について言えば、AIIBなる機関の発足はあれど、「東アジア共同体」の構想については行き詰まりを感じざるを得ません。安倍政権の慰安婦合意を持ってしてもなお、日韓両国の歴史認識の溝は埋まらず、北朝鮮の核開発や対米強行姿勢は依然として続き、日本とロシア・中国との対話に進展があるとは言えない状況です。本書中では、「東北アジアの地域構想」が挫折した場合、「大規模な戦闘へと一気に繋がる危険性もあるのです。」と言った様に述べられていますが、今まさにその危険性が意識される自体となりました。ここにおいて、著者が「さらに日本は、安全保障の面からも、ますます日米関係偏重になっていかざるをえないでしょう。」と述べていたまさにその通りの事が起きていると言えます。日本共産党などはいまだに本書に述べられる様な「東アジア共同体」構想にかけていますが、現状では難しいでしょう。
    と、この様に今にも通じる諸問題が取り上げられている本書ですが、問題提起としては優れているものの解決策や結論に乏しい印象でした。その歯がゆさこそが、あとがきで言う所の「干物」の知に焦点を当てた結果だと言われればそれまでですが、それにしても物足りないと感じます。また、本書の立ち位置が、「政治学入門」なのか、「姜尚中の政治学」なのかを著者自身が決めかねたまま書かれている様な印象を受けました。その結果、どちらの視点で読んでも中途半端に感じました。以上の点、非常に惜しい本だと思いました。

  • 恥ずかしながら政治学というものにあまり目を向けたことがなかった。「政治」にしろ「政治学」にしろ「政治思想」にしろ大変新鮮なものとして受け止められた。この本に上げられていた著書くらいには目を通し、少しは教養を身につけようと言う気になった。しかし、政治学という学問はモデルとしてやたらに変数が多く物事を単純化することが難しくよほど強靭な頭脳を持っているかカンがするどいかでなければ、すぐ話がこんがらがってしまう。その変数の中にはもちろん人間の感情も含まれているのでなおさら厄介だ。しかし、今日政治学の遡上に上っている諸問題には真っ正面から取り組んでおかないといずれ何らかの形でツケがまわってくるのだろう。これから日本人もいろんな意味で大人にならんといかんだろうな。(私もその一人ですが。)

    **アメリカ
    やはりアメリカの成り立ちや思想のながれはおさえておくべきだなと。
    **暴力
    経済学では全てが金だが、政治学では暴力は強力なファクターとなりうるのか。
    **主権
    やはりホッブズくらい読んどかんと。
    **憲法
    権力を縛り政府の行動を制限するために憲法がつくられるんだということは、遅ればせながら近年知った。その憲法に国民の義務も入れようという議論はやはりおかしいということはもっと世の中で語られなければならないことだ。
    **戦後民主主義
    著者は、戦後のいわゆる天皇の人間宣言にかなり戦略的意味を認めているようだ。だとしたら戦前も戦後もだれかがずっとハンドルを握っていたのかなどと勘ぐりたくなる。
    **歴史認識
    日本人は特に歴史に無頓着だと思う。現状に満足するあまりボタンのかけ違えに気がつかないでいるとこの先かなりヤバい気がする。
    **東北アジア
    日本が置かれた立場をよく理解しておく必要はある。ただ東北アジアというくくりになった場合には我が国はかなり厳しい立場になるのではないかな。あまり将来は明るくないような…。

  • 政治学に関するいくつかのkeywordを取り上げ、どのような解釈や問題が起きてきたのかを概説している。
    アメリカの共和制や理念や東北アジアなどの国や地域に対する考察と、暴力や主権・憲法などのトピックに分かれる。

    彼は東北アジアはエネルギー問題や民主主義政策のスピードを根拠に、地政学的に朝鮮半島を中心にしてアジアを囲む4大国(中国、日本、ロシア、アメリカ)をまとめることこそが、今後の姿だと考えているため、日本の昨今の憲法改正議論や領土問題は危険だと考えている。そもそも戦後体制についても天皇の人間宣言は明治期のナショナリズムへの回帰だと言っていて、あまり感覚的にピンとこないというかモヤモヤした。
    しかしそういう歴史問題を抱える隣国の感覚を知ることが、まず歴史問題や国交問題を考える上で大事なことだとも思う。

    その意味では、この本はただの政治学の一般解説書としては各トピックの解説の分量が少なく物足りないかもしれないけども、為になる、考えさせられる本だと思う。

  • 政治学の入門にしては専門的な用語がちりばめられており、非常に難解であった。

    日本のアジア化という考えには、今後のアメリカとの関係性と将来のアジアでの日本の立ち位置を深く考えさせる内容であったことと著者が「干物」と述べている各分野における古典というものがしっかりと学んで知識にしておけば、まるで本物の干物のように噛めば噛むほど味がでてきて、骨董から輝く宝飾へと変わり十二分に現代に適応できるということが知ることが出来て古典の大事さを学んだ。

  • 多くの問題意識が提議されているが、結論が十分に表されていない印象を持った。
    政治学入門というタイトルは本書の中身を表していない。例えば、「一政治学者が抱いた現代日本への問題提議」みたいなタイトルの方がふさわしいかもしれない。
    しかし、昨今の憲法論議に関して、憲法九条とともに二〇条政教分離原則もセットに議論を深めるべき、との指摘は興味深かった。

  • 多角的な視点を持つということは、それなりに、自身の偏見と向き合うことになるということだ。これからの時代は、そういう偏見を持つことによる感情の困難さと、自分という存在の相対的な価値の低下に、どれだけ、そういう孤独に耐えられるかということにかかってくる。
    そのうち、宇宙の膨張により、銀河同士の距離が離れて、消えていくように、人同士の絶対的な価値感が、限りなく薄くなっていく時代が来ると思う。そういう意味では、多角的な視点を持つというのは、刹那的に、心を保つための、癒しになると思う。

  • 2回目

  • 「アメリカ」、「暴力」、「主権」、「憲法」、「戦後民主主義」、「歴史認識」、「東北アジア」の7つのキーワードをもとに戦後の日本と世界の関係を説いている。
    「政治学入門」とあるが、学生時代に歴史の授業を真面目に受けてこなかった私にとっては難解な用語が多く、読むのに時間がかかったし、一度読んだだけでは半分も理解できなかった。
    しかし、著者が伝えたいことはあとがきで述べていることが全てなのだろう。私なりの解釈も加わるが、大まかには以下の通りである。
    百聞は一見にしかずと言うけども、全ての判断材料を見ることは不可能で、時にはメディア等を通して偏った情報のみを目にすることもある。結局のところ決断時に頼りになるのは第六感なのである。この第六感の精度を上げるのは、過去と現在の比較による思考実験であり、そのためには幅広い歴史認識が必要である。
    本書も単なる政治史(過去)の解説ではなく、著者の「思考実験」による今後の展望についても述べられている。5年前に書かれたものなので、やや話題は古いが、充分勉強になる。

  • 政治学の入門書ということで分量は多くはなかったが、「アメリカ」「暴力」「主権」「憲法」「戦後民主主義」「歴史認識」「東北アジア」という著者が選択した7つのキーワードから話題が展開しており、非常に興味深いものであった。

    ホッブズ・ルソー・カント等の過去の偉大な思想家から、ブッシュ・小泉など近年の政治家までカバーしており、ところどころ知らない学者や思想がでてくるため、理解に時間がかかったが、問題点・議論はブレることなくわかりやすかった。

    ただ、著者のアジア共同体構想は興味深いものではあったが、手放しに賛成することは難しいと感じた。

  • 韓国人学者による政治学の手引き。

    執筆当時、日本を取り巻く状況をキーワードでとり上げつつ、
    それらについて、古典からの議論を参照した上で自説を展開する。

    正直、政治学を全く学んだことのない身からすれば、個々の政治学者の主張内容を当然の前提としている本書よりかは、
    他の、もう少し堅い「政治学入門書」の方が今後の自分のためにはなるような印象。

    もっとも、そのような教科書的書籍は現状に対する考察などがない場合があるので、
    現実の問題とリンクさせる端緒となる点では、ある程度有益ではある。

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著者プロフィール

1950年熊本県生まれ。東京大学名誉教授。専攻は政治学、政治思想史。主な著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ―近代文化批判』(以上岩波現代文庫)『ナショナリズム』(岩波書店)『東北アジア共同の家をめざして』(平凡社)『増補版 日朝関係の克服』『姜尚中の政治学入門』『漱石のことば』(以上集英社新書)『在日』(集英社文庫)『愛国の作法』(朝日新書)など。

「2017年 『Doing History』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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